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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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うわさ(下)



+ + + + + + + + + +
部活が終わり、皆がぞろぞろと連れ立って帰る中。
「おい糞マネ、残業だ」
「残業!?」
どさ、と音を立てて積まれたファイルにまもりは顔を引きつらせる。
「え、沢山あるんですか?」
「俺たちも手伝った方がいいっスか?」
「やー、あたしも手伝うよ?」
まもりと一緒に帰ろうとしていたセナ達が手助けをしようと近寄るが。
「ンな大量じゃねぇ。糞マネなら一時間もしねぇで終わる」
「え、でも結構量がありますけど・・・」
「テメェらにはな」
テメェらが手伝ったら逆に時間掛かるぞ、というヒル魔の台詞にセナたちは顔を見合わせる。
「うん、たぶんこれなら一時間くらいで終わるわ。大丈夫よ」
まもりは既に新しいフォルダを取り出し、目算で時間配分をしている。
アナログ部分ならもうこれは才能では、というくらい素早く仕事を済ませるまもり。
下手に手伝いの連中に途中で説明しつつ進める方がよっぽど遅くなる。
「でも、あんまり遅くなったら危ないよ?」
「そうそう、最近夜はこの辺も物騒だって言うっスよ」
きゃいきゃいと心配する一年生達にヒル魔は眉を寄せる。
「俺以上に物騒な奴がいるか?」
的確なツッコミにセナとモン太の目線が泳ぐ。
「・・・いや、いませんけど」
「そりゃいませんけど・・・」
どうにも言いよどむ彼らがちらちらとヒル魔とまもりを見比べている。
「ねえ、じゃあまも姐のこと妖兄が送ってくれるの?」
「ア?」
「一人で夜道は危ないでしょ?」
それにヒル魔は何を今更、という気分で頷く。
「じゃあ安心だね!」
笑顔を浮かべる鈴音に対し。
「・・・安心、かな?」
「安心・・・」
セナとモン太が不安そうに顔を見合わせる。
一体何でそんな顔をされるのか、とヒル魔は視線をまもりに向けた。
赤い。
・・・なんだその糞赤い顔は。酒でも飲んだのか、と言おうとして。
「二人だけで残るんですか?」
「ア?」
セナの心底心配そうな声に、まもりが座ったまま僅かに飛び上がるという器用な芸当をしてみせた。
練習後、二人きりで、残務整理。
そんなことはいつものことで、遅くなったまもりをヒル魔が送るのもそう珍しいことではなくて。
それなのにこんなに心配されて、更にそれにまた、過剰にまもりが反応していて。
ヒル魔の脳裏に、まもりがぎこちなく笑みを浮かべた瞬間の場面が浮かぶ。
二人で話していたとき。視線が合ったとき。帰路に就くとき。
その全てで近くに他の部員がいた場合に、まもりはぎこちなく笑みを浮かべた。
どこか戸惑うような、困ったような。
二人だけの時は平然としているのに、部員達の視線があると知った瞬間にそれだ。
ヒル魔の脳裏でここまでのまもりや部員達を含めた出来事や発言がようやっとまとまった。
「・・・ホー」
「やー?」
ヒル魔の呟きに小首を傾げる鈴音は、そういえばあの爆弾発言をした時に部室にいなかった。
他の誰もその発言があったと彼女には言っていないのだろう。
だから他二人とは反応が違うのか。
にたり、とヒル魔が悪魔の笑みを浮かべる。
「一体何を心配してるか知らねぇが―――」
ヒル魔はガシャコ、と銃を持ち上げ薬莢を飛ばす。
「テメェらさっさと帰って宿題やって風呂入って糞して寝ろ!!」
「ひぃいいい?!」
「ムッキャァアアア?!」
「やー?! きゃー?!」
