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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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魅惑のラグドゥネーム(上)


(ヒルまも高校卒業後)
※『金色独占欲』の後です

+ + + + + + + + + +
「もう、ヒル魔くんなんて大ッ嫌い!!」
少々油断していたところでヒル魔の顔面をクッションが強襲した。
「ッテメ!」
それを投げ捨て怒鳴ったが、相手は既に逃げ出していた。
ドアが派手に閉まる音、慌ただしく出て行く足音。
追いかけようとも思ったが、喧嘩の内容がくだらないだけにすぐ帰ってくるだろうと椅子に座り直す。
その気になれば日頃より付けさせている発信器ですぐ場所は知れるのだ。
まもりはそうとは勿論知らないが。
ヒル魔は舌打ちしてパソコンに向き直ると、中途になっていた仕事を再開した。

まもりは勢い込んで出てきたはいいが、しばらく歩いているうちに段々落ち着いてきた。
全くくだらない喧嘩だとは自覚している。
だからこそ、こちらが折れるのはしゃくに障る。
結果的にそうなると知っていても、だ。
夜は冷えるのに薄着で出てきてしまったが、すぐに帰る気にもなれず、まもりはぶらぶらと歩いていた。
しばし歩いているうちに夜はその腕を伸ばし、空を青から群青へと変貌させていく。
空を見上げながら歩いていたまもりの足が、ぴたりと止まった。
気が付けば風紀の悪い通りに紛れ込んでしまっていたことにようやく気づいたのだ。
慌てて戻ろうとするのを、付近にいたガラの悪い酔漢たちが引き留めた。
「どうしたよ、姉ちゃん」
「ええから一緒に飲もうやあ」
「いや、私帰るので・・・」
「そないなこと言わんと、おら行くで!」
「やっ」
まもりを捕まえようとする男から逃れようと踵を返すが、目の前にも別の人影。
青くなったまもりをするりと誘ったのは、男の手ではなかった。
「なにやってるんだい」
「っ! メグさん!」
「なんだい、こっちもえらいべっぴんさんやないか」
「一緒に来いやあ」
その手をメグは速攻でたたき落とす。顔色を変えた男達の前に、更に人影。
「カッ! テメェら、俺のツレになんか用か?」
ぎろり、と睨みつけられて男達は怯む。
「葉柱さん!」
「ほら、あんたはこっちに来な」
一歩下がったところに二人を庇い、ルイは男達を威嚇する。
体格の差は歴然だ。ただの軟弱な不良ではない、屈強な姿に男達はたじろぐ。
実際彼は大学でもアメフトをやっているが、こちらではなく関東に残ったはず。
そしてメグも同様に、大学でも彼の側でマネージャーとして動いていたはずだ。
二人の思いがけない登場にまもりはしきりに目を瞬かせる。
「・・・っち!」
酔漢たちはしばし躊躇っていたが、力量差が歴然としているだけに飛びかかるような愚は犯さず、舌打ちだけ残し、覚束ない足取りで逃げていった。
ふん、と鼻を鳴らす彼にまもりは頭を下げる。
「ありがとうございます」
「カッ。なんでテメェはこんなトコ一人でフラフラしてんだ」
「そうさねぇ、お上品なあんた一人で歩くには良くないね」
「いえ、あの・・・」
言いよどむまもりに二人は目配せする。
まもりとヒル魔が結婚したのはつい先日の話だ。
あれほど赤面ものの台詞をあっさりと言ったヒル魔が、こんなところに大事なまもりを一人にするとは考えられない。
これは喧嘩でもしたな、と察した二人はまもりの両隣に立った。
「アタシたち、大学の遠征試合の帰りでね」
「え、そうなんですか?」
「せっかくここまで来たんだからもう一泊して美味い飯でも食うか、っていう話になったんだよ」
「へえ・・・」
そうでもなければ関東とは隔たったこの地には来ないだろう。
この場にいる理由がわかって納得するまもりの肩にメグの手が掛かる。
「というわけで、酒が美味い店はあるかい?」
言われてまもりはぱちりと瞬いた。
「地元ならではのオススメとかあるだろ」
「ええと・・・この道を真っ直ぐ行って左の角を曲がって・・・」
「それじゃ判りづらいね。案内しておくれよ」
「え?」
「久しぶりに会ったんだし、全員酒も飲める年だしね。さ、行くよ」
うろたえるまもりの手をメグが引く。
ルイは手こそ出さないが、まもりを逃さないよう傍らを歩いてついてきている。
「それとも、飲む相手はアタシたちじゃない方がいいかい?」
悪戯っぽく尋ねられて、まもりはようやく笑みを浮かべて首を振った。


