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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ヤサシイヒト・3(完結)

(高見×若菜)

+ + + + + + + + + +
「なんで、謝るんだ?」
困惑する高見に、小春は黙って俯く。
はたはたとこぼれ落ちる涙は、散った書類に幾つも染みを作った。
彼のためを思うなら、知らないフリを続けるしかなかったのに。
それが無理だと判っていてもなお、それを続けるべきだった。
あの男の言葉に振り回されて、彼が黙っていた秘密を暴いてしまった。
それに小春は謝ったのだ。
高見の目的が会社だけだったなら、小春にまでこんなにも心を砕かせてしまったことが酷く申し訳なく思えた。
端から見れば完全に悪いのは高見なのに、小春はそういう風にしか言えなかった。
彼のことが好きすぎた。好きになりすぎてしまった。
「もう・・・無理して誘ってくださらなくてもいいです」
「何、言って・・・」
「会社は差し上げます。でも・・・もう会いたくありません」
「!!」
高見が息を呑む音が聞こえる。
自分ばかりがこんなにも想っていて、目的を知ってもなお好きで。
会いたくないというのは嘘だ。けれどもうそう言うしか道はなかった。
小春は声もなくその後はただ涙をこぼす。
「ごめんなさい」
沈黙にいたたまれずに再度謝って、小春は立ちつくす高見の隣を駆け抜けようとする。
狭い部屋だ、出口までさほどでもない。
泣き濡れた顔で飛び出そうとした小春の腕を、高見が掴んだ。
「待って」
「っ、嫌・・・」
初めて触れてきた高見の手は身体に見合ってとても大きい。
そんなことを想ってしまう自分の心がどれほど高見に触れられることに焦がれていたか思い知らされ、小春は一層涙をこぼす。
小柄で軽い小春一人、高見の腕なら容易く捉えられる。
「待つんだ」
低い声に、小春は頭を振る。
もう側にいたくなかった。顔を見たくなかった。
「小春!」
「やめて! 帰ります!」
それは最早悲鳴だった。涙で滲んだ声は、悲痛な音を持って室内に響く。
「駄目だ!」
「もうやめて!」
掴まれた腕は到底取り返せないが、残された片方の手のひらで目を覆った。
「私のことなんて好きじゃないのに・・・優しくしないで下さい!」
ずるずると床にへたり込む。後から後から溢れてくる涙。
「もう嫌・・・」
呻くような小春の声に、高見は腕を解放した。強く掴まれていた腕は少々しびれている。
どうにか力の抜けた身体を起こそうとしゃくり上げながら立ち上がろうとして。
「・・・相手が君じゃなければ良かったんだ」
落とされた言葉に、小春は再び顔を歪める。力を入れかけた膝がかくりと崩れる。
もう二度と立ち直れない気がした。苦しくて呼吸さえ辛い。
「君じゃなければ・・・適当に抱いて、上辺の愛の言葉でも囁いて、いくらでも欺いてやれたのに・・・」
立ちつくす彼の言葉は訥々と綴られ、小春に降る。
「ただ会社を復興したい、そのためだけに、僕は今まで生きてきた」
懺悔するような静かな声。
「半ば意地だった。全てを奪ったヤツから奪い返して一矢報いたい、それだけで生きてきて・・・」
すすり泣く小春に手を伸ばしかけて、高見はその指先を己の手のひらに戻す。
きつく握りしめ、唇を咬む。
「・・・君に会った」
絞り出すような声に、小春は恐る恐る顔を上げた。涙で歪んだ視界に、高く遠く彼の顔。
苦しそうなその顔を見て、己が泣いていたのに思わず尋ねてしまいそうになる。
なんでそんなに苦しそうなのか。私のことなどどうとも思っていないはずなのに。
「会社を復興するために僕は色々やってきた。君の耳に入れたら間違いなく僕を軽蔑するようなことも何度も。君が思うとおり、僕は最初君の会社だけを狙っていたしね」
「高見さん」
ようやく出た囁くような小春の声に、高見は泣き笑いのような顔を浮かべた。
見たことがない程寂しそうな色と共に。
「こんな僕が君に触れるわけないんだ」
「そんな」
小春は思わず手を伸ばしかけて、高見にそれを視線だけで止められた。
「だから君が笑ってくれるたびに、嬉しい反面辛かった。どれだけ好きだと言いたかったか、抱きしめたい、キスをしたい、それ以上にもっともっと求めたいと何度思ったか」
「高見さん」
「でも出来ない。・・・君は知らないだろうけれど、僕は学生の頃、君を見ていた」
「え・・・」
「未来の事なんて何も考えないで、脳天気に部活に打ち込んでいて。時折校舎からこちらを伺ってた、髪の長い女の子がいた」
あの時に高見も自分を見ていた? ではなぜ、それをずっと言わなかったのか。
「君は、僕にとってあの時の幸せの象徴なんだ。再会できて嬉しくて―――・・・だから余計に手出ししてはいけないと自分を諫めたよ」
高見は傍らのベッドに腰を下ろした。疲れたように背を丸め、膝に肘を突いて顔を覆う。
「謝るべきは僕だ。君を幸せに出来ないと判っていて、近づいた」
己の企みがばれて、高見はそれよりも小春に二度と会いたくないと言われたことの方が衝撃だった。
どれほどに小春と会う日々が幸せだったのか、そして己のエゴのためにどれだけ彼女を傷つけたのか思い知ったのだ。
「ごめん」
短い謝罪の言葉を契機に、小春はよろりと立ち上がった。
ふらつく足を視界の端に捉え、高見は長く嘆息する。
痛む胸の内を無理矢理見ないようにして、頭の中で計画を練り直す。
彼女は立ち去り、二度と高見の前には姿を現さないだろう。
そうなれば小春は会社を寄越すと言ったけれど、それでは計画は頓挫すると思っていい。
他の適当な会社を見繕わなければ。
計画の決行日は差し迫っていたし、その巻き添えを食う部下を困らせるのでは意味がない。
だが。傍らに小春が居なくなる、それだけで高見の意欲はしぼんでしまう。
あれほどにこの一件だけに時を掛けてきたのに。
他の相手を今更口説くなんて出来そうにない。どうしようか。
あいつには悪いが、もう少し力を借りようか―――
思いを散々に巡らせながら、高見はいつまで経ってもドアの開く音を聞かないことに気が付いた。
するりと高見の頭に触れる手。弾かれたように顔を上げるが。
「・・・私は高見さんが好きです」
「小春」
その顔を覆ったのは、小春の胸だった。ぎゅう、と頭を抱きしめられ、高見は硬直する。
「・・・駄目だよ、小春。君は―――」
君は僕みたいな男はふさわしくない。
復讐心に燃える僕みたいな浅ましい男には決して。
小春は高見の頭を抱きしめたまま乾き掛けた髪の毛にすり、と頬ずりする。
「やっと触れました・・・」
「っ」
嬉しげな声に、高見は思わずその細い身体を抱きしめてしまう。
「こんなに側にいて、私は高見さんが好きで、高見さんも私を好きでいてくださって。それで高見さんは問題あるんですか。会社も手にはいるし、いいじゃないですか」
開き直りのような言葉に、高見は眉を寄せる。少し身体を離して小春の顔を仰ぎ見る。
いつも見下ろしていたから、こんな風に彼女に上から見つめられるのは初めてだった。
小春は穏やかに笑っていた。
「高見さんが今、どういうことをしていてもいいんです。私もずっと、・・・学生時代から高見さんのことを見ていましたから」
「!」
「嫌われていないならいいんです。触って貰えないなら私から触るんです。でも、嫌だったら言って下さいね」
「汚れるよ」
「どこがですか? 私、汚れましたか?」
小首を傾げる小春は眩しいくらいに綺麗で、高見はゆるく苦笑する。
「いや。・・・僕程度じゃ小春は汚れないのかも知れないね」
「ようやくおわかりですか。私は小さくても丈夫なんです」
「うん。・・・小春」
高見は大きく息をつき、そして真剣な顔つきで名を呼ぶ。
「はい」
「僕はこれからある計画を実行する。そのために僕の周辺は慌ただしくなり、君と会うこともままならなくなる」
「ええ」
「僕の計画は小春のことも巻き込む。最終的にはいい方向に向かうけど、口汚い連中はどこにでもいる」
「ええ」
「その時に小春を不安にしたくない。僕はもう、小春を手放したくないんだ」
「高見さん」
「小春」
引き寄せられる。唇が触れそうな程に近い。それに気づきながらも、小春はじっと高見の言葉を待った。
「今更のようだけれど、小春が好きだ。・・・だから、結婚して下さい」
小春の唇がゆっくりと笑みの形を作る。
それが肯定の返事をしたとき、高見は恭しい仕草でそっと己のそれを重ね合わせた。


