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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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碧き浄天眼(2)



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車で走って戻ってきたのは、住まいにほど近い公園だった。部屋の窓から見えた場所だろう。
人影はまばらだが、広大である故にそう見えるだけかも知れない。
眩しい程の緑に、まもりはほう、とため息をついた。
「きれいね」
小鳥の鳴き声が響き、都会の喧噪とは少々離れている。
「アメリカ、かあ・・・」
十年後には、日本を飛び出しているなんて。
昨日までは明日の授業の事を考え、そうして風紀を乱す彼の事に頭を悩ませていたのに。
なんでこの人なのかしら。
まもりは少し離れたところに立っている彼を眺める。
アメフト部への強引な勧誘や、練習をする訳でもない26才・・・25才? の彼。
こんなにも静かな存在だなんて思いもしなかった。
きっと同じ空間に二人でいたら騒がしさに耳が聞こえなくなるだろう、そんな想像さえしていたのに。
「なんだ」
「ううん、ヒル魔くんて意外に物静かだと思って」
それにヒル魔は片眉をピンと上げる。
「人を騒音のように言うんじゃねぇよ」
「だって・・・静かだった日なんてなかったし、いつだって派手だし」
「そりゃテメェが突っかかってたからだろ」
いつしか聞き慣れてしまった銃声、関わらないようにしようという風潮になってしまっていた彼の存在。
入学してまだ二ヶ月くらいでそんな風になってしまった彼に、それでもまもりはやっきになって追いかけ回していた。
それだけの存在だった。
それが、わざわざ進路変更してスポーツドクターなんていうものになってまで、彼のサポートをしたがるなんて。
一年間の部活を共にした、という以外に接点があったのだろうか。
いいように使われていただけではなかったのだろうか。
「ねえ」
「ア?」
「あなたにとって、高校時代の私ってどんな存在だったの?」
「糞労働力」
あっさりと言われたそれに眉を寄せる。
「・・・それでどうして結婚にまで至るの」
「高校の時は、だ」
「じゃあ大学の時とか、社会に出てからとかが違ったの?」
「生憎とその後7年程音信不通でな」
「・・・は?! じゃあ、なんで?!」
さっぱり理解出来ない。高校の時に恋愛まで発展したのかと思えば、それ以前の状態で7年も音信不通?
「なんでそれで結婚したの?」
それにヒル魔はにやりと笑う。
「教えねぇ」
「どうして!」
「逐一説明したところで今のテメェが理解出来るとは思えねぇ」
「何で言い切れるの?」
「高校2年の4月から12月までの8ヶ月間」
「?」
「その間の記憶がねぇんなら何をどう説明しても無駄だ」
その瞬間、ヒル魔の眸が一瞬表現しがたい色に翳った。
けれどすぐそれは消える。
「・・・ねえ、じゃあその時の写真とかアルバムとか何かないの?」
「ねぇな」
「私、そういうの持って来そうなのに」
「テメェがこっちに来るときに持ってきたのはボストンバック一つだ」
「え、そんなに身軽だったの?」
自分が道の場所に向かうのなら準備万端怠らないような気がしたのに。
「全部片づけてからこっちに来た、っつってたからな」
「じゃあ実家に預けてあるのかも。取り寄せてみようかな」
「それもねぇよ」
「え・・・?」
「俺のは元々ほとんど写真残ってねぇし、テメェの卒業アルバムは景気よく燃やしてたっつってたぞ」
「だ、誰が!」
「テメェ自身が。さっきテメェの母親にも聞いて確認した。確かにねぇんだと」
「・・・」
まもりは目眩を覚えた。そこまで徹底的にする必要があったのだろうか、未来の私ってば・・・。
「それくらい、覚悟が要ったんだろ」
小さな声に、まもりはそちらに顔を向ける。
「全部捨ててここにくる、っつーのは」
「・・・捨てて」
「テメェは日本で仕事もしてたし、友人も親類も全部そっちにいたからな」
想像してみる。
親しい友人、両親を始めとした親類、そして仕事で関わっただろう人たち。
そういった人たちと別れを告げて、一人海外に飛び立つ、なんて。
たった一人を追いかけて海を渡るなんて。
平穏無事をモットーとするくらい、平和に生きていた自分自身が選ぶ未来とは到底思えなかった。
それほどに彼を、ヒル魔を求めたのだろうか。
けどその割に。
「・・・恋愛関係じゃなかったのに?」
「だから色々あったんだよ」
それ以上は堂々巡りだ、と言わんばかりに彼は話を切り上げた。

