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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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とても優しい殺人

(ヒルまも)
※15000HITお礼企画作品
※2/29アップ『07.弱すぎた腕』の続きにあたります。

+ + + + + + + + + +
がこん、と鉄のドアを開いたヒル魔くんは私を見てぴんと片眉を上げた。
「・・・感傷に浸るにはまあ不適切な時間と場所デスコト」
「じゃあ聡明なヒル魔くんにお伺いしますが、感傷に浸るのにいい時間と場所ってどこ」
「夜に自室で電気消せ」
「それじゃ寝ちゃうじゃない」
「寝りゃ感情の半分は整頓されるぜ」
眠りは記憶を全て整理してそぎ落とし、不必要な物は捨ててしまう。
怒り悲しみ焦燥という負の感情は身体にも悪いから、あっさりと眠りはそれらを捨てようと整理してしまうだろう。
「ちゃんと寝てるわよ」
「どうだか。ひでぇクマ」
呆れられたように目の下を指され、私は視線をずらした。
「・・・いい天気だわ」
「そのいい天気に屋上でなに油売ってやがる。さっさと下に来い」
「そうね」
朝、いつものように起きてご飯を食べて、部活に行って。マネージャー業をこなして、授業に出て、放課後になって。
いつもの通り進む時間の中で、私の視界にごく普通に馴染もうとする存在。
どんな時でもヘルメットを外さなかったアイシールド21、という選手がもういない。
彼は躊躇いなく私の前でヘルメットを外し、私に向かって屈託無く笑うセナ。
それが予想以上に私に負荷を掛けている。
「あの時泣いて、両腕の意味だって与えられて、ごく普通に過ごしてるのに・・・」
フェンスに縋る指は震えない。視界は滲まないし、視線の先にあるアメフト部の練習風景はよく見える。
あそこに行けばいつも通り振る舞わなければならない。
「そんなことぐだぐだ言える余裕があるなら、俺がテメェを殺してやろう」
「・・・え?」
ぐい、と腕を引かれた。
「どうするの」
どこか浮ついた気分のまま、引きずられるがままに私は連れて行かれる。
部室に連れ込まれ、積み重ねられていたのは、通常の軽く三倍以上はある書類の山。
「・・・・なにこれ」
「心優しい俺の殺人方法」
椅子に座らされ、にやりと笑われる。
「忙殺、っつーな。さあさっさとこの書類をまとめて貰おうか。期日は明後日、一日も譲らねぇ!」
「えぇ?! ちょっと、それはとんでもないわよ!?」
「だから忙殺っつったろ。忙しさに殺されちまえ」
ケケケ、と笑って悪魔は立ち去った。
私は呆然としていたけれど、すぐに我に返って書類を一枚手に取った。
とりあえずこの処理をしてしまおう。
没頭していれば他のことを考えなくて済むから。
関東大会という大きな関門に突き進む選手たちの為にも、私は真剣に書類を処理し始めた。


気が付けばとっぷりと日も暮れ、他の部員たちはとうに帰宅している。
「今日の分は終了」
熱中していた書類をひょいと引き抜かれ、私はぱちぱちと瞬きした。目の前にはヒル魔くん。
時計を見るともう11時を回っていて、そのあまりの時間に私は呆然とするばかり。
「さっさと帰るぞ」
鞄を投げつけられ、受け取るとそのまま連れ出される。
掃除とか洗濯とか残ってるのに、と色々考えたけど腕を引く手はそんなことを全て黙らせる力強いものだった。

極端に帰りが遅くなったけれど、事前にヒル魔くんがお母さんに連絡してくれていて、私は軽い夜食を食べてお風呂に入って、自室に戻った。
感傷に浸るなら、夜に自室で電気消せ、か。
言葉通り電気を消して、ベッドの中でぼんやりとヒル魔くんの言葉を思い返していると、携帯が着信を告げる。
「・・・?」
見たことのない番号。でも、鳴り続ける電話に私は通話ボタンを押した。
『まだ起きてるのか』
挨拶も何もなく、聞こえてきたのはヒル魔くんの声。
「もう寝るわよ」
私もごく普通に答えた。
不思議だ。
姿が見えないのに、まるで目の前にいるように感じる。
通話中だけれど、特に話す訳じゃない。
その代わり気配が繋がっているような気がする。
妙にその感覚に安心して、私はふわぁ、と小さくあくびをした。
『眠いか?』
思いの外優しい囁きが、耳元に落ちる。
まるで頭を撫でられているような、優しい錯覚。
『もう寝ろ』
「・・・うん」
おやすみなさい、という私の囁きを聞き届けて、通話がふっつりと切れる。
同時に、私の意識もふっつりと消えた。



