旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
それは穏やかな青く深い海に囲まれた王国の物語。
白亜の宮殿、その一室。
王のそれと比較するとかなり小規模の謁見の間にしつらえられた長椅子。
そこには上質の絹の衣装に身を包んだ青年が座っている。
名を、紫苑という。
目の前には悪趣味な身形をしたいかにもな商人が豪奢な宝石付きのネックレスを前に熱弁を振るっていた。
ぐだぐだと熱心に説明を続ける男の前で、青年は姿勢を崩し、終いには長椅子に横たわってだらだらしている。
人形と見間違うほどに姿勢を崩さず立っていた男は、青年の興味のなさを汲み取って口を開いた。
「もう結構です。お引き取り下さい」
「え」
自分では確実にこの品を売りつけられると踏んでいたのだろう。熱を帯びたセールストークを途中で打ち切られ、商人はどうにか続きを喋ろうと細切れに単語を繰り出すが、傍らの男、執事である鉄馬が口を開いたことによって側にいた近衛兵が商人を外へと連れ出していく。
「興味がおありでないなら、このようなことはおやめになればよいのに」
「いや、だってさぁ、父さん命令だし」
さらさらとした前髪を掻き上げ、手にしているリストを興味なさげに見る。
そこには古今東西で見つけられた興味深い代物を持っているため王にお目通り願いたい、と切望する商人たちの名が連なっている。
現王には少々悪い癖がある。それは興味深い物を見つけるとコレクションしたくなるという癖だ。
元より収集癖はあったようだが、妻である后を失ってからそれが顕著になった。
それは物に限らず人も含まれるため、気に入られると側室への道も開ける。今回はたまたま商品を売りつけるだけに熱を燃やす側だったため違ったが、あからさまに目的をはき違えた輩も沢山やってくる。
開かれた王政を目指しているこの王国は、職業などで王宮を訪れる人を制限してはならないと大々的に謳っているので彼らの締め出しは原則としてできない。
しかし商人や側室目当てが大挙して押し寄せ続けては国民の信頼も揺らぎかねない。
そこで苦肉の策として、まず王子が品定めをした後に王へと取り次ぐ形をとることにした。本物を見極める目を持つには今から練習するべきだ、というあからさまにやっかいごとを押しつける気満々の父の周囲の者たちにため息が出る。
「でも、まあねえ。俺としても父さんにこれ以上国庫に響く悪政はさせたくないもんねぇ」
「紫苑様の目は確かですから」
「褒めても何も出ないよ、鉄馬」
二人して苦笑しながら次の者を呼ぶ。
と。
ぺた、ぺた、と裸足で歩く音がする。
海が近いこの国では裸足は珍しくないが、宮殿内ではあまり聞き慣れない音だ。
潮の香りを強烈に引きつれて、扉が開く。
「…あの」
おずおずと姿を現したのは、銀髪の少年だった。
紫苑と鉄馬の心情が一致する。
やばい。
これは間違いなく現王のツボにはまる好みの顔だ。
彼が何を持ってきていても、きっと王は関係なく彼を手元に置きたがるだろう。
一刻も早く、彼を逃がしてやらねば。
紫苑と鉄馬は素早く眸を交わす。
「甲斐谷陸さんですね」
鉄馬が名を確認すると、彼はこくりと頷く。
「えーと、何を持ってきてくれたのかな」
「海で拾ったので、これを」
手にしていたのは短剣。
美しく宝石が嵌め込まれた、繊細な作りの美しい品物だ。
これは文句のつけようがない一級品で、更に悪いことにこの王族の家紋が彫り込まれていた。
「王族の家紋もありましたし、こちらへお返しした方がいいと思ったのです」
「そりゃあありがとう」
へら、と紫苑は笑った。そのまま売って生活費の足しにしてしまえばよかったのに、とも思ったが、少年は身形がよく、裸足であるところ以外は品さえ感じられたのでそんな考えはなかったのだろう、と結論づけた。
「じゃあ受け取るよ。謝礼はいくらがいい?」
こうなったら金で解決するに越したことはない。そう思って金額を求めたのに、あろうことか少年は一番危惧していたことを口にした。
「王様に直接お渡ししたいので、お目通り願いたいのです」