部屋に戻り、室内の説明をしてもらってからビデオを観る。
彼がいくつか見せてくれたアメフトの映像は、やはり馴染みのないもので、説明されながら見てもいまいち判りづらかった。
「・・・難しいスポーツね」
「テメェの口からそう聞く日が来るとはナァ」
「だ、だって私は知らないもの」
「そうだな」
見つめる先にまもりの記憶が重なるものはない。
それでも断片的にでも引っかかるものはないか、と真剣に画面を見つめる背後で。
ヒル魔が小さくため息をついたのを、まもりは聞き逃した。

夕方になってまもりはおもむろに冷蔵庫を開いた。
がさごそと漁る様を、パソコンを覗き込んでいたヒル魔は怪訝そうに眺める。
「何やってる」
「うん? ご飯作ろうと思って」
まさか毎度外食というわけではないだろう、と覗き込んだ冷蔵庫にはたっぷりと食材が入っていた。
きっと自分が毎食作っていたのだろう。
レシピは探してみたけれど出てこないので、憶測でつくることになってしまうが、多分大丈夫だろう。
「食える物作れよ」
「失敬ね! ちゃんと作れるわよ!」
どーだかナァ、とからかわれつつまもりは調理器具を確認し、手際よく料理を作っていく。
身体が覚えているというのもあるだろうけれど、料理を作っている間は何も考えず動ける。
「どうだ!」
「何かの勝負じゃねぇんだぞ」
思わずヒル魔が突っ込んでしまう程の気合いの入れよう。
きちんと作られた料理の数々はテーブルに所狭しと並んだ。
「はい、どうぞ」
「おー」
盛られた茶碗を受け取り、箸を付ける。
一口食べて、ヒル魔はぴたりと動きを止めた。
「なに? 美味しくない?」
不安に思うまもりに、ヒル魔は特に何も言わず、動きを再開させる。
「味大丈夫? 濃かったり薄かったりしない?」
「ベツニ」
素っ気ないと思える程の反応しか返さないヒル魔に、まもりは少々味気ないと思いながら自らも食事をする。
その後すぐ寝室へ入ってしまったヒル魔に、まもりは片づけをしつつ目が覚めてからの彼の行動を思い返す。
彼は一度目に目が覚めた時こそ近くにいたけれど、二度目からは一定の距離を置いてまもりの側にいた。
近すぎず、遠すぎず。
小さな呟きでも必ず拾って答えるし、誤魔化したりしない。
そしてなによりひどく静かだ。
彼は足音を立てずに歩くというのに気づいてからはなおのこと。
「派手な外見なのになあ・・・」
独り言ちても彼はいない。
そういえば、とまもりは片づけを終えてから背後を見る。そこには立派なコーヒーメーカーが鎮座していた。
彼はコーヒーに煩いのだろう。一度目に目が覚めたときにもコーヒーを飲んでいたようだし。
まもりは少し考えてから、コーヒーメーカーのスイッチを入れた。

ヒル魔は寝室で一人、照明もつけずにベッドに腰掛けてじっと思案していた。
考えるのは今後の事だ。
一日様子を見ていたが、全くまもりの記憶が戻る様子はない。
普段よく出歩く場所を中心に動いてみたが、何ら反応はない。
そこにある気配も、話し方も、作る料理の味も同じなのに、それは『蛭魔まもり』ではない。
ふう、と嘆息してみて初めて自分が相当疲れている事に気が付く。
体力的には問題ないが、精神的な負担が大きすぎた。
彼女は気づかなかっただろうが、レストランの店長には不調を感じ取られていたようだ。
他人に気取られるなど、普段なら考えられない。
どんなに上手く不調を隠してもたちまち全てを見抜いた青い瞳。
それが今は、ヒル魔を前にしてただ戸惑うばかりで。
「・・・あの」
「っ」
ノックと共にドア越しに掛けられた小さな声に、ヒル魔はびくりと肩を震わせる。
「コーヒー、淹れたんだけど・・・飲む?」
「ああ」
ヒル魔は腰を上げ、リビングに向かう。
この憔悴した状態を押し隠すように、一瞬きつく瞼を閉じて。

<続>
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