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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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デビル・コントラクト

(ヒルまも)
※『とても優しい殺人』の時間軸で白秋戦の骨折舞台裏。



+ + + + + + + + + +
まもりの手の中で、テーピングが弄ばれている。
おもむろに彼女はその切れ目に爪を立てる。
ビ・ビーッ!
テーピングを勢いよく引っ張る音。
それを千切るブチッという音、次いで響くのは平手にも似た音。
パシン!
「ッ」
思わず呻く様子に、溜飲を下げる。
まもりがテープを貼ったのは、こちらには背を向けて座る男。
汗を滲ませたヒル魔の肩だった。
「丁寧に扱え」
「生憎とアナログ人間なので、精密機械を扱うようには出来てないの」
再びテープを引っ張る音。
「この扱いが不満なら、誰か呼んだら?」
視線も向けずに言い放つと、響くのは小さな舌打ちの音だけ。
「出来ないでしょ」
ちろりと流される苛烈な視線にもまもりは嫣然と笑う。
それは、彼に出来る些細な抵抗。
ギッチギチにテーピングで固めろ、と言われた腕はあからさまに折れ、酷く腫れている。
素人目で見ても折れている腕を無理矢理固定してまでフィールドに送り出さないとならない己の立場が厭わしかった。
今のまもりは、従順に働くことを求められるマネージャー。
ただの友人や仲間であれば泣いて止められただろうか、と埒もないことを考える。
「どぶろく先生ならもっとちゃんと固められるかもよ」
素人のまもりよりは経験の長いどぶろくの方が上手に固定できるだろう。
そう思って口にしたが、ヒル魔は答えずまもりが巻いたテーピングのままで無理矢理ユニフォームを身につけ始めた。
プロテクター一つとっても紐や留め具が多く、今の彼では全く作業がはかどらない。
まもりはため息を押し殺して、彼の着替えを手伝った。
ユニフォーム姿になり、殊更平然そうに振る舞おうとするのが傍目から見てもよく判る。
涙に歪むその背をじっと見ていると、不意に彼が振り返った。
「今すぐ泣き止め」
「・・・無理」
まもりの瞳から溢れる涙は、彼の痛み、彼の苦悩。
そしてまもり自身の、彼の抑止力に成り得ない脆弱さを歯がみする意味の涙もある。
「時間がねぇ」
「わかってる、けど」
まもりはタオルを瞼に押し当てる。
擦って腫れ上がる無惨な顔では、泣きやんでも意味がない。
どうにか押しとどめなければ。
ヒル魔の舌打ちが、再び響く。
そして、無傷の左腕がまもりを引き寄せる。
「・・・!」
彼の唇が触れたのは、まもりの涙にまみれた頬。
音も立てずただ触れただけのそれに、まもりは目を見開き硬直する。
「な、な・・・何してるの!?」
「止まっただろ」
「え?」
涙、と言われてまもりは一つ瞬いた。
睫に絡んでいた雫が一つ落ちたが、新たな涙は出てこない。
「テメェの涙はクリスマスボウルまで取っておけ」
当たり前のような勝利宣言。
「・・・今、何点差になってるか判らないのに」
かわいくないことを呟くまもりに、ヒル魔がにやりと笑う。
「糞チビどもが壊されるっつー最悪のケースじゃなけりゃいくらでも取り返してやるよ」
それは彼が大事にしてきた右腕の怪我があってなお、自信に満ちた笑みで。
「どこからその自信は湧いてくるの?」
「約束したからナァ」
「約束?」
「悪魔は約束だけは守るんだよ」
言いながらも彼のこめかみから顎へと汗が滴る。
痛みを堪えている彼の、唯一自然な反応。
「・・・じゃあ、一つ約束して」
「ア?」
「・・・絶対、私を―――ううん、私たちをクリスマスボウルへ連れて行って」
涙の膜を落としたまもりの青い視線がひたりとヒル魔に向けられる。
しばし音がしそうな視線の交差が続き、まもりはヒル魔に左手を差し出す。
「指切りして。絶対勝つって約束して」
約束があればもっと強く在れるんでしょう? そう言下に伝えるまもりに、ヒル魔は口角をつり上げる。
「いいだろう」
触れ合った指先。ヒル魔の手は異様に冷たかった。
けれどまもりは頓着せず、彼の小指を己のそれと絡めて更にその上に自らの右手を被せる。
振動を与えないように気を付けて、まもりは己の額に絡め合った手を押し当てる。

どうか、どうか。
この悪魔に、勝利を。



***
このへん原作で読みたかったかなあ、という妄想でした。
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