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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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碧き浄天眼・後日談




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一週間のブランクは、オフシーズンなのが幸いし、さほど周囲に影響は与えなかった。
一部ゴシップ紙に二人の空港での大喧嘩がすっぱ抜かれ、後日その記事を書いた記者が行方不明になった程度である。

そうして。
さほど日を置かず、今回の件でまもりの両親を中心に迷惑を掛けたお詫びをするのも兼ねて、二人は日本へと帰ってきていた。
「あの一週間分の記憶はあるのか?」
空港からタクシーに乗り、まもりの実家へと向かう。
「うーん・・・正直あんまり残ってないわ。なんだか夢見てたみたいな、そんな気分」
斑に残った記憶は全く以て平坦な、面白みのないものばかり。
「逆にわざとそういう風に仕向けたんじゃないの?」
「多少は」
ちなみにあの離婚届は翌日にまもりが憤慨しながらシンクで燃やしたので、今はもうない。
「大体記憶がなくなったからって即離婚っていう発想が失礼よね」
「一日二日ならまだいいが、十年分もなくしておいて何抜かすか。しかも一向に戻る気配はねぇし」
「だったら取り戻させるように色々試してくれてよかったのに」
「テメェが一番俺を嫌っている時期と知ってても、か?」
近寄る事でさえいちいち驚かれていたのでヒル魔はそうとは見せなかったけれど、かなり凹んだのだ。
あれは精神的にかなりきつかった。
絶対その時の気持ちは言わない、とは思っていても聡い彼女の事だ、きっとお見通しだろう。
「あ、嫌われてたって自覚してたんだ」
その言葉にヒル魔はじろりとまもりを睨め付ける。
けれど彼女は慣れたものだ。
一般の人がすれ違っただけでも硬直しそうな彼の顔にも笑顔で応じる。
「十年前の自分に今を見せたいと思ったのかも。あんなに嫌っていた人と結婚までして、今はこんなに幸せなのよ、って」
「どうだかナァ。聞かれたぞ」
その言葉にまもりは首を傾げる。
「え? 何を?」
「イロイロ」
「んもう、そのイロイロが知りたいのに!」
賑やかな二人を乗せてタクシーはひた走り、目的地へとたどり着く。
「お客様、到着しましたよ」
「ありがとうございます。・・・ってここは?」
「いいから先降りろ」
ぐい、と外に押し出されてまもりは目を瞬かせる。
そこは有名ホテルの前だったから。
実家に行くように頼んでいたはずなのに、いつのまに進路変更していたのだろうか。
支払いを済ませたヒル魔も降りてきて、まもりの腰を抱いてぐいぐいと連れ立って歩いていく。
「え、ちょ・・・私の家に行くんじゃないの?」
端から見れば悪魔が美女を連れ去ろうとしているかのようだが、怖くてホテルマンも近寄れないようだ。
ドアマンも恐る恐るドアを開ける始末で。
もっとも、そんな扱いには二人とも慣れているのであえて騒ぐ事もない。
そしてロビーに到着するやいなや聞こえてきたのは懐かしい声。
「やー! 妖兄、まも姐! 久しぶりー!!」
「え、鈴音ちゃん?! きゃー、久しぶり!! 元気だった?!」
「やー、そりゃモチロン! さ、まも姐みんな待ってるからこっち来て!」
「え? え!?」
まもりは鈴音にずるずると引きずられる。
焦って振り返れば、ヒル魔の元にはムサシが来ていて、彼らは彼らでどこかへと行ってしまうし。
「なんで?!」
「いいからいいから!」
焦るのはまもり一人。
他は皆全てを承知しているとばかりに物事が着々と進んでいった。


