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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ハンド・イン・ハンド

(ヒルまも)
※リクエスト作品


+ + + + + + + + + +
足音を立てずに歩く隣の男。
喧噪の中であればそれも奇異ではない。
人混みの中を、まもりはヒル魔と共に歩いていた。
普段から相当の早足で、彼の隣を歩くのは体力がいる。
時々、着いていくのがやっとになることもある。
まもりはつかず離れずの距離でいる彼を見ようとして、やめた。
視線を向けても彼は大概前を向いているだけで、よそ見なんてしない。
自分のやりたいこと、したいこと、欲しい物、そういった物は彼の前にしかない。
そういう彼を好きになったのだから、隣に興味がないことだって重々承知している。
荒くなる息、汗ばむ背中に密かに眉を寄せる。
隣の男は表情一つ変えずにガムなんて噛みながら歩いているのだろう。
人の合間を縫って歩くような彼に着いていくのがやっとだけれど、不意に彼は足を止めた。
見れば目の前はスクランブル交差点で、信号が赤になっている。
ほっと息をついて額の汗に気づく。
ハンカチを取り出して拭いながら、ため息。
いくら綺麗に化粧をしても、すぐに汗で浮き上がってしまうから、あまり甲斐がない。
かといって手抜きをするのも嫌だが、彼といる限り、真っ当な顔なんて見せられないのかもしれない。
一番好きな相手に綺麗な姿を見て欲しいという乙女心は彼には理解できないだろうし、説得する気にもなれない。言っても無駄だ、という気持ちになるのが時折たまらなく切なくなる。
まもりは交差点の向かいにいる人影に視線を向ける。
背の高い、穏和そうな男性が笑顔で恋人の手を握っている。
信号が変わり、人並みが動き出しても、彼は彼女のペースに合わせてゆっくりと歩いている。
羨ましい。
恋人に、あんな風に優しくして貰えたらどれだけ嬉しいだろうか。
ふと視線を向ければ誰も彼もが笑みを浮かべ、手を繋いだり腕を組んだり、そこまでしなくても同じ速度で歩いている。

もし、隣にいるのがヒル魔くんじゃなかったら、私は。

まもりは一瞬、隣にヒル魔がいることさえ忘れかけた。
だが。
「オイ」
ぐい、と腕を引かれてまもりは前につんのめった。
「きゃっ!」
慌ててバランスを取り、顔を上げるとそこには不機嫌そうなヒル魔の姿。
「ちんたら歩くんじゃねぇ」
どうやら彼はまもりを追い抜き一歩先に進んでいたらしい。
「よそ見してる暇なんてねぇだろうが」
「暇って」
まもりは小首を傾げる。
確かに彼の隣にいると、隣を歩くのに精一杯で周囲の人ごみにまで注意を払うことはしない。
時折ウィンドーで目を奪われるような時には察してヒル魔も足を止めたりするから。
この立ち位置は至極珍しいけれど、暇とは違うだろう。
不機嫌そうな顔のまま、ヒル魔が口を開く。
「浮気するんじゃねぇよ」
「う、浮気?!」
彼の口から飛び出した言葉に、まもりは驚き声を上げる。
「なんで浮気なんて言うのよ! そんなことしてません!」
「いーや、確かにテメェは浮気した」
それも今、と言われてまもりはますます困惑する。
「してないわよ! 今って言ったって、歩いてただけじゃない!」
人混みの中、突如勃発した痴話喧嘩。
しかも一人が美女とあって皆が足を止めようとするが、正面にいるのが悪魔のような外見の男だと知るとそそくさとそこを避けて行く。
ぽっかりと不自然に開いた空間で、二人は睨み合う。
ヒル魔は捉えていたまもりの手を強く引き、抱き寄せる。
「ちょっ・・・」
ぐい、と強引に顎を引き上げられて触れた唇。
いいように貪られて、抗議するように掴んだ彼の袖口を引いても、彼は離れない。
まもりの手から力が抜けたのを見て取ったヒル魔は、その手を掴んで再び歩き出す。
先ほどよりは緩やかな速度で。
あっという間に二人は人混みに再び入り込む。
足をもつれさせ、濡れた唇をハンカチで拭いながらまもりは繋がれた手から徐々に上を、彼の顔を、見た。
ヒル魔はそこはかとなく不機嫌そうな表情のままで。
でも、目はこちらを向いている。
ちらりと寄越される視線にはからかいや冗談のような軽さはなく、じっとりと重い苛烈な感情が滲んでいる。
「気が浮つけば浮気だ」
さっきのテメェはそうだっただろう、と言われる。

それにまもりは。

横暴な発言をしないで、と詰るよりも。
公衆の面前でキスするなんて、と怒るよりも。

繋がれた手と、速度を落とされた足取りと、ちゃんとまもりを見ている事実とに、顔が火照るのを止められない。
浮気なんて許すはずねぇだろ、という舌打ち混じりの苦言に滲む嫉妬。
「じゃあ、浮気させないように手はちゃんと繋いでよ」
繋ぐと言うより掴まれている現状に声を掛ければ、その手が緩む。
もう一度触れさせようとした指はヒル魔のそれと絡み合う形になって。
「あ」
これは、いわゆる恋人繋ぎというものではないか。
「ご不満デスカ」
からかう声にまもりは思い切り首を振る。
「ううん!」
不服を溜め込まず、口にすればちゃんと応じてくれる。
言ってもいいのだと、そう思わせられて、まもりの表情がふんわりと笑みに彩られる。
その青い瞳が自分だけを映しているのを見て、ヒル魔は楽しげに口角を上げたのだった。


***
桃花様リクエスト『まもり浮気疑惑に激怒するヒル魔』でした。・・・まず浮気をヒル魔に気取らせることなくするのは無理だろうし、ばれるの覚悟でのめり込むのならもう浮気じゃなく本気だろう、と思いまして。それならよそ見したくらいで浮気だと文句を言うヒル魔さんかわいいんじゃないかな、と思った次第です。ハイ。リクエストありがとうございました~。

桃花様のみお持ち帰り可。
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