旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
今日は休日、けれど部活は当たり前のようにある。
そしていつも(既に午前二時から練習している栗田と小結を除けば)一番に来るヒル魔、次いでまもりの後にやって来たのは珍しいことに、鈴音だった。兄とは別に来るらしい。
「やー、おっはよー!」
明るい笑顔も声もいつも通り。ところが。
「鈴音ちゃん、どうしたの? それ」
鈴音の左手の指全てに、仰々しく絆創膏が巻かれているのを見つけて、まもりは眉を顰めた。
「あっ、えっと、その・・・」
いつもはきはきと喋る彼女にしては珍しいくらいのどもりように、まもりはますます不審そうに首を傾げる。
「転んだにしては指だけだし、・・・あ、右手もじゃない!」
「やー、あの・・・これは・・・」
右手には包帯が巻かれている。一体どうしたことだ、と詰め寄るまもりに鈴音は困ったように身を縮めた。
それも、真っ赤な顔で。
「大丈夫なの?」
「だ、大丈夫、大丈夫! だから、あの・・・」
手を振り、どうにかこの場を逃れようとする鈴音と、ひたすら心配しているまもりに、ヒル魔が顔を上げた。
「おい糞マネ、コーヒー淹れろ」
「え」
「糞チアの怪我心配する前に準備始めろ。そろそろ糞チビどもが来るぞ」
「え? あら、ホントね」
時計を見て、まもりは声を上げる。
そしてまもりは無理しちゃ駄目よ、と鈴音に念押ししてからカウンターの後ろに向かった。
程なくコーヒーの良い香りが漂ってくる。
沈黙の後、ヒル魔が口を開いた。
「随分手こずったらしいなァ?」
にやり、と笑って告げられた一言に、鈴音はぱっとそちらに視線を向けた。
頬がほんのりと赤い。そして己の手に視線を落とした。
「ホントはこんな、見せたくなかったんだけど・・・」
切り傷と火傷。手当が必要なそれらを無かった振りで歩くには、それぞれの傷は大きくて。
「でも、約束したから・・・」
ぽつぽつと落ちる言葉。そこにカップを載せたトレイを持ってきたまもりが声を掛けた。
「はいコーヒー。鈴音ちゃんはカフェオレでいい?」
「あ、うん! ありがとう」
「それと、これ」
「え」
鈴音のカップの隣に置かれたのは、薬のチューブ。
「火傷によく効くの。跡が残ると大変だから」
「!? 知って・・・」
「ううん。思い出したから」
まもりは少々申し訳なさそうに肩をすくめた。
昨日の練習後にヒル魔から、明日は一日練習があるが外に行く暇はないため、各自昼食を事前に用意するように、という連絡があった。
それで鈴音は帰り道、二人になったのを見計らってセナにお弁当を作ってあげる、という約束をしたのだ。
当初は悪いから、と固辞していた彼も、最後には楽しみにしてる、と笑顔を見せたし。
だから鈴音は張り切ったのだけれど。
如何せん普段からあまり台所には立たないので、こんな手になってしまったのだ。
最初に気づくべきだった、とまもりは苦笑する。
「ごめんね、察しが悪くて」
その時一緒に帰ってはいなかったが、少し考えれば判ることだ。
「そんなこと! これは私が不器用だからこんなになっただけで!」
赤くなって手を振る鈴音は焦りながら言葉を続ける。
「それに怪我したからって美味しい訳じゃないし、見た目もそんなに・・・」
せっかく頑張って作ったけれど、まもりの作るお弁当には遠く及ばない。
スキルの差があると知っていても、やっぱり残念で。
持って行きたくないし、手も見られたくないし。
色々渦巻いた内心を押してやって来たのは、『楽しみにしてる』というセナの一言だけで。
まもりに有無を言わさず質問攻めにされて、他の人にもこんな風に問われるのかと思うと気分が萎えた。
