旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
「次はどこにいくの?」
「浅草。知ってるか?」
「あさくさ・・・」
小首を傾げる子供達を引きつれ、改札を抜ける。
ごみごみした道を歩けば、特徴的な門が見えてきた。
「あ! かみなりもん!」
「聞いたことある! これがそうなんだ!」
きゃー、と騒ぐ子供達は太い柱を叩いたり下から提灯を覗き込んだりと忙しない。
「日本らしいだろ?」
「うん!」
「すごくおっきい!」
仲見世は混雑している。
アヤと妖介を両隣に、腕に護を抱えて浅草寺へと歩いていく。
「ねえねえ、あれなぁに?」
「ああ、ありゃ煎餅だ」
「え? でも串にささってるよ?」
「そういう食いモンだ。食うか?」
「食べる!」
濡れ煎餅というか、濡れおかきというか。
一本ずつ渡すとすかさず頬張った妖介が微妙な顔になった。
「・・・ふにふにする」
「おしょうゆ味」
もぐもぐと口を動かす子供達にとってあまり美味しい物ではなかったらしい。
苦笑して残りを受け取ろうとしたが、首を振る。
「出されたものはちゃんと食べないとおかーさんに怒られるから」
「甘いものだったらもっと怒られるよ」
二人の言葉に姉崎の甘味好きを思い出して思わず笑ってしまった。
「姉崎も相変わらずだな」
「おとーさんは甘いもの見るとどくぶつだ、って言うけど」
「・・・あいつも相変わらずだ」
子供が三人いようともあの夫婦は変わりないらしい。
寄り道を繰り返しながら歩いて行き、ようやく境内に入ると鳩が集まっていた。
下に降りたがる護を降ろしてやると、ててっと走っていく。
子供が駆け寄ると鳩は大抵すぐ飛んで逃げる。
だが。
「ん?」
護の周りの鳩は一向に飛び立つ気配はない。むしろ近寄っているような。
人間の子供は予想不可能な動きをするから、動物は一様に嫌うものなのだけれど。
「護はねー、動物好きなの」
「動物も護のこと好きなの」
試しに妖介が近づくと、鳩はあっという間に飛び去ってしまった。
「ほらね!」
「本当だな」
浅草寺の正面階段を上り、中に入る。
高い天井、線香の匂い。
金網に囲まれた向こうに仏像が見える。
賽銭箱に入れる賽銭を渡そうとすると、子供達は一様に首を振った。
「なんだ?」
「だって、かみさまでしょ?」
「?」
なにを言いたいのか判らず、ムサシは頭を掻く。
「あくまは、かみさまにいのっちゃいけないって」
それにはさすがに眉を寄せて口を開く。
「そりゃあの男だけだ」
子供にまでなんつう教育してやがるんだあの男は。
「ムサシさんはちがうの?」
悪魔によく似た顔の少年が聞いてくる。
「あくまのなかまなんでしょ?」
見上げてくる目は、真っ直ぐにこちらを射抜いた。
それは、決して弱音を吐かず、振り向かず、そして誰一人置き去ることなく魔法のように勝ち抜いたあの男に本当によく似ている。
「あくまはやくそくだけまもるんだよ」
約束。
不確定なその言葉を拠り所に、あの悪魔は戦っていた。
怪我を負いながらもフィールドに戻り、みんなでクリスマスボウルに行く、という約束をただ守ろうとしていた。
「・・・ああ、そうかもな」
彼なら、いるかどうか判らない存在に祈るより、自らを、自らの仲間を信じてした約束を守る方に全力を尽くすだろう。
一瞬、あの時の歓声が聞こえた気がした。
「ゲンさん」
手を引くのはアヤだ。
「ゲンさんは、今、こいびとは、いますか?」
「ん?」
意外な質問に視線を向けると、アヤは真剣な顔で見上げてくる。
誤魔化すのは簡単だが、なぜかそれは憚られて、その頭を撫でてやりながら苦笑する。
「今は、いないな」
「じゃあ」
アヤが笑う。にっこりと、可愛らしく。
「わたしが―――・・・」
がくん、と身体が揺れてはっと目が覚める。
一瞬ここがどこだか判らなくなったが、すぐに眠る前の記憶が戻る。
「なんだ、厳ちゃん起きちゃったか」
隣では玉八が苦笑している。
現場から家に戻る途中の道のりでつい眠ってしまったらしい。
「珍しくよく寝てたから起こさなかったのに。もうちょっと寝てなよ」
「いや、いい。悪いな、運転させて」
「別にいいよ」
懐かしい夢だった。
あれはもう十年くらい前の話になるのか。
ヒル魔の子供たちはもう高校生になり、かつての自分たちと同じくアメフトに熱中している。
男女関係なく選手というあたり、彼ららしいというか。
