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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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恋の病以外には良く効きます。

(狐の嫁入りシリーズ)

※30000HIT御礼企画作品
※18禁シーンは『裏』に掲載しました。

+ + + + + + + + + +
まもりが書庫に顔を出すと、そこにはいつものように雪光が本を読んでいる。
「雪光さん」
「おや、いらっしゃい。今日はどうされました?」
まもりは手にしていた本を見せてにっこりと笑う。
「以前翻訳をお願いされた本があったでしょう? 終わったので持ってきたの」
途端に雪光の顔がほころんだ。本を受け取り、大事そうに書架にしまう。
「やあ、大変だったでしょう。ありがとうございます」
「いいえ。家にいてやることがないと退屈だし。充実してたわ」
「そうですか」
まもりは一人で生活している期間が結構あった。その時は退屈も寂しいもあんまり感じなかった。
それはそういう感情なのだと教える相手がいなかった。
孤独の意味を知らなかった。それほどに孤独だった。
今は仲間とも呼べる者たちが周囲にいて、外を歩けば気さくに声を掛けてくれる。
そしてなにより、ヒル魔が側にいてくれる。
どんなに遠くにいても、必ず彼女の側に帰ってくるし、危険が迫れば助けてくれる。
勿論そんな状況にならないように気を付けなければならないのが大前提だけれど。
だからまもりは今、満ち足りた気持ちで『退屈』というものを享受していた。
「まもりさんは、普段は何をされているんです?」
「ええと・・・洗濯したり、料理してみたり、お散歩してみたり・・・」
そこまでつらつらと数え上げて、ふとまもりは頬を染めた。
雪光は何となく察したがそれについては口を開かない。
「そうなるとまだあまり遠出はされてないんですよね」
「そ、そうね。あんまり遠くには行かないわ。ケルベロスがいてくれるけど、用事がないと出歩く必要がないし」
「そうですか・・・」
雪光は少々思案する。そして少し待っていてください、と言うとすっと姿を消した。
「え?」
まもりは先ほど自分で訳し終えた本を手に取る。
そこには一人の女性の人生が描かれ、結婚した後には新たな伴侶と旅行に出る、と記されている。
「旅行かあ・・・いいなあ」
今の生活に不満があるわけもないのだけれど。
ヒル魔と二人きりで日をまたぎ遠出することがまだなかった。
どんな感じなんだろう、と思って考えてみるが、全く想像が付かない。
「お待たせしました」
すっと雪光が戻ってきた。彼は手に包みを持っている。
「これをどうぞ」
「? なんですか?」
「翻訳の御礼です」
「え?! そんな、御礼なんて・・・」
「いえいえ。本当に嬉しかったので是非受け取ってください。僕が持っていても仕方ないものですし」
にこにこと笑顔で手に包みを押しつけられて、まもりは逡巡したが結局受け取った。
「開けてみてもいい?」
「ええ、どうぞ」
そこに入っていたのは、絽の襦袢と腰帯だった。
「暑い時期には過ごしやすいので、いいかと思いまして」
「嬉しい! ありがとう!」
笑顔で受け取るまもりに、雪光が尋ねる。
「ヒル魔さんは今どちらにいらっしゃいますか?」
「そろそろ帰ってくる頃かしら」
時刻は夕刻。
「じゃあ、戻ってこられたら僕から話があると伝えてください。ああ、大した用事ではないので後でいいですよ」
「? はい、わかりました」

