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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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金色独占欲

(ヒルまも)

14000HITキリリクお礼作品。

+ + + + + + + + + +
葉柱ルイはとあるアパートの一室の前でしばし逡巡していた。
今、この呼び鈴を押してみるべきか。
一応招かれた客人の扱いである以上、それは当然のことなのだけれど。
しかし・・・ここに触れた途端何かが起きそうな気がしてならない。
それくらい怪しい妖気を放つネームプレートを見上げる。
そこには『蛭魔』とある。
下になぜか『姉崎』とあるが、ここはあの二人が結婚して住んでいるアパートだったはず。
なぜ旧姓がそのままなんだろうか。
あえてそのままにしているのか。
それとも、こないだ大々的にされた結婚式そのものが大がかりな嘘だったのだろうか。
常識的に考えたらあれほど大がかりな結婚式が嘘だというのが非現実的なのだが、あいつのやることだからそれもアリかと思わせる。
あれにあてられてかなり周囲からメグとの関係をせっつかれたが、まず年を考えて欲しい。
あいつらも俺も、そしてメグも、まだ二十歳だ。
なんで自分の食い扶持が稼げるかどうかまだあやふやな学生の段階で結婚とかしてやがるんだあの悪魔・・・。
色々思い悩んでいたら、携帯が着信を告げる。
『さっさと入るなら入れ。鍵は開いてる』
挨拶も前置きもなく一方的に告げて、通話が切れる。
どうやらここで散々悩んでいたのはばれていたらしい。
俺は拳銃片手に扉を開けられなかったのを喜ぶべきかどうか、真剣に考えながら扉を開けた。
「・・・邪魔するぞ」
「おー。さっさと入ってこい」
夫婦で住むにしては些か狭いと思わせる玄関を上がると、正面と左手に扉。声がしたのは正面だから、そこがリビングなのだろう。
手を掛けようとすると、その扉が勝手に内側に開いた。
満面の笑みを浮かべた女がこちらを伺っている。
「いらっしゃい、葉柱くん!」
「・・・ども」
俺とこの女との関係はほとんど無く、高校のアメフト部で数回顔を合わせた程度だ。それがこんなに親しげに笑いかけられるとどうも収まりが悪い。
「ごめんね、今ちょっと手が放せないから、どうぞそこに座ってて下さいな」
示されたのは悪魔がいるテーブル。渋々向かいに座ると、香り高いコーヒーが出される。
そのまま旧姓姉崎、現在蛭魔まもりとなった女はキッチンへと消えた。
あの女をどう呼ぶべきか悩む俺に、ヒル魔が口を開く。
「新婚家庭にヨウコソ~」
「カッ! テメェがそんな単語を口にする日がくるとは・・・」
腑抜けたもんだ、と言いたかったが、目の前の男からは鈍った雰囲気が全くしない。
アメフトはやっていないはずだが、鍛えてはいるのだろう。目つきも高校の頃から変わりない。
一瞬、あの頃のことを思い出す。あの時に歯がみした悔しさの味を、まだ俺は覚えている。
「で、こんな所にまで呼び出したのは何の用だ」
しかし共に感傷に浸るような間柄でもないので、俺は早々に用事を済ませようと口を開く。
そうだ、俺はヒル魔に呼び出された。
奴隷でもないし友人でもない俺を呼び出したのはなんの意図があるのだろうか。
「ア? 特に用事はねぇよ」
「カッ!? テメェ、遠路はるばる人を呼びつけておいて一体なんだってんだ?!」
根城にする関東からこの界隈までは結構な距離があった。
どれだけ俺が早起きしたと思ってるんだ、この野郎は。
「俺はな。呼んだのはあの糞嫁だ」
「ちょっとヒル魔くん、その呼び方やめてよ!」
暖簾で遮られて姿の見えない女が文句を言う。
いやいや、ますます俺を呼ぶ理由がわからねぇぞ?
「・・・なんでだ?」
「シラネ」
俺とあの女の接点を思い出してみるが、数少ない接点のどれでも親しくなった覚えはねぇ。
俺は疑問符をこれでもかと浮かべてみたが、当然判るはずはない。
とりあえず出されたコーヒーに口を付けると、そんじょそこらの喫茶店顔負けの味だった。
「大体俺とテメェ自体がトモダチとかそういうカテゴリーじゃねぇだろ。なんで俺を呼ぶことに文句がねぇんだ」
「前々からアイツ、テメェと話がしたいっつってたんだよ」
「・・・あぁ?!」
男二人でどうにも進まない会話をしているところに、女が再び顔を出す。
「ヒル魔くん、もういいかな?」
「ドーゾ」
「?」
疑問符が増えるばかりで減らない俺の前に、どんどんと皿が並べられていく。
食欲をそそる香りの料理があっという間にテーブルを埋め尽くした。
「うふふ、葉柱くんが来てくれるっていうから、張り切っちゃった」
「・・・はぁ・・・」
俺はどう反応していいものやら判らず、目の前の料理を眺める。
湯気が立ち、彩りの鮮やかな料理の数々は文句なしに美味しそうだった。
「お昼、まだでしょ?」
「あ、ああ」
「はいお箸。ヒル魔くんも」
「おー」
てきぱきと準備が整えられ、彼女もすとんとヒル魔の隣に腰を下ろした。
そしてにっこりと笑う。
「さあどうぞ、召し上がれ!」
・・・俺は混乱したまま、とりあえずイタダキマス、と小さく呟いた。