「そういえば、あの子。アヤちゃんだっけ」
玉八が話しかけてくる。
「随分綺麗になったなあ。昔はこんなにちっちゃかったのに」
「十年も経てば大きくもなるさ」
特に人の子はあっという間に大きくなるものだ。玉八の第一子だってもう二十歳を越えたのだし。
「厳ちゃんが結婚しないままだったらどうしようかと思ってたけど・・・」
それに視線を向ければ、玉八は至極嬉しそうに笑っていた。
「あんなに綺麗な子が嫁に来てくれるなら待った甲斐があるってもんだな」
「アヤはそんなんじゃねえぞ」
「照れなくてもいいじゃないか」
今までずっとアヤには保護者としての立場で接している。
ここのところで周囲はやいのやいのと騒ぐが、アヤとどうこうする気は全くない。
大体アヤとは二十歳差があるし、常識的に言ってあり得ない。
そしてなにより、アヤはあのあり得ない男の娘なのだ。間違いなく命も危ないと思われる。
だから玉八や周囲がどうこう言おうと、アヤとくっつくことはない。
絶対に。
玉八は遠慮するのを制して結局自宅前まで送ってくれた。
礼を言い、降りて自宅の扉を開こうとしたら、内側から開いた。
「おかえりなさい」
それは先ほどまで話題に上っていたアヤが、制服にエプロン姿で立っていた。
「お疲れ様でした。お風呂沸いてますよ」
それともご飯にしますか? と笑顔で尋ねられて思わず固まってしまう。
「アヤちゃん、厳ちゃん疲れてるみたいだから風呂先に入れてやってー」
「っ、玉八!」
「わかりました」
からかう声にもにっこりと応じるアヤに手を振って、玉八はさっさと帰ってしまう。
「もう中に入りましょう?」
アヤが躊躇いなく手を取って引く。
かつて幼かった頃のように、けれどあの時よりもずっとしっかりした手で。
そしてその手は、いつのまにか『女』のものになっていた。
(わたしが大きくなるまで、まっててください)
「・・・?!」
その『約束』にうっかり頷いてしまっていた事を思い出して飛び起きたのは、その日の夜中だった。
***
『夢の果て』は現実です。悪魔は約束だけ守ります。
さてムサシさんの運命やいかに(笑)
「浅草。知ってるか?」
「あさくさ・・・」
小首を傾げる子供達を引きつれ、改札を抜ける。
ごみごみした道を歩けば、特徴的な門が見えてきた。
「あ! かみなりもん!」
「聞いたことある! これがそうなんだ!」
きゃー、と騒ぐ子供達は太い柱を叩いたり下から提灯を覗き込んだりと忙しない。
「日本らしいだろ?」
「うん!」
「すごくおっきい!」
仲見世は混雑している。
アヤと妖介を両隣に、腕に護を抱えて浅草寺へと歩いていく。
「ねえねえ、あれなぁに?」
「ああ、ありゃ煎餅だ」
「え? でも串にささってるよ?」
「そういう食いモンだ。食うか?」
「食べる!」
濡れ煎餅というか、濡れおかきというか。
一本ずつ渡すとすかさず頬張った妖介が微妙な顔になった。
「・・・ふにふにする」
「おしょうゆ味」
もぐもぐと口を動かす子供達にとってあまり美味しい物ではなかったらしい。
苦笑して残りを受け取ろうとしたが、首を振る。
「出されたものはちゃんと食べないとおかーさんに怒られるから」
「甘いものだったらもっと怒られるよ」
二人の言葉に姉崎の甘味好きを思い出して思わず笑ってしまった。
「姉崎も相変わらずだな」
「おとーさんは甘いもの見るとどくぶつだ、って言うけど」
「・・・あいつも相変わらずだ」
子供が三人いようともあの夫婦は変わりないらしい。
寄り道を繰り返しながら歩いて行き、ようやく境内に入ると鳩が集まっていた。
下に降りたがる護を降ろしてやると、ててっと走っていく。
子供が駆け寄ると鳩は大抵すぐ飛んで逃げる。
だが。
「ん?」
護の周りの鳩は一向に飛び立つ気配はない。むしろ近寄っているような。
人間の子供は予想不可能な動きをするから、動物は一様に嫌うものなのだけれど。
「護はねー、動物好きなの」
「動物も護のこと好きなの」
試しに妖介が近づくと、鳩はあっという間に飛び去ってしまった。
「ほらね!」
「本当だな」
浅草寺の正面階段を上り、中に入る。
高い天井、線香の匂い。
金網に囲まれた向こうに仏像が見える。
賽銭箱に入れる賽銭を渡そうとすると、子供達は一様に首を振った。
「なんだ?」
「だって、かみさまでしょ?」
「?」
なにを言いたいのか判らず、ムサシは頭を掻く。
