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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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・まもりが子供
・ヒル魔が人外
・段々まもりが不憫になってきた
・今回が三部作のラストだったりする

※30000HIT御礼企画作品

というのが許せる方は『つづきはこちら』からどうぞ。

+ + + + + + + + + +
ムサシとまもりは長い階段を上っていた。
延々と続く階段は、見上げても先が判らないほどに長い。
「神はこの階段の先にいる。といっても、俺にはただバカでかい扉があるだけにしか見えねえんだ」
「そうですか・・・」
「それを開けるのは腕の力でも精神でもなんでもない。自分の要素というより神が選ぶかどうか、それだけだ」
ムサシの説明を聞きながら、まもりは懸命に彼の後をついて行く。
「そうだ、一つ頼みがあるんだが」
「はい、なんですか?」
こんな場面で依頼とはどんな話だろう、と考えるまもりにムサシは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「神の顔というのは誰も知らない。ヒル魔に尋ねても知らないの一点張りだ。神を見たらどんな顔か教えて欲しい」
「わかりました!」
ムサシはまもりが神の間に入る事を確信している。それは下手な慰めや励ましよりも何倍も力になる。
信じるという事はどれだけ心に力を与えてくれるのだろうか。
今まで肩口に隠れていたポヨがこそりと顔を出し、さりさりとまもりの頬を舐めた。
その暖かさにも後押しされる。
「さあ、先を急ごう」
「はい」
二人の前にはまだまだ無数の階段が続いていた。

やっとのことで階段を上りきると、まもりは激しく脈打つ胸を押さえ、ほっと息をついた。
どれほどに登ったか高さも時も感覚がない。
もし外が見られたら大体の時刻くらいなら判断できるのだが、まったく外は見えないのだ。
「ここが扉だ」
「本当に大きいですね・・・」
扉の両端になにか飾りや塀があるのかと思ったが、そういうったものはまるっきりない。
ただ、薄く霧が立ちこめる不思議な空間で、扉の他はどこに壁があるのか全く判らない。
目の前には扉、それだけだ。
「さあ」
促されて、まもりは扉に近づいた。
扉は近づけば近づく程巨大さを体感させ、まもりがその真ん前に立つと、それはただ一枚の大きな壁に過ぎなかった。ヒル魔と己を隔て、さらには唯一の肉親と呼べるセナとの間を隔てる壁に他ならない。
それにまもりは触れた。包帯がまだ痛々しい手で。
「神様。私はまもりと申します。お願いです、聞いて下さい」
入れてくれ、とは言えなかった。ただ訴えたかった。
「この度のことは、全て私の責任です。ヒル魔さまは私の我が儘を聞き届けて下さっただけで、咎は私一人にあります」
どうか―――とまもりは訴える。
「ヒル魔さまと、セナを助けて下さい。神様―――」
かみさま、と何度となく問いかけたとき。

