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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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呪いを解く方法

(ヒルまも)

+ + + + + + + + + +
薊を裸足で踏みつけ、その繊維を解し、服を編む美しい女性。
墓地で人に見られないように棘を踏みつけ飛び跳ねる彼女の姿は、幽鬼のようだった。
やがて魔女の集会に参加する妖しい女と言われ、心を寄せた王子にも疑われ、磔にされることとなった。
しかし彼女は編み上げた服を空に投げると、11羽の白鳥が飛来し、その服を纏うと次々に人となってその場に降り立った。
彼女はとある国の姫君で、11人の兄は継母の呪いで白鳥にされたのだが、それを救うには薊の繊維で編んだ服を着せなければならない。
繊維は踏みつけて採取せねばならず、そしてその服を編み終えるまでは一言も口を利いてはいけないのだと言われていた。
だから彼女はそれを終始無言でやりぬき、そして全ての呪いを解き、晴れて心を寄せた王子に受け入れられ結婚して幸せに暮らした・・・・・・。

「この童話知ってる? ヒル魔くん」
「なんでいきなり絵本なんて出てくるんだ」
秋大会も終盤に近づくにつれ、次第に太陽の恩恵は短くなって、今外はすっかり夜だ。
部活終了後、一足先に雑務を終えて身支度を調えた糞マネは、俺の隣に腰掛けて鞄からおもむろに絵本を取り出した。
そこには『白鳥の王子』とある。
「友達と子供の頃影響を受けた絵本の話をしてたのよ。その時に思い出して、そしたら懐かしくなって読みたくなったから図書室で借りて来ちゃった」
「ほー」
「ヒル魔くんは子供の頃、童話って読んだ?」
「あー、人はそんなに何回も死んだり生き返ったりはしねえんじゃねぇかと思った覚えがある」
「どの話で?」
「Snow White」
「・・・なんで英語・・・まあいいわ、ヒル魔くんの口から白雪姫なんて言われたら可愛くて笑っちゃう」
白雪姫か、懐かしいわとか何とか言いながら糞マネは借りてきたという絵本を捲っている。
その指先は連日の洗濯やら雑用やらでやや荒れていた。
11人の王子。
さしずめ今は11人の悪魔たちの呪いを解くために彼女は薊を踏んでいるという場面にあたるのだろうか。
そしてクリスマスボウルという最後の舞台で、彼女はその仕事を天に放り投げるのだ。
それはまさしく解放と呼ぶにふさわしい。

アメフトからの。
マネージャー業務からの。
そして、俺からの。

一瞬自分の脳裏に過ぎった言葉に苦い物を感じつつ、口を開く。
「お前はそれのどこに影響を受けたんだ」
「え? 私はこれじゃないわ」
「あ?」
「私は美女と野獣の方が好きだったの。これは別の子がこんな話があったわよね、って言ったので思い出したのよ」
「ホー」
「今の状況とか、似てるなって思ったの」
さらりと俺が思っていたのと同じことを口にして、糞マネは11人の王子に囲まれた姫君を見ている。
「11人の素人を、ハッタリだったり努力だったり銃弾だったり無言の蹴りだったり気が遠くなるくらい待ったりして、それでみんなを選手にしたんだもの」
「・・・あ?」
「しかも自分の膝が腫れようが、筋肉痛がどれだけ痛かろうが、どんな状況でも絶対に本音は言わないしね」
「ちょっと待て、お前の理屈だと俺が姫か」
「もちろん。そっくりじゃない」
「目ェ腐ってるんじゃねぇのか、糞マネ」
「視力はいいのよ」
ふふ、と笑う彼女の顔つきがひどく幸せそうで、俺は若干居心地が悪くなった。
「じゃあテメェは自分がどの役のつもりだ」
「私? 白鳥じゃない方の王子様」
「あぁ?」
ぺらりと捲る絵本のページは最後。
そこには美しく笑う姫君を迎える見目麗しい王子。
絵に描いたような大団円。
「クリスマスボウルが終わった後、呪いを解いたお姫様をお迎えしなきゃいけないから準備も大変よ」
「・・・へー」
ぱたん、と絵本を閉じると、糞マネは丁寧に絵本をしまい、そそくさと立ち上がる。
不自然なくらい動きが堅い。
いや、その前から。
絵本を取り出す前当たりから、糞マネはどこか落ち着かなかった。
「じゃあ、私、帰るから」
「少し待て、糞野獣」
その背に声を掛けると、ぴたりと足を止めた。
「や・・・!? ちょっと、なによ、それ!?」
「美女の求婚がないかぎり、野獣は元に戻れないからなァ」
「自分が美女だって言うの? あきれた美意識の持ち主ね」
「そんな美意識の持ち主を姫君だと例えたのはどこのどなたデショウネ」
ケケケ、と笑いながら手元のデータを保存し、パソコンの電源を落とす。
「暗い夜道じゃ糞野獣に襲われて怪我をする哀れな男共が増えそうだ」
「誰が糞野獣よ!」
「自覚がおありデスカ糞野獣マネ?」
「~~~!!」
けれどどんなに挑発してもこちらを向かない糞マネの意地っ張りな背中に、俺は内心苦笑する。
「クリスマスボウルが終わったら、早く野獣の元に向かわないと、死んじまうんだろ」
「・・・そうよ。お姫様は責任重大なんだから」
真っ赤になった耳が、かすかに掠れて震える声が、何よりも雄弁に語ってるのだと指摘するのには勿体ない気分だ。
荷物をまとめ、俺も立ち上がる。
「よし、帰るぞ」
「うん」

ろくにこちらを見ようとしない糞マネをからかいながら自宅近くまで送り、俺はそのまま帰路に就く。

俺を迎え入れると言ったからには相応の覚悟があるんだろうな、糞王子で糞野獣の姉崎まもり。
今までかかり切りだった仕事を放り出して、その勢いのままに呪いを解いてやる。
糞王子の如く全部受け入れろよ。
野獣の呪いを解く方法が求婚なのは、お前も当然承知の上、だよなぁ?

***
『白鳥の王子』マイナーどころですがご存じでしょうか。ヒル魔さんの白雪姫感想はまんま幼い頃の私の感想です。自宅にあったグリム童話では白雪姫が三回死んだり生き返ったりしました。
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無題
はじめまして。
覚えてます、確かアンデルセン童話ですよね。
子供心にすごく印象深くて、好きな童話でした。
薊を編む姫がヒル魔は驚きましたが、先後まで読んで納得です。
懐かしい童話を思い出させてくださってありがとうございます。
明日、子供に読み聞かせたいと思います。
豊住 湊 2008/04/21(Mon)01:05 編集
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