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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ヤサシイヒト・1

(高見×若菜)
※長編連載『カワイイヒト』のスピンオフです。

+ + + + + + + + + +
初めて父に連れられ、紹介されたあの人は、学生時代と変わらない、穏やかな笑顔を浮かべていた。
「高見くん、これが小春だ」
「初めまして、小春です」
ぺこりと頭を下げる。本当は高校生の時、その姿を遠目に見ていたことがある相手は、私のことなど知らないだろう、そう思って。
「初めまして、高見伊知郎です」
やはり私のことなど知らないようで、彼は笑みを深くして頭を下げる。
だが、背の高さの割に頭が低い位置にあるように見える。見れば膝を折って頭を下げているのだ。
いくつか世間話をして、彼は去っていった。
「―――ああやって、背の高い人は膝を折って挨拶するんだ」
父はさほど体格のいい方ではない。高見とは頭二つは違うのではないだろうか。
上に立つ人に体格はさほど必要ではないが、上に立つ人程ああやって誰よりも小さく見せるから、偉い人程小柄な印象がつきまとうのだと。
「そうやって、誰にでも誰よりも頭を下げることができる男は、上に立つにふさわしい」
小春の身長では彼の頭の天辺など未知の領域だ。けれど彼は惜しげもなくそれを彼女の目にさらした。
「だから私は彼を買ってるんだよ」
父の言葉に、小春は頷く。
彼は終始穏やかで、父譲りの小さな身体の小春にも威圧感を与えることがなかった。
かつてグラウンドで見た彼は遠くて、小春とは縁がないスポーツに打ち込んでいた。
学年も離れ、中学高校とエスカレーター式の学校でなければその姿を見ることも叶わなかっただろう。
小春は大人しく引っ込み思案だった学生時代を振り返る。
あの頃は廊下ですれ違うことさえなかった、あまりに遠い彼。
今はこんなにも近い。
そして。
「小春と彼が結婚してくれたら、嬉しいねえ」
父の言葉に小春は頬を染める。
それが現実として叶う日が来るかも知れない、そんな夢みたいなことが現実に起こりうるかも知れない。
小春は、名前の通り冬の陽光のようなあたたかい笑みを浮かべた。


高見とは、それから時折顔を合わせた。もちろん父の差し金もあったが、小春もそれを望んでいた。
彼はとある企業の部長をやっているらしい。
お若いのに、と驚くと彼はいやいやと笑って眼鏡のフレームに触れる。
彼の癖なのだろう。眼鏡越しの彼の瞳は穏やかで、直接見られないのが少し残念だった。
今日は人気の少ない公園に来ていた。正直、人混みが苦手な小春にはありがたい場所だ。
「髪・・・」
「えっ?」
「綺麗ですね」
「あっ・・・ありがとうございます」
小春の長い黒髪は、一度も染められたことがない。
彼女が日舞を嗜んでいるせいもあるが、髪質が見た目より強く、流行のふわふわした髪型は夢のまた夢。
実際学生時代には貞子とからかわれたこともあるあまりいい思い出がない髪だが、高見が褒めてくれたのなら何より嬉しい。
「少し歩きましょうか」
「はい」
高見のコンパスに、小春は当然だが全く追いつかない。
彼はそれでも極力ゆっくり歩いてくれた。小春はちょこちょことその隣を歩く。
その様子を微笑ましく見ている彼に、小春はばつの悪い思いをする。
「・・・すみません、歩くの遅くて」
「いえ? 別に気になりませんよ」
上から降る柔らかい声音に、小春はちらりと彼を見上げる。
「僕はどうやら歩くのがそう早くないらしくて。友人にはいつも呆れられます」
「そうなんですか?」
「ええ。走るのも遅くて。背が高いとスポーツ万能、って思われるらしいですが、そこはちょっと」
苦笑して頬を掻く彼に、小春は喉元まで出た言葉をようよう飲み込む。
彼が学生時代嗜んでいたスポーツはアメフトだったはず。
彼もフィールドに出ていたからにはそれなりに運動能力がなければ無理だろうと知っている。
しかし彼の学生時代を知っている、とは小春は言えなかった。
出身校は互いに同じであると知っていたが、彼が部活動のことについては全く触れなかったからだ。
一応調べてみて、彼が最終的には関東大会の決勝近くまで残ったことを知った。
けれど言わないのなら、言いたくないのかもしれない。
「・・・私は逆に小柄だから、運動については全然できないだろう、って思われます」
「そうですか? 日舞をなさってるんでしょう?」
「ええ。だから体力はあるんですけど、確かに鈍いところがあって」
だから間違いではないんです、と言うと高見はそうは見えませんね、とフォローしてくれる。
こんな風に隣で歩けるとは思わなかった。
小春はこみ上げる喜びのまま、純粋に笑い、高見を見上げる。
高見も笑っていた。―――ただ、眼鏡越しの眸は光の加減でよく見えなかったのだけれど。


