初秋

初秋

（三兄弟）

昼休み、ジャンプ片手に屋上へ向かう。
おう、と黒木に声を掛けるとあー、と返事があった。
まだ夏休みが明けたばかりだけれど、熱は着実に失われてきている。
屋上に寝っ転がって空を見上げる。空は快晴。飛行機雲が一本真っ直ぐに伸びていた。
「もう秋だなー」
「つってもずっとトラック押してたから、まるまる一つ季節がねぇみたいな感じだな」
ジャンプを開きながら、あの非日常的な空気を思い出す。
暑くて乾燥していて、汗は止めどなく流れていく。
アメリカに行ったのに、目の前にあるのはデコトラの派手な塗装ばかり。
周囲の景色が移りゆく様なんて気にも留めちゃいなかった。
悪魔の銃声はあの時ばかりは遠く、夜闇にもちかちかと銃口から光が舞った。
「なあ、俺たち勝てるかなァ」
「勝てるんじゃねぇの」
済んだ秋空の下、俺たちは間近に迫る大会へと思いを馳せる。
「なんだ、お前らここだったか」
昼飯を屋上で食おうと言い出したのはそういえば十文字だった。
「おう十文字ィ、遅かったな」
「マネージャーに今日の練習メニュー預かったんだよ。他の一年に配ってくれっつーんで渡してきた」
そうやって渡されたメニューはびっしり練習項目が書いてある。
今日は昼飯を食ったら午後は授業がない。すぐ部活が始まる。
どうして俺たちこんなにスポーツマンっぽくなっちゃったんだろ、と黒木がぼやく。
それがあんまりつまらなくなさそうで、俺はジャンプを捲りながら笑ってしまう。
「なあ十文字ィ、俺たち勝てると思う？」
「ハァ？　勝つに決まってんだろ」
それがあんまりあっさりしていたので、俺はまた笑う。
「トガぁ、今週のジャンプってそんなに面白ぇの？」
「それがなぁ」
俺はただぺらぺら捲っていたジャンプをぱたんと閉じた。
「アメリカに行ってる間に一ヶ月読めなかったろ。話が全然判らねぇ」
「おお・・・」
「それは不幸だな」
「だが、ジャンプが読めなかったのにあんまり残念じゃねぇんだよ、俺」
「はぁ？」
「はぁああ？」
「アメフトの方が面白いって、そう思っちまった俺が面白ぇ」

空は快晴、絶好のアメフト日和。
ライン三兄弟はわりと軽い足取りで練習へと向かっていった。

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三兄弟セットで書いたのは初めてです。
この三人が試合で勝つたびに一番年相応の喜び方をしてくれて、見てる方も嬉しいです。