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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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牙跡

(ヒルまも)

 


+ + + + + + + + + +
※このヒル魔さんは骨折治療中ですが酸素カプセル+セ●ウェイには乗っておりません。






ずっとこのところ、落ち着かなかった。
骨が折れてからは治療に専念していたため、調子が狂ったか。
しかしそれとは違うような。
顎がむず痒いような気がするのだ。
「虫歯じゃない?」
「俺は虫歯出来ねぇ体質なんだよ」
何の気なしに顎をさすっていたら、心配したらしい糞デブが声を掛けてきた。
テメェこそそんだけ物食ってりゃ歯も顎もいかれそうなもんなのに、よくよく頑丈なもんだ。
「そうなの? でも、このところずっとじゃない?」
ばれてたのか、と思うがその狼狽は顔に出さない。
糞デブと俺との付き合いの長さはこの部活の中で一番だ。
そして多分誰よりも長く俺と共にいた他人。
こいつに見抜かれる分には仕方ないかと思える。
「顎をダメにする病気、じゃなかった、なんかガクガクするのあったよね?」
「顎関節症な。だがそれじゃねぇよ」
「ふーん。・・・治らないようなら病院に行ってよ?」
言っても無駄かな、という雰囲気で糞デブが言うから、俺はガムを口に放り込んで聞き流した。
糞デブは仕方ないなあ、という顔をして外に出て行った。
ガムを噛んでいると多少は落ち着く。
歯茎が腫れているのか、と思って口の中を覗いたがそんなこともなかった。
相変わらず鋭利な自分の歯は整然と顎に収まっている。
ガムを噛み、原因を考えるが判らない。
肉体的な物でなければ心因的な物だが、生憎と思い当たる節もない。
腹立ち紛れに膨らませた風船がぱちんと弾けたのを機に頭を切り換えた。
そうだ、こんなことに気を取られている場合じゃない。
目標はクリスマスボウルだけなのだから。
外からは協力させている他校生と部員たちの声が聞こえてくる。
俺もそちらへ向かうべく、扉を開けた。


