旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
海を見に行った。
冬の海は灰色と灰色がかった青の二色で構成されている。
空はもったりと重たい雲が覆っている。雪が降るかも知れない。
なにもない。なにも。
クリスマスボウルの勝利の女神は、私たちには微笑まなかった。
揺らがない帝黒の強さに、私たちは為す術なく地に落ちた。
悪魔の快進撃もここまでだったか。
下馬評通りの展開を、それでも皆歯を食いしばって挑んで。
負けた。
完膚無きまでに。
関東の蛙は夢など見るなと、嘲笑された。
「糞寒ィ」
冷たく塩辛い風に好きなだけ髪を乱される私の背後から聞き慣れた声がした。
「よくここが判ったわね」
返事はない。 愚問だからだ。
ざくざくと砂を踏む音。沈み込む足場の悪さを感じさせない軽い足取り。
普段足音なんてしない人だから、それは新鮮だった。
「こんな所まで来て泣くっていう意味がわからねぇ」
濡れた頬に髪を貼り付ける私は、どう贔屓目に見ても綺麗とかカワイイとか、褒め言葉が当てはまる顔じゃないはずだ。
「見せたくなかったの」
誰にも。
『本物』に叶わないと完膚無きまでにたたきのめされ、頽れて泣いたセナにも。
憧れの人が自分を見ていないことにショックを受けて動けなかったことを死ぬ程後悔したモン太くんにも。
倒された栗田くんも、キックを阻まれたムサシくんも、完全に読み負けた雪光くんも、壁を崩された十文字くんも黒木くんも戸叶くんも小結くんも。 バカ、と罵られることさえなかった瀧くんも、思うように走れなかった石丸くんも、助っ人としてここまで来てくれた三人も。
凡人である以上の能力のなさに、必死に食らいついてもあしらわれる実力差に誰もが泣いていて。
そんなみんなを前に、私は泣きたいのを堪えてしまった。ただみんなを迎え入れて抱きしめて、健闘に精一杯の祝福を贈ることしか出来なかった。
だから今日、私はここまで来た。
「特にヒル魔くんには」
誰よりもその夢を熱望して、そうして満身創痍ながらもたどり着いて、後一歩で及ばずに最後までフィールドに立つことすら出来なかった彼にも。
彼は最後まで冷静で気丈だった。
いつかの白い騎士団を纏め上げていたQBが口にしたままに。
「テメーが泣くことは恥じゃねぇだろ」
頬を伝った雫は顎に、そして翻るスカートの裾に弾ける。
「ヒル魔くんが、泣くことも、恥じゃない、わよ」
そこでやっと、私は隣まで来た彼の顔を見た。
乾いた眸。
戦いで再び傷ついた腕をぶら下げて、飄々としてみせている。
どこまで周囲を、自分を騙し続けるのだろうか、この人は。
そうしてどこまで背負い込むのだろうか。
「全部が、全部、ヒル魔くんの、責任、じゃないわ」
声が切れ切れなのは海風のせいだ。
冷たく痛い空気が激しく乱されるから、私の声もちぎれてしまうのだ。
視界がぶれるのも、喉が酷く痛いのも。
涙なんかのせいじゃない。
「ごめんね」
「ア? なにが」
「私が、泣く、から」
――――――――・・・だからヒル魔くんは、泣くことも出来ないわよね。
その続きは痛い喉で蟠った。
「言っただろ、テメーが泣くことは恥じゃねぇ」
その声が平坦である程、浮かび上がる優しさに胸が痛くなる。
本当に、どこまで、彼は。
「テメーが謝ることがあるなら」
ぐい、と腕を引かれる。
抱き寄せられ、私の顔は肩に押しつけられる。
「泣きに来る場所が違う」
海風に冷えた身体がその腕に包み込まれる。
暖かくて、切ない。
どんなに装おうとも、彼は人間なのに。
戦いの後、誰もが彼を労ろうとして、けれど先に彼に労られて何も出来なかった。
これ以上彼に甘えていいのだろうか。
腕から抜け出そうかどうしようか、という逡巡が透けて見えたのだろうか。
「そんな糞辛気臭ェツラ、こんなところで晒して何がいいんだか」
淡々と呟き彼の腕は私をきつく抱きしめた。
「糞寒ィ」
・・・あ。
今、気が付いた。
本当は辛くて苦しくて、何かに、誰かに、縋りつきたいときもあっただろう。
そして今、彼は私にやっと縋ったのだ。
ここは暗くて寂しくて、私たち以外誰もいない。
幽かに震える身体は、寒さからかそれ以外からかは判らない。
判ってはいけない。
例え涙に暮れて震えていても、全部この、冬の海のせい。
ただ、私もその背中に腕を回して、抱きしめ返した。
そんなことしか、できなかった。
***
今まで当たり前のように泥門デビルバッツがクリスマスボウルで勝つ話を書いてましたが、負けたらどうなるかな、という話を考えてみました。意地っ張りなヒル魔さんは人前では泣けないでしょう。かといってまもりちゃんもがんばった選手を前に泣けないし。書いてみたら二人して遠出してやっと泣きました。意地っ張りたちめ。
冬の海は灰色と灰色がかった青の二色で構成されている。
空はもったりと重たい雲が覆っている。雪が降るかも知れない。
なにもない。なにも。
