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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ヤサシイヒト・2

(高見×若菜)

+ + + + + + + + + +
そしていつものように小春が仕事先から電車で帰ろうとすると、後ろから声が掛けられた。
「オイ、そこの小さいの」
幼い子供でもいるのだろうか、そう思ってきょろきょろと左右を見渡すが、近辺には子供の姿はない。
オフィス街近くの駅で子供の姿なんて皆無に等しい。
小首を傾げる小春になおも声は掛けられた。
「テメェだ、髪の長いチビ」
「・・・は!?」
あからさまに小さい、と言われて小春は不快な気持ちで振り返る。
そりゃ小さいですけど、ちゃんと成人してお酒も飲める年です、と何度他人に言ったことか。
その記憶を思い出して見た背後には。
「!!」
以前高見と顔を合わせていた、金髪男がこちらを検分していた。
眸は鋭く、顎に当てられた指は細く長い。その人外な外見に驚く小春に頓着せず金髪男は言った。
「テメェに話がある。来やがれ」
なんという口の利き方。小春も良家の子女として育てられてはいたが、社会に出てから多少こういった口調の者とも接することがあった。
だが、今は仕事ではなく彼に従う義理は全くない。そのまま改札を通ろうとすると。
「テメェの男のことだ。知りたくないか?」
「・・・私の男?」
それは間違いなく高見のことだろう。彼と話しているところも見たし、彼は知古であるのは間違いない。
ただし彼が味方かどうかはまた別の話だ。
立場柄、見知らぬ男と二人きりなんて愚にも付かない行為、小春はするつもりもなかった。
「申し訳ありませんが、あなたとお話する事なんてありません」
きっぱりと言い切る小春に、彼はくっくっと笑った。
裂けてるのではないか、と思う程大きな口から覗く牙に、この男は悪魔じゃないかとさえ思う。
「じゃあ一つだけ教えてやる」
振り切るように改札を抜けた小春の背後から、男の声が飛んでくる。
怒号ではなく、静かな声音で。
「あいつの上っ面を信用するな」
「・・・え?」
小春が再び振り返ったときには、金髪男は既に姿を消していた。
今のは白昼夢か、と思わせる程に鮮やかに消えた。
けれどその一言の効果は絶大で。
日頃から積み重なっていた不安が、一気に決壊しそうになる。
立ちつくす小春の隣を、迷惑そうに中年の男性が通り抜ける。
それにようやく我に返った小春は、ホームへとゆっくり歩き出した。

「・・・小春さん?」
高見の声に、小春はぴくりと肩を震わせた。
ほどよく落ちた照明の中で、高見が気遣わしげにこちらを伺っている。
「あまり興味なかったかな、こういうの」
「いっ、いえ! 好きなんです、印象派!」
慌てて取り繕うが、嘘ではない。今日は二人でモネ展が行われている美術館に来ていた。
モネの睡蓮はとくにお気に入りで、画集を持っている程なのだ。
そのチケットがあるんですが、と声を掛けられて小春は素直に喜んだのだ。
けれど。
つい先日の、あの金髪男の一言が、小春の心に影を落としていた。
優しい高見。優しい声。穏やかな笑顔。
けれどあの男は言った。上っ面を信用するな、と。
ではあの昏い笑みの彼こそが本物だとでも言うのだろうか。では目の前にいるこの男はなんなのか。
何の目的で彼女に近づいた?
こんなに側にいて、手も繋がず。
ただ隣で並び歩くだけ。最初はそれさえ嬉しかったのに、いつのまにか次を求めていた自分。
けれど決して進展しない二人。
印象派の絵のように曖昧な色で関係を彩られた気さえする。
「そう? 気分でも悪いんですか?」
「いえ・・・」
小春は少し逡巡して、それから口を開く。
「高見さん、一つお願いがあるんですけど?」
「はい?」
小首を傾げる高見を、小春は上目遣いに見つめる。
「それ。その、敬語なんですけど」
「あ、はい。これですか?」
「あんまり・・・お気遣い頂かなくても、私の方が年下ですし、その・・・普通に話してくださると嬉しいな、って」
触れられないことについては、口にするのが恐ろしかった。
理由を聞かされるにしてもはぐらかされるにしても。
けれど口調くらいはいいのではないか。
これだけ会っていて、まだ他人行儀なのが小春には心苦しかったのだ。
「いいんですか?」
「駄目ですか?」
互いに気遣わしげな視線を交差し、高見は眼鏡を指先で押し上げる。
「・・・こんなことでいいなら」
少しの沈黙の後、主張が受け入れられたことで小春はぱあっと顔を明るくした。
それに高見は目を細めるが。
それが眩しい光を見るときのような、幽かに辛そうな色だったことに、小春は気づいてしまった。
どうして。
なんで、そんな顔をさせてしまうのだろう。
小春はそれには気づかないふりをして、次の絵の前にちょこちょこと移動する。
背後で高見がどんな顔をしているのか、見ないように。
好きなはずの絵を前にして、小春は内心ため息をつく。
ちらちらと過ぎるのは金髪男の金色だった。
あの時連絡先を聞けば良かった、と今更ながらに後悔した。