小春の祖父は日本でも有数のグループ企業の会長を務めている。
父はその嫡男ではあったが、血筋に甘えることなく一から社員として今の位置まで上り詰めた。
そんな家に生まれた小春は血筋こそ立派と言われるが、父同様平社員として働いているのでまだ会社の経営等に携わることはない。女であるため、いずれどこの誰に嫁ぐとも知れない身、花嫁修業のみは煩く言われたが、働くことに関して家族は皆当たり前のように受け入れた。
とある休日、久しぶりに学生時代からの友人と遊びに来て、カフェで一息入れているときに彼女は思い出したように小春に聞いた。
「実際、小春は働かなくても食べていけるんでしょ? なんでわざわざ社員なの」
「働かないとお仕事の大変さが判らないから」
「真面目ねぇ」
「家の方針なの」
小春は働かざる者食うべからず、という家訓があるのだと正直に言った。
会社でも余計なえこひいきが行われないよう、わざわざ別の名字を名乗って働いている。
そういう点、祖父も父も容赦はない。
本当は名義的には一つ会社を持っている小春だが、それは誰にも言ったことがない。
社員ですら本当の社長の姿は知らないだろう。実際に経営してるのは父だ。
「そういえば今、付き合ってる人いるんだって?」
「え?」
きょとんとこちらを見る小春に、友人はにやりと笑ってみせる。
「何しらばっくれてるのよ? もう見るからに幸せです、オーラ出てるじゃない!」
「え・・・ええ?!」
そんなに判りやすいだろうか。小春はぱあっとその面に朱を散らす。
「だって洋服見るのも、今までは実用第一って感じだったじゃない。なのにワンピとかスカートとかよく見てるし? メイクも違うし」
元々幼い顔立ちの小春にとって化粧は社会的に失礼にならない程度に施すものだったが、それさえも変化してると友人は指摘した。先ほど買ったのは、パールの混じった綺麗なピンク色の口紅だった。
色白な小春には殊の外よく似合う色だが、今までの彼女ではまず手に取らなかっただろう。
「そ、そんなことないわよ」
「焦っちゃって~。いいじゃない! で、どこの誰? 家柄とか、小春の家と釣り合うところなんでしょ?」
「・・・さあ」
「さあって! あ、もしかして敏腕社員とか! 逆玉とか!」
友人に言われ、小春は目を瞬かせた。父が知っているのならそれなりの人物のはずだ。
騒ぐ友人に曖昧に返事をして、小春は思い返す。
彼は確かに某企業の部長だとは聞いていたが、その具体的な企業名は聞いてない。
彼は仕事のことを小春の前では一切口にしなかった。
プライベートで会っているから当たり前、かもしれない。
不意に思い当たった事実に、小春は戸惑う。
高見は同じ学校に通っていた。あそこは私立高校だから、それなりに学費もかかる。
良家の子女が通うそこにいたのなら家柄は間違いない。
友人からの質問攻めに答えあぐね、小春は窓の外に視線を逃がす。
そこに高見がいた。
背の高さからして間違いない。思わず友人をほっぽり出してそちらに行きたい衝動に駆られたが。
彼は見知らぬ誰かと話をしていた。
あれ、人なのかしら。
そう思わせる程特徴的な耳が遠目からでもよく判る。金髪は逆立っているし、黒ずくめ。
派手な格好をしているわけでもないのに、思わず目が行く。
こちらからその顔はよく見えないが、高見の方は表情まで見て取れる。
そこにいた彼は、小春の知らない彼だった。
いつも会うときにはスーツかカジュアルにしても襟のあるシャツを着ていた彼が、スウェットのようなものを着ていた。よく見ればいつも後ろになでつけられている髪も降りている。
「誰か知り合いでもいるの?」
「え? ・・・ううん、なんかすごい髪型の人がいて」
「ふーん・・・ホントだ。うわ、どうやって立ててんのアレ」
隣の男がまさか小春の意中の相手だと思わないらしく、友人の興味はその前の金髪男に移ったようだ。
高見は金髪男の前でふいに笑った。
それは小春の目にしたことがない、ひどく皮肉げな、・・・昏い笑みだった。


