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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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鬼の居ぬ間に

(ヒルまも一家)
※『妖精、逃げる』と『妖精確保』の間くらいです。

※30000HIT御礼企画作品

+ + + + + + + + + +
それはまったくの偶然だった。
ムサシは普段車で移動する事が多い。仕事の関係上車の方が、都合がいいからだ。
けれどたまたまこの日は仕事が速く終わり、他に仕事が残っているという部下に車を貸し、自分は歩いて現場から事務所まで向かっていた。今日はもうムサシは報告書を作れば上がりである。
そこにたまたま彼女が通りかかった。
蛭魔まもり。旧姓、姉崎。
上は高校生からなる子供が三人いるとは思えない程若々しく見える彼女と、かなりの老け顔な自分が並んでも同じ年だと初見で判る者はいない。
そんな彼女はムサシを見ると嬉しそうに笑った。
「そうか、ムサシくんのお家ってここ近いんだっけ」
「ああ。姉崎・・・いや今はヒル魔か」
「姉崎でいいわよ。ヒル魔くんだって私の事そう呼ぶんだから」
「あいつは相変わらずだな」
にこにこと笑う彼女にムサシは苦笑する。あの夢ばかりを追い求めて何一つ欲しいものを諦めなかった男は、傍らにあった彼女も逃さず手中に収めた。
今も彼の慈しむ気持ちが深いのは彼女の幸せそうな顔を見ればすぐ判る。
「姉崎はどこかに行くのか?」
「ええ、今はこの通り夕飯の買い物をして帰るところなの」
食べ盛りがいるから大変よ、と笑う彼女の両手には大量の買い物袋。
重さに耐えかねてふらふらと揺れてなんとも頼りない。
「持つ」
「え、いいわよ悪いし。ムサシくんはまだお仕事中でしょ?」
「一区切りついたんで大丈夫だ。大体そんな危なっかしい足取りで平気だなんて―――」
そこでムサシはようやく気づいた。まもりの顔色がひどく悪い事に。
まもりがいつものように穏やかに笑っていた事で誤魔化されていたのだ。
「・・・ヒル魔は?」
「ヒル魔くん? まだこの時間だと泥門高校でコーチやってるわ」
「じゃあアヤも妖介も練習中だな」
「そうねぇ」
ムサシは無言でまもりの荷物を持ち、タクシーを止めた。そして問答無用でまもりをその中に押し込む。
「え?! え、近いからいいのに!」
「そんな顔色で歩かせたら俺がヒル魔に殺される。いいから乗れ」
そしてその隣に身体をねじ込んだムサシは蛭魔宅へ寄って次いで病院へと運転手に指示する。
まもりは座席に身を預けると、やはり身体は辛かったのだろう、安堵に緩んで嘆息した。
「保険証は?」
「持ってるわ・・・」
「じゃあ俺はこの荷物を家に置いておいてやるから、病院に行け。護はもう家にいるか?」
「この時間じゃまだいないかも・・・」
ムサシは携帯を取り出し、電話を掛け始めた。

「はい、判りました! すみません、お母さんをお願いします」
「護、どうしたの?」
携帯の通話を切った護に、隣を歩いていた同級生の小早川美佳(はるか)が首を傾げる。
「ごめんね、ちょっと急用が出来ちゃったから行かなきゃ」
「どこに?」
「泥門高校」
にっこりと笑う護に、美佳がぱっと顔を輝かせる。
「僕も行くよ! アヤ姉ちゃんと妖介兄ちゃんがアメフトやってるんでしょ?」
「そうだね、多分練習してると思うよ」
「見たい見たい!」
無邪気な美佳に護は脳裏でこれから起こる面倒ごとを瞬時に計算して笑顔で頷いた。
この二人、見た目がよく似ているので親類かと問われる事がしばしばある。
実際は全く血のつながりはない。そして中身もかなり違う。
・・・実際、美佳は護の内面などまったく知らないのだけれど。
「走っていく?」
「うん」
二人は走り出す。美佳は父親譲りで足が速い。護はさほどでもないが、平均よりは早い部類だろう。
人混みをすり抜けて、二人は泥門高校へとランドセルを鳴らしながら走り抜けた。


