旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
まもりはアメリカ帰りのヒル魔の手荷物から出てきた眼鏡を手に首をかしげた。
彼が目が悪いとは聞いたことがない。
むしろ逆にものすごく目がいい、とセナも言っていた。
もしかしたら遠視なのかしら、とレンズを透かしてみてもその様子はない。
どうやら伊達眼鏡らしい。
まもりはふと思いついて、いそいそと鏡の前に移動した。
眼鏡をかけてみる。
かつて瀧の入学試験の際に教師役として勤しんだ時、一時だけ眼鏡をかけたが、あの時とは形が違う。
黒ぶちのそれはかけると鼻先に重さがのしかかる感じがした。
「なんでアメリカで伊達眼鏡なんてかけたのかしら」
「そりゃ変装のために決まってるだろ糞マネ」
「きゃ!」
背後からかけられた声に、まもりはぴょんと飛び上がった。
相変わらず足音も気配もしない男だ。
面白くもなさそうにガムを膨らませながら眼鏡をかけたまもりを見下ろしている。
「サングラスとかなら判るけど」
「糞マネ、『目』の印象は馬鹿に出来ねぇんだぞ」
たとえ素通しのガラス一枚であっても、眼鏡という存在はその者の印象をがらりと変える。
「ヒル魔くんの場合、髪の毛下ろして黒くして眼鏡かけたってすぐばれそうじゃない」
何しろ存在そのものが苛烈に目を焼く男なのだから。
けれどヒル魔はにやりと笑う。
「断言してもいいが、会場で俺のことを『蛭魔妖一』だと判ったのはパンサー一人だけだぞ」
「え?」
「黒く染めてはいねぇが、髪の毛下ろして眼鏡だけでも対戦したことあるパンサー以外は判りゃしなかった」
もちろんそれだけアメリカでは知名度もないからだけれど、あの会場には日本人記者もいたはずだ。
クリスマスボウルの覇者の一人である彼なら見つかりそうなものだが、そうでもなかった、ということか。
けれどまもりが反応したのはそこではなく。
「・・・ってことは、ヒル魔くんのその髪の毛、下りるの? 癖毛だって言ってたじゃない!」
「そのときだけ無理矢理下ろしたんだよ」
「下りるんならちゃんと下ろして! ほら!」
勢い込んだまもりがヒル魔の腕をかいくぐり、その髪を手のひらで押し下ろす。
長い髪が眸にかかり、うざったそうに舌打ちするその顔は、見たことがなくて。
思わずまもりの動きが止まる。
その視線が己に釘付けになっているのだと即座に理解したヒル魔は。
まもりの鼻先から眼鏡をするりと抜き取った。
「あ」
まもりの目の前で、彼女の手もそのままに眼鏡をかける。
癖毛というのも嘘ではないようで、手で押さえてなお完全には下りきらないけれど、確かに地に向いた毛先。
その合間に見える黒ぶち眼鏡は蛍光灯を反射して、その下の眸を見せない。
ただ、その鋭い眸が覆われただけで。髪に耳が覆われただけで。
まもりがまるで知らない男のような存在が出来上がった。
口も閉ざしてしまえば鋭利な牙もなく、つりあがらない唇は薄く笑みを浮かべるだけ。
『蛭魔妖一』を彼たらしめんとする細かな特徴を覆ってしまえば、こんなにも彼は希薄になるのか。
見知らぬ男を前に、まもりは怯えたようなそぶりまで見せる。
それにヒル魔はにやりと口角を上げた。
「何を怖がる? テメェが望んだとおりのことじゃねぇか?」
「え」
「この髪型で、ピアスも見えない現状なら」
ネクタイ締めれば完璧か、と嘯く口調もいつもどおりなのに、どこか現実感がない。
「テメェが言う、模範的な格好だろ」
それにまもりはしげしげとヒル魔を見回した。
そうしておもむろに眼鏡を引き抜き、テーブルに置く。
「どうした?」
にやにやと笑うヒル魔にかまわず、まもりは彼の髪を手櫛で整える。
ぴん、とすぐに立ち上がる髪は程なく元に戻った。
「ヒル魔くんの目が良くてよかった」
「ア?」
脈絡のない言葉に、彼の眉が上がるけれど。
確かな返事の代わりに、まもりの呟き一つ。
「私の目もそうね」
こんなに小さなガラス越しに見る彼はなんて味気ないのだろうか、とまもりは内心ひそかに驚嘆し。
そうして、遮るものなく互いを見られるのは僥倖なのだと唐突に知るのだ。
日常は小さな発見と幸せに満ちている。
そう実感する、春。
***
すごく視力の悪い人にとっては眼鏡なりコンタクトなりのガラス越しでなければ相手をしっかりと見られないという事実に気がついてこの話を。何の妨げもなく互いを見詰め合えるのはうらやましい限りです。
ちなみにメイド服は現地で処分したので残っておりません(笑)
彼が目が悪いとは聞いたことがない。
むしろ逆にものすごく目がいい、とセナも言っていた。
もしかしたら遠視なのかしら、とレンズを透かしてみてもその様子はない。
