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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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シークレット・イン・ブラック

(まもママ視点)

+ + + + + + + + + +
私が買い物を終え、玄関に入ると。
夫がさほど大きくもない真っ黒な箱の前で腕組みをし、真剣に考え込んでいた。
「ただいま」
「ん? ああ、おかえり」
声を掛けてやっと気が付いたのか、夫は私の顔を見て、それからまた箱に視線を向ける。
「それ、どうしたの?」
「帰ってきたら置いてあったんだ」
表書きもなにもない、妖しさ満載の黒い箱。
けれどこんなことをする人は、一人しか思い当たらない。
「そんなの、妖一くんに決まってるじゃない」
「だから何が入ってるか判ったもんじゃないだろう!」
やっぱり判っているのね、と視線を向けたら憮然としてこちらを見返してきた。
どうにも彼の事が気にくわない夫には悪いけれど、妖一くんが私たちに何か悪い事をするとは思えない。
「開けてみたら?」
「できたらそうしてる!」
で、そうやって一人で腕組みして考え込んでいた訳ね、と私はため息をついて先に買ってきた物を冷蔵庫にしまいに行く。
戻ってきても夫は相変わらず。
私はそんな彼の前を通り過ぎてその黒い箱を持ち上げた。
そんなに重くもない。
「おい?! 爆発物かもしれないんだぞ?!」
「妖一くんはそんなことしないわよ」
「どうだか判らないじゃないか!」
「だから開けてみないとわからないでしょ? 大丈夫よ、私が開けるから」
このまま夫に任せていたらいつまで経っても中身を拝めそうにない。
もし生ものだったら悲しいことになる、と私は箱に手を掛けたが。
「待て待て! ・・・ああもう、だったら私が開ける!」
慌てて飛んできた夫は結局その箱を自分で開ける事に決めたようだ。
こういう時、家長としての立場を示したいあたりが可愛いのよね、と内心ほくそ笑む。
夫はびくびくしながら箱に手を掛けた。
ご丁寧に黒のテープで梱包されたそれをカッターで切り開き、そっと蓋を開けると。
「・・・なんだ?」
中には緩衝材に包まれた四角いもの。そしてそれを持ち上げると、下に封筒があった。
「見せてちょうだい」
「・・・中身がなんだか判らないから、君はこっちを見てくれ」
渡されたのは封筒の方。四角いものはまた丁寧にテープで包まれているので開けづらそうだ。
私は夫の言葉に従って封筒を開いた。
するりとこぼれ落ちたのは。
「・・・まあ!」
「なっ、なんだ?! 毒蜘蛛でも出てきたか?!」
「あなた、それは何か悪いテレビの見過ぎよ」
夫の発言に茶々を入れながら、私は出てきたネックレスに目を瞬かせた。
まもりと私の瞳と同じような鮮やかな青い石は、安物ではないだろう。
その他に何も入っていないけれど、これは妖一くんが私にくれたものだ、と確信した。
まもりなら一言添えるだろうし、なによりこんなそっけない梱包はしないだろう。
夫の方の四角いものを取り出すと、それはどうやら箱のようだ。
そして妖一くんの特徴的な字でたった一言『解けるかナァ?』と書かれている。
小首を傾げる私に、夫はむっと口をへの字にした。
あら。
それは不機嫌そうに見えて、実は興味を引かれた顔。
「ねえ、それは何?」
「寄せ木細工の箱だよ。秘密箱とも呼ぶね」
見せて貰ってもどこをどうやって開けるのかさっぱり判らない。
夫が箱の模様の上に指を滑らせる。すっとそれがスライドした。
「こんな風にスライドをさせたり、押したりする箇所があるんだ。それを繰り返すと開く仕組みさ」
「へえ・・・」
夫はもうその箱を開けるべく真剣に見つめている。
ああでもないこうでもない、と呟きながら箱をいじくり回している。
「まったく、大人をからかって・・・」
ブツブツ言いながらも楽しそうだ。私は紅茶を淹れて傍らに差し入れ、ネックレスを持って鏡の前に行く。
合わせてみると、年甲斐もなく気分が高揚した。
私は鼻歌交じりで二階に上がると、そこにある子機を手に取る。
登録されている番号を呼び出せば、ワンコール目で電話は繋がった。
『はい』
「こんにちは。今、電話してて大丈夫かしら」
『大丈夫ですよ』
夫の前では使わない丁寧な口調で妖一くんが応える。
電話だけで話せば彼の姿とかみ合わない人の方がきっと多いだろう。
「プレゼント受け取ったわ。ありがとう、とっても気に入ったわ」
『それはよかったです』
「夫も嬉しそうだったわ」
ああいったパズルを好む夫の趣味をちゃんと把握している妖一くんに笑みがこぼれる。
『ぜひ自力で箱を開けて欲しいですね。もしのこぎりで切って開けたら笑いますよ』
「大丈夫よ、まもりに似て負けず嫌いだから」
『そうですね』
二人して夫のことでくすくすと笑い、それから私は思い出して尋ねた。
「家の鍵はどうやって開けたの?」
『妻に借りました』
「あら、てっきりピッキングかと思ったのに」
『妻の実家ではやりませんよ』
笑いを含んだ声に、私の口角も上がる。
彼は妻の、と付けた。どうやら自分の実家では多々使う手口らしい。
それも彼らしいと笑ってしまえる。
「まもりたちは元気?」
『はい。近いうちにまた家族でそちらに帰ります』
「電話だけでいいわよ。子供がいるから移動も大変でしょう?」
『ではDVDで近況を撮って送ります』
「そうね、その方がいいわ」
まもりの機械音痴は私たち両親の影響も強い。
夫は仕事上の機器は覚えたし使えるけれど、パソコンの類は一切駄目なのだ。
私も勉強したらいいのだろうけれど、なにかもう、センスの問題というか何というか・・・性に合わない。
DVDの操作くらいならなんとか大丈夫。そう応じていると、階下から夫の呼ぶ声。
さあ箱を開けたのか、それとも何か別の仕掛けが出てきて苦戦しているのか。
何にしてももう戻ろう。
「夫が呼んでいるわ。もう切るわね」
『はい。それではまた』
子機を下ろし、私は階段を下りていく。


しばしの奮闘の後、夫がのこぎりを使わずに開いた箱から出てきたのは、一枚の地図と指示が書かれたメモ。
私たちは顔を見合わせ、とりあえずメモに書かれていた電話番号へ掛けてみる事にした。


そして翌日。
私たちは普段行き慣れない場所に二人で招かれていた。
それは妖一くんが手を回したらしい高級レストランでの食事。
場所にふさわしい装いを、と身繕いした私の胸元には昨日貰ったペンダントが光っている。
「姉崎様ですね。お待ちしておりました。本日は真珠婚式だそうですね。おめでとうございます」
出迎えてくれた店員がにこやかに告げた言葉に、私たちは顔を見合わせる。
そういえば、今年は結婚してから30年目だった。しかも結婚記念日だったっけ。
最近は子供もいないせいか年月を指折り数えるようなことをしていなかったから、二人共失念していた。
「・・・ありがたいわね」
妖一くんの粋な計らいに私は顔をほころばせ、夫は不機嫌そうに眉を寄せつつも、まんざらでもないような顔で私の腕を取った。


***
義理の両親に優しいヒル魔さん。
やっぱりまもパパは愛すべきからかいの対象であって欲しいし、まもママとは仲が良いのがいいなあ、と。
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