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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ひとさらい(上)

(ヒルまも)
※『すっぴんクラウン』のまもりちゃん視点。


+ + + + + + + + + +
大学に入ってから、ヒル魔くんの背は少し伸びた。
体つきもたくましくなり、こないだベンチプレスが80キロを越えたと言っていた。
自分が最下級生だからか、高校の時の尖った感じが大分少なくなった気がする。
中学高校と色々わだかまりがあった(らしい)阿含くんとも仲良くなった。
そう、優しくなったような。
ヒル魔くんは変わった。すごく、変わった。


「ヒル魔くんってカッコイイよねぇ!」
その一言に、私はあり得ないくらい怪訝な顔をしてそちらを向いた。
それは私だけではなく、他のマネージャーたちも同じだ。
「頭いいしぃ、顔もカッコイイしぃ」
指折りヒル魔くんの長所を上げるのは同じ一年生マネージャーの栗尾さん。
ふわふわくるくるした茶色い髪、ばっちりメイクに甘い香水、私には到底手の出ない高級ブランドの洋服に鞄に靴。
とにかくお嬢様の彼女は、アメフトというお世辞にも紳士的とは言えない部活で浮きまくっている。
「・・・それを差し引いて余りある悪魔的な性格は?」
何言ってるの、という顔でようよう口を開いた一年上のサヤ先輩に。
「そこがいいんじゃないですかぁ!」
甲高い声で彼女が言い返す。
私ははあ、と嘆息して手元の書類に戻った。
ヒル魔くんが騒がれるようになったのは、大学に入ってからだ。
高校生だった頃は、クリスマスボウルで勝ったことのプラス程度では彼が築き上げた悪名が削がれなかったのだ。
けれど大学は高校の時とは比較にならないくらい大所帯。
更に彼はクリスマスボウルで勝ったことと世界大会準優勝というプラスの肩書きだけを周囲に知られる形で入部した。
ゼミや学部が違えば、当然ながら彼のプラスの噂だけしか聞かない人が増えるのも頷ける。
だからか、ヒル魔くん目当ての女子がグラウンドを見ていたり、メルアドを交換しようと待ち構えていることも多々ある。
それでも少し近づけばヒル魔くんが大変危険な存在だと知るから(大体銃を持ち歩く時点でおかしいし)、そう大事にはならないのだけれど。後は阿含くんが言葉巧みにたらし込むことも多いし(でも、私にはそういうことしないみたいなのよね)。
「やっぱりカッコイイなあ、ヒル魔くん」
栗尾さんのうっとりしたような声に、私は頭痛を覚えてこめかみを押さえた。
私の手元の書類は相変わらず山積みだ。件の悪魔が積み上げていった量は半端ないのだ。
サヤ先輩は別の仕事に掛かりきりで、手助けは望めない。
一応栗尾さんと組んでやることになってる仕事なのだけれど、彼女の興味は手元の携帯電話とヒル魔くんの話題だけに集中して仕事の方には向かないらしい。
「栗尾さんもあの書類まとめるの手伝ってね」
サヤ先輩の声に栗尾さんは、はぁいと声を上げてやっと書類に近づいてくる。
その手元のネイルがぴかぴか光っているのを見て、私の頭痛は更に酷くなった。


その日は頭痛が治まらなくて、身体の節々も痛くてたまらなくなった。
どうにか部活を終えて帰る道すがら、病院に立ち寄り検査をするとインフルエンザだと診断された。
「この薬を飲んだら熱はすぐ下がるけど、全部飲みきるまで外出はしないように」
医師からの指示に頷き、私は当面の食料品を買い込んで下宿に戻った。
関西に来て一年近く、一人暮らしも慣れたけれどこういう時には心細いなあ。
「・・・あ、そうだ」
布団に潜り込んで眠りに落ちる前にサヤ先輩にメールを打つ。
すぐ返信されたメールには心配せずゆっくり休むようにあった。
私は色々(特にヒル魔くん絡み)伝えようと思ったのだけれど、もう目が開けていられなかった。



そうして五日間が経過した。
それこそこんこんと眠り続ける生活で、部員のみんなは体調を気遣いつつも移る病気だからとお見舞いに来ることは避けてくれた。
こんなに長く部活のことを何もしないのは、アメフトに関わってから初めてかもしれない。
三年生になった時も何かにつけてアメフトに関わり続けていた。主にヒル魔くんが持ってくるデータをまとめたり、一緒に大学の下見に行ったり、大学合格が決まった直後から部活に顔を出して初日から練習していたし。
身体が楽になってくると、眠るのにも飽きる。
起き上がって暇つぶしにゼミのレポートを書いたりしても、ふと手が止まって考えるのは部活のこと。
すっかりアメフト漬けにされちゃったなあ、と自嘲する。
そういえばこんなに長いことヒル魔くんと会話しないのも久しぶりだ。アメフト部に関わってからはほぼ毎日何かしらの会話をしていたもの。
『ヒル魔くんってカッコイイよねぇ!』
突然脳裏に響いたのは、栗尾さんの声。
私がいない一週間、彼女がヒル魔くんの世話をしていたのかしら。
ざわり、と私の胸の内が蠢く。
ヒル魔くんは昔と変わった。
私以外にいるマネージャーたちを怒鳴りつけることも、仕事を押しつけることもない。
部員達に恐ろしいほどの練習を与えることも、課題を押しつけることもない。
私には変わらず接してくるけど、他の子には、仕事自体を押しつけることもないし、・・・優しい気がする。
ざわざわする胸を抑えるように手を当てるけれど、僅かに早まった心音が響くだけ。
ヒル魔くんは、私を便利な労働力だと言っていた。それは変わりない。
でも、それなら他のマネージャーたちのことはどう思っているんだろう。
可愛く装った栗尾さんのような子はどう思うんだろう。
胸のざわめきは不意に痛みを伴った。
けれど、その原因が自分でもよく判らなくて私はペンを置く。
もう寝よう。
あと一日で薬を全て飲み終わる。そうして明後日からは学校に行ける。
休んでしまったゼミのノートを見せて貰って、レポートを提出して、そうして部活に顔を出せる。
視界の端に入った携帯にはいくつものメールが届いているけれど、ヒル魔くんからのものはない。
ヒル魔くんからのメールなんてアメフト部絡みだから、現時点で届くはずがないのだけれど。
私は軽く頭を振って、電気を消し、思考を眠りに落とすべく目を閉じた。

<続>
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