「高見くんとは最近会ってるのかい?」
「え、・・・ええ。こないだ一緒に水族館に行ったわ」
「そうか」
久しぶりに家族揃っての夕飯時、父に声を掛けられてぼんやりしていた小春は慌てて取り繕うように答えた。
父はそんな小春に頓着せず、にこにこと手酌でビールを注いでいる。
「あんまり飲み過ぎちゃだめよ」
母の諫める声に、彼は軽く肩をすくめる。
「いいじゃないか。やっぱり家でこうやって飲むのが一番美味しいんだよ」
「わかるけどね」
父はパーティーや飲み会にしょっちゅう呼ばれている。
酒自体は強くも弱くもないが、やはり気兼ねせずに飲むには難しい立場なのだろう。
社会人としてごく普通の飲み会に参加すると楽しげだったり気遣わしげな上司を目の当たりにするが、役職が上であればある程気の置けない仲間と、というのは難しいのかもしれないな、と思う。
「いずれは高見くんとサシで飲みたいもんだ」
「あなたってば、気が早いわよ」
笑いさざめく二人に、小春も微笑む。けれどあの時の高見の顔が頭から離れない。
あんな顔をして笑う人だっただろうか。
いつも穏やかに優しいばかりの人だと思っていたけれど、違うのだろうか。
不意に友人との会話を思い出して、小春は父に尋ねる。
「そういえば高見さんとはどこで知り合ったの?」
「うん? じいさんの古い知り合い筋だそうでね。その前から何度か仕事で顔を合わせていて、これは見所のある若者だと思っていたんだよ」
「へえ・・・」
「あの年であの企業で部長だ。さぞかし功績を挙げたんだろう、そう尋ねると彼は苦笑して親の七光りです、なんて言ってたがね」
「親?」
「昔はどこかの社長子息だったようだよ。会社は潰れてしまったようだが、才能を見いだされた、ってところかな」
実際にそこまで詳しい話をしたわけではないようだ。彼の背景については推定の域を出ないらしい。
「ふうん」
「そういう話はしないのかい?」
「うん・・・普段お仕事が大変でご自分から言わないことなら、聞かない方がいいかなって思って」
小春の言葉に、両親はにこりと笑う。
「高見くんも色々大変だろうから、小春が出来る限り聞いてあげるといい。仕事のこと、結構男は言いたいもんだよ」
「え? お父さんも?」
「聞き役は専ら私だけどね」
母が食後のお茶を小春に差し出し、笑う。
「小春には聞かせられないなあ。お父さんの権威を失ってしまう」
おどける父の言葉に小春は思わず吹き出す。
そうか、話を聞いてあげられたら高見ともっと近しくなれるかも知れない。
そうしたら、あんな昏い顔で笑わなくてもいいかもしれない。
小さな自分では大きな高見を支える事なんて難しいだろうけど、やってみよう。
よし、と小さく気合いを入れた小春を、両親は微笑ましく見守っていた。


