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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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冬色バケツ

(ヒルまも)



+ + + + + + + + + +
冬の海は閑散としている。
どこか重い色の雲がたれ込める空は、もう少し経てばその身を崩して雪を振りまくのだろう。
まだお昼だというのに、気温が上がらず、吐く息は白く凝る。
打ち寄せる波が飛沫を上げるのを見つめながら歩くまもりの視界に、ぽつんと防波堤に座る人影を見つけた。
釣り糸を垂れるその姿がぴくりともしないので、気になって近寄ってみる。
そうすると、それは人形などではない壮年の男性なのだとすぐ知れた。
頭には帽子、口元はマフラーで覆い、目元だけを風に晒して座る姿は、さながら何かの修験者のようでもある。
近寄ってくるのがうら若い女、それもこのあたりにはいないような美人である事に、男は少し驚いたかのようだった。
まもりはにこりと笑いかける。
「こんにちは」
「・・・ああ」
無愛想な返事でもそこに拒絶は感じず、まもりは更に近寄る。
ぱしゃん、と波以外の何かが弾ける音。
男性の傍らにあるバケツから発せられた音だ。
「釣れますか」
「まあまあ、だ」
指さされたバケツには、黒い影が三つ入っていた。
種類は判らないが、まもりの手のひらよりも大きい。
「これ、なんていう名前のお魚ですか」
「さあ」
明確でない言葉に、まもりは顔を上げる。
男はまもりをからかっているわけでもなく、じっと海を見ている。
「食べたら旨い、とだけ知ってる」
「そうですか」
まもりはまたバケツに視線を移す。
ふいに水音。
そうして、男の手から産み落とされたかのように、もう一匹魚が放り込まれた。
新参者に驚いたのか、先ほどまでとは違い、勢いよくぐるぐるとバケツの中を巡る影。
「これは美味しいんですね」
「今はそうでもない」
「え?」
男は店じまいだと言わんばかりに釣り糸を巻き取り、道具をしまい始める。
釣り竿を分解しながら、不思議そうなまもりをちらりと見た。
「今は、まだ混乱している」
「混乱?」
「落ち着くまで待たないと、味も落ち着かない」
そう言われても、まもりには魚が怒っているかどうかなんて全く判らない。
道具をしまい終え、男はバケツに手を掛ける。
「喰われる覚悟が決まったら、旨い」
「それは、いつ決まるんですか」
「さあ」
男はやはり明確に答えず、そうして静かに立ち去る。
吹きすさぶ風に好きなように嬲られながら、まもりはその背をただ見送った。
一人きりになって、空を仰ぐ。
獲物を捕らえ、逃げられないようにし、覚悟が決まるまで待つ姿はあの男のようだ。
まもりもあの魚たちも、結局のところ食べられる以外の選択肢はない。
それでもまもりはバケツに入れられていないし、今のところこうやって自由に動き回れる。
不意に視界に影が過ぎった。
「なんでンなとこに来てんだよ」
「ヒル魔くん」
視線を向ければ、そこには平素と代わらないヒル魔の姿。
誰にも告げずに来たはずなのに、彼に掛かればまもりの行方などあっさりと判るのだと思い知らされる。
そして気づく。ヒル魔にとっては世界も狭く、バケツのように見渡せるほどでしかないのかもしれない。
まもりが自由に動き回れると思っていても、所詮は彼のバケツの中なんだろうか。
「入水自殺でもご希望デスカ」
からかう声の裏側に、密やかな心配を感じ取る。
それさえも仕掛けなのだとしたら、もう諦めて引っかかるしかない。
まもりは嘆息する。
そして近寄ってきたのに触れる一歩手前で足を止めた彼を見つめた。
「覚悟を決めに来たのよ」
まもりは静かに笑みを浮かべ、ゆっくりと手を伸ばす。
空からはついに雪が降り出した。


もうとうの昔につり上げられてバケツに放り込まれて、ずっとずっと混乱して暴れていた心は、たった今。
くるりとバケツを一回りして、覚悟を決めて、落ち着いた。


***
冬の海、人がいなくていいですよね。夏の人混みはよう好かんです。
それよりもタイトル、もう少し何とかならんもんか・・・(苦)センスが欲しい。
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