「あくまは、かみさまにいのっちゃいけないって」
それにはさすがに眉を寄せて口を開く。
「そりゃあの男だけだ」
子供にまでなんつう教育してやがるんだあの男は。
「ムサシさんはちがうの?」
悪魔によく似た顔の少年が聞いてくる。
「あくまのなかまなんでしょ?」
見上げてくる目は、真っ直ぐにこちらを射抜いた。
それは、決して弱音を吐かず、振り向かず、そして誰一人置き去ることなく魔法のように勝ち抜いたあの男に本当によく似ている。
「あくまはやくそくだけまもるんだよ」
約束。
不確定なその言葉を拠り所に、あの悪魔は戦っていた。
怪我を負いながらもフィールドに戻り、みんなでクリスマスボウルに行く、という約束をただ守ろうとしていた。
「・・・ああ、そうかもな」
彼なら、いるかどうか判らない存在に祈るより、自らを、自らの仲間を信じてした約束を守る方に全力を尽くすだろう。
一瞬、あの時の歓声が聞こえた気がした。
「ゲンさん」
手を引くのはアヤだ。
「ゲンさんは、今、こいびとは、いますか?」
「ん?」
意外な質問に視線を向けると、アヤは真剣な顔で見上げてくる。
誤魔化すのは簡単だが、なぜかそれは憚られて、その頭を撫でてやりながら苦笑する。
「今は、いないな」
「じゃあ」
アヤが笑う。にっこりと、可愛らしく。
「わたしが―――・・・」
がくん、と身体が揺れてはっと目が覚める。
一瞬ここがどこだか判らなくなったが、すぐに眠る前の記憶が戻る。
「なんだ、厳ちゃん起きちゃったか」
隣では玉八が苦笑している。
現場から家に戻る途中の道のりでつい眠ってしまったらしい。
「珍しくよく寝てたから起こさなかったのに。もうちょっと寝てなよ」
「いや、いい。悪いな、運転させて」
「別にいいよ」
懐かしい夢だった。
あれはもう十年くらい前の話になるのか。
ヒル魔の子供たちはもう高校生になり、かつての自分たちと同じくアメフトに熱中している。
男女関係なく選手というあたり、彼ららしいというか。
「そういえば、あの子。アヤちゃんだっけ」
玉八が話しかけてくる。
「随分綺麗になったなあ。昔はこんなにちっちゃかったのに」
「十年も経てば大きくもなるさ」
特に人の子はあっという間に大きくなるものだ。玉八の第一子だってもう二十歳を越えたのだし。
「厳ちゃんが結婚しないままだったらどうしようかと思ってたけど・・・」
それに視線を向ければ、玉八は至極嬉しそうに笑っていた。
「あんなに綺麗な子が嫁に来てくれるなら待った甲斐があるってもんだな」
「アヤはそんなんじゃねえぞ」
「照れなくてもいいじゃないか」
今までずっとアヤには保護者としての立場で接している。
ここのところで周囲はやいのやいのと騒ぐが、アヤとどうこうする気は全くない。
大体アヤとは二十歳差があるし、常識的に言ってあり得ない。
そしてなにより、アヤはあのあり得ない男の娘なのだ。間違いなく命も危ないと思われる。
だから玉八や周囲がどうこう言おうと、アヤとくっつくことはない。
絶対に。
玉八は遠慮するのを制して結局自宅前まで送ってくれた。
礼を言い、降りて自宅の扉を開こうとしたら、内側から開いた。
「おかえりなさい」
それは先ほどまで話題に上っていたアヤが、制服にエプロン姿で立っていた。
「お疲れ様でした。お風呂沸いてますよ」
それともご飯にしますか? と笑顔で尋ねられて思わず固まってしまう。
「アヤちゃん、厳ちゃん疲れてるみたいだから風呂先に入れてやってー」
「っ、玉八!」
「わかりました」
からかう声にもにっこりと応じるアヤに手を振って、玉八はさっさと帰ってしまう。
「もう中に入りましょう?」
アヤが躊躇いなく手を取って引く。
かつて幼かった頃のように、けれどあの時よりもずっとしっかりした手で。
そしてその手は、いつのまにか『女』のものになっていた。
(わたしが大きくなるまで、まっててください)
「・・・?!」
その『約束』にうっかり頷いてしまっていた事を思い出して飛び起きたのは、その日の夜中だった。
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HN:
鳥(とり)
HP:
性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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