「「新婚旅行?」」
「ええ」
夕食後に二人でくつろいでいたとき、まもりが雪光からヒル魔への伝言を預かっていた事を思い出したのだ。
そしてヒル魔が一声呼んで彼がここに来て、実は、と切り出したのが『新婚旅行』という言葉だった。
「何? それ」
「まもりさんはこの近辺以外にあまり外出されていないので、せっかくなら二人で旅行に行かれるのはいかがかと思ったのです」
にこにこと笑う雪光が書面を出す。そこには『雀のお宿』とあった。
「水辺と海は駄目だぞ」
「え? ・・・もしかして、阿含さんたちのこと?! まだ拘ってるの!?」
「アホかテメェ、アイツのしつこさは本物だぞ」
それだってもう二ヶ月は前の話なのに、とまもりは呆れるが、妖怪の時間感覚からしたらまだまだ最近の話だ。
うっかり水辺に顔を出した挙げ句、目を離したすきに阿含に妊娠なんてさせられた日には目も当てられない。
「だから『竜宮城』じゃなくて『雀のお宿』にしたんです。こちらは山奥の温泉ですから」
「おんせん?」
まもりは聞き慣れない単語に目を瞬かせる。
「それも知らないか」
「温泉というのはですね、地面からわき出るお湯の事です。普通のお湯と違って効能が色々あるんですよ」
「え? どんなの?」
「ここは内出血・筋肉痛・打ち身・腰痛・疲労回復などが代表的ですね」
「ちょ、ちょっと待って、なんか含みがないかしら、それ!」
まもりは思わず赤面する。
それは日頃ヒル魔と夜を過ごした翌日、必ずまもりが苦労している痛苦ではないだろうか。
「いえいえ、割と一般的な症状に効くんですよ」
「本当に?」
それにヒル魔は楽しげに片眉をぴんと跳ね上げる。
「そりゃあありがてぇんじゃねぇのか、まもり?」
「いや・・・うん、ありがたいけど!」
「お宿の方もヒル魔さんが奥様と来て下さると喜んで準備して下さってるようですよ」
雪光にだめ押しされて、まもりは渋々、といった様子で頷く。
でも喜びは隠しきれないようで、嬉しそうに表情を崩す。
「では明日から行ってらっしゃいませ」
「明日?! 早ッ!」
「こういうのは早い方がいいんですよ。よく言うでしょう、『善は急げ』って」
「そ、そうかしら」
「そういうもんだ。人の好意は素直に受けた方がいいぜ?」
「・・・なんかヒル魔くんが言うと素直に受け入れられない」
そんな可愛くない事をいいつつも仲睦まじい二人に雪光は微笑んで姿を消した。
その数時間後、旅行に何を持っていけばいいのかしら、とあれこれ悩み眠ろうとしないまもりを見かねたヒル魔に雪光が再び呼び出されたのだけれど。


結局雪光に荷造りまでしてもらって、まもりは初めての旅行に心ときめかせて屋敷を出た。
「どうやって行くの?」
「ケルベロスや飛んでいくのもいいが、たまには趣向を変えようかと思ってナァ」
そして一声。
「糞片輪車(かたわぐるま)!」
「まいどー!!」
すとーん、とどこからともなく一輪の車輪が落ちてきた。
車輪であるならもう一つ対が存在しそうなものだが、繋がっているはずの車軸は地面に引きずられている。
「え?!」
「どもー、片輪車の真田でっす!! この度はご用命ありがとうございます!! いやー、ヒル魔の旦那が普段から呼んでくださればいくらでもお乗せしますのに、なんでこうも呼んで頂けないんでしょうか! この状況を打破するためにもこの真田、一生懸命おつとめさせて頂きますとも!!」
まもりは車輪の中央に陣取る顔の止まらない話に、きっとこれが嫌でヒル魔は呼ばないんだろうなあ、と察した。案の定ヒル魔は眉を寄せている。
「いつも言ってるだろうが、もう少し口を慎めば使ってやる」
「これでも普段の半分以下に抑えているんですよ!! これ以上黙ってたら私死んじゃいますよ!! なんたって口から生まれたんですからね!!」
「あーもう黙れ! さっさと乗せろ」
まもりを抱えたヒル魔は、真田の背後に伸びる車軸にまもりを乗せ、自らもその車軸に座る。
斜めになっているので落ちないように気を付けて。
「出せ」
「はいはーい!! 今日は絶好の旅行日和ですよ!!」
車輪に炎が灯る。ぐるりと円を描いたそれを合図に、車軸が地とまっすぐ平行になった。
それからすーっと車輪が動き出す。振動が多少あるが、乗り心地は意外と悪くなかった。
「眠たくなったら眠れよ」
「・・・落ちそうよ?」
「ホレ」
ヒル魔の腕がまもりを抱き寄せ、更にふわふわのしっぽがまもりの身体を支える。
「久しぶりね、このしっぽに支えられるの」
「おー」
極上の背もたれを得て、まもりは嬉しそうにヒル魔にすり寄る。
しっぽはまもりの手の中にも一本収まり、まもりはそのふかふかの手触りに微笑んでそれを撫でた。
「いやーやはり仲睦まじいですね新婚さんは!! この片輪車真田、こんな仲睦まじいカップルは過去にも見た事がありません!! それにしても御覧下さいこの晴天!! 二人を祝福するかのように青く雲は白く風は爽やかで・・・」
・・・この喋る声がなければ最高なんだけれど、と思っていたまもりだったが。
次第に昨日の興奮状態が引き起こした寝不足も相俟って意外と心地よく眠りに落ちていった。