唐突に激しい風が吹き荒れ、その勢いに思わず顔を覆ったムサシの前から、まもりは忽然と姿を消した。


まもりが目を開くと、そこはただ真っ白な空間だった。
右を見ても左を見ても空を見ても地を見ても白しかない。
とても不思議な場所だった。それでいて、不思議と知っているような感覚。
『おぬしがまもりか』
その声にまもりは飛び上がった。近くから聞こえたようで、とても遠くから語りかけられたような声の主を捜して、まもりは落ち着きなく首を動かしたが影も形もない。
『ヒル魔の弟子のまもりじゃの?』
「は、はい! そうです!!」
再度確認されて、まもりは勢いよく肯定した。
『ほう。これはこれは』
声は楽しそうに響いた。男の声のようだ、としか判らない。
姿は相変わらずないが、神は見える存在じゃないかもしれない、と思えばそれはそれで納得できた。
「神様、お願いがあって参りました」
『ほう? 先ほど外から申していたの。ヒル魔とセナの二人を助けて欲しいと』
「そうです」
『欲深い人の子じゃの』
くすくすと笑う声にまもりは顔を赤くするが、どちらも大切な人だ。
どちらか一方を助けてどちらか一方だけ見殺しになどできない。
『それならばその命、儂に捧げられるか?』
「え?」
『おぬしの命と引き替えなら、二人を助けてやろう』
さあどうする、という言葉に、まもりはぎゅっと自分の襟元を掴んだ。
肩口でポヨがヒア、と鳴いた。ああ、ポヨも一緒に来られたんだ、と思う。
その暖かさを感じて、まもりは決然と顔を上げた。
「それはできません」
『ほう? おぬしの願いとはその程度の覚悟かの』
意外だと言いたげな声に、まもりは首を振った。
「私だけの命なら惜しむ事はありません。けれど今、私はヒル魔様の弟子であり、セナの姉で、ポヨの主でもあります」
まもりはどこに居るともしれない神に声高に告げる。
「二人と比較して己の命を軽んじた私の願いなど、大したものではないと思われませんか」
それよりも、と続ける。
「私はヒル魔さまの弟子として、セナの姉として、ポヨの主として、そしてまもりという存在として生きて報いたいのです!」
口にしながら、まもりは全然違う事を思い出していた。
ああ、ヒル魔とも以前このような問答をしたような気がする、と。
その時は命を差し出す事に恐怖を覚えこそすれ、躊躇わなかった。
今は違う。まもりは学び、命が命の代替になる事などあり得ないのだと知っている。
何度もヒル魔やムサシや鈴音、その他の仙人達にも助けられ、自分が一人では到底生きられないと知った。
そして生きてこそ出来る事が沢山あるのだとも。
それがどの程度できるかはまもりには判らない。
守るべき村も両親も消えてしまい、セナは記憶を失って遠いところに行かされるかもしれない。
それでも。
どうあっても、己を軽んじる事は、今まで面倒を見てくれた全ての者に対する侮辱でしかないのだ。
沈黙が続いた。
まもりは泣きそうになりながら、それでも耐えて待った。
どれくらいの時間が過ぎただろうか。
まもりはついに俯いてしまう。
真っ白な視界。
音のない世界。
しんと静まりかえった白一色の世界に、黒いものが見えた。
「あ・・・」
それはあの日の出会いをもう一度踏襲するかのようで。
にやにやと笑うヒル魔がまもりに手を差し伸べる。
それにまもりが触れた次の瞬間、強い風が二人を襲った。
『もう少し経ったらまたここに来るがいい』
その声をまもりの耳にだけ残して。



麗らかな常春の牧場で、走り回る人影を視線で追いながら、ヒル魔は草地に足を投げ出し、ぼそりと呟く。
「神の顔は誰も知らねぇんだよ」
「私も結局見られないままでした」
その隣にまもりも座り、人影を同様に視線で追っていた。
「ヒル魔様―、まもり姉ちゃーん!」
手を振るのはセナ。そしてその前を走るのは陸。
その上から浮雲に乗ってやってくるのはセナの師である鈴音。
手には包みを持っている。おそらくお菓子を持ってきたのだろう。
それにまもりは笑い、ヒル魔は顰めっ面を浮かべる。
そんな二人にセナは弾けるように笑った。

そう。
セナもこの天空の世界で仙人となるべく勉強中なのだ。

あの後、二人は扉の外に押し出されていた。
ムサシに言わせると、ほんの一瞬の事だったらしい。かなり長く中にいた気がしたのに。
「これで無罪放免だな」
年寄りの話は長くて困る、と嘯くヒル魔に、ムサシは苦笑してその肩を叩く。
その足下ではまもりがヒル魔にしがみついて泣いていた。
「ヒル魔さま・・・」
「まもり、放せ」
いやいやと首を振ってしがみつくまもりを、ヒル魔は強引に引きはがす。
「あっ」
その仕草に眉を寄せたムサシだったが、次の瞬間思わずぽかんと口を開けてしまった。
随分と優しい顔でまもりを抱き上げたから。
泣いていた上にすぐ抱え上げられたまもりはその顔を見る事は叶わなかっただろうけれど。
「・・・そんな顔も出来るんだな」
「ア?」
しかも無自覚か、と苦笑するムサシを尻目に、ヒル魔はすたすたと階段を下り始める。
先ほどは永劫に続きそうな長さだったのに、帰りはあっさりとしたものだった。
あれは神の思惑の階、それを登る者によって変わるのだという話は本当だな、とムサシは息をつく。
そのまま高見の部屋に足を踏み入れた三人は、目覚めたセナとばっちり顔を合わせる事になった。
ヒル魔を見たセナが顔を強ばらせる。
「・・・おきつねさま?」
「ホー。さすが姉弟、勘違いも同じだな」
ぴん、と片眉を上げたヒル魔の腕から、まもりが慌てて降りる。
それに逆らわず床に下ろしてやると、まもりはセナに駆け寄った。
「セナッ!!」
「・・・姉ちゃん?!」
「セナ・・・ッ、無事で、よかっ・・・!」
声を詰まらせて泣くまもりを、セナも抱きしめる。
あの別れから三年経ち、風化しそうだったまもりの姿が鮮やかに蘇る。
優しい声、あたたかい身体。セナもぼろぼろと涙を零した。
しばらく何も口に出せず泣いていた二人だったが、やがて涙も感情の高ぶりも収まる。
冷静になってきて、まもりの脳裏を掠めたのはセナが記憶を消されて遠くの村へとやられてしまうかもしれないという危惧だった。
そんなまもりの心を読んだかのように、高見が口火を切った。
「セナくんは鈴音ちゃんの弟子になったんだ」
「えっ・・・」
まもりはセナを腕に抱いたまま目を見開く。次いでセナの顔を覗き込んだ。
えへ、と笑うセナの後ろでは鈴音がにこにこと笑っている。
「やー。私も可愛い弟子が欲しいって思ってたし。まもりちゃんの弟なら間違いないでしょ!」
「これならセナくんは地上に帰らなくてもいいんだ」
「じゃあ・・・!」
ぱあ、と顔を輝かせたまもりに、ヒル魔が釘を刺す。
「セナは鈴の弟子だから一緒に暮らすのは出来ねぇぞ」
「そ、そうですよね」
けれど今まで地上と天空に隔たっていたことを考えればそれはとんでもなく幸福な事に思える。
まもりは喜びのままにセナをぎゅっと抱きしめた。