「そんなことないでしょ」
「で、でも」
「料理はね、『人が自分のために作ってくれた』っていう愛情があるから美味しいのよ」
まもりはそっと鈴音の手を撫でる。
「自分のために頑張ってくれたのがよく判るもの。嬉しいわよ、きっと」
「味が不味けりゃ台無しだけどなァ」
余計な茶々を入れるヒル魔に、まもりはじろりと視線を向ける。
「自炊しない人は黙って! 料理は慣れだから、技術は練習すればどうにでもなるし、怪我もしなくなるわ」
私だって最初は酷かったわよ、とまもりは笑う。
「でも、どんな高級料理よりもお母さんのご飯の方が美味しかったりするじゃない?」
「うん」
「それは愛情が入ってるからなのよ。鈴音ちゃんのお弁当にはそれがちゃんとあるんだから、堂々と渡してね」
と、その時。
「おはようございます」
がらっと扉を開けたのは、セナ。
いつもなら一緒に来るモン太の姿はない。
そして鈴音の姿を見ると、あからさまに固まった。同様に鈴音も。
「あ、お、おは・・・よう」
「おはよ、う」
そんな二人を見るヒル魔とまもりはちらりと互いに視線を交わす。
「おい糞チビ、糞ザルはどうした」
「あ、モン太は今日お母さんが寝坊したっていうのでコンビニ寄ってから来ますって」
「ホー」
三人分の視線を一気に集め、なんとなく落ち着かない雰囲気のセナは鈴音にちらりと視線を向けると、自らの鞄を持ち直して扉に手を掛ける。
「・・・あの、僕ロッカールームで着替えてきます」
「おー」
応じるヒル魔に軽く会釈して外に出た彼を、まもりに無言で背を押された鈴音がお弁当の入った袋を手にその後を追う。
少々の沈黙の後。まもりは俯いた。
僅かに震えるその様子に、ヒル魔が訝しげに声を掛ける。
「おい?」
「・・・かわいいわね!」
くうっ! と手を握りしめて感動に打ち震える彼女に、ヒル魔は冷ややかな視線を向ける。
「アホか、テメェ」
「だって! あんなに一生懸命に料理した女の子って無条件で応援したくなるじゃない!」
初々しい二人の様子に笑み崩れるまもりに、ヒル魔はあくまで冷ややかだ。
「弁当の中身、初心者らしく唐揚げが半生だったり米に芯が残ったりしてみろ。ゲロマズだぞ」
「んもう! 夢のない!!」
「初心者の料理に夢見る方が危険だ」
ケッ、と言い捨てる彼にまもりはぷうっと頬を膨らませる。
「おい」
「何よ」
「俺の寄越せ」
ひょい、と差し出される手を、まもりはまじまじと見つめる。
それからおもむろに嘆息した。
「・・・絶対貰えるってその自信、どこから来るのかしら」
「ねぇのか?」
口調は疑問形なのに、にたり、と笑う顔にまもりは眉を寄せたまま自らの荷物から弁当箱を取り出した。
「はいどうぞ。お口に合うかどうかは判りませんけど」
素っ気ない口調に、ヒル魔はさらりと応じる。
「合うだろ」
その弁当箱を躊躇いなくパソコンの隣に置いたのを見て、まもりは口を開く。
「卵焼きに砂糖入れたり甘い煮物作ったりおかずがふりかけだけだったり―――」
「は、しねぇんだろ」
あっさりとそれらを否定して。
つん、とヒル魔の指が突いた黒いそれは、もう何度も彼の手に渡ってる。
彼女の料理上手は身に染みて知っている。そして、その味が段々と彼好みになってきているのも。
「料理は愛情なんだろ?」
ならばこの弁当がそんな、意地悪な作りになっているハズなどない。
まだ見てもいないのに、中身が自分好みに仕立てられていると疑わない彼に、まもりは背を向ける。
「ホントにヒル魔くんって自信家よね!」
「勿論、愛されてる自覚がゴザイマスノデネ」
途端、その耳が赤くなるのを見て、ヒル魔は喉の奥で笑った。
***
なんだかいじらしい鈴音ちゃんが書きたくなってこんな話になりました。料理は愛情!
