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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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夢の果て(上)


(ヒルまも一家)
※ムサシ視点です
※『憧れに銃弾を』の直前です



+ + + + + + + + + +
目の前に立っている子供達の前で、寝起きでまだはっきりしない頭をがりがりと掻く。
玄関のチャイムが鳴ったので寝起きのままサンダルを突っかけて扉を開いたのだ。
「「おはようございます!」」
「・・・おはよう」
甲高い声に引き気味になりながらも律儀に挨拶をする。
「これ、お父さんからあずかってきました」
一番年上の女の子から差し出される手紙を受け取り、中を改める。
そこには見慣れた悪筆で簡潔な指令が書かれていた。
一日この子供達の面倒を見ていろ、と。
ちらりと視線を降ろせば、上は7才を筆頭に6才、3才。
まだまだ小さい子たちだが、どうやってここまで来たのだろうか。
思考を読んだのか、女の子が口を開いた。
「ここには葉柱のおじさんがつれてきてくれました」
「・・・」
三人を連れてきたのなら移動手段は車だろう。
彼は今でもパシリよろしく使われているということだろうか。
いっそそちらに預けてくれればいいものを、と思うが最早彼の姿は影も形もない。
「「今日一日、よろしくおねがいします!」」
「しますー」
二人に加え、6才の兄にしがみついている3才の子にまで頭を下げられては無下に出来ようもない。
「・・・朝飯は食ったか」
「はい、食べてきました」
「とりあえず入れ」
「おじゃまします」
母親のしつけのたまものか、礼儀正しい子供達を引きつれ、今日一日どう過ごそうかと頭を悩ませた。


どこかに行きたいところはあるか、と尋ねられて子供達はぱっと顔をほころばせて言ったのは。
「東京タワー!」
「日本のお城!」
どちらも渋いラインナップ。
何故、と言いかけてこの子たちはアメリカで育っていたのだと思い出す。
「東京タワーは行けるが、城は距離的に無理だ」
「ええー・・・」
がっかりする男の子、この子が妖介といったか。父親によく似た顔がしゅんとする様はなかなか面白い。
「日本らしいところに行きたいのか?」
「はい、行きたいです」
しっかりとした受け答えをするのが女の子の綾。小さくても女、口は達者なようだ。
「じゃあ下町ツアーだな」
「したまち?」
小首を傾げる子供たちにムサシは笑いかける。
「人が多いからはぐれんようにな」


移動手段は車の方がよかったが、子供達は電車に乗りたいとせがんだ。
本日の軍資金は先ほどの手紙に挟まれていたので、ありがたくそれを使わせて貰う。
日本の電車にはしゃぐ妖介は、それでも末の子、護の手を放さない。
「ふたりとも、こっちに来て」
「はーい」
「あい!」
その二人をアヤが守るように呼び寄せ、一カ所に固まる。
暴れ回る子供が多くて手を焼く親が多いと聞くが、この三人に関して言えば実にちゃんとしていた。
「えらいな」
アヤの頭を撫でると、ふわりと笑う。
母親に似た青い瞳、父親譲りの黒い髪。白い肌、紅い頬。
おとぎ話で読んだ事のある、白雪姫のようだと思った。
自分が口にするにはそぐわない表現だという自覚があるので、言わないけれど。

三人も引きつれた男ともなると好奇の視線が向く。
だが、元々老け顔なので三人の子持ちと思われてもおかしくはないだろう。
「あの」
「ん?」
東京タワーへの道を歩いていると、アヤが手を引いた。
「ムサシさん、っていうおなまえなんですか?」
「高校の同級生連中はそう呼ぶな。あだ名だ」
「ほんとうのおなまえは?」
じっと見上げてくる青い瞳を見返しながら顎を撫でる。
「武蔵厳。たけくら、と書いてムサシとも読むからそう呼ばれてる」
「へえ」
漢字が判るかな、と思ったがそれは後で親にでも尋ねるだろう。
アヤは俯いて少し沈黙すると、またぱっと顔を上げる。
「あの、ゲンさんって呼んでもいいですか?」
「そりゃ構わねぇが」
断る理由もないのでそう告げればアヤはにっこりと笑った。
あまりの美少女ぶりに、これがあの悪魔の娘だとは思えない。
ほどなくたどり着いたタワーの券売所でチケットを買うと、四人はエレベーターに乗り込んだ。
「昔、おとーさんがここでテストしたって言ってた」
「ああ、そんなことやったっつってたな」
「ゲンさんはテストしなかったんですか?」
「俺はその時家の仕事手伝ってたからな」
「ふうん」
エレベーターは滑らかに展望台へと到着し、ぱたぱたと妖介と護が窓に走り寄った。
「高ぁい!」
「たかい!」
今日はよく晴れてガスも出ておらず、遠くまで見渡せる。
望遠鏡を見つけた妖介がさっそくそれを覗き込むが、何も見えないと騒いだ。
「何も見えないよ~」
「お金入れないと見えないよ」
展望台の案内員が笑って告げると妖介はたたっとこちらに駆け寄ってきた。
「ムサシさん、おかね下さい!」
両手を差し出す彼に苦笑しながら百円玉を手に載せてやると、握りしめて望遠鏡に再び戻る。
覗き込んで歓声を上げる隣で、護も見たがりしがみつくが台の高さが足りない。
妖介が背伸びしてやっと届く高さだから、アヤが抱えてやろうと近寄ったのを制して、護を抱き上げる。
「わー!」
「あー、いいなあ!」
ぼくもー、と騒ぐ妖介の頭を撫でて抱えてやると、きゃーと笑い混じりの声が響く。
「アヤちゃんも見る?」
頷いて望遠鏡をのぞき込み、遠くを眺めて笑うアヤは年相応の子供の顔で微笑ましい。
だっこをせがんだ護を抱き上げたところで望遠鏡の使用時間が切れたのか、アヤが台から下りる。
さほど広くもないフロアをゆっくり歩き回り、四人はタワーを後にした。


<続>
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