「…」
「あー…」
「なにか不都合がありますでしょうか」
どうあってもこの少年、自ら不幸に飛び込みたいのだろうか。
鉄馬も色々考えているようだが、理由もなく無下に投げ出すこともできず、無表情ながら額に汗が光っている。
「君、逃げ足は速い?」
「は?」
「本気でマズイと思ったら逃げられる?」
「それって、王様にお目通り願うのとなにか関係が、」
「いいから答えて。足は速い?」
鬼気迫る紫苑の顔に気圧されながら、陸と呼ばれた少年はこくりと頷く。
「じゃあこっちに来て」
王子が立ち上がる。いざとなったらこの少年を庇ってやろうという気持ちで。
そしてそれを補助すべく、鉄馬もその後に従った。
何度来ても趣味が悪いとしか言えない玉座に、退屈を顔に貼り付けたような王が座っている。
「おおー! これは綺麗な少年だね!」
そして陸を見るなりそうのたまった王に、紫苑は頭が痛くなった。
この男、過去には海を渡って旅をした射撃の名手であるらしいのだが、今は見る影もなく権力に溺れた空気を醸している。
「王様、ぜひこれを御覧に入れたくてお目通り願いました。どうぞお手にとって下さいませ」
「ん? それならこちらに来なさい。大丈夫だ、何もしないから」
お約束の台詞に思わず懐の銃の位置を確かめた紫苑の隣で、鉄馬も紫苑の指示を待って今にも飛び出さんばかりだ。
「では失礼致します」
す、と足を玉座へ向かう階段へとかけたかれの足がちらりと見える。
すんなりとしたふくらはぎに、何か見慣れないものがあった気がする。
あれは。
人にはないはずの、鱗。
「うーん、見覚えがない剣だねえ」
「ご存じないですか?」
「ああ、残念ながら。とてもいい品物だけれど、私のものではないようだよ」
「そうですか」
嫌な予感が背筋を駆け抜けたが、足はぴくりとも動かなかった。
何か人為的な力が働いているかのように。
視線だけで隣の鉄馬を伺えば、彼も驚愕の表情で自らの足を見つめている。
てつま。
彼の名を呼ぼうとしたのに声も出ない。
「でも君の顔は綺麗だね。そう…昔見たことが、あるような…」
「そうですか。俺は姉に似ているそうです」
「姉君か。さぞ美しいのだろうね」
陸は笑ったようだった。そうですね、と軽く頷いて短剣を撫でる。
愛しげに。
「これは、姉が貴方を殺すために手にしたナイフなんですよ」
そして銀色の光が閃いて。
「ぐぁッ!!」
短い断末魔が玉座から聞こえてきた。
「…父さん?」
紫苑の喉から絞り出された声に、陸は振り返る。
その眸は深い藍色をしている。この国を囲む海のような深い藍色。
玉座からこちらへと降りてくる彼は返り血の一滴も浴びていない。
驚くべき事に背後の玉座には、死体はおろか、誰の姿もない。
その玉座の背に、あの短剣が深々と刺さっているだけだ。
波の音がする。
どこからともなく細い歌声が聞こえてきた。
『待っていたわ』
『このときを』
『待っていたわ』
『愛しい貴方』
そして室内が一杯に海で満たされる幻に、二人は包み込まれた。
長い髪を揺らして大海原を泳いでいく一人の人魚。
嵐の夜に船から投げ出された青年を助ける彼女。
そして魔法使いに願い、声を失い足を得て、青年の元へ。
けれど傍らには既に彼女ではない女性の姿。
ああ。
あれは。
(…母さん)
若かりし頃の紫苑の両親二人の姿は幻の中でも一際煌めいて見えた。
そして隣に並び立てず、声を上げて泣くことも出来ない人魚の悲しい表情もはっきりと。
彼女が宴から抜け出し、帰ることの出来ない海に涙をこぼすと、その水面によく似た面差しの女たちの姿。
そして投げ込まれたのはあの短剣。
彼女はそれを手に、青年の寝所へと忍び込む。
震える手で、短剣を握りしめて。振りかざし震えて、けれどそれも叶わなくて。
短剣を握りしめたまま彼女は朝日が差す海へとその身を投げ出す。
泡になる間際、何事かを祈るように手を握り合わせた。
見覚えがある。そう、あの顔は。
水の幻の向こうで、陸が立っている。
その足に見えた鱗はもうつま先まで覆い尽くし、足の形状ではなくなり始めている。
