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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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巧妙な蛇(下)



+ + + + + + + + + +
料亭は、しっとりと落ち着いた雰囲気の店構えだった。
門前は水で清められ、盛り塩が置かれている。
控えめな明かりに誘われて引き戸を開くと、庭木を引き立たせるように配置された明かりが店の入り口までを示している。
さほど長くない小道を歩けば、玄関まではすぐだ。
その扉を開くと、品の良い着物を纏った女将が深々と頭を下げた。
「ようこそおいで下さいました、蛭魔様」
「ああ」
まもりにも丁寧に頭を下げる。
ゆったりとした雰囲気の漂う廊下はあたたかな色合いの光で彩られている。
通された先の和室は庭の見える、立派なものだった。
「先方が来たら始める」
そう伝えると女将はすっと頭を下げて下がった。
その手慣れた様子に彼が初めてここに来たのではないのだとまもりも気づく。
「来た事あるの?」
「仕事でな」
「へえ・・・」
それからほどなくして、仲居がまもりの両親が到着した事を告げた。

まもりの両親はいささか緊張した面持ちで現れた。
まさかこんなに立派な料亭に招かれるとは思ってなかったのだろう。
「はじめまして。本日はお越し下さってありがとうございます」
す、と頭を下げるヒル魔に両親もほっと息をついて頭を下げる。
「こちらこそ。君がまもりの彼氏か」
「はい。蛭魔妖一と申します。まもりさんとは高校の時からお付き合いさせていただいております」
まもりさん。こんな機会でもなければ一生呼ばれなかっただろう呼び方。
見慣れない猫を被ったヒル魔の表情、声にも鳥肌を立ててまもりは引きつった笑みを浮かべた。
そんなまもりを尻目に、両親とヒル魔はにこやかに会話を進めていく。
「それでお仕事は何をされているのかしら?」
「ああ、失礼しました。今、名刺をお渡しします」
お手本のようにきっちりとした渡し方で差し出された名刺を見た両親は目を丸くしている。
やはり肩書きに驚いているのだろうか、そう思っていたが。
「『―――』って・・・最近躍進著しい会社だね」
「ご存じいただけておりましたか。嬉しいですね」
「ご存じも何も、いや、すごい」
感嘆の声を上げる両親にまもりは首を傾げるばかり。どうやら有名な会社らしい。
「まもりもそれならそうと言ってくれたらよかったのに」
母親は喜色満面で彼女に囁く。まもりは曖昧に笑うだけだ。
そんなに凄い会社なのだろうか。さっぱり判らない。
「まだまだ発展途上の会社ですから、これからの努力次第かと思ってます」
謙虚に微笑むヒル魔の隣でまもりは曖昧に笑うしかなかった。

タイミングを計って、料理が次々と出される。
上品な味付けの料理は繊細な器に盛られ、見た目もごちそうという言葉通り。
さほど酒の得意ではないまもりの両親にも、上手に酒を飲ませる手腕はどこぞのホストでも務まりそうだ。
見た事のない一面に、まもりは本当に隣の男は蛭魔妖一だろうかとまで思ったが、ちらりと視線を向けた瞬間だけつり上がった口角にやはり彼だと確信する。
「まもりは普段、君の前ではどうだい?」
「そうですね・・・普段は仕事が忙しくて、あまり自分の事が出来ないのですが、彼女が色々と気遣ってくれるので助かります」
まもりはぎこちなく笑みを浮かべるが、正直何を食べても味がしない。
彼に褒められるというか、労われるのが異様に感じてしまうのだ。
これなら無言で蹴られた方が素直に褒められてると思えるのに。
何か下手な事を言ったらヒル魔の芝居が止まりそうで、気が気ではないし。
「まもり、普段の妖一くんはどんな感じなんだい?」
そう思っていた矢先、話が振られる。
まもりはどう答えようか焦った。
まずヒル魔が働いているにしても何をしているか知らないし、どこに会社があるか判ってないし、いつも部屋でパソコンをいじっているが全てが仕事とは思えないし。
適当に話を合わせようにも打ち合わせ一つしていないのだ。
まもりがそれでもとりあえず何か言おうと思った時、襖がすっと開く。
「次のお料理をお持ちしました」
卓上に載せられたのは、大きなカニの足。その大きさに両親は目を丸くする。
「すごく大きいね」
「これはタラバガニですか?」
「そうです。たらば焼きと呼んでおります。お熱いうちにどうぞ」
仲居に促され、しばし全員熱々のカニを囲んで黙々と食べる事に熱中してしまう。
まもりが熱い殻に手間取っていると、ヒル魔がさっさと殻を外してまもりに渡してくれた。
「・・・これが理由?」
ひそ、とまもりが囁く。
カニを囲めば自然と口は閉ざされがちになる。
酒も入っているまもりの両親は、娘に尋ねた事さえすっかり忘れてカニと格闘している。
だから料亭を選んだのか、と言外に問えば、ヒル魔は当然、と口角を上げた。

上機嫌で杯を重ねたまもりの両親にヒル魔はごく自然に彼女との結婚の意思を伝え、両親は快諾した。
「ありがとうございます。また今後のことでご相談に伺いますので、その時はよろしくお願いします」
「ああ、待っているよ」
「実は私は普段こういった格好をしないので、驚かれるかもしれませんが」
「それは大丈夫よ」
安請け合いする両親に、まもりは内心嘆息する。
ここまで見事に騙されたのなら、もう何も言えまい。
「まもりのことをよろしく頼むよ」
「はい、お任せ下さい」
にっこりと笑みを浮かべたヒル魔に、まもりは後日激しく取り乱すであろう両親の事を思って、少しだけ憂鬱な気分になったのだった。


帰宅途中、ヒル魔の隣を歩いていたまもりはぴたりと立ち止まった。
「ん?!」
「あ?」
振り返るヒル魔にまもりは目を見開いて叫ぶ。
「ヒル魔くん、私と結婚するの!?」
「ア? 今更何言ってる」
「だって挨拶って、えええっ?!」
あまりに自然に目の前で展開した会話をただ見守ってしまっていたが、そもそもまもりと結婚したいと彼は一言でも言っただろうか。
っていうかプロポーズらしきものも全くなかったんですが!
なんでそんなことになってるのか、いきなり飛びすぎていやしないか、と青くなったり赤くなったりするまもりの耳元に唇を寄せる。
「俺にここまでさせておいて今更無かった事に出来ると思うなよ?」
「結婚とかって、話の展開が早くない!?」
それにヒル魔はぴんと片眉を上げた。
「だから言っただろ」
すい、とまもりの左手を取り、無造作に取り出した指輪を嵌める。
そうして目を見開いて硬直するまもりの薬指にキスを一つ。
「逃げるなよ、ってナァ」


・・・やられた!

***
モナコ様リクエスト『カニ食べヒルまも+彼女の両親への挨拶』でした。タイトルは聖書で人に善悪の知恵の実を食べるよう唆した蛇から。あんまりカニの話がなくてすみません。ヒル魔さんが暴走しちゃってどこまで行くのかな、と静観していたらこんな話になりました。最近とみに勝手にキャラが暴走しがちです。楽しいです。
リクエストありがとうございましたー!!

モナコ様のみお持ち帰り可。
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