「次、スケルトンパス!!」
「ウーッス!!」
SET! HUT! という声は女のもの。あれはアヤだ。
マネージャーの子が矢継ぎ早に指示を飛ばすヒル魔の隣で必死にメモを取っている。
ガシャンガシャンと音がするのはラインがマシンに身体をぶつける音。
そちらでおそらく妖介も練習しているのだろう。
「やっぱアメフトっていいよね。僕も中学生になったらアメフト部に入るんだ!」
「そうだね、美佳の足だったらきっといいRBになれるよ」
「うん!」
会話しながら護はヒル魔へと近づこうとするが、グラウンドの奥の方で練習しているアメフト部の元にたどり着くにはぐるりと校舎前を通らないとならないようだ。あっちから見つけてくれたら楽なんだけど、と思いながらも携帯は鳴らさない。鳴らしたところできっとコーチをしている父親は気にもしないだろうから。
「護、どうするの?」
「うん、とりあえずこっちから回っていこうと思う・・・」
そしてそんな会話をしていたら。
「YA―――――――HA―――――――!!」
素晴らしく強烈な回転が掛かったアメフトボールが声と共に護へと発射された。
レーザーよろしく飛んできたボールに美佳は咄嗟に飛び退いたが、護はそれをいとも簡単に捕った。
周囲では今目の前で起こった事にざわついている。
何しろ正確無比で通っている蛭魔綾の投げたボールがとんでもない大暴投、けれど飛んできたボールを避けもせず捕った小学生がいる。
「護?! どうしたんだ、こんなとこに」
走ってきたのは妖介。そしてその後ろからアヤも歩いてきている。
もちろんアヤは判っていて狙って護に投げたのだけれど。
それが判っている護は妖介にボールを投げて返しながら声を掛けた。
「お姉ちゃんに家に帰るように言ってくれる? お母さんが調子悪いんだって」
「え? アヤでいいのか?」
「お母さんは今自力で病院に行ったって連絡貰ったんだ。女手が欲しいんだってさ」
誰に、というのをわざと省いて話す護に、妖介も気づいてにやりと笑う。
「ふーん。判った」
妖介はアヤにサインを送る。それに目を丸くしたアヤは、踵を返してヒル魔の元へと走った。
「こんにちは!」
「あーミカちゃんこんにちは。お父さん達元気?」
「こんにちは。って、ミカじゃなくてハルカです!」
美佳にとって妖介は見上げる程大きい。けれど怖そうな外見とは裏腹に優しい彼に美佳はとても懐いている。
「ア? 糞チビJr.じゃねぇか」
ヒル魔もコーチの手を止めて二人の元へやってくる。
「妖一おじさんこんにちは! あ、J r.じゃなくてハルカです」
「いいじゃねぇかJr.にゃ違いねぇだろうが。あとその呼び方よせ」
「僕は僕なんですからJr.は嫌なんです」
美佳は両親同士が旧知の仲なのと護と同じ年ということでヒル魔にも多少気安い。
とはいえ、これを聞いたら美佳の父親が青い顔をして美佳を抱えて逃げるのだけれど。
「せっかくだ、練習見ていくか?」
「いいんですか?! やった!」
喜ぶ美佳と護は頷く。と、制服に着替えたアヤが走ってきた。
「お先に失礼します」
「おー。しっかり糞風邪っぴきの面倒見とけよ」
「はい」
ぺこりと頭を下げたアヤは、こちらを見つめる視線に気づいて隣を見た。
そこには顔を真っ赤にした美佳の姿。
「見学していくの?」
「は、はい」
「そう。怪我には気を付けて」
す、と美佳の頭を撫でて一瞬微笑んだアヤに美佳はますます顔を赤くする。
そのまま走り去ったアヤを見送った護は、背後でがしゃりと銃を構えた父親に嘆息した。
「子供の憧れだよ。そんなに目くじら立ててどうするの」
「煩ェ」
アヤも美佳に怪我をしないように、というのならまずそんな顔はしない方がよかったと思う。
滅多に見られないアヤの表情を向けられた美佳に大人げなく殺気立った部員達の気配に護は肩をすくめる。
この分だと小学生だというのにこのグラウンドを走り回ることになりそうだ、と思う。
まあそれも想定内。そのために美佳をここに連れてきたのだから。
美佳の不幸体質は親子二代にわたるらしい。