まもりが二人を連れてきたところは、こぢんまりとした居酒屋だった。
しかし中は混雑しており、どうにか空いていた最後の個室に滑り込む。
テーブルは四人がけで、メグとルイがまもりの向かい側に腰を落ち着けた。
「随分混んでるんだね」
「有名なのか?」
「地元では、割と。魚が美味しいんです」
「へえ」
日本酒や焼酎の種類も豊富なようだ。
「でも最初はビールだな。生中」
「アタシも生中。アンタはどうするんだい?」
「ええと・・・」
酒をほとんど飲まないまもりだが、飲めないわけではない。
だが、大学入学当初の一件以来苦手意識を持つようになっていた。
ヒル魔と共にいるときに少し飲む程度で、あまり大量に飲んだ事は今までない。
けれど。
今夜は、いわゆる飲みたい気分、というやつだ。
「甘い酒の方がいいか」
「カクテルもあるよ」
差し出されるメニューを前に、まもりは自らもビールがいい、と申し出た。
「私もお二人と同じ物で!」
「・・・大丈夫かい?」
「平気です! ・・・多分」
その一言にルイとメグは顔を見合わせ、なるようになるか、と言わんばかりに二人揃って肩をすくめた。
いざとなったらあの悪魔がどうにかするだろう、多分。

確かにまもりが勧めるだけあって美味い肴と酒を楽しみつつ、段々と酔ってきたまもりにメグが話を振る。
「ところで、今日ヒル魔はどうしたんだい?」
「・・・けんか、しちゃって」
ルイは完全に傍観者を決め込むつもりで、隣で日本酒を飲みつつ二人の話に耳を傾ける。
「二人で生活してるんだから、喧嘩くらいするだろうねえ」
どんな喧嘩だったんだい? と尋ねられてまもりは三杯目の梅酒のロックに口を付けながら小首を傾げた。
「・・・すごーく、くだらない、んです」
青い瞳が酒精を帯びてとろりと潤んでいる。
舌っ足らずになった様子に酒を取り上げるべきか、と逡巡するルイを尻目に、メグは更に尋ねる。
「何が原因なんだい?」
「むしば」
「は?」
「虫歯になっちゃって」
「誰が」
「私が」
「・・・で?」
「歯医者に行け、って言われて。でも、歯医者さんって怖いじゃないですか」
で、喧嘩したと。
「・・・言うわ、ねえ」
そりゃヒル魔じゃなくても言うだろう。虫歯は放っておいても治らないのだから。
そこでまもりはうるっと涙を浮かべた。
「だって、痛いんですよ?! ガリガリ削られるんですよ!? きゅいーんって言うんですよ?!」
「・・・そうさねえ」
さしものメグも呆れて頷くしかない。
「歯医者嫌いなのに・・・! 毎日ちゃんと歯、磨いてたのに!」
「虫歯はキスでも移るっていうからねえ」
「そう! なんですよう!」
そこでまもりは我が意を得たり、という顔でメグににじり寄る。
「だから原因はヒル魔くんでしょ、って言ったら!」
「言ったら?」
「こんな顔して『テメェがアホみてぇに砂糖の塊ばっかり食ってるからだ』って!」
「ぶっ」
まもりが両手の指で眦をつり上げ、声マネをするのが似ているような似てないような。
思わずルイが吹き出してしまう。
笑うルイにひじ鉄を軽く入れながら、メグはまもりに向き直り、苦笑する。
「アンタは甘い物が好きなのかい」
「というか、シュークリームが大好きで! こっちの方のはまだ二百個くらいしか食べ歩いてなくて、今は・・・」
途端に目の色を変えてシュークリームについて語り出したまもりに、メグは正直対応に困る。
そんなに甘い物が好きではないので、どちらかといえばヒル魔の気持ちの方が良く判るくらいだ。
確かに聞いているとそれだけ食べれば虫歯にもなろうと言いたくもなるだろう。
ヒル魔の方に同情すら覚えてしまうメグだった。


<続>
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