しばし互いの体温に酔っていた二人だが、高見はふと己の姿を思い出して慌てて小春と距離を取った。
「高見さん?」
「ご、ごめん」
訝しげな小春の前で高見は慌てて着替えを探す。そういえば風呂上がりでガウン一枚だったのだ。
こんな風に彼が取り乱す様は珍しい。
「あ・・・寒いですか?」
「え、いや、そうじゃないけど・・・」
でも風邪引きそうですね、と言いながら小春は先ほど自分の涙が落ちた書類を拾い上げる。
ぱたぱたと振る舞う小春の耳に大きなため息。
さて自分は何か不興を買うことをしただろうか。小春が視線を向けると、高見は苦い顔をしていた。
「・・・小春、今の君の状況判ってる?」
「はい?」
小首を傾げる小春に高見は幽かに朱の走った顔でそっぽを向いた。
「早く帰った方がいい。・・・このままじゃ押さえきれない」
「なにがですか?」
それを言わせるのか、という高見に小春は瞬きするばかり。
天然なのか判ってないのか、高見はただ唸る。
言葉を探し、結局うまく言えず、そっけなく言った。
「触りたくなる」
「? どうぞ」
あっさりと返されて高見は困ったように声を上げるが。
「だからっ!」
軽い足音があっという間に高見の傍らに寄り、するりと抱きつく。
小春の行動に高見は本気で困惑する。
「触って下さい。いくらでも」
「そういうのは、意味がわかってから言って欲しいな」
ため息混じりの高見を、心外そうに小春は見上げた。
「じゃあ抱いて欲しいって言えばいいですか?」
「―――――ッ!?」
拗ねたような小春の声に、高見は今度こそ硬直した。
いやまさか、早いだろうそれは、とか。さっきキスだってやっとしたばかりなのに、とか。
ぐるぐると高見の頭の中で己を諫める言葉が回っている。
「私だってもうそれなりの年ですから。何をするかどういう意味かはわかります」
言いながら恥ずかしくなったのか、小春は一層頬を染めた。
「それにこういうのは、お互いの同意があればいいんでしょう?」
生憎と経験がないので判らないんですけど、とはにかむ小春に、高見は白旗を揚げた。
―――すなわち、本能のままに彼女をベッドに押し倒した。