途中で休憩を挟みつつ、二人が目的地にたどり着いたのは屋敷から遠く離れた一つの山だった。
時刻はもう夕刻、まだ青さの残る空に鴇色の雲がかかっている。
散々に喋っていた真田が離れると、途端に静かになった。
どれだけ騒がしかったのだろうかあの妖怪は。
見た目にはふつうの山のようだが、入り口にちんまりとした朱色の鳥居が建っている。
「ここには人間が入れないように特殊な結界が張ってある。その鳥居をくぐって中に入るぞ」
「え? だって、この鳥居、私の膝くらいしかないわよ?」
「入れる」
「無理だって!!」
幅だってまもりがはいつくばってもくぐれないのにヒル魔なんてどうやって、というサイズなのだ。
まもりはヒル魔にとん、と後ろから押され、鳥居に膝をぶつけそうになって。
「・・・え?」
するり、とまもりはその鳥居を『くぐった』。
「だから言っただろ」
「え、だってあれ・・・」
振り返っても鳥居は見えない。二人は鬱蒼とした森の中にぽつねんと立っている。
先ほどまで耳に入っていた虫の声や鳥の声、木々のざわめく音さえ聞こえない、本当の静寂に包まれてまもりは瞬く。
「あれ、鳥居は?」
「あれは結界の元だからな、こちら側からは見えねぇんだ」
「へぇ・・・」
「じきに迎えが来る」
「迎え?」
まもりが首を傾げていると、無音の中に鳥の声が現れた。
雀の鳴き声だ。けれど姿は見えない。
「案内の送り雀だ」
その声がする方向にヒル魔はためらいなく足を進める。まもりもその後を追っていった。

五分程歩くと、唐突に森が開けた。
「わあ・・・!」
そこにあったのは、いかにもまもりが好きそうな、こぢんまりとした可愛い平屋だった。
清潔に清められた石畳は打ち水がされ、夕闇が迫った門前に篝火が焚かれている。
濡れた石畳に反射する篝火は、幻想的な美しさで二人を出迎えた。
「ヒル魔様、まもり様、お待ちしておりました」
すっと現れたのは一人の女性。はんなりと笑う姿がとても美しい。
「女将の相内と申します。どうぞ中へ」
「おお」
女将の背後から現れた銀髪の少年もぺこりと頭を下げ、手を出した。
「お荷物お持ちします」
「ありがとう」
まもりは荷物を預けると、ヒル魔の背後について行く。
「ねえヒル魔くん、『雀のお宿』って言うからにはみんな雀の妖怪なの?」
「ア? いや、送り雀が案内するからそういう名前ってだけだ」
「ええ。みんなそれぞれ違う種類の妖怪なんですよ」
女将が朗らかに補足する。
屋敷の三和土を上がると、廊下が全て畳敷きだった。
こういう廊下もあるのか、と感心するまもりをさりげなくヒル魔が腰に手をやって支える。
何もないところでひっくり返るのがまもりだから。
案の定さほど出てもいないへりに足を取られ、転びそうになったがそれは支えのおかげで大事無かった。
部屋へと案内する道すがら、次々と従業員が頭を下げる。
やがて案内されたのは、「山梔子」と書かれた部屋。
女将がすらりと襖を開くと、そこには名の通り山梔子の芳香が漂う、広々とした和室があった。
手ずから女将が客を迎える茶を淹れ、勝手知った様子でまもりの前にだけお茶菓子を出す。
「お食事はもうご用意致しますか」
「ああ」
「お酒はいかがなさいましょう」
「適当にいくつか。ああ、テメェも飲むか?」
「まもり様はお酒にお強いんですか?」
「いえ、あまり強くないです」
「では梅酒などいかがでしょう。あまり度数が高くないのでよろしいかと」
それに甘いですし、という一言にまもりが反応する。
「はい、それが飲みたいです」
「かしこまりました。少々お待ち下さいませ」
女将が下がったのを見て、ヒル魔はニヤリと笑う。
「糞甘ェもんが好きだよな、テメェは」
「だって・・・ヒル魔くんが普段飲むお酒は苦いか辛いかで飲めないんだもの」
「その割には最初、一気飲みしたじゃねぇか」
「そ、それはお酒の事を知らなかったから!」
まもりは一人で生活していた際に酒を口にする事がなかったから、この年まで飲んだ事がなかったのだ。
ヒル魔が最初何気なく渡した清酒を躊躇いもなく一気に飲んで倒れたのも今では笑い話。
お茶菓子を食べながらまもりはこれからの食事に思いを馳せる。
そのいかにも色気より食い気の様子にヒル魔はただ柔らかく苦笑しただけだった。