携帯の着信に私は目を覚ました。
寝起きのスッキリしない頭のまま、何も考えずに通話ボタンを押す。
「はい」
『起きたか』
やっぱり挨拶も何もなく、ヒル魔くんの声が聞こえてきた。
「起きたわ」
『そーか』
言いながらカーテンを開ける。そこには抜けるような青空が広がっていた。
昨日もいい天気だったはずだ。
でも昨日の空を覚えていない。曖昧な記憶。
はっきりと私は言った。
「いい天気ね」
『それは重畳。朝練に遅れるな』
ぽん、と肩を叩かれたような気がする。
そしてふっつりとまた通話が切れた。
私はじっと携帯を見て、そうしてもそもそと学校へ行く準備をし出した。


どうして電話の向こうの彼の声は、あんなに優しかったのだろう。
今は関東大会に向かって頑張る時期だから、それが例えマネージャーだとしても気のゆるみは勝率に影響するから、だろうか。
あれほどあった書類はもう綺麗サッパリ消えていた。
そして今日は溜まっていた洗濯物や掃除に追われ、昨日とは違った意味で忙殺される。
全て片づけ終えたときには、昨日程ではなくてもまた遅くて。
「・・・終わった」
「ホー」
かたかたとキーボードを叩くヒル魔くんにあとどれくらい、と尋ねるともう終わる、と返答があった。
ではコーヒーのお代わりはいらないだろう。私はカップを片手に流しへ行く。
なんとなく沈黙を破りたくて、私は独り言のように呟いた。
「ヒル魔くんの電話の声、あんなに優しいなんて思わなかった」
「ふーん」
カップを洗って拭いて食器棚へ戻す。
一連の作業が終わってカジノのテーブルに戻る頃には、パソコンの電源は落ちていた。
こちらをちらりとヒル魔くんが見る。
いつも表情は作り物めいた笑みで覆って、感情も覆い隠すのに、電話だけは優しいなんて、不思議。
勘違いしそうだ、と考えてすかさず別の私が切り返す。
何を?
「あんな声で話されちゃ、誰でも・・・」
「誰でも?」
言いよどんだ私の言葉尻を捉えて、ヒル魔くんは私の側に立つ。
「嬉しくなっちゃうんじゃ、ないの」
自分は特別だと、勘違いしたくなるのではないの、と言外に。
「ホー?」
にやにやと笑われて、言わなければ良かった、と思うのと同時に。
もっと違うことを言いたいと思う私もいて。
「まだ自覚が足りないな、糞マネ」
「なにが?」
顔を上げた私の唇に、触れる別の体温。
それはすぐ離れた。視線で追うと、そこにはにやにやと笑ういつものヒル魔くんの顔。
・・・え?
「俺を優しいなんて言ってるウチはまだまだだ」
「な、なに・・・」
「男が優しいときは必ず裏があるんだよ」
呆然とする私の手を繋ぎ、外へと引き出される。
初めて繋いだ指先も優しくて。
唇を文字通り奪われたのに、言葉とは裏腹の優しい仕草に怒りなんて出て来なくて。
「俺が弱みにつけ込まない訳ねぇだろうが」
そんな風に嘯く彼の声が電話以上に優しかったので、私は久しぶりに声を上げて、笑った。

***
コメ様リクエスト『ヒルまもの初キス+二人の馴れ初め話』でした。マンネリと言われそうで片方ずつでは書けませんでした・・・。私はどうも初物が好きらしく、気を付けないとそればかり書く傾向があるので打開しなければ、と思った次第です。ウチのヒル魔さんはまもりちゃんが本当に好きなようで、たまに書いていて照れます(笑)
リクエストありがとうございましたー!!

コメ様のみお持ち帰り可。

リクエスト内容(作品と合っているかどうか確認のために置きます)以下反転して下さい。
『初めてのキッスのお話。強引にヒル魔が奪う感じが好きです。(ヒルまも)』+『二人の馴れ初めが見たいです。どういう時期の話でも。卒業する前でもした後でも。(ヒルまも)』・・・強引でもなければ馴れ初めになってるかも怪しい・・・。
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