ところで、と高見は隣で気怠げにしている小春の髪を梳きながら話しかける。
「どうやってここまで来たの?」
「連れてきて貰ったんです。あの、金髪を逆立てた男の人で、耳にピアスの・・・」
「ええっ?!」
説明し終わるまでもなく、高見は飛び上がる。
ベッドを抜け慌てて携帯を取り出し、どこぞへ掛ける。
「ヒル魔!! お前何考えてるんだ!?」
ひるま? 聞き慣れない名前に小春は小首を傾げる。
普段からは想像も付かない程の取り乱しように、小春は不味いことを言ったかと思ったがもう遅い。
散々言い合ったようだが、途中で高見は何度か言葉を詰まらせる。
「・・・もういい! 詳しくはまた連絡するッ!!」
勢いよく通話を切って、高見は携帯の電源まで落としてしまう。
珍しく荒っぽい高見の様子に小春は戸惑いつつ彼に声を掛けた。
「あの・・・その、ヒル魔さんに連れてきて貰ったのは・・・不味かったですか?」
「いや、違うんだ。そうだよな、いくら小春が若菜財閥だって言ったって、俺がどこにいるかは小春だけじゃ調べられないしカードキーも入手できないよな・・・」
一人ぶつぶつ言う高見に、小春は困惑するばかり。
「アイツは今回の計画の協力者なんだが、人の弱みを握るのが趣味みたいなところがあってね」
質が悪い、という高見の声が苦り切りながらも親しげで、接点が見いだせない外見の男との関係を尋ねてみる。
「ヒル魔さんとはどこでお知り合いになったんですか? 親しげでしたけど」
「え? なんで知ってるの?」
「以前道で話しているところを遠目に見たんです」
そっか、と高見は苦笑する。
「僕がアメフト部だったのは知ってるね?」
「ええ」
「その時泥門高校で彼と対戦したことがあるんだ。彼もアメフト部でね」
「へえ・・・」
見た目に恐ろしく威圧感のあった黒ずくめの男。
アメフトをやっていたのなら意外と真面目なのかも知れない。それになんだかんだと世話を焼いて二人をくっつけてくれたのだ。意図はどうあれ、彼は意外に優しい人なのだろう。口の悪さは頂けなかったが。
「高見さん、ヒル魔さんにお会いすることがあったらお伝えしたいことがあるんです」
「僕と小春の仲を取り持ってもらったと思ってるなら、感謝する相手は違うよ」
高見の剣呑な声に、小春は苦笑する。
「いいえ。お優しいのにその外見では余計に周囲を威圧なさるんじゃないでしょうか、伊達メガネでもお掛けになったらどうですかってお伝えしたいんです」
小春の言葉に、高見はしばし沈黙し。

その後彼は笑いすぎて噎せ、小春にその言葉は僕が確実に伝えるから、と苦しい息の下で誓ったのだった。



<了>


***
カワイイヒトを書き上げてしばらくしていきなりこの話が書きたくなり、徹夜で書いた代物です。
あの急に書きたくなる瞬間と筆がかみ合うタイミングが絶妙だったりすると字書きでよかったなあ、と思います。
ヒル魔に伊達眼鏡を進めたのは若菜ちゃんだったのでした。
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うれしいです!
ありがとうございます!とても読みたかったお話ですから嬉しすぎて
舞い上がっています。
小春ちゃんが可愛くて強くてかっこいいですね。高見さんのへたれ具合も
いいですね。
鳥さんの小説は拝見すると腰が砕けてしまいます。これからも楽しみにしています。
ぽん 2008/09/17(Wed)03:56 編集
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ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。

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