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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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恋猫奇譚(1)

(ヒルまもパロSS)
※『猫の恋煩い』の続きです



+ + + + + + + + + +
猫は足音を立てないというけれど、それで言うならきっと、彼の方が。

久しぶりの休日、ヒル魔が起きると鼻を擽る食欲をそそる匂い。
どうやらまもりが来ているようだ。
「来たのか」
一人呟き、ベッドの上でのびをする。
年と共に身体が鈍ってきたと感じる。
運動する暇すらなかった近頃の忙しさがやっと落ち着いてきたので、しばらくさぼっていたランニングでも再開するか、そんな事を思いながらリビングに続くドアを開けて。
「ア?」
ヒル魔は目の前にいる予想外の人物にぴたりと動きを止めた。

ヒル魔は用意されていた朝食を食べて、着替えて改めて席に着いた。
「突然すまないね」
「いいえ、こちらこそ失礼な格好をお見せしてしまって申し訳ありません」
ヒル魔は笑顔で目の前の男に頭を下げる。
その様子を申し訳なさそうに見ながら、まもりは二人の前にコーヒーを出した。
一人はヒル魔に。そしてもう一つはその前に座る男の前に。
男はヒル魔の勤める会社の社長である。
―――つまりはまもりの父親だ。
「立派な住まいで驚いたよ」
「お陰様で住宅ローンに追われてます」
コーヒーを出したはいいが、その後やることもなく、まもりはただ立ちつくす。
父親との顔合わせがこんな不意打ちになってしまって、ヒル魔には本当に申し訳なかった。

今日は運悪く、いつものように早起きして荷物を片手に出掛けようとしたところを父親に見つかったのだ。
「どこに行くんだい?」
「あ、パパ。おはよう」
「おはよう」
にっこりと笑う父親に挨拶をしてそのまま出ようとしたところで捕まる。
「で、どこに行くのかな?」
「・・・あの、友達のところに・・・」
「そんな大荷物で、朝から? 昨日の夜に何か料理を作っていたけど、それも入ってるのかい?」
にこにこにこにこ。
笑顔で尋ねる父親に、まもりは冷や汗を浮かべる。
これはまずい、かなり疑われている。
「友達、一人暮らしなの。あんまり自炊しないから、食べさせないと栄養偏っちゃって」
これは嘘ではない。ヒル魔は一人暮らしだし今もろくすっぽ自炊をしないためにまもりがいないとコンビニ弁当で全てすませてしまうのだ。
あれだけの設備があるんだから使えばいいのに、とは再三再四告げているが一向に改善の様子はない。
だからまもりも足繁く通うのだけれど。
「まもりがそんなに気に掛けるから自炊しないんじゃないのかい? 来ないなら来ないなりになんとかするものだろう?」
「だってコンビニ弁当ばっかりじゃ・・・」
「最近のコンビニ弁当は栄養バランスもちゃんと考えられてるよ」
いつになくしつこい父親の追求に困るまもりの元に歩み寄る足音。
「あら、まもり。まだ出掛けてなかったの?」
母親だ。救世主のように見える。
「う、うん。これから行くの」
「そう・・・ってあなた、何やってるの?」
「まもりが早朝から大荷物で出掛けようとするからどこに行くのか聞いてたんだ」
それに母親はきょとんとした顔で口を開いた。
「ヒル魔さんのところでしょ?」
「・・・なに?」
一気に父親の顔が剣呑になる。
まもりは救世主どころか更に追いつめてくれた母親に涙目になった。
「なっ・・・ママ!」
「いい方よね、ヒル魔さん。礼儀正しいし仕事は出来るし」
ころころと笑う母親の言葉に父親を取り巻く空気は逆に悪くなっていく。
「あ、じゃ、じゃあ行ってきます!!」
「待ちなさい!」
どさくさ紛れに逃げだそうとしたまもりを捕まえた父親は笑顔でにじり寄った。
「私も行こう」
「え?!」
「まもりがお世話になってるなら一度挨拶しないとね」
いやどっちかっていうと私がお世話してるけど、としどろもどろに言い訳しても無駄で。
「行ってくる!」
「行ってらっしゃ~い」
のんきな母親の見送りを受け。
固まるまもりを引きずるようにして父親は彼の住まいへと乗り込んできたのだ。

