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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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使い魔

(ピット視点)


+ + + + + + + + + +
この寒いのに人間は不思議な生き物だ。
なんで夜の外でご飯食べるんだろう。
ぼくはおとうさんの腕から抜け出して、するりと甲板を歩き出した。
遠くに行っちゃだめよ、というおかあさんの声がしたけれど、遠くになんて行けるわけがない。
だってぼくがいるここは、海の上に浮かぶ船なんだから。
初めて嗅ぐ汐の匂い。
電話が鳴っておとうさんとおかあさんはバタバタと出掛ける準備をして。
そしてなぜだかぼくまでここに来たのだ。
テレビでしか見た事のない船にぼくがいることが不思議だったけど、一番の不思議はこのひとだ。
大騒ぎする人たちから少し離れて立っていた。
たくさんの人の足下をくぐり抜け、ぼくは彼の前に座る。
「にゃあ」
「・・・ア?」
見上げるぼくを見下ろす男は、セナと同じ匂いがする。
かつてセナがずっと纏っていた『ぱしり』とか『いじめ』とかいう湿っぽい匂いじゃない。
強烈な『あめふと』っていうお日様の匂い。
腕が折れているとかで片腕が見えないけれど、彼はしゃがみ込み、もう片方の腕をぼくに差し出した。
うん、やっぱりお日様の匂いがする。あったかい。
ぼくは彼の腕にすっぽりと収まって喉を鳴らす。
彼は静かに立ち上がった。
「テメェは糞チビのとこの猫だな」
「にゃー」
「飼い主のとこに行かなくていいのか?」
ひっそりと静かな声に、ぼくはちらりとセナの方を見る。
騒ぎに騒いで、もみくちゃにされて笑ってるセナ。
その姿は楽しそうだった。ぼくと遊ぶときとも違う、晴れやかな顔。
この腕の持ち主も、きっと人間には判らないだろうけど、すごく楽しそうだった。
それなら人の輪に入ればいいのに、じっと全体を見てぼくなんかと喋ってる。
なんだろう、誰か待ってるのかな。
そう思っていたら、驚いたような人の気配がすぐ後ろに。
「え、ピット?! なんでヒル魔くんがピット抱いてるの!?」
ああ、まもりだ。ぼくがまだ小さい頃、よく遊んでくれた女の子。
最近は忙しいのか家には来ないけれど、今でもぼくが門扉の側でひなたぼっこしていると頭を撫でてくれる。
そのまもりからもお日様の匂いがする。そうか、彼と同じ所にいるんだね。
「コイツから近寄って来たんだよ」
でも腕怪我してるのに抱っこしなくても、とか色々言いながらまもりはぼくを受け取った。
「にゃー」
「『糞甘臭ェ匂いで気分が悪ィ!』だとよ」
「そんなこと言ってないわよ! ねえ、ピット」
柔らかい両手で抱きしめられて、ぼくはふん、と鼻を鳴らした。確かにまもりからは甘い匂いがする。
きっと大好きな『しゅーくりーむ』を沢山食べたんだろう。
敏感なぼくの鼻には少々きつい。
「ほら見ろ」
「えー!?」
不満そうなまもりの前で、彼はふふん、と得意げに笑った。
「んもう、ピット! なんでヒル魔くんの味方なの?」
そんなことないんだけど、と言いたいけれど勿論言葉が通じるわけはなくて。
「猫は悪魔の眷属だからナァ」
「やだ、ピットはセナの飼い猫なんだから悪魔じゃないわよ」
「糞チビもデビルバッツだ。もう奴だって悪魔だろ」
にやにやと笑われて、まもりはむーっと眉を寄せた。
「オイオイ、祝いの席だぜ? んな顔すんな」
「誰がさせてるのよ・・・きゃ?!」
もう、とむくれるまもりが不意にバランスを崩した。ぼくはその腕からひょいと危なげなく甲板に降りる。
でもバランスを崩させたのは目の前の男だ。
そして僕が顔を上げたときには、まもりが口を押さえ、真っ赤な顔をして彼を見ていた。
「こ、こんなところで・・・!」
「こんな時に眉間に皺寄せるテメェが悪い」
「みんないるのよ!?」
「祭り騒ぎで見てやしねぇよ」
ケケケ、と笑う彼に食ってかかるまもりは怒りながらも楽しそうで。
ぼくは二人から離れ、ようやく人の輪から解放されたセナの元に行く。
「にゃー」
「ピット。どうしたの?」
抱き上げる腕は、少し前から比べたら随分逞しくなった。
その腕の中から見えた金色の彼と茶色のまもりは、夜でも一際目立っていて、とても綺麗だった。


***
実はずっとピットを書いてみたかったのです。やっと書けました! セナやまもりだけなら接点あるでしょうが、ヒル魔さんとピットは全然接点ないやねぇ、と考えていた訳です。ケルベロス視点は結構拝見する機会があったので、意外性を狙った・・・つもりです(笑)猫をかわいがるというか、ヒル魔さんは動物全般好きそう。
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