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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ハニーレモン

(ヒルまも一家)
※のりちこ様から頂いたイラストから発想を得ました。
※ムサシとアヤの話です。



+ + + + + + + + + +
ムサシは手渡された弁当に困惑した。
目の前にいるのはかつて自分が通った高校の制服を纏った笑顔の金髪美少女。
その正体は、悪友で親友で戦友という、二重にも三重にも縁ができすぎて腐れもしない悪魔の娘、であるアヤだ。その耳が尖っているのさえ表に出さなければ、悪魔との血のつながりはあまり感じられないのだけれど。
「だが・・・」
「お母さんがこないだのお礼に、と」
早朝の現場に顔を出したら、彼女がこちらに来ていたのだ。
冷やかす同僚達を無視しながら話を聞けばこの弁当を手渡しに来たらしい。
先日倒れかけたまもりを見つけて自宅まで送ったことに対することらしいが、そこまでして貰わなくても、とムサシは断ろうとするが。
「ちゃんと保冷剤も入ってますし、お昼まで保ちますよ」
「そういうことじゃ・・・」
大体、アヤみたいな美少女がこんなむさい連中が揃う現場にひょこりと顔を出してはまずいだろう、と思う。
アヤが、実際は合気道を習っていた上にアメフトなんて荒っぽい競技で男顔負けで戦うのを知ってはいても、こうやって平素顔を合わせるとそれは可憐な美少女なのだから。
「とにかく召し上がって下さいね。お弁当箱は後で取りに伺います」
「!? おいっ」
引き留めようとしたが、アヤはさっとその場を立ち去ってしまう。
父娘共々気配を殺すのが異様に上手く、更に足音もないときては一瞬目を離したらすぐ見失うのだ。
ムサシはがりがりと頭を掻き、仕方なくそれを持って現場の男達の中に戻る。
・・・盛大な冷やかしと詰問に顔を顰めながら。

昼休み、待ちかねたように見守る連中の前でムサシはしぶしぶ弁当箱の蓋を開けた。
「うっわ!」
「すげー! なにこの弁当、超スゴイッすね!!」
若い連中が歓声を上げる。中に入っていたのは定番の黄色い卵焼き、肉で巻いた高菜のおにぎりと普通のおにぎり、しらすとほうれん草のおひたし、鶏肉と長ネギのお酢煮。
更に別のタッパーには見慣れた物が入っていて、ムサシは思わず口角を上げた。
「それ、ハチミツレモンっすか?」
「懐かし~、よく部活で喰ったよなあ」
「ゲンさんも喰ったんですか?」
「ああ、そうだな」
ムサシは卵焼きに箸を付け、口に放り込む。ふんわりと柔らかく出汁の利いたそれは文句なく美味い。
男連中の羨ましそうな視線と時折伸ばされる箸を避けながら食事を終え、タッパーに入っていたハチミツレモンも一枚口に放り込んだとき。
違和感に彼は眉を幽かに寄せた。

「ゲンさん!!」
若い衆が呼ぶのに視線を向ければ、現場側に佇む金髪。
仕事の邪魔をせず終わるまで待つ姿に、気を利かせた連中が椅子を勧めたらしい。
そこに遠慮がちに座るアヤに、男達がわらわらと群がっている。
「おいお前ら、勝手に持ち場離れるんじゃない」
しっしっ、と追い払うと連中はちらちらとアヤとムサシを交互に眺めながら持ち場に戻った。
どういう関係か計りかねているのだろう。
「弁当箱だな、ちょっと待ってろ」
「はい」
にっこりと笑うアヤ。それを向けられたムサシの背後でがちゃんと音がした。
アヤを盗み見ていた誰か用具を落としたのだろう。
それにムサシはむっと眉を寄せる。
すっかりからになった弁当箱を受け取ったアヤは嬉しそうに笑った。
「母も喜びます」
「ん? それを作ったのはアヤだろう」
「っ!」
アヤはびっくりして目を見開いた。
「ハチミツレモン、姉崎が作ったのと味が違うんでな、気づいた」
ムサシは頭をがりがりと掻きながら弁当箱を見る。
「今、テスト期間中だろう。そんな無理するな」
そうでなければアメフト部の練習が休みにはならないし、こんな早くに帰って来られないだろう。
「ご迷惑でしたか・・・?」
躊躇いがちに言葉を紡ぐアヤにムサシは口を開く。
「ああ」
「・・・っ」
それに目に見えてアヤは落ち込んだ。しゅん、と俯く様は到底あの悪魔と繋がらない。
「この現場は見ての通り若い連中が多い」
「?」
不思議そうにムサシを見上げるアヤに、ムサシは眉を寄せる。
「アヤみたいな女がちょろちょろすると注意力散漫になるんだ」
ほら、と指し示す先には先ほど派手な音を立てて用具を落としたらしい男が壊した箇所を気まずそうに検分している。
「お前は可愛いんだから、あまり俺みたいな年寄りのところに来るんじゃない」
そう言われて、アヤはかあああっと音がしそうな勢いで頬を染めた。
それが幼い頃からの彼女を知っているムサシの目にもひどく魅力的な女に見えて。
「・・・そういう顔をするんじゃない」
「だ、だって・・・」
珍しくたじろぐ様子にムサシは笑ってその頭を撫でてやる。
「弁当は旨かった」
それにアヤは本当に嬉しそうに笑った。
「また作ります」
ムサシは苦笑する。
「俺の言った事、判ってるか?」
「ええ。現場にお弁当を持ってきてはいけないんですよね」
そうだ、と頷くムサシにアヤは続ける。
「だからお家でご飯作って待ってます」
「・・・は?」
「テストの事なら大丈夫です。ちゃんと毎日勉強してますから」
にこにこと笑う彼女は、そういえばあの天使の血も引いていたのだと思い出す。
天然で頑固な彼女の発言に何度振り回された事だろうか。それさえも懐かしい。
あの二人の間の子なら勉強なんてやっきになってやらなくて大丈夫なのだろうが。
・・・いやでも、それは家で食事を作って待たれる理由にはならないのだけれど。
口を開く前にアヤは極上の笑みを浮かべ、その場を颯爽と去った
「楽しみにしてて下さいね」
それを為す術なくただ見送るしかなかったムサシはとりあえず持ち場に戻る。
待ちかねたように同僚が彼を取り囲んだ。
「すごいっすね、ゲンさん。あの子通い妻宣言っすか?」
「そんなんじゃない」
「えー、だってゲンさんにゾッコンって感じじゃないっすか、あの子!」
「家で待ってるって! ご飯作って待っててくれるなんて!」
「顔もカワイイしスタイルも良いし料理の腕もいいんでしょ? 最ッ高、羨まし~!!」
いいなあ若い妻~! なんて騒ぐ連中に対してムサシはむっつりと黙り込む。

これがあの悪魔の耳に入れば、どういった手段で狙撃してくるかわかったもんじゃない。
防弾チョッキはどこで買えるのだろう、用意した方がいいだろうか、とムサシは真剣に思案した。


***
のりちこ様から頂いたムサシとアヤのイラスト(サイトに掲載させていただいてます)を元に作成しました。
頂いていた際に伺った話とは違うのですが、アヤは手段を選ばないので・・・(笑)。
この二人(というかヒルまも子供達)の話は更に未来も色々考えてはいるのですが、そうなるともうそりゃヒルまもですらないだろう! と自粛してます。ああでも楽しかった・・・! のりちこ様、ありがとうございました♪
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