彼は何を対価にして足を得てここまで来たのだろうか。
そしてなぜ今まで来なかったのだろうか。
疑問に答えることもなく、彼の姿が揺らぐ。
目的を果たし、海へ帰るのだ。
『姉が死に際に願ったんです』
幾分先ほどより低い声が二人の耳朶を打つ。
『あの人が生きている間は、彼がこの世にいる間は、彼をあの人に預けるけれど』
海の幻がその色を濃くして全てを覆っていく。
『あの人が死んだのなら、もう彼は私のものだと』
視界が徐々に暗くなり、意識も沈み込んでいく。
『彼は私が連れて行くのだと、そう願って姉は消えました』
闇に近い程の青の中で、陸の鱗がちかちかと銀色に光った。
海妖はその情の深さ故に、一度愛を誓うと永遠になると聞いたことがある。
『ずっと、待っていたんです』
その言葉を最後に、紫苑たちは完全に意識を失った。
そして王は宮殿内から忽然と消え、紫苑は玉座へ就くこととなる。
彼は常に短剣を携え、賢王として後生までその名を残した。
歴史書にはなぜか彼は即位後、海には決して近づかなかったと記録されているが、今はその理由を知るものは誰一人いない。
***
えーと・・・微妙な代物を書いてごめんなさい。後書きは言い訳がましくなったので以下反転です。
童話を使って話を作ろうと思ったのです。で、なんとなく人魚姫をチョイスしたまではよかったんです。最初はヒルまもでやろうと思ってたんです。そのうち「ああそういえば陸の誕生日近かったよね」という思いつきで陸を入れて、どうせなら西部でしょう、とキャラを当てはめていったら、どうやっても・・・悪い王様が・・・ああごめんねハジメパパ!! 役どころで鉄馬も喋るし、なんだかパロディにも程がある。大体陸って名前なのに人魚ってどうなの! 誕生日も祝ってないし! 最初に書こうとしたのとはまったく違う話になってしまいました・・・。
でも収まりよかったので出すあたりが本当に貧乏人気質です。
白亜の宮殿、その一室。
王のそれと比較するとかなり小規模の謁見の間にしつらえられた長椅子。
そこには上質の絹の衣装に身を包んだ青年が座っている。
名を、紫苑という。
目の前には悪趣味な身形をしたいかにもな商人が豪奢な宝石付きのネックレスを前に熱弁を振るっていた。
ぐだぐだと熱心に説明を続ける男の前で、青年は姿勢を崩し、終いには長椅子に横たわってだらだらしている。
人形と見間違うほどに姿勢を崩さず立っていた男は、青年の興味のなさを汲み取って口を開いた。
「もう結構です。お引き取り下さい」
「え」
自分では確実にこの品を売りつけられると踏んでいたのだろう。熱を帯びたセールストークを途中で打ち切られ、商人はどうにか続きを喋ろうと細切れに単語を繰り出すが、傍らの男、執事である鉄馬が口を開いたことによって側にいた近衛兵が商人を外へと連れ出していく。
「興味がおありでないなら、このようなことはおやめになればよいのに」
「いや、だってさぁ、父さん命令だし」
さらさらとした前髪を掻き上げ、手にしているリストを興味なさげに見る。
そこには古今東西で見つけられた興味深い代物を持っているため王にお目通り願いたい、と切望する商人たちの名が連なっている。
現王には少々悪い癖がある。それは興味深い物を見つけるとコレクションしたくなるという癖だ。
元より収集癖はあったようだが、妻である后を失ってからそれが顕著になった。
それは物に限らず人も含まれるため、気に入られると側室への道も開ける。今回はたまたま商品を売りつけるだけに熱を燃やす側だったため違ったが、あからさまに目的をはき違えた輩も沢山やってくる。
開かれた王政を目指しているこの王国は、職業などで王宮を訪れる人を制限してはならないと大々的に謳っているので彼らの締め出しは原則としてできない。
しかし商人や側室目当てが大挙して押し寄せ続けては国民の信頼も揺らぎかねない。
そこで苦肉の策として、まず王子が品定めをした後に王へと取り次ぐ形をとることにした。本物を見極める目を持つには今から練習するべきだ、というあからさまにやっかいごとを押しつける気満々の父の周囲の者たちにため息が出る。