陸とセナを眺めていた二人の元に、ポヨがやってくる。
あの後もう一つ、嬉しい変化があった。
「どうしたの?」
『眠い』
「そう? じゃあ膝にどうぞ」
『うん』
まもりの膝にぴょいとポヨが乗る。そう、ポヨと会話が出来るようになったのだ。
神と会ったおかげか、それともヒル魔がかつて言った『レベルが上がった』状態なのかはわからないが、まもりはポヨと喋れるようになってから実践的なことも教えて貰えるようになった。
いずれはポヨを人間の形にする術も使えるようになるだろう。
「やっぱりポヨは女の子みたいなんですよね」
まもりの耳に聞こえる声は細く、女の子のように聞こえる。
同様にケルベロスは男の声に聞こえるのだ。間違いないだろう。
「不満か」
「うーん、そういうわけではないんですけど」
けれどかつてあのゴキブリを仕留めたポヨを思い出すと、女の子の形でゴキブリを素手で掴んだりしたらどうしよう、といらぬ心配をしてしまうのだ。
「お前が教えればいいだけの話だ」
何を危惧するかを承知しているヒル魔は、そう素っ気なく言うと完全に仰向けに寝ころんだ。
「ヒル魔さま?」
「お前は、まだ仙人になるつもりか」
まもりは瞳を瞬かせた。なにを言うのだろうか。
「守りたいと言った村は消えたし、セナはここにいる限り餓える事もなく生きていくだろう。お前が守りたいと最初に言った連中はもういねぇんだぞ」
そしてヒル魔はまもりを真っ直ぐに見る。
その眸は雄弁に語っている。
願えばお前は弟と共に地上に帰れる。かつては当たり前だった普通の人の生活へ。
まもりはしばしヒル魔を見つめ、それからゆっくりと笑った。
「私は仙人になります。村やセナだけじゃなくて、この世界はもっと広いと知りました」
「ホー?」
「ヒル魔さまには勿論、私が私として生きるために力を貸して下さった皆様のご恩にも、仙人になって報いたいですし」
まもりの瞳には強い意志が満ちていた。きらきらと美しいそれにヒル魔は瞳を細める。
「それに、ヒル魔さまのお屋敷の掃除が出来るのは私だけです!」
胸を張って言うまもりに、ヒル魔はケッと短く笑って眸を閉じた。



***
ぽん様リクエスト『でもどうしても『桜雪奇談』の続きが知りたくて!』でしたwこれもこの続きを考えたときに重いし長いしどうしよう・・・と書くのを躊躇っていたので背中を押して頂けて助かりました。書けて良かったです♪
リクエストありがとうございましたー!!

ぽん様のみお持ち帰り可。

以下返信です。反転してお読みください。
ぽん様>
上記にもある通り、中身が重くなる予定があったので書くのがなあ・・・と考えていたのでしばらく間が開いたり外伝が挟まったりしていたわけです。これでまもりの弟子話はある程度完結、次があるならまもりが大人になった後の話になるかな、と思います。拙いシリーズ物でしたが、気にして頂けて嬉しかったですw
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