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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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血の呪縛(上)

(ヒルまもパロ)

※6/18アップ『いばら姫』の続きです
※30000HIT御礼企画作品


+ + + + + + + + + +
婚約が成されたというのに、まもりとヒル魔はほとんど顔を合わせる事がなかった。
ヒル魔は多忙らしく申し訳程度に姉崎家には立ち入るが、大抵まもりのいない時分だった。
まもりはまもりで、女学校に通っていたり手習いがあったりとそちらを優先させていて家にいるのは眠るとき程度という状態だった。
忙しければ全て忘れていられた。
時折あれは悪い夢だったのではないかと思う程に、彼は距離を置くと途端に曖昧な存在になった。
傍らにあるときは目を閉じていても尚突き抜ける陽光のような強烈な印象があるのに。
そんな彼が言った『まもりが子供のうちは手を出さない』という一言は、まもりにひどく重苦しい枷を与えた。
子供という範疇がどの程度なのか、計り知れないからだ。
一応学生の最中は貞操の危機はないと思えばいいのだろうか。
自分自身にそう言い聞かせ、なんとなく納得しかけたある日、唐突に同じクラスの生徒が一人欠けた。
病気ということもなく、家が倒れた等の噂もない。
友人と廊下を歩くまもりの隣を通り過ぎる集団から、囁きが漏れる。

孕んだ
あの子が
手を付けられて

振り返ってもそこにはただ集団が通り過ぎた残り香しかなく、まもりには誰がそれを囁いたのか知る術はない。
だがそれはただの噂というにはあまりに生々しかった。
確かにまもりの年は幼いとはいえ、そういった知識もあり、もう月の障りもある以上、相手に手を出されたら十分にあり得る事態なのだ。
「どうしたの?」
「・・・いえ。なんでもないわ」
「そう?」
訝しげに声を掛ける同じクラスの女生徒に笑みを返し、まもりは足を進める。
彼女の意志など無いに等しいこの現状、逃れる術もなくまもりはただ怯えなければならない。
まもりもいつ同じようにこのクラスからほろりと欠けるか知れないのだ。
そうなっても、きっと自分たちが今何事もなく過ごすのと同じように、周囲は変化無く進んでいくのだろう。
まもりは自分が底なし沼の上に戸板一枚で立たされているような錯覚を覚えた。
悪寒にぞっと背筋を震わせながら、ただ平凡な日常に縋るしかなかった。