鳥は自炊派ですがあまり上手ではないです(どうでもいい)。
そしていつも(既に午前二時から練習している栗田と小結を除けば)一番に来るヒル魔、次いでまもりの後にやって来たのは珍しいことに、鈴音だった。兄とは別に来るらしい。
「やー、おっはよー!」
明るい笑顔も声もいつも通り。ところが。
「鈴音ちゃん、どうしたの? それ」
鈴音の左手の指全てに、仰々しく絆創膏が巻かれているのを見つけて、まもりは眉を顰めた。
「あっ、えっと、その・・・」
いつもはきはきと喋る彼女にしては珍しいくらいのどもりように、まもりはますます不審そうに首を傾げる。
「転んだにしては指だけだし、・・・あ、右手もじゃない!」
「やー、あの・・・これは・・・」
右手には包帯が巻かれている。一体どうしたことだ、と詰め寄るまもりに鈴音は困ったように身を縮めた。
それも、真っ赤な顔で。
「大丈夫なの?」
「だ、大丈夫、大丈夫! だから、あの・・・」
手を振り、どうにかこの場を逃れようとする鈴音と、ひたすら心配しているまもりに、ヒル魔が顔を上げた。
「おい糞マネ、コーヒー淹れろ」
「え」
「糞チアの怪我心配する前に準備始めろ。そろそろ糞チビどもが来るぞ」
「え? あら、ホントね」
時計を見て、まもりは声を上げる。
そしてまもりは無理しちゃ駄目よ、と鈴音に念押ししてからカウンターの後ろに向かった。
程なくコーヒーの良い香りが漂ってくる。
沈黙の後、ヒル魔が口を開いた。
「随分手こずったらしいなァ?」
にやり、と笑って告げられた一言に、鈴音はぱっとそちらに視線を向けた。
頬がほんのりと赤い。そして己の手に視線を落とした。
「ホントはこんな、見せたくなかったんだけど・・・」
切り傷と火傷。手当が必要なそれらを無かった振りで歩くには、それぞれの傷は大きくて。
「でも、約束したから・・・」
ぽつぽつと落ちる言葉。そこにカップを載せたトレイを持ってきたまもりが声を掛けた。
「はいコーヒー。鈴音ちゃんはカフェオレでいい?」
「あ、うん! ありがとう」
「それと、これ」
「え」
鈴音のカップの隣に置かれたのは、薬のチューブ。
「火傷によく効くの。跡が残ると大変だから」
「!? 知って・・・」
「ううん。思い出したから」
まもりは少々申し訳なさそうに肩をすくめた。
昨日の練習後にヒル魔から、明日は一日練習があるが外に行く暇はないため、各自昼食を事前に用意するように、という連絡があった。
それで鈴音は帰り道、二人になったのを見計らってセナにお弁当を作ってあげる、という約束をしたのだ。
当初は悪いから、と固辞していた彼も、最後には楽しみにしてる、と笑顔を見せたし。
だから鈴音は張り切ったのだけれど。
如何せん普段からあまり台所には立たないので、こんな手になってしまったのだ。
最初に気づくべきだった、とまもりは苦笑する。
「ごめんね、察しが悪くて」
その時一緒に帰ってはいなかったが、少し考えれば判ることだ。
「そんなこと! これは私が不器用だからこんなになっただけで!」
赤くなって手を振る鈴音は焦りながら言葉を続ける。
「それに怪我したからって美味しい訳じゃないし、見た目もそんなに・・・」
せっかく頑張って作ったけれど、まもりの作るお弁当には遠く及ばない。
スキルの差があると知っていても、やっぱり残念で。
持って行きたくないし、手も見られたくないし。
色々渦巻いた内心を押してやって来たのは、『楽しみにしてる』というセナの一言だけで。
まもりに有無を言わさず質問攻めにされて、他の人にもこんな風に問われるのかと思うと気分が萎えた。
「そんなことないでしょ」
「で、でも」
「料理はね、『人が自分のために作ってくれた』っていう愛情があるから美味しいのよ」
まもりはそっと鈴音の手を撫でる。
「自分のために頑張ってくれたのがよく判るもの。嬉しいわよ、きっと」