ガガガガガ、と本日二度目の銃乱射が容赦なく三人を襲う。
普段的になったことのない鈴音まで狙われ、悲鳴を上げて逃げまどった。
「糞ッ!!」
「な、ちょっと!?」
悲鳴を上げて飛び出していく三人に中指を立てるヒル魔に、まもりは慌てて立ち上がろうとしたが。
「ったく。今更言ったこと後悔してんじゃねぇよ、糞マネ」
こちらに視線を向けないままのヒル魔の台詞に、まもりは絶句して椅子に戻る。
「・・・な、に」
「おおかた『他のみんなにヒル魔くんと二人だけでいるところ見られたくない!』ってとこか」
「!!」
まもりは再び真っ赤になる。
ヒル魔はくるりと振り返ると、にやりと笑みを浮かべた。
「『あんなことみんなの前で言っちゃうなんて、はしたない・・・みんな、私たちのこと、どう思ってるんだろう』」
器用に声マネまでするヒル魔に、まもりは詰まる。
「う・・・」
「判りやすいな、糞マネ」
くっくっ、と喉の奥で笑われ、まもりは涙目になる。
「そのくせ俺と二人でいる分には平然としてやがるし」
よく判らない思考回路してやがんなぁ、とヒル魔は苦笑混じりでその頭をごしゃごしゃと撫でる。
まもりは涙を溜めたままヒル魔を見上げた。
「だって、は、恥ずかしいじゃない!」
「ナニガ?」
「私とヒル魔くんが、その、そういう関係、って思われて・・・」
「それは恥ずかしい事なのか?」
「や、だって! 実際、私たち、まだ・・・」
まもりはわたわたと手を藻掻かせて言いつのろうとする。
その様にヒル魔はふん、と鼻を鳴らして腕を組んだ。
「遅かれ早かれいずれそうなるだろ。どうせ色々噂されるのはヤる前でも後でも変わらねぇぞ」
今から慣れておけ、という台詞にまもりは食ってかかる。
「わ、私はヒル魔くんみたいに心臓に毛が生えてる訳じゃないの!」
「なら、今からヤるか? 噂どおり、アイツらの考えてるとおりの関係になるぜ」
「っ!!」
びく、とまもりは身体を竦ませる。
その反応をヒル魔はぴん、と片眉を上げて見下ろす。
「無理だろ」
あっさりと現状のまもりでは一線を越えられないだろうと言い放つ。
実際惚れた女を抱けないのは拷問だ、とまで零した彼の言い分にしては随分とあっさりしているようで、まもりは戸惑ったように声を上げる。
「あ、の・・・」
「他人がどう思ってるかなんて構わねぇだろうが」
まもりはぱちりと瞬いた。
「噂に振り回されるなんざ、くだらねぇ」
ヒル魔はケケケ、と笑って自席へと戻る。
パソコンを開いて画面を覗き込む彼はいつも通りで。
「おら、さっさとそれ終わらせて帰るぞ。糞チビどもが心配してたしナァ?」
揶揄するような言葉も平然としていて。
一人だけ振り回されているようで、まもりは僅かに唇を尖らせる。
それからふと思いついて、立ち上がった。
「おい?」
物音にヒル魔がこちらに向いたのを、いいことに。
まもりの唇がヒル魔のそれと重なった。
一瞬のうちに離れて、まもりは呆気にとられたようなヒル魔の表情に溜飲を下げる。
「私だけ振り回されてるなんて不公平だもん!」
「・・・ソウデスカ」
それにヒル魔はぴん、と片眉を上げて口角を上げる。
そして内心で呟いた。
噂なんて不確定な要素なんかじゃなく、目の前で俺を振り回すテメェの方がよっぽど質が悪ィんだがな、と。


***
こころ様リクエスト『プシュミ・プルシュの続き』でした。きっとあんな爆弾発言した後はいたたまれなかろうよ、という発想から生まれました。この二人が一線越えるのはいつだろうなあ・・・。発想するまでは長かったですが、浮かべばあっという間に書けましたwリクエストありがとうございましたー!!

こころ様のみお持ち帰り可。
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