呼び方が小春さん、から小春、と変わって。
嬉しいはずなのにそう呼ばれるたびに心が苦しい。
心を砕いて接して貰うたびに、彼の真意を測りかねて小春はただ笑うしかない。
笑っていれば、高見も安堵したように息をつくのに気が付いたからだ。
色々大変らしい彼の立場を考えたら、余計な心配を掛けることだけは避けたかった。
募る彼への思いの重さに、時折全て投げ出してしまいたくなる。
それでもかろうじて思いとどまるのは、ただ彼が好きだからだ。
少し愁いを帯びた小春は周囲がはっとするほど美しい女性の顔をしていたのだが、誰もその心の内を知らなかった。

あの金髪男以外には。

仕事場を出た直後、携帯が着信を告げる。
『聞きたくないか?』
見知らぬ番号に震えた携帯。何も考えずにあの金髪男ではないか、そう直感した小春は通話ボタンを押した。
挨拶も自己紹介もなく、切り出されたのは聞き覚えのある声で、その一言。
小春は深呼吸をする。
もしかしたらこの男は本当に悪魔で、小春はおろか高見を陥れようとする存在なのかも知れない。
けれど知らぬ存じぜぬを通すには、もう二人の間は近すぎて遠すぎた。
「教えて欲しいです」
『向かって右、黒い車』
会社の前に止まっていた黒い車が、声に添って滑らかに彼女の前に止まった。後部座席に続くドアが、滑らかに開かれる。
「『乗れ』」
そこから響く声は電話越しと同じもの。耳朶を打つそれに、小春はきつく携帯を握りしめたままそこに滑り込んだ。