「味が不味けりゃ台無しだけどなァ」
余計な茶々を入れるヒル魔に、まもりはじろりと視線を向ける。
「自炊しない人は黙って! 料理は慣れだから、技術は練習すればどうにでもなるし、怪我もしなくなるわ」
私だって最初は酷かったわよ、とまもりは笑う。
「でも、どんな高級料理よりもお母さんのご飯の方が美味しかったりするじゃない?」
「うん」
「それは愛情が入ってるからなのよ。鈴音ちゃんのお弁当にはそれがちゃんとあるんだから、堂々と渡してね」
と、その時。
「おはようございます」
がらっと扉を開けたのは、セナ。
いつもなら一緒に来るモン太の姿はない。
そして鈴音の姿を見ると、あからさまに固まった。同様に鈴音も。
「あ、お、おは・・・よう」
「おはよ、う」
そんな二人を見るヒル魔とまもりはちらりと互いに視線を交わす。
「おい糞チビ、糞ザルはどうした」
「あ、モン太は今日お母さんが寝坊したっていうのでコンビニ寄ってから来ますって」
「ホー」
三人分の視線を一気に集め、なんとなく落ち着かない雰囲気のセナは鈴音にちらりと視線を向けると、自らの鞄を持ち直して扉に手を掛ける。
「・・・あの、僕ロッカールームで着替えてきます」
「おー」
応じるヒル魔に軽く会釈して外に出た彼を、まもりに無言で背を押された鈴音がお弁当の入った袋を手にその後を追う。
少々の沈黙の後。まもりは俯いた。
僅かに震えるその様子に、ヒル魔が訝しげに声を掛ける。
「おい?」
「・・・かわいいわね!」
くうっ! と手を握りしめて感動に打ち震える彼女に、ヒル魔は冷ややかな視線を向ける。
「アホか、テメェ」
「だって! あんなに一生懸命に料理した女の子って無条件で応援したくなるじゃない!」
初々しい二人の様子に笑み崩れるまもりに、ヒル魔はあくまで冷ややかだ。
「弁当の中身、初心者らしく唐揚げが半生だったり米に芯が残ったりしてみろ。ゲロマズだぞ」
「んもう! 夢のない!!」
「初心者の料理に夢見る方が危険だ」
ケッ、と言い捨てる彼にまもりはぷうっと頬を膨らませる。
「おい」
「何よ」
「俺の寄越せ」
ひょい、と差し出される手を、まもりはまじまじと見つめる。
それからおもむろに嘆息した。
「・・・絶対貰えるってその自信、どこから来るのかしら」
「ねぇのか?」
口調は疑問形なのに、にたり、と笑う顔にまもりは眉を寄せたまま自らの荷物から弁当箱を取り出した。
「はいどうぞ。お口に合うかどうかは判りませんけど」
素っ気ない口調に、ヒル魔はさらりと応じる。
「合うだろ」
その弁当箱を躊躇いなくパソコンの隣に置いたのを見て、まもりは口を開く。
「卵焼きに砂糖入れたり甘い煮物作ったりおかずがふりかけだけだったり―――」
「は、しねぇんだろ」
あっさりとそれらを否定して。
つん、とヒル魔の指が突いた黒いそれは、もう何度も彼の手に渡ってる。
彼女の料理上手は身に染みて知っている。そして、その味が段々と彼好みになってきているのも。
「料理は愛情なんだろ?」
ならばこの弁当がそんな、意地悪な作りになっているハズなどない。
まだ見てもいないのに、中身が自分好みに仕立てられていると疑わない彼に、まもりは背を向ける。
「ホントにヒル魔くんって自信家よね!」
「勿論、愛されてる自覚がゴザイマスノデネ」
途端、その耳が赤くなるのを見て、ヒル魔は喉の奥で笑った。
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プロフィール
HN:
鳥(とり)
HP:
性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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