どうやら伊達眼鏡らしい。
まもりはふと思いついて、いそいそと鏡の前に移動した。
眼鏡をかけてみる。
かつて瀧の入学試験の際に教師役として勤しんだ時、一時だけ眼鏡をかけたが、あの時とは形が違う。
黒ぶちのそれはかけると鼻先に重さがのしかかる感じがした。
「なんでアメリカで伊達眼鏡なんてかけたのかしら」
「そりゃ変装のために決まってるだろ糞マネ」
「きゃ!」
背後からかけられた声に、まもりはぴょんと飛び上がった。
相変わらず足音も気配もしない男だ。
面白くもなさそうにガムを膨らませながら眼鏡をかけたまもりを見下ろしている。
「サングラスとかなら判るけど」
「糞マネ、『目』の印象は馬鹿に出来ねぇんだぞ」
たとえ素通しのガラス一枚であっても、眼鏡という存在はその者の印象をがらりと変える。
「ヒル魔くんの場合、髪の毛下ろして黒くして眼鏡かけたってすぐばれそうじゃない」
何しろ存在そのものが苛烈に目を焼く男なのだから。
けれどヒル魔はにやりと笑う。
「断言してもいいが、会場で俺のことを『蛭魔妖一』だと判ったのはパンサー一人だけだぞ」
「え?」
「黒く染めてはいねぇが、髪の毛下ろして眼鏡だけでも対戦したことあるパンサー以外は判りゃしなかった」
もちろんそれだけアメリカでは知名度もないからだけれど、あの会場には日本人記者もいたはずだ。
クリスマスボウルの覇者の一人である彼なら見つかりそうなものだが、そうでもなかった、ということか。
けれどまもりが反応したのはそこではなく。
「・・・ってことは、ヒル魔くんのその髪の毛、下りるの? 癖毛だって言ってたじゃない!」
「そのときだけ無理矢理下ろしたんだよ」
「下りるんならちゃんと下ろして! ほら!」
勢い込んだまもりがヒル魔の腕をかいくぐり、その髪を手のひらで押し下ろす。
長い髪が眸にかかり、うざったそうに舌打ちするその顔は、見たことがなくて。
思わずまもりの動きが止まる。
その視線が己に釘付けになっているのだと即座に理解したヒル魔は。
まもりの鼻先から眼鏡をするりと抜き取った。
「あ」
まもりの目の前で、彼女の手もそのままに眼鏡をかける。
癖毛というのも嘘ではないようで、手で押さえてなお完全には下りきらないけれど、確かに地に向いた毛先。
その合間に見える黒ぶち眼鏡は蛍光灯を反射して、その下の眸を見せない。
ただ、その鋭い眸が覆われただけで。髪に耳が覆われただけで。
まもりがまるで知らない男のような存在が出来上がった。
口も閉ざしてしまえば鋭利な牙もなく、つりあがらない唇は薄く笑みを浮かべるだけ。
『蛭魔妖一』を彼たらしめんとする細かな特徴を覆ってしまえば、こんなにも彼は希薄になるのか。
見知らぬ男を前に、まもりは怯えたようなそぶりまで見せる。
それにヒル魔はにやりと口角を上げた。
「何を怖がる? テメェが望んだとおりのことじゃねぇか?」
「え」
「この髪型で、ピアスも見えない現状なら」
ネクタイ締めれば完璧か、と嘯く口調もいつもどおりなのに、どこか現実感がない。
「テメェが言う、模範的な格好だろ」
それにまもりはしげしげとヒル魔を見回した。
そうしておもむろに眼鏡を引き抜き、テーブルに置く。
「どうした?」
にやにやと笑うヒル魔にかまわず、まもりは彼の髪を手櫛で整える。
ぴん、とすぐに立ち上がる髪は程なく元に戻った。
「ヒル魔くんの目が良くてよかった」
「ア?」
脈絡のない言葉に、彼の眉が上がるけれど。
確かな返事の代わりに、まもりの呟き一つ。
「私の目もそうね」
こんなに小さなガラス越しに見る彼はなんて味気ないのだろうか、とまもりは内心ひそかに驚嘆し。
そうして、遮るものなく互いを見られるのは僥倖なのだと唐突に知るのだ。
日常は小さな発見と幸せに満ちている。
そう実感する、春。
***
すごく視力の悪い人にとっては眼鏡なりコンタクトなりのガラス越しでなければ相手をしっかりと見られないという事実に気がついてこの話を。何の妨げもなく互いを見詰め合えるのはうらやましい限りです。
ちなみにメイド服は現地で処分したので残っておりません(笑)
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鳥(とり)
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自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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