まもりが言いようもない不安を振り払うべく、いつになく熱中した手習いを終えて自宅へ戻る。
時は深夜で、既に使用人のほとんどは休んでいて姿を現さなかった。
だが、まもりが扉をくぐると、仄かな明かりが彼女を出迎えた。
「おかえりなさいませ。遅くまでお疲れ様でした」
ただ一人起きて彼女を待っていた一人の少年が頭を下げる。
それにまもりはほっと頬をゆるめた。
「遅くまでごめんなさい」
「いいえ、私は丈夫だけが取り柄ですからお嬢様の心配はご無用です」
少年の名はセナという。小柄で若く見られるが、年はまもりの一つ下に過ぎない。
そんな彼は幼い頃からこの屋敷に仕えていて、まもりのことをこの屋敷の誰よりも心配していた。
「今は夜だし、そんなに改まって喋らなくてもいいのよ?」
「ですが―――」
戸惑うセナにまもりは俯き加減に願う。
「お願い。以前のように喋って」
あの父が健在だった頃、何も不満なく生きていたときの甘い記憶のままに。
「・・・まもり姉ちゃん・・・」
少しの逡巡の後、セナが細くまもりを呼んだ。
幼い頃のセナは脆弱と呼んでいい程線が細く、雇われていると言ってもまもりの話し相手が主な仕事だった。
そんな彼を弟のようにかわいがった記憶がほんの数年前なのに、やけに遠く感じる。
「まもり姉ちゃん、無理してるでしょ? ちゃんと寝てる?」
「寝てるわよ」
「でも、よく眠れてないんだね。目、赤いよ」
「・・・やっぱりセナには判っちゃうのね」
弱々しく微笑むまもりに、セナは眉を寄せる。
「僕には力なんてないけど・・・僕が出来る事があれば何でも言って。力になるから」
「ありがとう」
その言葉があるだけで、まもりは心がじんわりとあたたかくなるのを感じる。
屋敷の誰もがまもりを『姉崎家の娘』としての立場でしか見ていない。
ヒル魔はもちろん、使用人達も、そして母親でさえも。
『姉崎まもり』という彼女自身を心配し、労ろうというセナの心遣いがただ嬉しかった。
優しいセナと二人だけで逃げて、どこか遠く、ヒル魔の手の及ばないところで暮らせたらどれほどいいかと考えてしまう。けれどそれは口に出来ない。自分一人だけが慣れない生活に身を投じればいいのならまだしも、この屋敷からまもりが消えてしまえば、家は即刻存続不可の烙印を押されてあっさりと全てを失ってしまう。
事はまもりだけではなく、この屋敷に存在する全ての人間の人生に関わるのだ。
まもり一人が我慢すればいいだけのこと。
ただ、それだけのこと。
華族として生まれたからには好いた相手と結婚することがどれほどに難しいかは身に染みて知っている。
それでも尊敬できる男性を婿に迎え、彼を支え、家を守っていくのが時分の勤めだとなんとなく思っていた。
けれど相手がヒル魔ではそれも叶わないだろう。
「さあ、もう遅いし、ゆっくり休んでね」
「ええ。ありがとう、セナ。あなたももう休んでちょうだい」
「はい」
まもりを自室に送り届け、セナは笑顔で頭を下げる。
その笑顔を知っている。
喜び嬉しさを表すのではなく、相手を安心させたいから浮かべる柔らかい笑顔。
それに間違いなく癒やされて、まもりは自室へと戻り。
「・・・!!」
その場にいた男に身体を竦ませた。
「遅ェ」
先ほどまで脳裏に描くたびにまもりを気鬱にさせた諸悪の根元であるヒル魔がそこに堂々と座っていた。
こんな夜更けに、婚約者とはいえ未婚の女性の部屋へ当人に断りなく入るとは、どんな了見だ。
「何故・・・」
「最近婚約者サマの顔を見てないと思ってナァ」
事もあろうに寝台に座っていたヒル魔は、身軽に立ち上がりまもりの側へと歩み寄る。
立ちつくす彼女に相も変わらず黒ずくめの男はにやりと嗤って見せた。
「変な気を起こす前に忠告してやろう」
「何をですか」
それでも毅然と顔を上げるまもりに、ヒル魔は楽しげに目を細める。
「テメェがいかに学んでも、女では家を継ぐ事は出来ねぇ」
「それは承知してます」
何を今更、という表情で睨むまもりにヒル魔は続ける。
「俺はテメェの家名を使う以上、姉崎家が握っている事業の全てを管理する必要がある。そして俺は人任せになんぞしねぇ」
彼はにたりと嗤った。
「俺と対抗しようなんざ、百年早ェんだよ」
「!!」
読まれていた、とまもりは唇を咬む。
ヒル魔が家名のみを欲し、事業に手を出さないようであれば、まもりが名代としてそれを引継いで実質の主として姉崎家を守り、いずれは彼と対抗しうる存在になろうと密かに画策していた。そのための勉強は家業の管理に全く素地の無かったまもりには不可解な点も多かったが、それを嘆く暇があるなら努力あるのみ、と多岐にわたる分野の勉学に励んでいたのだ。
家の中の誰にもそのことを伝えていなかったのに、どこから聞きとがめたのか。
まもりが熱中しているのが女子供の手習いと聞いたならば、彼は気に留めないだろうと思っていたのに。
「女にしちゃまあまあの考えだ」
ぐい、とヒル魔はまもりの顎を捕らえて上向かせる。
空恐ろしい三白眼は感情を読み取らせず、ただじっとまもりを見つめている。
唇が楽しそうに歪んでいても、手つきは乱暴で、何を考えているかは掴ませない。
まもりは油断せずじっとヒル魔から視線を逸らさぬよう気を張っていた。
「だが―――相手が悪ィ」
ケケケ、と嗤ってヒル魔はぱっとまもりの顎を放した。そのまま扉へと彼は歩いていく。
「さっさと寝ろ、ヒデェツラしやがって」
まもりはこの後、先ほどまで受けていた勉学の復習をするつもりだった。
「こんなもんはテメェに必要ねぇ」
しかし気が付けばその資料一切が入った包みがヒル魔の手にある。
「それは・・・!」
「寝台の下に隠してあった資料も既に処分済だ」
「ッ」
悔しそうに唇を咬んだまもりに、ヒル魔は更に追い打ちを掛けた。
「テメェに余計な事を教えたヤツは明日には所在不明になる」
「え・・・」
ヒル魔の表情は変わらない。まもりの顔色だけがすっと白くなる。
まもりが何度も懇願して家の事を教えてくれるようになった相手。
女相手ではろくに教える気のない者たちの中からようやく見つけた教師役だったのに。
「彼に何をするの?!」
「テメェが想像した通りのこと、だ」
糞甘臭ェテメエの頭で考えた事よりももっと残酷かもな、という続きにまもりはよろめいてその場に座り込む。
「テメェは安穏と生きてればいい」
彼が傍らにいる限り到底叶わない事をヒル魔はさらりと言う。
まもりの手から奪い取った包みを手に、彼はその場を後にした。
呆然と座っていたまもりは、よろよろと立ち上がり、機械的に着替え、寝台に潜り込む。
色々な事が起こりすぎて頭が熱暴走を起こしかけているまもりは、全てから逃れるように瞳を閉じる。
唯一判った事は、まもりの企みは彼に露呈し、その手段を奪われたという事。
心とは裏腹に身体も頭も限界に近かったまもりは突き落とされるかのように眠りに落ちる。
その寸前。
何かがまもりの脳裏に引っかかったのだが、その思考を纏める前にまもりは意識を手放した。