さてその数時間後。
華やかなドレスに身を包んで、まもりは呆然と立ちつくしていた。
目の前の扉の向こうには自分の両親は勿論、高校時代や中学校の友達までくまなく揃っているという。
程なく時間が来て係員が二人を案内する手筈になっている。
その時を待ちつつ、まもりは隣を見た。
「あの・・・」
「ア?」
「なんで、唐突に披露宴、するわけ?」
まあ、悪魔なのに西洋東洋関わらず神に誓ってはいけないだろうから、結婚式自体をしないのは、いい。
しかし披露宴だけはやるという。
漆黒のタキシードを着たヒル魔がにやりと笑って応じた。
「結婚はしたが、こういうのはしてなかったからナァ」
「いやいやいやいや! 確かにしてなかったけど! でもなんで突然、このタイミングで?!」
確か今日は平日だったはずだ。全員仕事を休んだりして来たのだろう。
無理矢理な日程だっただろうと申し訳なく思うが、準備の段階で会えた誰に尋ねても教えてくれないのだ。
きっと隣の男が何かしらの手を回したのは明らかで。
思い立ったのがいつかは判らないが、随分前ということはないはずだ。
日本に行くと決めたのもまもりが記憶を取り戻してからだから、さほど日数が経っていないし。
先ほど挨拶に来たホテルの支配人が青い顔をしていたから、無理矢理今日にねじ込んだに違いない。
そもそも彼は派手好きなのは承知していたけれど、今の生活の拠点がアメリカにある以上日本ではこういうことをしないだろうと思っていたのに。
疑問を顔に貼り付けたまもりに、ヒル魔は片眉をぴんと上げる。
「どんなウェディングドレスを着たかったのか知りたかったんだとよ」
「え・・・」
誰が、とは言わなくてもすぐ判った。
「着たかったんだろ?」
まもりはその言葉にぱちりと瞬く。
幼い頃は夢見たウェディングドレス。
しかし勉強に明け暮れた大学、目的を忘れそうだった病院勤務を経てから彼とようやく再会したときにはそんなことはすっかり忘れていた。
一般的な肯定をすっ飛ばした自覚のあった二人にはドレスも式ももはや必要なかった。
ただ、二人が共にあるという証に、指輪だけは二人で選んだけれど。
・・・ほんの少しだけ、着てみたかったかも、とは思った事があったが、今更な気がして言い出せなかった。
「だから、叶えてくれたの?」
「おー」
思いがけない彼からのサプライズに、まもりは瞳を潤ませるが、ぐっとこらえる。
「泣いたら二目と見られない顔で皆の記憶に残る事請け合いデスヨ」
「言うと思った! ウォータープルーフだから平気です!」
「入る前から泣き顔ってドウデスカネ」
そもそも祝い事で泣くんじゃねぇよ、と言われてまもりは微笑む。
「うん、それもそうね」
「ケケケ」
そこに係員がやってくる。
「皆様の準備も整いました。今からご案内させていただきますが、ご準備はよろしいでしょうか」
「おー」
「はい」
ヒル魔の腕にまもりが捕まったのを見て、係員が扉に手を掛ける。
「ねえ、妖一」
「ア?」
視線を向ければ、そこには笑顔のまもりがいる。
「ありがとう」
一度は手放す覚悟までした碧き浄天眼が、真っ直ぐにヒル魔を見つめていた。
扉が開かれる。
途端に中から飛び出してくるのは拍手、歓声、フラッシュといった、ありとあらゆる二人への祝福。
それに楽しげに笑い、ヒル魔はまもりと共に会場へと足を踏み入れた。



<了>

***
これで『碧き浄天眼』は完全に終了です! 長かった・・・! お付き合いくださってありがとうございました!
実は6話の終了部分は『暇を~』の段階で出来ていたのですが、間をどう詰めるかを決めていなかったのでずっと放置状態だったのです。今回のリクエストを受けてやっと形になったのでこれで終わる・・・と思ってたらこのヒル魔さんがまもりちゃんにウェディングドレスを着せていない事について「俺はそこまで甲斐性なしじゃねぇ」とか言い出し暴走しまして、後日談まで作成と相成りました。
ちなみにタイトルの『浄天眼』は『千里眼』の別名です。

サイトカウンター『8080』(ヤレヤレ)の申請でリクエストを下さったまっぴ様に捧げますw
リクエストありがとうございましたー!!
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