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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ようこそ、我が世界へ

(ヒルまも一家)

+ + + + + + + + + +

実は、これは母さんやアヤや護も知らないことなんだけれど。
俺と父さんにはちょっとした秘密がある。 

あの時、俺はまだ小学生だった。
アヤが、体の調子がおかしいと母さんに言っていた日の夜、夕飯に赤飯が出たときのことだ。
多分、初潮が来たっていうんだろう。
母さんは嬉しそうだったし、アヤはどうでもよさそう(むしろ面倒くさそう)だった。
そんなアヤの様子を、珍しく何も言わず父さんは観察していた。
見ている、っていうより観察っていう表現が一番しっくりくる。
そしてそんな日が二、三日続いたけれどその後は普通に戻った。
一体なんだろう、と訝っている俺に父さんは何も言わなかったけれど。

その数ヶ月後、ある日を境に、俺の『目』は変わった。

「やっぱりお前に出たか」
「・・・やっぱりって、父さん、知ってるの」
俺はぼろぼろ涙をこぼしながらこちらを憐憫の目で見る父さんを見上げた。
目が覚めるなり目に違和感を感じた俺は、なぜかその日に限って俺を起こしに部屋に来た父さんを目にした途端、悲鳴を上げたのだ。
その直後、俺は父さんに連れられて外に出て、気が付いたら人気のない郊外の公園に連れ出されていた。
どこなんだ、ここ。
でも今重要なのはそんなことじゃない。
父さんがなんとなく楽しそうだったり残念そうだったりするのを感覚でわかることがあっても、目で見て判ることなんてあんまりなかった。
でも、今の俺はそれがしっかり見える。
見えてしまう。
「まあな。アヤの目は姉崎の色だったから、お前に遺伝したんじゃねぇかとは思っていた」
俺の目は父さんと同じ黒。確かに母さんやアヤとは違う。
「見えるんだろ、今まで見えなかった『色』が」
「その『色』ってなんなの?」
涙の混じった声で問うと、父さんはため息の後に教えてくれた。
「命の色」


なんでも、父さんの家系にはこういった特殊な『目』を持って生まれる人がいるという。
事実父さんもそうなのだと教えられた。
「命だからな、当然人のだけじゃねぇ。ありとあらゆる生物にあるものが全部見える」
「全部・・・」
「この場所で見ても判るだろ」
「うん・・・」
公園といえども、だだっ広い野原に点在する落葉樹が数本。特に派手な色彩の花や木々があるわけじゃない。
なのに。
俺の目には、今、ここはまるで極彩色の絵の具をぶちまけたような派手なものにしか見えない。
それはここにある植物の、生命を謳歌する喜びの色なのだと教えられなくても判る。
だからこそこの場所を選んで連れてきたのだろう、とも。
「父さんなんて眩しくて見てらんないんだけど」
横の父さんからの刺激が強くて、涙が止まらない。
どこから出したか知らないけれど、父さんは俺にタオルを寄越した。
「そのうち慣れる。俺もお前ら最初に見たときは眩しかった」
「そんなものなの」
「そんなもんだ」
人の命の色そのものは白いけれど、感情を伴えば色が変わっていくのだという。だから人はいろんな色が混在して見えるらしい。
感情があるのかないのか判らない父さんはやっぱり色も薄くてただただ眩しい。普通の人なんかはもっと派手に見えるが、眩しくはないらしい。
「これ使え」
ぽい、と渡されたのは『脅迫手帳』とおどろおどろしく書かれた黒革の手帳だった。
その悪名は母さんからよくよく聞いている。そして俺がそれを嫌っていることも父さんは知っているはずではないか。
「お前の目は、もう元には戻らねぇ。見たいもんも、見たくねぇもんも、全部見える」
「・・・それとこの手帳と、どう関係があるの」
「それはお前らを守るためのものだ」
「?」
ページを捲ってみたが、どこを見ても白紙。どうやら新品を用意したらしい。
「アヤはその『目』を持っていない。お前がそれを使って自分とアヤを守れ」
「使えって言ったって、白紙じゃないか」
「少しは頭も使え。もし他人から危害を加えられたらお前はどうする」
「どうって」
「言っておくが、アヤもお前も大概の奴らにむざむざやられるとは思ってねぇ。全く不測の事態で加えられた危害だとして、だ」
「えーっと・・・説得する? あ、危害を加えられてるんだから怒って問いつめるのかな?」
途端に父さんは大きなため息をついた。
「お前、そこの辺りは本当に姉崎そっくりだ」
「だって親子だから」
「その切り返しまで似すぎだ」
そうじゃなくて、と父さんは口を開く。
「わざわざこちらから手を出さなくても、手帳を開いて後ろ暗いところの感情にハッタリかませばどんなヤツにでも効く」
「後ろ暗いところの感情ってどうやって読むの?」
「それくらい状況から読み取れ」
「・・・うん」
人の機敏には元から聡い方だから、多分そんなに困ることはないだろう。ポーカーはアヤにだって負けないし。
俺は止まらない涙をそのままに、父さんの方へ顔を向ける。
眩しくて目が痛かったけれど、聞いておきたいことがあった。
「父さん、こんな世界に一人でいたの? これは母さんも知らないこと?」
「ああ」
母さんにも言えないこの『目』のこと。
まだ見えるようになって数時間だけど、きっと一人だけ人と違う物が見えるのは辛い日々だったに違いないと簡単に推測できた。
「辛くなかったの・・・?」
そう尋ねると、父さんの色が変わった。どことなく嬉しそうな色だ。
「辛くはなかったな」
俺の頭に父さんの大きな手が乗せられる。わしゃわしゃと撫でられた。
「いいものが見られたからな」
それはとても小さな呟きだったけれど、この上なく優しい響きだった。
父さんは俺の正面に立ち、ひどく芝居がかったような動きでゆったりと腕を広げて、言った。
「Welcome to my world!」


この『目』が父さんにもたらした恩恵を、俺もこの先受けることが出来るのなら。
父さんが見たという『いいもの』を俺も見ることが出来るのなら。

案外この二人だけの世界も悪くないのかもしれない。 

***
パロディなんだから、という免罪符を持ってヒル魔さんと長男妖介くんには不思議な力を持って貰いました。
お好きでない方はすみません。お父さんと息子の二人だけの秘密、というのがとても微笑ましくて好きです。

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