料理は期待通り、いやもしかしたらそれ以上に旨かった。
だが、俺は目の前の女の意図が読めず、混乱するばかりだ。
あれほどあった料理はきれいに食べ尽くされて、今俺の前には食後の玄米茶が置かれている。
・・・なんだこのくつろぎ空間。
俺、この場に馴染んでいていいんだろうか。
いまいち会話の出来ない俺を余所に、ヒル魔が立ち上がった。
ふらりと歩いていくのを何となく見送り、俺ははたと気が付く。
今、俺はこの女と二人きりだ。だからって、何を話せっつーんだ。
何度となく自問自答した答えが出るはずもなく、俺はただ沈黙する。
「葉柱くん、ありがとう」
「あ?」
唐突な礼に俺はぽかんと口を開けて目の前の女を見た。女は自分の湯飲みを手でくるんでにこにことこちらを見ている。
というか、俺が来てからずっと笑顔だった。
俺はこの女にそういう笑顔を向けられるような何かをしたか?
「高校二年の時からずっとね、お礼が言いたかったの」
「・・・俺に?」
「ずっとね、助けてくれてたでしょ?」
「カッ! そんなことしてねぇよ!!」
何を言うかと思えば、そんなことか。
あれはヒル魔の差し金だったり俺の自己満足だったりで、この女に礼を言われることでは全くない。
「私はあの頃、自分のことに一杯一杯で、色々フォローできてないところが多かったの」
「あぁ?」
「だからね、色々助かったんだと思うの」
「・・・はぁあ??」
世迷い言の次はなぞなぞか。俺が思っていたところとはまた違うことを言っている気はするんだが。
「だから自己満足、かな。本当は結婚式でお話ししたかったんだけど、全然そんな時間が無くて今日はわざわざ来て貰っちゃった」
メグさんとは話せたんだけどね、と女が口にする。
「メグと?」
初耳だ。あいつは俺にそんなことは一言も言わなかった。
「ええ。素敵な人よね。またお話ししたいわ」
結局何が言いたいのか今イチわからないまま、女の言い分は終わってしまったらしい。
ヒル魔もタイミングを計ったようにふらりと戻ってくる。
「食後のデザートもあるのよ」
いそいそと出されたシュークリームに、ヒル魔の顔が盛大に歪んだので、俺は思わず吹き出してしまった。