アヤはいつもなら歩いて帰る道のりを走って帰った。
距離としてはさほどでもなく、練習を途中で切り上げたので体力的には余裕もある。
何よりも助けを求めてきたのが母と、その場に居合わせたムサシだというのだからアヤの足も自然と急く。
ムサシはアヤが幼い頃から好きな相手だ。
アヤの両親とは同じ年だが、そんなものは好きになってしまえば仕方のないことなのだ。
母の祖父母に会うために何度か日本に帰国するたび、アヤはムサシへの思いを募らせていった。
何度も想いを告げたが、ムサシにしてみれば子供の戯れ事と大して取り合わない。
それでもアヤは諦めきれない。いいや、可能性が残っている以上は絶対に諦めない。
そのために出来る事は何でもするし、チャンスは絶対に逃がさない。
弟たちはそんなアヤの想いを知っているから、折に触れこうやってアヤをフォローするのだった。
「ただいま」
家に帰ると、既にまもりは病院から戻ってきていたようで靴がある。
その隣にある作業靴に顔をほころばせながらアヤはリビングへ顔を出した。
「おかえり」
「おかえり・・・」
声は二つ。一つはムサシ、一つは力無くソファに座っているまもりのもの。
「こんにちは厳さん。お母さん、大丈夫?」
「ちょっと・・・駄目」
「そう。もう少し待ってて。今、着替えて準備するから」
アヤはそう言い置いて急いで自室に戻り、着替えて両親の寝室の扉を開いて着替えを取り出し、ベッドの布団を捲って氷枕と水を用意して、と準備を整える。
階段を下りるとまもりは起きているのも辛いのか眸を閉じていた。
「お母さん、立てる?」
「うん・・・」
力無く頷くが、抱えた方がいいだろうか。アヤのベンチプレスは60㎏、まもりくらいなら抱えられるはず。
「俺が抱えるか?」
ムサシの声に、まもりは首を振った。
「ううん・・・そんなことしたら、ムサシくんの命が・・・」
あー、と乾いた笑いを零すムサシに、アヤも苦笑する。まもりは本気だし実際にあり得る事態だから。
「肩だけで平気?」
「ん・・・」
まもりの左腕を肩に回し、右腕でまもりを支えてアヤはゆっくりと階段を上った。
たどり着いた先でアヤはまもりの着替えを手伝い、寝かしつける。
氷枕に頭を預けたまもりはほっと息をついた。
「注射してもらったから、大分気分はいいの」
「ゆっくり寝ていて。ご飯は作るから」
「お願いね」
アヤはそっと寝室を後にすると、すぐさまキッチンへと入ってコーヒーを落とす。
所在なげなムサシの元に向かい、アヤはにこりと笑う。
「母を送って下さってありがとうございます」
「いいや。たまたま通りかかってな」
「母のことですから、熱があるって気づいてなかったんじゃないですか?」
「そうだな。相変わらず自分の事には無頓着だ」
それにしても、とムサシはアヤに向かって首を傾げる。
「てっきりヒル魔が戻ってくると思ったんだがな」
「父がもし途中で戻ってきても母が怒って収拾がつかないんです」
「ん?」
落としたコーヒーをムサシに出し、アヤも同じコーヒーに口を付ける。
「『私たちがクリスマスボウルを目指してたときには私情を挟まなかったでしょ!!』って」
「ああ・・・成程」
あの高校二年生の八ヶ月間。何よりも渇望したクリスマスボウルに向かうためにヒル魔はありとあらゆる手段を講じた。練習はヒル魔の強制によって始められたものもあったが、全員が勝つために必要だと判断して努力した。あの日々を愛しく思うからこそ、同じ目標に進む子供達に私情を挟んで迷惑を掛けるようなことがあってはならないのだとまもりは言ったのだ。
『だからコーチをやるなら、家の事は心配しないで。仕事はまあどうだか知らないけど、私は私の出来る事でヒル魔くんをサポートするから』
それは高校から変わらないまもりとヒル魔の決まり事。
二人の強い繋がりを目の当たりにして、改めてこの二人の間に生まれてよかった、と思うのだ。
アヤは立ち上がりムサシにはもう一杯コーヒーを注ぎ、自らはキッチンに立った。
「おい、俺は・・・」
「せっかく来て下さったんですから、ご飯食べていって下さいね。おもてなしもしないで厳さんを帰したら、私が母に怒られます」
「だが」
「大丈夫です、料理は出来ますから。・・・それとも、私の作るものは食べられませんか・・・?」
ひょこりと顔を出したアヤは笑顔の後、一転して不安そうにムサシを見上げる。女として結構長身のアヤだが、ムサシよりは低い。上目遣いにアヤに見られ、それに弱い自覚があるムサシはがしがしと頭を掻くと苦笑する。
「ま、適当に頼む」
「わかりました」
にっこりと笑ってキッチンに消えるアヤの後ろ姿を眺め、やはり年下の女はやりづらいな、と苦笑を深めた。