「でも、まあねえ。俺としても父さんにこれ以上国庫に響く悪政はさせたくないもんねぇ」
「紫苑様の目は確かですから」
「褒めても何も出ないよ、鉄馬」
二人して苦笑しながら次の者を呼ぶ。
と。
ぺた、ぺた、と裸足で歩く音がする。
海が近いこの国では裸足は珍しくないが、宮殿内ではあまり聞き慣れない音だ。
潮の香りを強烈に引きつれて、扉が開く。
「…あの」
おずおずと姿を現したのは、銀髪の少年だった。
紫苑と鉄馬の心情が一致する。
やばい。
これは間違いなく現王のツボにはまる好みの顔だ。
彼が何を持ってきていても、きっと王は関係なく彼を手元に置きたがるだろう。
一刻も早く、彼を逃がしてやらねば。
紫苑と鉄馬は素早く眸を交わす。
「甲斐谷陸さんですね」
鉄馬が名を確認すると、彼はこくりと頷く。
「えーと、何を持ってきてくれたのかな」
「海で拾ったので、これを」
手にしていたのは短剣。
美しく宝石が嵌め込まれた、繊細な作りの美しい品物だ。
これは文句のつけようがない一級品で、更に悪いことにこの王族の家紋が彫り込まれていた。
「王族の家紋もありましたし、こちらへお返しした方がいいと思ったのです」
「そりゃあありがとう」
へら、と紫苑は笑った。そのまま売って生活費の足しにしてしまえばよかったのに、とも思ったが、少年は身形がよく、裸足であるところ以外は品さえ感じられたのでそんな考えはなかったのだろう、と結論づけた。
「じゃあ受け取るよ。謝礼はいくらがいい?」
こうなったら金で解決するに越したことはない。そう思って金額を求めたのに、あろうことか少年は一番危惧していたことを口にした。
「王様に直接お渡ししたいので、お目通り願いたいのです」
「…」
「あー…」
「なにか不都合がありますでしょうか」
どうあってもこの少年、自ら不幸に飛び込みたいのだろうか。
鉄馬も色々考えているようだが、理由もなく無下に投げ出すこともできず、無表情ながら額に汗が光っている。
「君、逃げ足は速い?」
「は?」
「本気でマズイと思ったら逃げられる?」
「それって、王様にお目通り願うのとなにか関係が、」
「いいから答えて。足は速い?」
鬼気迫る紫苑の顔に気圧されながら、陸と呼ばれた少年はこくりと頷く。
「じゃあこっちに来て」
王子が立ち上がる。いざとなったらこの少年を庇ってやろうという気持ちで。
そしてそれを補助すべく、鉄馬もその後に従った。
何度来ても趣味が悪いとしか言えない玉座に、退屈を顔に貼り付けたような王が座っている。
「おおー! これは綺麗な少年だね!」
そして陸を見るなりそうのたまった王に、紫苑は頭が痛くなった。
この男、過去には海を渡って旅をした射撃の名手であるらしいのだが、今は見る影もなく権力に溺れた空気を醸している。
「王様、ぜひこれを御覧に入れたくてお目通り願いました。どうぞお手にとって下さいませ」
「ん? それならこちらに来なさい。大丈夫だ、何もしないから」
お約束の台詞に思わず懐の銃の位置を確かめた紫苑の隣で、鉄馬も紫苑の指示を待って今にも飛び出さんばかりだ。
「では失礼致します」
す、と足を玉座へ向かう階段へとかけたかれの足がちらりと見える。
すんなりとしたふくらはぎに、何か見慣れないものがあった気がする。
あれは。
人にはないはずの、鱗。
「うーん、見覚えがない剣だねえ」
「ご存じないですか?」
「ああ、残念ながら。とてもいい品物だけれど、私のものではないようだよ」
「そうですか」
嫌な予感が背筋を駆け抜けたが、足はぴくりとも動かなかった。
何か人為的な力が働いているかのように。
視線だけで隣の鉄馬を伺えば、彼も驚愕の表情で自らの足を見つめている。
てつま。
彼の名を呼ぼうとしたのに声も出ない。
「でも君の顔は綺麗だね。そう…昔見たことが、あるような…」
「そうですか。俺は姉に似ているそうです」
「姉君か。さぞ美しいのだろうね」
陸は笑ったようだった。そうですね、と軽く頷いて短剣を撫でる。
愛しげに。
「これは、姉が貴方を殺すために手にしたナイフなんですよ」