まもりは事の顛末を思い返し、向かい合って話をする二人を見る。
どちらも笑顔なのに、なぜだか龍と虎が背後に見えるのは気のせいだろうか。
どこかに逃げるわけにもいかず、さりとてどちらの隣にも座れず、まもりは困ったまま立ちつくしていたが、不意にヒル魔がその手を引いた。
「来い」
それに父親の顔が引きつる。
けれどどっちつかずの状況よりはよっぽどいいと、まもりは素直にヒル魔の隣に座った。
「随分と親しげだね」
「ええ。まもりには随分と私の面倒を見て貰ってますから」
にーっこり。
こんなに笑顔満面のヒル魔を見た事がないまもりはこんな顔も出来るのね、くらいの気持ちで見ていたが、父親はそうはいかないらしい。
「こんなに立派な住居を構えるくらいだから、家政婦くらい雇えるんじゃないのかい?」
「まさか。一介のサラリーマンが家政婦なんて雇えません」
ヒル魔がご冗談を、とかわすと父親の額に青筋が浮かんだ。
「わざわざ君より十歳も年下のウチの娘を家政婦代わりにすることもないだろう?」
「家政婦代わりだなんて思ってませんよ」
するりとヒル魔の手がまもりの手を取る。
「私の大事な恋人ですから」
「「・・・!!」」
それに父親は笑顔を消し瞠目し、まもりは音がしそうな勢いで赤面した。
ヒル魔がそんな風に父親相手に自分の事を言い切るとは思ったこともなかったので、まもりは恥ずかしさのあまりうろたえるが、更にしっかりと手を握られてつい、へらりと笑み崩れた。
その幸せそうな顔にも父親はしばし絶句する。
「というわけです」
変わらず笑顔ですっぱりと言い切ったヒル魔に、父親ははっと我に返る。
「みっ、認めんぞ! 私は・・・っ!」
喚く父親にヒル魔はさも心外、という表情を浮かべる。
「私に何か落ち度がありますでしょうか」
「落ち度って、君ねえ! 大体君は・・・」
「私は?」
それに父親は脳裏で彼の勤務状況を浮かべる。
聞き知る限り彼はとんでもなく仕事が出来て、今回の大きなプロジェクトも彼の力に寄るところが大きいという。
勤務に今まで遅刻欠勤はなく、必要のない残業は絶対にやらない。
逆に言えば必要と判断される残業はきっちりこなすのだ。
普段の外見だけは褒められないが、対外的に出るときはちゃんとした身形で通すので今のところ苦情が入ったこともない。
つまり、非の打ち所がないのだ。
「君は・・・」
それにまもりは小首を傾げる。
「パパも言ってたじゃない、ヒル魔さんはすごく仕事出来る人で頼りにしてるって」
「ぐ・・・」
「お褒め頂いて恐縮です」
完璧な笑顔のヒル魔に父親はがたんと音を立てて立ち上がる。
「何が狙いだ?! まもりに言い寄ったからには目的があるんだろう?!」
「え・・・」
「君の情報網があればまもりが私の娘だとすぐ知れただろう! 一体どうやってウチの娘をたぶらかしたんだ!!」
戸惑うまもりと一度視線を合わせて、ヒル魔は激昂するまもりの父親を見上げる。
けれど彼が口を開く前にまもりが割って入った。
「違うの、パパ! 私が先にヒル魔さんのところに勝手にお邪魔したの!」
「はっ?!」
「ヒル魔さんは悪くないの」
それに父親はわなわなと震える。
「そんな・・・信じられん! それで君はまもりをどうするつもりなんだ!!」
それにヒル魔はおもむろに口を開いた。
「責任は取るつもりです」
「軽々しくそう言う事を言うんじゃない! 誠意を見せなさい!!」
すっかり頭に血が上って訳がわからなくなってるらしい父親にヒル魔はどこからか書類を取り出した。
「ではこちらにサインを頂けますか」
「なんだね、これは!!」
「婚姻届の証人欄です」
ぴしり。
ほぼ記載が埋まっている状態のソレにはまもりのサインもしっかり入っていて、後は証人が二人記入したらいいだけの状態になっている。
まもりが何かを言いかけたが、それはヒル魔が視線一つで黙らせる。
「まもりがまだ未成年なので、ご両親お二人の同意を頂かないと受け付けて貰えないんです」
「・・・・・・・・・・」
はい、とペンを差し出されて。
しばし固まっていた父親はペンを受け取ることなく、フラフラと覚束ない足取りで玄関へと向かっていく。
「パパ?」
「・・・お前はしばらく帰ってこなくていい」
「っ」
息を呑むまもりを一瞥する事もなく、父親はそのまま立ち去ってしまう。
後に残されたまもりはばっと振り返ってやっと不自然な笑顔を消したヒル魔に詰め寄った。
「何、あれ?! あんな書類サインしたことないのに・・・!」
「そりゃそうだ、ありゃ偽物だからな」
「偽、物?」
「おー。あのままじゃ収まりつかなそうだったからな」
いつのまにそんな物を用意していたのだろうか。
改めて見せて貰った書類にはまもりの個人情報がきっちりと書き込まれていたが、ヒル魔のはよく見れば所々おかしい表記になっている。
「地獄の一丁目、って本籍地ありえない」
しかも両親の名前が牛魔王と羅刹女って書いてある。完全なるおふざけだ。
「だから偽物なんだよ」
ケケケ、と笑う彼にまもりはため息をつく。
「ごめんなさい、ヒル魔さん」
「ベツニ」
肩をすくめるヒル魔にまもりは苦笑し、嘆息する。
父親は普段まもりには甘いが、過保護なところがあり、特に異性関係には厳しかった。
だから中学校からずっと女子校で、今通っているのも女子大。
あの父親があそこまで言ったのだ、これでのこのこ帰っても家には入れて貰えないだろう。
「・・・どうしよう」
「何が」
「だって、家に帰れないとなるとどこで寝泊まりしたらいいのかしら。着替えもないし、お金も・・・」
それにヒル魔が剣呑な顔になる。
「テメェ、どこに行く気だ」
「どこって・・・アテがないからどうしようかなって今・・・」
「ここにいればいいだろ」
「え?」
まもりはきょとんとした顔になる。
「テメェの着替えやらは母親にここに送ってもらえ」
「や、でも、迷惑になっちゃうし・・・」
「テメェのベッドもあるし、今更ここに泊まるのになにか問題あるのか?」
言われてまもりはふむ、と考える。
着替えや教科書の類は母親に宅急便で送ってもらい、学校にはここから向かえば大丈夫だろう。
父親がああ言った手前、しばらくは自宅には帰れないし。
既に何度か前の家では寝泊まりしていた。ただし寝袋で。
実はあのベッドにはまだ寝た事がないのだ。
ちょっと興味もあって、まもりはおずおずとヒル魔を見上げた。
「・・・あの、少しの間お世話になって、いい?」
それにヒル魔はふんと鼻を鳴らして笑った。
「どうせテメェが俺の面倒見るんだからいつまでだって問題ねぇよ」



<続>
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