ヒル魔と妖介と護の三人が同じ時刻に帰宅という珍しい光景を、更に珍しい光景が出迎えた。
「おう、おかえり」
「おかえりなさい」
すっかりくつろいで食後の茶を啜るムサシと、ヒル魔家特製病人用の雑炊を手にしているアヤ。
「ただいま~。こんばんは、ムサシさん」
「わ、今日の夕飯はお姉ちゃんが作ったの?! やったー!」
騒ぐ弟たちを尻目にアヤは母親に雑炊を持って行くべく廊下へと消えた。
厳しい視線を向けるヒル魔にすれ違い様ちらりと視線を投げ返して。
「・・・なんでテメェがここにいるんだ糞ジジイ」
「ん? 聞いてないのか? 姉崎が倒れそうになったときに側にいたのが俺でな」
「ホー・・・」
ぐりん、とヒル魔が妖介と護に顔を向ける。
二人はそれに気づいて互いに顔を見合わせると、素早く自室へと逃げていった。
「何かあるのか?」
「・・・アヤはテメェと普通に喋ったか?」
「? ああ、普通だったな」
「笑ったか?」
「笑わないことがあるのか? アヤが?」
ムサシの言葉に、ヒル魔がジャコンと手元の銃を鳴らす。その銃がムサシを狙う前に、アヤが戻ってきた。
「お父さん、お母さんが呼んでる」
「・・・おー・・・」
「行かないの?」
「・・・・・・・チッ!!」
派手な舌打ちをしたヒル魔にアヤは殊更にっこりと笑う。
それを見てムサシは全く訳がわからず首をしきりに傾げるのだった。


その頃、逃げ込んだ妖介の部屋で二人は会話していた。
「やっぱりアヤはムサシさんと一緒にいる時が一番いい顔してるよね」
「うん。やっぱり二人はお似合いだよね」
「アヤの手料理か。久しぶりだから楽しみだ」
「美味しいけど滅多に作ってくれないもんね」
「やろうと思えばなんでも出来るんだけど、どうにも片づけだけはね・・・」
「片づけが下手なんだっけ。僕が片づけるから作るだけ作ってくれたらいいのに」
「やっぱり作るからには一番好きな人に食べさせたいんじゃない?」
「そっか」
「それにしても・・・」
「うん」
「「お腹空いた~」」
そして二人が自室から出てアヤが作った夕飯にありつけたのは、これより三十分後の事である。

***
水神龍菜様リクエスト『鬼の霍乱の逆バージョンでお願いします。(風邪を引いたのがまもり)で』+fumika様リクエスト『アヤ視点で、突然倒れたまもりとそれを支えるヒル魔を見て改めて二人の結びつきを感じるアヤ。ムサシへの片想いと絡めて書いていただけたら嬉しいです。』でした。美佳の名前は『ミカ・ハッ○ネン』が元です。父と同じくF1選手から。誰も希望されていなかったのですが、護を動かすのに出してみました。
・・・一部間違えている気もしますが、楽しく書かせて頂きました!
リクエストありがとうございましたー!!

水神龍菜様・fumika様のみお持ち帰り可。

以下返信です。反転してお読み下さい。
fumika様>
こんにちはwお待たせしました~。ヒル魔さんが支えて無くてごめんなさい・・・。例えばまもりが倒れても駆け戻らないのは信頼の証、というのを書いてみたかったのです。むしろムサシへの片思いがメインに・・・!
副官の話も気に入ってくださってありがとうございます♪お気に召したでしょうか?
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ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。

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閉鎖しました。
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