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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ひとさらい(中)

+ + + + + + + + + +
一週間後、まず朝練前に顔を出した部室の乱雑さに私は絶句した。
「・・・汚い・・・」
部屋の隅には綿埃があるし、汗臭いのは勿論のこと、どことなくかび臭い気がする。
汚れ物は籠一杯になっているし、机の上は空き缶が並んで書類も乱雑に積み上がっている。
夏じゃないのが唯一の救いだろうか。
私はまず一回目の洗濯をすべく汚れ物を洗濯機に放り込んでスイッチを入れ、ゴミ袋を手に机に近寄る。
山積みになった書類は一週間分のデータで、私がいない間誰も処理してないのが明白だ。
これは授業が終わったらすぐ取りかからないとかなり時間を取られそうだ。
そう思いながらも、自分の居場所が確保されたような気がして嬉しいのはどうしてだろう。
根っからの世話焼きなのかな、とぼやきながらも鼻歌交じりで私は掃除に勤しんだ。

そうして一週間のブランクを埋めるべく部活に顔を出した私の前で。
「はい、ヒル魔くんのドリンクでぇす! あとタオルも!」
グラウンドを挟んで反対側で、上機嫌でヒル魔くんに近寄る栗尾さんの姿があった。
彼女の声は高く通るので、嫌でも耳に入る。
私がいない間、間違いなく彼女が世話を焼いていたんでしょうね。
何を話しているかは判らないけれど、ヒル魔くんはごく自然な動きでドリンクを受け取った。
私はそちらから視線を引きはがすと、こちら側に纏まっている部員のみんなに歩み寄る。
「はい、ドリンクどうぞ」
一休くんを筆頭に皆次々に手を伸ばした。
「ありがとうッス」
「すまんな」
「フー・・・もう体調はいいのかい?」
「ええ、おかげさまで。ありがとうございます!」
笑顔で応じれば、マネージャーのみんなも笑顔で頷いてくれる。
「ホント姉崎さんがいなくて色々足りなくて大変だったわ」
「まもりちゃん一人で十人力なんだもの。ホントいつも頼り切りで悪いなって思っちゃった」
「そんなことないですよ」
「それがあるのよ! 特にヒル魔関係!!」
サヤ先輩が大仰に首を振る。
「もーヒル魔が機嫌悪くて大変で! 色々要求されるんだけど、私らじゃそこまで出来ないことが多くて」
「フー・・・ヒル魔の機嫌が悪いせいで何人か撃たれてた」
「そうっスねぇ。俺も何度か狙われましたもん」
「ええっ!?」
赤羽さんの言葉に私は飛び上がって驚いた。
近頃は収まったと思ってたのに、またなんてことしてるのかしら!
「やだ、もう! そんなことしてたなんて・・・後で怒らないと!」
それに部員皆が笑う。
「ヒル魔相手に怒る、なんて言えるのは姉崎だけだな。しっかり手綱を握ってて欲しいものだ」
手綱、ねえ。
私はちらりとヒル魔くんを見た。
栗尾さんが何かしきりに話掛けてるけど様子が変わったようには見えなかった。
それにほっとするような、しないような。
「練習再開するぞ!」
番場さんの声が響く。私は空になったドリンクボトルを手に、部室へと戻った。


練習が終わって、部員のみんなが次々と帰る中、私は手元の書類と格闘していた。
一週間、全然手がつけられてないかと思ったけれど少しはやってあった。
けれど逆に中途半端にまとめられた形のデータは残念ながら使い物にならない。
マニュアルも作ってたはずだけど読んでないのかなあ、と若干空しい気持ちになりながら私は一からデータをまとめていた。
栗尾さんは相変わらずネイルと携帯に気を配ってて、書類には見向きもしない。
サヤ先輩は用事があるとかで先に帰ってしまったし、これはかなり遅くまでやらないといけないかも。
はあ、とついため息をついてしまったけれど栗尾さんが気に掛ける様子はない。
『あの自分に都合の悪いことは全然見えないスキルは欲しいわね』
以前サヤ先輩が言っていたことを思い出した。
あの時は何だったっけ、とにかく何かを忘れた栗尾さんに散々サヤ先輩が怒ったのに全く悪びれずいつも通り過ごしてたのを見て呆れたように私に囁いたんだった。
栗尾さんは可愛いし、愛嬌もあるし、仕事はそんなにしないけど、(ヒル魔くん相手限定なら)頑張ろうって気はあるし、お嬢様だし、そんな子に好かれたらヒル魔くんも嬉しいのかな。
ネイルの綺麗なその手を取りたいと思うのかな。
私はペンを握る手を見る。
特に手入れもしていない手は水仕事で荒れがちで、顔に化粧っ気も全くなし。
香水は持ってないし、せいぜい制汗剤がいいところ。
伸びるがままに任せている髪がさらりと揺れる。
ヒル魔くんが変わったのに、私は、どこも変わらない。
便利な労働力でマネージャーという立場も、関係も、何一つ。
手だけは機械的に処理を続け、ぼんやりと考え込んでいた私の耳に派手に響いた椅子の音。
「あ! ヒル魔くん洗濯物持って来てくれたんだ! ありがとう!」
弾む栗尾さんの声に私はかすかに肩を揺らした。
ヒル魔くんが洗濯物を持って出てきたことに驚く。
彼は、私が何度言っても着替えた後のものをその場に放置するので、毎回怒りながら回収しに行くのが常だったのに。
・・・栗尾さんには言われなくても持って行く、んだ。
小さな事だけれど、私にとっては大きな違い。
ちらりと向けた視線と、籠を差し出す栗尾さんの視線がぶつかった。
ふふん、と言いたげな勝ち誇ったような笑み。
瞬間、得も言われぬ悲しみが突き上げてきて、私はすっと視線を戻した。
なんでだろう。なんで、こんなに負けたような気分なんだろう。
私が休みの間もヒル魔くんは、お見舞いはおろか様子をうかがうメールを送っても来なかった。
部活の部員とマネージャーという関係だもの、特に親しい友人というわけでもないし、サヤ先輩を通じて部活のみんなには病状が伝えられてたんだから、わざわざ個別に尋ねる理由もないもの。
それでもなんだか視界が潤む。
悲しいのか悔しいのか、そもそもなんでそう思うのか、考えたくなくて私はデータまとめになお一層没頭することにした。
けれど唐突に、目の前の席に影が過ぎる。
「糞マネ、コーヒー淹れろ」
いつものように椅子に腰掛け、当たり前のようにされる要求。
「今データまとめてるところだから手が離せないわ」
俯いたままそう返した。
本当は顔を見たら何を口走るか判らないからだけど、データまとめをやってるのも事実だし、違和感はないはず。
私が素っ気なく言えばヒル魔くんは舌打ちした。
「あのぉ、コーヒーなら私が淹れまぁす!」
そこに栗尾さんがやってきた。ぱたぱたと足音まで可愛らしい彼女は笑顔で続ける。
「姉崎さんがお休みの間は、ヒル魔くんも私が淹れたコーヒー飲んでたもんねッ!」
それは、そうよね。
ヒル魔くんはコーヒーばっかり飲むし、自分が淹れないなら誰かに淹れさせるだろうし。
コーヒーくらい誰が淹れたって同じだものね。
・・・そう思うのに、変ね。
栗尾さんの言葉がぐさぐさと刺さったような気がする。
私、泣きそう。

<続>
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