クリスマスボウルの勝利の女神は、私たちには微笑まなかった。
揺らがない帝黒の強さに、私たちは為す術なく地に落ちた。
悪魔の快進撃もここまでだったか。
下馬評通りの展開を、それでも皆歯を食いしばって挑んで。
負けた。
完膚無きまでに。
関東の蛙は夢など見るなと、嘲笑された。
「糞寒ィ」
冷たく塩辛い風に好きなだけ髪を乱される私の背後から聞き慣れた声がした。
「よくここが判ったわね」
返事はない。 愚問だからだ。
ざくざくと砂を踏む音。沈み込む足場の悪さを感じさせない軽い足取り。
普段足音なんてしない人だから、それは新鮮だった。
「こんな所まで来て泣くっていう意味がわからねぇ」
濡れた頬に髪を貼り付ける私は、どう贔屓目に見ても綺麗とかカワイイとか、褒め言葉が当てはまる顔じゃないはずだ。
「見せたくなかったの」
誰にも。
『本物』に叶わないと完膚無きまでにたたきのめされ、頽れて泣いたセナにも。
憧れの人が自分を見ていないことにショックを受けて動けなかったことを死ぬ程後悔したモン太くんにも。
倒された栗田くんも、キックを阻まれたムサシくんも、完全に読み負けた雪光くんも、壁を崩された十文字くんも黒木くんも戸叶くんも小結くんも。 バカ、と罵られることさえなかった瀧くんも、思うように走れなかった石丸くんも、助っ人としてここまで来てくれた三人も。
凡人である以上の能力のなさに、必死に食らいついてもあしらわれる実力差に誰もが泣いていて。
そんなみんなを前に、私は泣きたいのを堪えてしまった。ただみんなを迎え入れて抱きしめて、健闘に精一杯の祝福を贈ることしか出来なかった。
だから今日、私はここまで来た。
「特にヒル魔くんには」
誰よりもその夢を熱望して、そうして満身創痍ながらもたどり着いて、後一歩で及ばずに最後までフィールドに立つことすら出来なかった彼にも。
彼は最後まで冷静で気丈だった。
いつかの白い騎士団を纏め上げていたQBが口にしたままに。
「テメーが泣くことは恥じゃねぇだろ」
頬を伝った雫は顎に、そして翻るスカートの裾に弾ける。
「ヒル魔くんが、泣くことも、恥じゃない、わよ」
そこでやっと、私は隣まで来た彼の顔を見た。
乾いた眸。
戦いで再び傷ついた腕をぶら下げて、飄々としてみせている。
どこまで周囲を、自分を騙し続けるのだろうか、この人は。
そうしてどこまで背負い込むのだろうか。
「全部が、全部、ヒル魔くんの、責任、じゃないわ」
声が切れ切れなのは海風のせいだ。
冷たく痛い空気が激しく乱されるから、私の声もちぎれてしまうのだ。
視界がぶれるのも、喉が酷く痛いのも。
涙なんかのせいじゃない。
「ごめんね」
「ア? なにが」
「私が、泣く、から」
――――――――・・・だからヒル魔くんは、泣くことも出来ないわよね。
その続きは痛い喉で蟠った。
「言っただろ、テメーが泣くことは恥じゃねぇ」
その声が平坦である程、浮かび上がる優しさに胸が痛くなる。
本当に、どこまで、彼は。
「テメーが謝ることがあるなら」
ぐい、と腕を引かれる。
抱き寄せられ、私の顔は肩に押しつけられる。
「泣きに来る場所が違う」
海風に冷えた身体がその腕に包み込まれる。
暖かくて、切ない。
どんなに装おうとも、彼は人間なのに。
戦いの後、誰もが彼を労ろうとして、けれど先に彼に労られて何も出来なかった。
これ以上彼に甘えていいのだろうか。
腕から抜け出そうかどうしようか、という逡巡が透けて見えたのだろうか。
「そんな糞辛気臭ェツラ、こんなところで晒して何がいいんだか」
淡々と呟き彼の腕は私をきつく抱きしめた。
「糞寒ィ」
・・・あ。
今、気が付いた。
本当は辛くて苦しくて、何かに、誰かに、縋りつきたいときもあっただろう。
そして今、彼は私にやっと縋ったのだ。
ここは暗くて寂しくて、私たち以外誰もいない。
幽かに震える身体は、寒さからかそれ以外からかは判らない。
判ってはいけない。
例え涙に暮れて震えていても、全部この、冬の海のせい。
ただ、私もその背中に腕を回して、抱きしめ返した。
そんなことしか、できなかった。
***
今まで当たり前のように泥門デビルバッツがクリスマスボウルで勝つ話を書いてましたが、負けたらどうなるかな、という話を考えてみました。意地っ張りなヒル魔さんは人前では泣けないでしょう。かといってまもりちゃんもがんばった選手を前に泣けないし。書いてみたら二人して遠出してやっと泣きました。意地っ張りたちめ。
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性別:
女性
趣味:
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自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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