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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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夢想寓話(中)

+ + + + + + + + + +
彼女は賞品として『マッサージをさせて欲しい』と言い出したのだ。
マッサージをして欲しい、というわけでもマッサージを受けさせて欲しいでもなく、『マッサージをさせて欲しい』ときた。
当然ながら誰がさせるか、と拒否した。
けれど彼女は門伝桝乃直伝でマッサージの極意を得たのだから彼のプラスになりこそすれ、マイナスにはならないと言い張ったのだ。
現在も筋肉痛が辛いのは先ほど彼自身が認めたわけだし、されて困る事などないだろうと。
そういう問題じゃねぇ、と散々言ったのだが彼女はじゃあどういう問題なのよ、と頑として受け付けない。
一般人ならさっさと逃げ出すヒル魔の怒声をものともしない。
このままいつまでも言い争いを続けるには身体がきつすぎた。
ならばさっさとこの場で受けてしまおうか、と。
半ば諦めた格好のヒル魔に彼女は更に追い打ちを掛けた。
部室ではマッサージ終了後家に帰るのが億劫になるだろうから、彼女はヒル魔の家でマッサージしたいと言い出したのだ。
それがどういう意味になるのか、まもりに気づかせようと試みたがそれは無駄だった。
結局埒のあかない言い争いと軋む身体に疲れ、ヒル魔は渋々折れる格好となったのだった。

まもりは足を踏み入れた部屋が思ったよりも清潔であることにまず驚いた。
物が多いのは収納のほとんど無いホテルだから仕方ないとしても、埃っぽくもかび臭くもない。
以前の部室のような惨劇を想像していた分、拍子抜けした格好だ。
「意外に綺麗なのね」
「毎日掃除入ってっからなァ」
「それなら納得できるわ」
清掃をしてくれるのであれば、ここは彼のような掃除下手にはうってつけの住処なのだろう。
「で、ベッドに寝りゃいいのか」
ヒル魔が嫌そうに口を開いた。
自ら促したのはさっさと終わらせてこの部屋からまもりを追い出したいからだ。
「じゃあ、バスタオル持ってくるから着替えて待ってて」
「バスタオル?」
怪訝そうな声を上げたヒル魔に、まもりは肩をすくめる。
「床に寝て欲しいの」
「ア!? ベッドでいいだろーが」
「だってベッドじゃ下が柔らかくて効果が出ないんだもの。床に寝てもらう方がいいの」
「・・・」
ヒル魔は先ほどの部室での一幕を思い出し、口をつぐんだ。
これ以上言い争って下手に時間を掛けさせるよりも、さっさと言うことを聞いて進めた方がいい。
ここに入ることを許可した次点でじたばたしても無駄だ。
スウェットとTシャツに着替えたヒル魔の前に、まもりはバスタオルを二枚持って来て床に延べる。
「じゃあ横になって」
始めまーす、とおどけた口調で宣言すると途端に派手な舌打ちが響く。
「さっさとしやがれ」
「はーい」
まもりはためらいなくヒル魔の背中に手を当てる。
途端に鈍いような熱を背中一帯に感じた。
(何よ、やっぱり相当辛かったんじゃない)
以前習ったマッサージを思い出しながら、まもりは内心呟きながらヒル魔の身体をほぐしていく。
彼の身体はがちがちに強ばっていて、よくもまあ平然と歩いていたものだと感心すらした。
「痛かったら言ってね」
「・・・おー」
ため息のような応じる声に、まもりはこっそり口元をゆるめる。
やはり自室をマッサージ場所に指定したのはよかった。
部室では人の出入りがあるし、ここなら彼も誰に気兼ねすることなく無防備になってくれる。
リラックスしてもらえないと、いかに極意を駆使したとしてもやはり効果が出ないのだ。
マッサージを教えてくれた門伝桝乃ほどの技量があれば、慣れない場所でもあっという間に寝かしつけられるそうだけれど、あいにくまもりにはそこまでの実力も経験もない。
しばし無言でマッサージを続けていたまもりは、ふいに彼の呼吸が深くなったような気がしてそっと様子をうかがった。
(寝てる? ・・・かな?)
けれど彼はとにかく隙を見せることを嫌っていたから、今も寝たふりをしているだけかもしれない。
マッサージはもう終盤まで来ている。全て終えた後声を掛けてみて、それから起こすかどうかを考えよう。
そう決めて、まもりは最後の仕上げに取りかかった。


<続>
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