まもりの企みは頓挫したが、学んだ事全てが無駄になったわけではない。
得た知識で姉崎家が持つ事業を全て調べてみると、それは結構な量であることがわかった。
まもりには人任せにはしないと言ったが、これを一人で管理するのは無理だろう。
そうなればやはり人を雇ってこなすようになるはず。
その人をこちら側に引き入れて味方に付けたいと考えたのだ。
そこを突こう、とまもりは考える。
ヒル魔がいかに狡猾で人並み外れた力を持っていたとしても、時を操ることが出来るわけではない。
まもりは父が存命中に執事をしていた老人を訪ねた。彼なら仕事の全てに通じていたから、ヒル魔がどの仕事を人に振り分けるかという予測が付くのではないか、と思ったのだ。
執事は高齢を理由に引退していたが、まもりの来訪を聞くと喜び彼女をもてなした。
彼の年老いた妻と共に一時お茶と会話を楽しみ、そしていよいよ本題を切り出す。
「実は――――」
その言葉に老人は即座に首を振った。
「彼をただの男と侮ってはなりません」
「それはなぜ? あれほどの事業を一人で全て把握して動かすのは無理でしょう? だから父も実際には貴方を始めとした人の助けを必要としていたわ」
まもりの父は特に煩雑ではない内容の事業は人を使って間接的に管理を行っていた。
彼もそうであろうと踏んだのに。
「彼はご当主が亡くなられる前にまもり様の婚約者として出入りをしておりました」
「ええ、知っているわ」
「その際に彼は姉崎家の事業を統括する部分に配属されていた者たちを全て解雇したのです」
「えっ」
「そしてその後釜に彼が入り、多岐に渡り煩雑になっていた事業は全て見直され、彼一人で全てが動かせるように再構築されたのです」
「!!」
「だからこの先彼が人を雇うとしたらそれは新たな目論見があると思われるときで、その時には今のまもり様の考えでは後手に回るようになるでしょう」
まもりはヒル魔のあの余裕は嘘やハッタリなのではないかと思っていた。
けれど違った。自らの能力の高さに裏打ちされた真の余裕なのだ。
『彼はあの外見であの振る舞い、なのに形式を重んじる貴族の中であってもそれを許されてきた。それは家名や伝統に囚われず全てを自ら掌握してきた能力で生きてきたからに他なりません。そしてそれは一貴族の持つ力の範疇を遙かに超えています。更に彼は今回の婚約で家名をも手に入れた。それは唯一と言っても良かった彼の弱点の喪失なのです――――』
痛々しい顔をした老人の家から挨拶もそこそこに戻る。
玄関にいるはずの使用人達の姿はなく、玄関正面の階段の上でヒル魔がにやにやとまもりを待っていた。
「年寄りの与太話は話半分に聞け」
彼の情報網はどこまで広がっているのだろう。
たった今戻ってきたばかりなのに、ヒル魔は彼女がどこで何をしてきたのか全て把握している。
「興味深い話もあるのよ」
ヒル魔はまるで足音を立てず、まもりの側に歩み寄る。男としては細いと思われるその身体も、まもりと比較したらその力は雲泥の差だろう。
それは肉体的な力だけではなく、年にも頭にも言えた。まもりが彼に敵う所など何一つない。
頭二つ上にある彼の視線を受け、それでもまもりは顔を逸らさなかった。
「テメェにはそんな話を聞くより先にやることがあるだろ」
すっと彼はまもりの目の下を指で撫でた。先日も指摘されたクマをなぞっているのだ。
ヒル魔の眸がすっと細められる。
「テメェが妙なことを考えずに安穏と生きているうちはこの屋敷にいる連中の生活は保障してやる」
指がするりとまもりの首に触れる。
くすぐったさに反射的に首をすくめたまもりの耳元にその長躯を折り曲げ、囁く。
「あいつらの命はテメェの今後の行い次第だ」
低い声が甘く、けれど残酷な言葉を吹き込む。
「・・・」
「あのチビ、セナ、とか言ったか・・・?」
「!!」
びくりとまもりの肩が震える。
それにヒル魔は楽しげに喉の奥で笑い、不意を突いてまもりの首筋に唇を寄せる。
「やぁ・・・ッ」
ちくりとした痛みにもがくまもりをヒル魔はあっさりと解放する。
「テメェが大事だと想ってるモンを守りたいならせいぜい大人しくしてろ」
ケケケ、という特徴的な笑い声を残し、彼は前回と同じようにあっさりと帰っていった。
消えてしまえばやはり今のは悪夢ではないかと思う程現実味がない。
しかし逃げ道を塞がれて頭を抱えるまもりの首筋には、夢ではないというかのように、悪魔のような男が残した烙印がくっきりと残されていた。