量も質も大満足、な食事を終え、まもりは少々入った酒の影響もあって上機嫌で室内を散策し始めた。
先ほどたどり着いた直後に食事になってしまったので、室内の装飾品も話題の温泉もまだ見ていなかったのだ。床の間に飾られた美術品は、そうとは判らないまもりであっても結構な代物が飾ってあるようで、まもりはいちいち感心する。
窓を開けば、そこには竹藪がさらさらと涼しげな音を立てている。
襖で仕切られたもう一間には、食事を終えた後に従業員が現れて手早く床を延べてくれたようだった。
「ねえ、ヒル魔くん。温泉はどこにあるの?」
「あっちだ」
示された方向に行き、木の引き戸を開くと途端に檜の芳香が鼻を擽る。
清涼感のある香りに混ざって独特な匂いもする。
見れば低い位置に設置された湯船には白濁した液体が満たされている。
「これが、温泉?」
不思議な色合いと匂いにつられてまもりは湯船に近寄る。
「滑るなよ」
「へ?」
ヒル魔がそう言った瞬間、まもりは濡れた檜の床に足を取られてひっくり返った。
咄嗟にヒル魔が伸ばした手によって身体は打たなかったが、着物がべっしょりと濡れてしまう。
ヒル魔は深々とため息をついた。
「・・・本当に糞鈍い女だな」
「うー・・・」
呆れたように言われて、返す言葉もなくまもりは顔を赤くして俯いてしまう。
「丁度いい、このまま入るぞ」
「ええ!? い、一緒に?!」
真っ赤になったまもりに、ヒル魔は片眉をぴんと上げたが、次いでにやりと唇を歪める。
「いや、テメェ一人で入ってていいぞ。俺はまだ酒を飲んでる」
「そ、そう・・・」
まもりはほっとしたように笑った。
「着替えは出しておいてやる。じっくりあたたまって来い」
ぽん、とまもりの頭を撫でてヒル魔が出て行くのを見送り、まもりは濡れた着物を脱いでいそいそと身体を流し、湯船へと身体を沈めた。
「うわ・・・!」
湯船に浸かるという事自体、『東』に来てからの習慣だが、まもりはとうに馴染んでいる。
僅かにあった疲労の全てがすっと抜けていくような心地よさにまもりはうっとりと表情を緩ませる。
「ヒル魔くんも入ったらいいのに」
そう呟いて、まもりは湯を掬う。
「あ、でも一緒には恥ずかしいからこれでいいのよ、ね?」
答える者はいないが、まもりは自分の言葉に一人で赤くなる。
そのまましばし、生まれて初めての温泉をまもりは心ゆくまで楽しんだ。

のぼせる寸前に風呂から上がったが、まもりは脱衣場に置いてあったものに眉を寄せた。
そこにあったのは雪光からの贈り物の、絽の襦袢と腰帯である。
薄い素材のそれは、さらりとした肌触りだ。湯上がりに羽織るにはいいだろう。
けれどそれは透ける。間違いなく全身が透けてしまう。
「・・・どうしよう」
着てきたはずの着物は濡れていて袖を通せないし、手ぬぐいで覆うにも幅が足りない。
散々に悩んだ挙げ句、まもりは襦袢を身につけてみた。着たはいいが、透けていて意味がない気がする。
今からヒル魔に着替えを持って来て貰うのも気が引けるし。
「おい」
「ッ!!」
襖越しに声を掛けられ、まもりは息を詰める。
「早く出てこい」
「う・・・」
この格好で?
まもりは真っ赤になって逡巡するが、襖越しでもヒル魔の気配はイライラしているのが判る。
「出てこないなら入るぞ」
本当に入って来かねない声に、まもりはうわずった声でヒル魔に語りかけた。
「わ、わかったわ! ・・・あの、ね? 部屋の明かりを消して欲しいの!」
「ア?」
「お願いだから!」
まもりが必死になって叫ぶと、ヒル魔はふーん、と呟いて襖を離れた。
ほっとした気持ちでまもりは己を見下ろす。
やはり絽の襦袢一枚では頼りない。
明かりが消された後ならそんなに見られなくて寝床にたどり着けるだろう。
しかしヒル魔は狐である。しかも妖怪、そんな彼は夜目が利く。
そして。
この着替えを用意したのがヒル魔だということもまもりはすっかり失念していた。
また、自分が先ほどさほど考えず口にした言葉の意味も。
まもりが意を決してすっと寝室の襖を開くと、明かりは完全に消えていた。
ヒル魔は隣の布団に横たわっている。眠ってはいないだろうがこちらを見ていない。
ほっと息をつきながらまもりは急いで自分用に延べられた布団に手を掛ける。
明日の朝、明るくなったらちゃんとした着物を探そう、そう考えて。
だが。
「キャッ!!」
横から伸びてきた腕ががっしりとまもりの肩を掴んだ。
ヒル魔が楽しげににまもりが纏う襦袢を撫でる。それは同時にまもりの身体を撫でる事でもあって。
「・・・ッ」
「なんでこんなもん、テメェが持ってるんだ?」
まもりが肩をすくめた隙に、ヒル魔がまもりを引きずり込み、自分の下に組み敷いた。
薄い布がまもりの肌の色を透けさせている。
「翻訳の御礼ですって雪光さんがくれたの。・・・さっきヒル魔くんが出してくれた着替え、これだったのよ!」
「ホー」
あんまり見ないで、と赤面して身体を捩るが、それがヒル魔を煽っているのだと相変わらずまもりは思い至らないようだ。その鈍さが時折憎らしくさえあるが、ほとんどは愛しさだけで受け止められる。
「糞ヤラシイ格好だ」
「や・・・」
言われた事に、かっと頬を染めたまもりの唇を奪う。
ねっとりと口づけられ、まもりはきゅっと目を閉じた。