そして銀色の光が閃いて。
「ぐぁッ!!」
短い断末魔が玉座から聞こえてきた。
「…父さん?」
紫苑の喉から絞り出された声に、陸は振り返る。
その眸は深い藍色をしている。この国を囲む海のような深い藍色。
玉座からこちらへと降りてくる彼は返り血の一滴も浴びていない。
驚くべき事に背後の玉座には、死体はおろか、誰の姿もない。
その玉座の背に、あの短剣が深々と刺さっているだけだ。
波の音がする。
どこからともなく細い歌声が聞こえてきた。
『待っていたわ』
『このときを』
『待っていたわ』
『愛しい貴方』
そして室内が一杯に海で満たされる幻に、二人は包み込まれた。
長い髪を揺らして大海原を泳いでいく一人の人魚。
嵐の夜に船から投げ出された青年を助ける彼女。
そして魔法使いに願い、声を失い足を得て、青年の元へ。
けれど傍らには既に彼女ではない女性の姿。
ああ。
あれは。
(…母さん)
若かりし頃の紫苑の両親二人の姿は幻の中でも一際煌めいて見えた。
そして隣に並び立てず、声を上げて泣くことも出来ない人魚の悲しい表情もはっきりと。
彼女が宴から抜け出し、帰ることの出来ない海に涙をこぼすと、その水面によく似た面差しの女たちの姿。
そして投げ込まれたのはあの短剣。
彼女はそれを手に、青年の寝所へと忍び込む。
震える手で、短剣を握りしめて。振りかざし震えて、けれどそれも叶わなくて。
短剣を握りしめたまま彼女は朝日が差す海へとその身を投げ出す。
泡になる間際、何事かを祈るように手を握り合わせた。
見覚えがある。そう、あの顔は。
水の幻の向こうで、陸が立っている。
その足に見えた鱗はもうつま先まで覆い尽くし、足の形状ではなくなり始めている。
彼は何を対価にして足を得てここまで来たのだろうか。
そしてなぜ今まで来なかったのだろうか。
疑問に答えることもなく、彼の姿が揺らぐ。
目的を果たし、海へ帰るのだ。
『姉が死に際に願ったんです』
幾分先ほどより低い声が二人の耳朶を打つ。
『あの人が生きている間は、彼がこの世にいる間は、彼をあの人に預けるけれど』
海の幻がその色を濃くして全てを覆っていく。
『あの人が死んだのなら、もう彼は私のものだと』
視界が徐々に暗くなり、意識も沈み込んでいく。
『彼は私が連れて行くのだと、そう願って姉は消えました』
闇に近い程の青の中で、陸の鱗がちかちかと銀色に光った。
海妖はその情の深さ故に、一度愛を誓うと永遠になると聞いたことがある。
『ずっと、待っていたんです』
その言葉を最後に、紫苑たちは完全に意識を失った。
そして王は宮殿内から忽然と消え、紫苑は玉座へ就くこととなる。
彼は常に短剣を携え、賢王として後生までその名を残した。
歴史書にはなぜか彼は即位後、海には決して近づかなかったと記録されているが、今はその理由を知るものは誰一人いない。
***
えーと・・・微妙な代物を書いてごめんなさい。後書きは言い訳がましくなったので以下反転です。
童話を使って話を作ろうと思ったのです。で、なんとなく人魚姫をチョイスしたまではよかったんです。最初はヒルまもでやろうと思ってたんです。そのうち「ああそういえば陸の誕生日近かったよね」という思いつきで陸を入れて、どうせなら西部でしょう、とキャラを当てはめていったら、どうやっても・・・悪い王様が・・・ああごめんねハジメパパ!! 役どころで鉄馬も喋るし、なんだかパロディにも程がある。大体陸って名前なのに人魚ってどうなの! 誕生日も祝ってないし! 最初に書こうとしたのとはまったく違う話になってしまいました・・・。
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鳥(とり)
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性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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