それからヒル魔は時折まもりの元に姿を現すようになった。
よっぽど暇なのですね、と嫌味を口にしても彼はにやにやと笑うばかりで取り合わない。
そうして二言三言言葉を交わしただけですぐに立ち去る。
彼の目的が何か全く判らない。
「・・・あの人、よっぽど暇なのかしらね」
セナが給仕する紅茶に口を付けて思わず呟く。するとセナはくすりと笑った。
「何?」
「す、すみません」
「ねえ、私、今何か変な事を言った?」
慌てて謝るセナにその笑みの意味を重ねて問う。
「ご当主となられるべく働いてらっしゃるヒル魔様は、お忙しい事はあってもお暇な事などございませんよ」
まもりは瞳を瞬かせた。彼はもう全ての事業を掌握して管理しているが、それがそれほど忙しいのだろうか。
「ご当主のお仕事は机で行うほかにも会議があったり会合があったり多岐にわたっております」
紅茶のお代わりを、と言うセナの言葉にカップを無意識に滑らせる。
「その他にもご自分が以前からされていたお仕事があればそちらにも手を割かなければなりませんし」
湯気の立つ紅茶を前に、まもりは呆然と瞬いた。
暇つぶしの一環だと思っていた。
そうでなければガキに興味はないと堂々と言い切ったあの男の意図はどこにあるのだろうか。

