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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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目眩(下)


+ + + + + + + + + +
「なんだか大分悪魔に毒されちゃったわ」
まもりの呟きにヒル魔が顔を上げる。
「なんだ、今更」
「今更でもないわよ」
む、とむくれてみせるが彼はにやにやと笑い応じる。
「テメェだってもう悪魔の一員だろうが」
その一言に。
まもりは言葉を失った。
それは衝撃でさえあったけれど、不快ではなかった。
いや、むしろ―――
「どうした?」
何もかも判っている、という顔をされて、まもりは手元のカップを勢いよく空にする。
まだ熱さが残るカフェオレは喉を傷つける。
それをいいことに空のカップを手に立ち上がり、無言のまま再びカウンターの裏へ戻る。
「・・・っ」
カップを洗いながらまもりはふうふうと荒い息を落ち着かせようとする。
顔が熱い。きっと、首まで真っ赤だろう。
仲間と扱われるなんて。そう、思ってくれてるなんて。
『テメェだってもう悪魔の一員だろうが』
便利な労働力程度だろうと思っていただけに、その一言に過剰に反応してしまった。
それが妙に恥ずかしくて、悔しい。
「オイ」
「何?」
「コーヒー」
まもりは一気に飲んでしまったが、彼のコーヒーも淹れてからさほど時間が経っていない。
まだ残っているはずだろうに。
そんなに喉が渇いているのだろうか?
「ああ、そうだ」
そう思ったまもりの耳に更に続きが届く。
「テメェの顔が糞ユデダコじゃなくなってからでいいぞ」
「・・・!!」
それにまもりは声なき悲鳴を上げてしゃがみ込んだ。



結局その後は作業にならず、時刻も大分遅かったので二人の作業は終了した。
「おい、さっさとしろ」
「うん。ありがとう」
まもりが最後の点検を終えて外に出れば、先に待っていたヒル魔がさっさと部室の扉を閉める。
僅かに離れた場所にいたまもりは、ふと瞳を瞬かせた。
「何アホ面晒して立ってんだ」
「うん・・・」
ヒル魔の嫌味に噛みつくでもなく、まもりはぐるりと周囲を伺い、小首を傾げた。
「おら、さっさと帰るぞ」
まもりはおとなしくヒル魔の後をついて歩いていたが、不意に口を開いた。
「ねえ、蝉は?」
「ア?」
「昼間はずっと鳴いてたじゃない。蝉」
「おー」
九月に入ったとはいえ強烈な日差しの下、やかましいくらいの蝉の声がしていたはずだ。
それなのに、日が落ちた途端蝉の声が聞こえてこない。
それどころか。
「秋の虫の声しかしないわ」
涼しげな虫の声。あの蝉の、泣き喚くという表現がぴったりな声がしない。
「もう夏じゃねぇんだよ」
歩くのが徐々に遅くなるまもりに焦れて、ヒル魔は彼女の手を引いた。
「でも、まだ暑いわ」
昼間の熱気を吸い込んだ地面は日が落ちてもなお暑い。
まだ暑い。
「認めろ、糞マネ」
低い声。ヒル魔は振り返りもしない。
「秋は夜から来るんだよ」
昼日中の日差しが弱まったと感じる前から。
湿度が高くて目眩がするくらい暑い空気が落ち着き始める前から。
日は短くなる。
夜が長くなり、徐々に熱は失われる。
秋だ。
大会のある、狂おしいほどに待ち焦がれた秋が間近にある。
「あっという間だ」
じゃり、という音。ふと視線を下げればヒル魔の足に踏みつけられた蝉の死骸。
秋は夜から次第に腕を伸ばし、昼日中からも暑さを奪っていく。
夏が終わる。
がむしゃらに目標に走り続ける夏が。
「なんだか、」
そこまで口にして、けれど続きは声にならなかった。

こわい。
そう続けて口にしたかったのだけれど。
未だ離されない手が、縋るように見えてしまったから。
彼も、そう思っているのかと考えてしまったから。


ああ、夏が終わる。
それがこんなにも、怖くて怖くて、たまらない。


***
こないだ夜道を歩いていたら夜でもわんわん煩かった蝉がぴたりと鳴き止んでいて、代わりに秋の虫が鳴いていたんです。ああ、秋だなって。昼日中は暑いし未だにクーラーつけっぱなしでないと寝られないけど。
ヒル魔さんは栗田くんみたいに大会前にナイーブになったシーンはなかったのですが、実際にはそんな風に思っていたんじゃないかなあ、という妄想でした。
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