けれど。
高見は予想以上に手強かった。
「仕事のこと? ・・・いやあ、僕の仕事なんて大したことないですよ」
「え? そんなことないでしょう?」
「お恥ずかしい話、僕は窓際族みたいなもんでね。会社にとっては給料泥棒もいいところですよ」
「そんな・・・」
謙遜を通り越し自分を卑下するような言葉に、小春は眉を寄せる。高見はさらりと話題を変えた。
「ところで今日はちょっと遠出しましょうか。天気がいいから、見せたい物があるんです」
「え?」
レンタカーですけど、と案内された先にあった車に乗り込む。
「私も運転できますから、疲れたら仰ってくださいね!」
「へえ、それは頼もしい」
あはは、と笑う彼からはあの昏い笑みは伺えない。
あれは自分の見間違いだったのだろうか。彼に問いただしてみたいけれど、それは時期尚早な気がした。
恋人、と言うにはあまりに清らかな付き合いだからこそそう思うのかも知れない。
気が付けば彼はあまりに小春に触れない。肉体関係はおろか、キスさえしたことがなかった。
極力接触を避けるような、気遣いの裏になにか含みを持っているような、そんな態度だと最近は小春も薄々感じるようになっていた。
こんなに近くにいるのにとても遠い。
小春はこっそりと手にしていたハンカチを握りしめる。
目的地までそれはずっと握られてすっかり皺になってしまっていた。
高見の運転はとても丁寧だった。
運転は人隣が現れる。
彼はハンドルを握るなり豹変するようなことも、無茶な割り込みをするようなことはなかった。
車に弱く、運転していれば多少はマシだが、下手をすると助手席でも酔う彼女にとってはありがたかった。
「ほら、着きますよ」
「わ・・・!」
目の前には煌めく水面。海だ。
海開き前だからまだ人が少ない。
ゆっくり犬と散歩する人、サーフィンを楽しむ人、様々な休日の過ごし方をしている。
「こんな風に海に来るなら、お弁当持ってくればよかったなあ」
どこに行くかは知らされなかったので、小春は思わずそう呟く。
考えないではなかったのだが、食事に出掛けるのならば邪魔になるだろうから、とやめたのだ。
「天気が良かったから急に思い立ったので。雨が降ったら今度は美術館でも誘おうかと思っていたんですよ」
でも今度は室内でもお弁当が食べられるところにしましょうか。
そう高見が言ってくれたので、小春は顔をほころばせる。
「はい、ぜひ」
それから待ちかねたように海を見つめる小春の横顔を見て、高見がひっそりと眸に影を落としたのを、彼女は幸か不幸か知らなかった。


幾度もデートを重ねて、顔を合わせて。
さすがに小春もこれはおかしい、と気づき始めていた。
高見はあまりに彼女に何も語らず、また触れもしなかった。
小春とて童顔ではあるが女である。
風呂に入ろうとして、纏う物がなくなった己の身体を見下ろす。
何もかもが小さい、人形のような身体。幼児体型というと言い過ぎだが、高見にとってはどうだろうか。
やはり世の男性のように、胸が大きいとか色気がある女の人がいいのだろうか。
好きな相手に触れてもらえない寂しさが小春の気分を落ち込ませる。
嫌われているのならあんなに頻繁に連絡を取り、顔を合わせることはないだろうけれど。
出会いそのものが父に連れられて会ったという、どちらかといえば見合いに近いものだったから。
もしかしたら断りづらいのかしら。仕事に差し支えるから無理に合わせてくださってるのかしら。
そう疑念を抱いて思い返すと、いくつも思い当たる節があるのがまた嫌だ。
彼は仕事も勿論のこと、プライベートの事もほとんど語らなかった。
下手をすると一日小春の事ばかり話していたりして、それに気づいて口をつぐむと彼は困ったように笑う。
車は持っていないのか、足はつねにレンタカーばかりで、それにも疑問を抱いてしまう。
最近は車を持っていない若者が増えているとはいえ、運転は慣れたものだったし、頻繁に使うようなら買いそうな気がするのに。
出掛ける先も人の少ない場所が多かったし、最初はありがたいと思っていたが、それさえ含みがあるのだとしたら?
小春は頭を振り、湯を張ったバスタブに身体を沈めた。
長い髪は洗うのも乾かすのも、維持するのがひどく面倒だ。
けれど高見が綺麗だと褒めてくれた髪だから。
・・・もう少し、高見さんのこと知りたいのに。
小春は切ない思いを抱えて一人ため息をついた。

<続>
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同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
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