「ホー?」
ぴん、と片眉を上げるヒル魔の顔。意外にもというか、当然というか、玄関からふらりと入ってきたヒル魔の姿。
いつ現れるかは不明のこの男を、まもりは玄関脇の待合の間でじっと待っていたのだ。
「どういう風の吹き回しだ?」
「・・・」
まもりは尋ねようとして、やめる。
待っている間もずっと考えていたのだが、尋ねてどうにかなる話でもないのだ。
なぜ寝る間もない程忙しいはずなのにわざわざ私の所に来るんですか、なんて。
ここまで来て発する言葉を失って黙るまもりにヒル魔は瞳を眇める。
いつでも黒ずくめの男は結局黙りこくるまもりの頬をすっと撫でた。
「っ」
「テメェは―――」
そして言葉の続きを彼は飲み込んだ。珍しい。
彼は一度口を開いたら必ず言いたい事をすっぱりと言い終える。
「私は、なんですか?」
「サアネ」
ヒル魔は瞬きをしたら見逃しただろう間に表情をゆるめた。それは錯覚かと目を擦りたくなる程の一瞬だった。
そしていつもと同じように足音も立てず彼は立ち去った。
けれど過ぎるたびに今のは悪い夢ではないかと思っていた接触が、今日は少しばかり違った。
思い返しても悪くない。
うん、悪い出来事じゃ、なかった。

それからは、ヒル魔に対するまもりの態度は徐々に軟化していった。
彼は相変わらず唐突に現れて唐突に去る。けれど以前程得体が知れないとは思わなくなった。
あの一瞬の表情が錯覚といわれればそうかもしれない。
けれど彼は婚約した後にまもりに無体を強いる事がないという事実がそれを後押しした。
意味もなく突っかかる事をやめれば、ヒル魔との会話は意外と楽しかった。
彼はセナや他の誰もが口を揃えて多忙だというが、彼自身は忙しいなどと言わず、まもりが口にする他愛もない会話に律儀に返答したりするのだ。
逆に彼からは時折返答に困ることも尋ねられるが、言葉を選び返せば時折楽しげに笑う。
蛭魔妖一。
得体の知れない男はどれほどに調べても出自はおろか、年も判然としない。
外から聞こえてくる評判は相変わらず悪いものばかりで、中には面と向かってヒル魔を嘲笑う発言をする者もいた。
それでもいいか、とまもりは思えるようになった。
ヒル魔の事を子細に調べられたとしても、結局は人の口から聞いた内容。
実際にまもり自身が話して感じた相手としてのヒル魔がその全てならまもりは間違えようがない。
人は彼を悪魔だという。悪魔のように狡猾で残忍な手口でのし上がる男だと。
けれど一時学んだまもりはもう知っている。
このほんの一握りの貴族が牛耳る世界でのし上がるにも度量が必要で、そしてそれだけの努力も求められるのだと。
口でおもしろ半分に騒ぎ立てる者たちほど彼の努力を知らない。
彼の、指の熱を知らない。唇の柔らかさを知らない。
まもりは窓の外を見る。
もう、季節が一巡りする。

―――――――あの婚約から、一年が過ぎようとしていた。

<続>
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ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。

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