鼻先を茶色い髪が擽る。
帰宅途中、ふと糞マネが俺の前に踏み出したかと思えば、くるりと至近距離で振り返った。
「ねえ、どうしたの?」
「何が」
「歯。虫歯?」
糞デブに続き糞マネにまで尋ねられて、俺はあからさまに顔を顰めた。
そんなに判りやすいだろうか。
人の機敏に聡いとはいえ、どこか抜けてるこの糞天然女に見抜かれて、俺は非常に気分が悪い。
「ベツニ」
「その割には結構長いじゃない?」
俺は思わず舌打ちする。なんで見てやがる。
「ねえ、酷かったら歯医者さん行った方がいいよ。付き合ってあげようか」
「俺は虫歯出来ない体質ナンデス」
昼間もこの会話したよな、と思いながら俺はガムを取り出そうとして思い出す。
そういえば、今日は一段と酷く疼いたのでイライラしてガムを噛みすぎて、もう食べきってしまったのだ。
コンビニに行こうにも先ほど通り過ぎたし、それをわざわざ買いに戻るのも、そしてそれを糞マネに見られるのも嫌だ。
糞マネはこちらの葛藤には気づかず、小首を傾げてこちらを見上げる。
「でもそういう体質の人って油断して歯茎とかダメにしちゃう人多いんだって。それじゃない?」
「いーや。歯茎も腫れてねぇ」
「ホントに?」
目の前の青い瞳がぱちりと一度瞬いた。
それを見て、一層顎が疼く。
・・・ムズムズする。
「ほら、やっぱり痛いんじゃない?」
「痛くねぇって」
「意地っ張りね。歯医者さんが怖いなら怖いって言いなさいよ」
やれやれしょうがないオコサマね、と言わんばかりの雰囲気に俺は眉を上げた。
「なら、見てみろ」
「え?」
「俺の歯も顎も異常なし、っつーのを見ろっつってんだよ」
どうせ見なきゃ納得しないんだろう、と。
「んー、でもここじゃ見えづらいから、あそこに行かない?」
糞マネの指した先は外灯の下。まあ、明かりのない場所よりは見えやすいだろう。
二人して道の端で、少し前屈みになった俺の口の中を、糞マネが覗き込む。
「うーん・・・暗いしよく見えないけど・・・」
頬に手を当てて、つま先立ちしているこの体勢、多分外から見たらキスしているようにしか見えねぇんだろうな、と考えて。
ふと悪戯心が顔を覗かせた。
一度口を閉じると、糞マネが無防備にこちらを伺う。
「奥の方なの?」
「・・・そーだな」
「やっぱり痛いんじゃない!」
「だが見えねぇんだよナァ」
ホラ見ろ、と言わんばかりの糞マネの手を掴む。
疑問符を浮かべた糞マネに、にやりと笑ってやる。
「だから触って確かめてみろ」
「触るっ?! え、だって、口の中!」
「見えないなら触るしかネェだろ」
「いやいやいや! だって、痛いなら歯医者さんに行けばいいだけじゃない!」
慌てる糞マネの手を強引に引いて、その指を口に突っ込ませる。
途端に真っ赤になって固まる糞マネに、俺は指をくわえたまま忍び笑いをして。
そうしてふと気づく。
あれほどに疼いていたのが、収まっている。
鋭利な歯に触れるのは糞マネの指。やわやわと甘噛みすると、糞マネはびくりと肩を震わせた。
「やっ・・・」
ひやりと冷たい指が舌先に触れる。顎のあたりで力無くもがく他の指を感じながら、俺はじっと糞マネの顔を見つめる。
ほんのりと染まった頬と耳。寒さだけのせいではない、潤んだ瞳。
「やめて・・・」
細く小さく拒む声はひそりと夜に飲まれる。俺は目を眇めてそっと歯を外してやる。
ほ、と息を吐いた瞬間に、狙っていた指を掴んで再び銜えた。
「きゃ!」
「うるへぇ」
ぎり、と先ほどより幾分強く噛みつくと、糞マネの顔が本気で泣きそうになる。
羞恥と、痛みと、混乱と。
その白い面にありありと浮かぶ感情を余さず目と、そして舌先で震える指に感じて、俺は喉で笑う。
仄かに口に広がる鉄錆の味。
そうして唐突に手を放すと、糞マネは感情が高まりすぎてぼろりと涙をこぼす。
「な、に・・・なんなのよう・・・」
俺の涎でベタベタになってしまった手をハンカチで拭って、混乱のあまり止まらない涙もそのままにこちらを睨む。
「せっかく、人が、心配してたのに・・・」
涙声で詰られる。だが俺は糞マネとは裏腹に上機嫌だった。
やっと原因が判明して、すっきりした。
そしてこの症状に有効な対策をすべく、にやにやと笑う。
「このところ顎が疼いてナァ」
「だったら歯医者さんに・・・ッ」
頬に落とされた唇に糞マネの言葉が立ち消える。
そのままぺろりと涙を舐め取り、跡が付かない程度に歯を立てる。
ぴくりと震える身体に、俺は笑みを深めた。
ああ。
やっぱり。

地獄のマンツーマンコーチと称し、他校生選抜がこのところグラウンドで泥門デビルバッツメンバーを鍛えている。
そのフォローで糞マネは通常よりも多くの業務に忙殺されていた。
常に側にあったはずの茶色い頭が、そこかしこで他の面々と話し、仕事をこなし、離れている。
それが面白くなかった。

自分の処理容量を遙かに超える事が起きて呆然とする糞マネの首筋にがぶりと噛みつく。
痛みに竦んだ声が上から聞こえたが、かまわねぇ。
「テメェは俺の側にいればいいんだよ」
「なに、それ・・・」
横暴と罵られようとも、気が付いたからには容赦はしない。
判りやすい所有印をつけてやる。



誰も手を出すな。
彼女は悪魔の所有物。
その証は首筋と、左薬指に、くっきりと。

***
あの酸素カプセル+セグ●ェイじゃなにも出来ないよ・・・! ということで一部捏造。どうやってまもりちゃんをエロなしで噛むか、真剣に考えてこんなことに。ヒル魔さんは理性が強すぎるので時折こうやって身体に不調が出てやっと判ればいいと思う反面、それじゃまもりちゃんは振り回されて大変だと他人事のように思います。
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