■□■□■□
続きは裏へどうぞ

女将の気遣いで、朝食は幾分早い時間の昼食と兼用になった。
まもりは気怠い状態ではあったが、ヒル魔によって寝間着に着替えさせられ、膝抱きにされてどうにか食事にありつく。実際、空腹でたまらなかったのだ。
一人で生きていたときは食事など本当に適当だったのに、こうやって生活するようになってからは食べないと身体が持たない気がしてならない。
「喰ったらもう一度温泉に入るぞ」
「ん・・・」
まもりは夢うつつで食事を終えると、ヒル魔に抱えられて昨日は一人で入った温泉にその身体を沈める。
「・・・ふぅ・・・」
昨日とは段違いの疲労を吸い取るような心地よい感覚に、まもりはため息をついてうっとりと表情を綻ばせる。
派手に散らされていた鬱血跡も湯に触れるうちにすぐ消えていった。
身体の力を抜いて背後のヒル魔にもたれかかり、瞳を閉じる。
「よく効くだろ」
「うん・・・」
あれほど辛かった疲労が次第にお湯に溶けるように消えていった。
さほど掛からず、自力で動けるようになって、まもりはヒル魔からそっと離れようとする。
だがそれはヒル魔の腕にあっさりと阻止された。
「今更照れるな」
「だって」
放されるどころか、くるりと向きを変えられて向かい合わせに顔を合わせてしまう。
「まだまだ時間はたっぷりあるんだ。もっと楽しむぞ」
するりと触れてくる手を避けようと身体を捩らせながら、まもりは声を上げる。
「え?! きょ、今日帰るんじゃないの?!」
雪光に持たされた荷物を見ても、そんなに長期逗留するとは到底思えなかったのだが。
「そんなに早く帰ったら旅行のありがたみがねぇだろ? 俺が満足するまでしばらく逗留するぞ」
「ええ!?」
「第一、ここにいる間は着物着る暇なんぞねぇんだから、着替えはいらねぇだろ」
にやり、といやらしく笑われてまもりは湯のせいばかりではなく頬を紅潮させた。


***
クロネコヤマト様リクエスト『狐の嫁入りシリーズで裏』+サキ様リクエスト『リクは新婚旅行に行く九尾狐夫婦お願いします。+新婚旅行先は温泉が良いです!裏だったら嬉しいです』でした。楽しく書けました♪
雀のお宿メンバーは狐の嫁入りシリーズでは出てきていない西部軍団です。
リクエストありがとうございましたー!!

クロネコヤマト様・サキ様のみお持ち帰り可。

以下返信です。反転してお読み下さい。
クロネコヤマト様>
他のSSへのご感想ありがとうございました♪ここのところ短くすっきりと一回で書ききれない話が多いので着いてきてくださって嬉しいです~。花が美しい理由、意外に好評を頂いて驚きました。やっぱり軍服でしょうかね? 初夜のリクエストを別に頂いているのでそちらも書くのが楽しみです。墜落モノクロームはあの絵の状況に持っていくのに苦慮したのでお褒め頂けて幸せです!トリックスターはタイトルが決まらず、実はオチのヒル魔さんは髪を下ろす予定が普通の頭になったという裏話もあります(笑)
また是非かまってやってくださいね~!
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同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
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