運転席と後部座席は完全に仕切られていた。スモークの貼られた後部座席は、完全なる密室だ。
自然と硬くなる小春に、目の前の金髪男は面倒そうに言った。
以前と同じ、黒ずくめの格好だ。黒以外着ないんだろうか。
「言っておくが、俺はガキに興味ねぇ」
「失礼です!!」
小さいだのガキだの、こないだから失礼すぎる発言に小春は思わず言い返す。
その勢いに男はにやりと笑った。笑う程に威圧感がありすぎる男だ。
そのくせ今顔を見るまでその造作を思い出すことさえなかった。やはり悪魔か、この男。
「生憎と人以外になった覚えはねぇ」
「心まで読むの!?」
「テメェの知りたいことも考えてることもお見通しだ」
ケ、と小さく言った彼は、しげしげと改めて小春を見下ろす。
「いや、やっぱり小せえな。俺でもそう思うんだ、あの糞メガネじゃ尚更だろうな」
「・・・ふぁ・・・」
あまりの呼称に、小春は言葉を失う。ややあってそれが高見だと判って更に言葉が出ない。
「アイツについて知りたいんだろ?」
問われて、小春は躊躇いながらも頷く。
「テメェの持つ会社。それが高見の狙いだ」
その次に来た言葉に、小春は今度こそ浮上できない程の衝撃を受ける。
―――・・・目の前が、一気に暗くなった気がした。
よく考えなくても、すぐ判る簡単なからくりだった。
系列企業を束ねる社長令嬢なら会社の一つ二つ生前贈与と称して与えられていてもおかしくない。
彼はそれが欲しかったのだ。部長程度の椅子などではなく。
愕然とする一方で酷く納得する自分もいた。
そうだろう。そうでなければ、小春と付き合うメリットなど何もないのだ。
幼さの残る顔。身体。小春には男が手出ししたくなるような女らしい身体も色気もない。
触れることさえしない相手を傍らに置く理由としてはそれが一番ふさわしく、そして間違いなかった。
完全に言葉を失って俯く小春に、彼はつまらなそうに一瞥をくれる。
何を根拠に、何を勝手に、色々言いたいのに小春の喉は言葉を一つも吐き出さなかった。
沈黙が車内に落ちる。
「頭は悪くねぇな」
ややあって言われた言葉に、小春はのろのろと顔を上げた。
酷く傷ついた光を宿す瞳にも彼は飄々としたままだ。
「降りろ」
いつの間にか車は止まっていて、後部座席が開かれる。
降り立った先にあったのは、よくあるシティホテルだった。
意図を掴めず、振り返ると男が何かを投げて寄越す。
「・・・カードキー?」
「303号室」
そう言い残して、男を乗せた車は滑らかに走り去った。
あまりの衝撃にぼんやりとしていたが、小春はカードキーを握りしめ、シティホテルへ足を向ける。
フロントは小春になおざりな声を掛けただけだ。彼女は小走りにエレベーターへ向かう。
きっとこの先には高見がいるのだろう。
あの金髪男の意図するところが全く掴めないが、嘘は言っていない気がした。
衝撃から立ち直ってはいないが、真実を明らかにするには直接高見に聞かなければならない。
勢いのまま303号室の前に立ち、小春は躊躇いながらもドアをノックした。
ドアベルなんて代物はない。
返答はなかった。
手にしていたカードキーを差し込み、ドアを開く。
普段の小春なら、部屋の主が不在であれば出直しただろうし、鍵があったとしても中に立ち入らないだろう。
けれどもう我慢の限界だったのだ。
隠されて優しくされて、その実何を考えてるか判らない高見の隣に居続けることが。
そこに高見の姿はなかった。浴室の明かりがついている。どうやらシャワーでも浴びているらしい。
簡素な作りのホテル。
備え付けのテーブルと机に、山と積まれた資料。
近寄ってファイルを手に取る。そこには様々な内容があって、そうして小春が持っている会社の名前もあった。
ああ、やっぱり。
小春はばさりとファイルを取り落とした。
散らばる書類を丹念に見ていけば、彼の目的が小春の会社であることなど明々白々。
組織の一員として働くだけの小春にはそれが何に使うかなど判らないが、意図は汲み取れた。
呆然と立ちつくす小春の背後で浴室の扉が開かれる。
「・・・?!」
室内の空気が妙なのに気が付いたのだろう。
高見は濡れた髪もそのままに、眼鏡をかけガウンだけを羽織ってこちらに来た。
「誰だ・・・!?」
厳しい声にも小春はぼんやりと視線を向けただけだった。
その先で高見が驚愕に目を見開いている。
「小春!?」
どうしてここに、いやどうやって室内に。そもそもなんでここにいることを知ったのか、という色々な疑惑が彼の脳裏を渦巻いているのが小春にも判った。
そんな風に焦る高見でさえ、小春には愛しいのに。
その思いが自分の持ち物にだけ向いていたのだと知って、小春はそれでも笑った。
それくらいしか出来ないのだ。彼のためにできることは、たった一つ、笑うことだけ。
何も知らないフリをして、笑って側にいれば良かったのだろうか。
彼のためにも、自分のためにも。
――――そんな不自然な関係はもう無理だ。小春は唇を震わせる。
「小春・・・?」
「ごめんなさい」
喉から出たのは、謝罪の言葉だった。

<続>
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