結局の所、俺たちの共通の会話はあの一年間のアメフト生活くらいしかないので、話題はそれに終始する。
けれど最初程気構えなくても段々話が続くようになった。
話をしながらも、ごく自然に二人は寄り添い、時折視線を絡める。
・・・もしかしてあてられてるんだろうか。
目には見えないがなんとなくハートマークやらピンク色のオーラやらがこちらにばしばしぶつかってくる気がしなくもない。
「それにしても、なんで学生結婚なんてしたんだ?」
「え? そういえば、どうして?」
・・・オイオイ。
俺は何度目とも知れない心の中でのツッコミを目の前の女に入れた。
まさかそんな冗談、と思えば、女の顔は至極真剣だ。
対するヒル魔はあっさりと言う。
「したかったから」
「だって」
「・・・バカか、お前ら」
他になんと言えるだろうか。
したかったから、で結婚するなこのバカヒル魔。そしてそれを受け入れるなバカ女。
「別にいつ結婚したって変わりゃしねぇんなら早い方がいいだろ」
「それにしたって早すぎるだろうが」
と、カップが空になったのを見て女がカップを持ってキッチンへ消える。
「今のタイミングで申請しておかねぇとビザが取れなかったんだよ」
「ビザ? なんだ、新婚旅行はこないだ行ったんだろ?」
新婚旅行はNFL観戦ツアー、とか言いかねないと誰もが思っていたようだが、なぜだかヨーロッパ周遊だったらしい。
ヒル魔には著しく似合わない気がしたが、女の希望を叶えたというのならまあ納得できる、ような。
「アメリカの留学ビザだ」
「まあそれは特別驚く感じじゃねぇな」
「ついでに就労ビザもな」
「・・・何企んでるんだよテメェ・・・」
ケケケ、と笑うヒル魔の左手薬指には金色の指輪。
非常に似合わない装飾品は悪魔を縛る鎖そのものではないのだろうか。
「外国で生活していて、何かアイツにトラブルが起きた場合」
「あ?」
「真っ先に連絡が行くのは、結婚していない場合、アイツの親だ」
「ああ、まあ、そりゃそうだな」
「ソレが不満だ」
「あぁ?」
「アイツのことは俺だけが知ってればいいんだよ」
がしゃん、と俺の背後で陶器が割れる音。
振り返れば真っ赤な顔の女が立っている。足下には派手に割れたカップ。
その中身は広範囲に飛び散っていたが、とりあえず身体に掛かることはなかったようだ。
「あ、う・・・動かないでね! 今、雑巾持ってくるから・・・」
焦った女がしゃがもうとする。
「いいからお前も動くな」
ヒル魔がそれを制し、立ち上がって箒とちりとりを持ってくる。
何の変哲もない箒とちりとりだ。
誰だって持つものだろうに、なんでヒル魔が持った途端にこんなに違和感があるんだ。
「なんでいきなり手ェ滑らせてるんだよ」
「だ、だって、なんかヒル魔くんが、珍しく甘いこと言ってる、と思って」
「アホか。慣れろ」
「慣れない! 絶対慣れない!!」
「バカ、抱きつくな!」
陶器の破片を掃き集めるヒル魔の背に抱きつく女。
あーもう、ばかばかしい。 このバカップルどもが!
俺はさっさと帰りたいと思ったが、飛び散った破片を片づけるまで俺は未だ身動ぎ出来ずにいる。
耐えきれず前に向き直ると、途端に不自然な沈黙が後ろに落ちる。
何をしているかなんて見たくもない。
・・・俺、本当に何しに来たんだ。
今までどんな立場にあっても出したことのない、ため息なんてものが自分の口から出たのも信じられねぇ。


結局その後、何をするでもなく、俺は二人の新居を辞した。
あの二人はもう少ししたらアメリカへと渡るのだろう。
期間がどれほどかは判らないが、なにせ就労ビザだ。生半可な年数では帰ってこない気がする。
二人の指にあった金色の指輪を思い出す。
責任がどうとか、立場がどうとか、そんなものを全てすっ飛ばしてあっさり互いを縛り付けて。
その目的が互いを求める、そんな単純なことで。
そうして二人でいることでより一層高みを目指す、そんな気概さえ感じさせて。
「・・・くそ・・・」

俺は日の落ち始めた高速を爆音上げて突き進む。
今、無性にメグの顔が見たくてたまらなくなった、なんて恥ずかしくて口にも出せやしねぇ!

***
14000HITキリ番申請してくださったfumika様リクエスト『できましたら新婚ヒルまもを・・』でした。
『二人の相変わらずの無自覚いちゃつきを、新婚家庭に恐る恐る(興味津津?)で訪ねて来た第三者目線で書いていただけたら楽しいかと』ということで葉柱さんにご登場頂きました。いつもならデビルバッツメンバーを選ぶところですが、それじゃ面白くないと思って選んだキャストでした。予想以上に楽しかったですw

リクエストありがとうございました~!
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