旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
がこん、と音を立ててまもりは植木鉢を下ろす。
「お母さん、重い物があったらあとで兄ちゃんに上げて貰おうよ」
「そうね」
後ろで庭をいじっている護が声を掛けた。
長く日本を離れていて、帰国したその日にヒル魔が一家を連れて来たのがこの家だ。
最初は誰の家かと思ったのに、表札には『蛭魔』とあって、中はその日から生活が可能なようにありとあらゆるものが揃っていた。
ヒル魔がアメリカと日本を往復する際に拠点にしていたのかと思ったが、そこはまた別にあるらしい。
秘密主義というか、相変わらず生活費の出所は判明しないし、謎の多い男は今日も不在だ。
「今日もいい天気ね」
まもりは鼻歌交じりで新たに買ってきた苗を煉瓦で作った花壇に植えた。
アメリカにいたときには子育てもあったので鉢植えをいくつか育てていただけだった。
幸いこの家は東京近郊という土地柄にもかかわらず、結構な広さの庭がある。
家の中がすでに準備万端で引越準備に入れていた気合いが空振りしたので、まもりは庭の方に力を入れることに決めたのだ。
引っ越してきてそう日数が経っていないのでまだまだ殺風景な庭を、少しずつ緑に染めていく。
アヤと妖介の二人が中心になって事前に土を耕しておいてくれた区画には野菜の苗を植える。
「家庭菜園もいいわよね」
「僕ナス食べたい。トマトも」
「そうね、楽しみだわ」
しゃがみ込んでいて固まった腰を伸ばすべく、立ち上がる。護は庭の隅でなにやら植えているようだ。
「何植えてるの?」
「スズランとか植えたよ」
見れば小さな苗がいくつか並んでいる。子供らしい花が並ぶ様に、まもりは相好を崩した。
どうにもアヤは女の子ながら可愛らしい物が好きではないらしい。
今日だって姉弟二人でアメフトの練習に行ってしまった。
娘と二人で買い物をしたり旅行をしたり、というささやかな夢は当面叶いそうにないなあ、と内心呟く。
「護はこういうの、好き?」
「うん、楽しい」
子供の無邪気な顔に、まもりも共に笑う。
「さて、そろそろお腹が空いたでしょう。お昼ご飯にしましょうか」
「はーい。僕、手洗ってくる」
ぱたぱたと走っていく背を見送り、さあ自分も、と足を踏み出した瞬間。
「・・・あら?」
ぐらりと視界が揺れ、倒れそうになるのを、後ろから伸びてきた腕が支えた。
「相変わらず迂闊だな、姉崎」
「・・・ル魔、くん・・・」
「寝不足で立ちくらみか」
「誰のせいよ・・・」
「サアネ」
素っ気ない口調でひょいと抱えられる。
ヒル魔くんには抱き癖があるわよね、と言ったら誰かさんがお子様ナノデ、と切り替えされたのももう随分前。
「帽子くらい被れ」
「うん、ちょっとだからって・・・油断した」
「その油断が積み重なってシミシワソバカスとなって顔面に広がってユクノデス」
「UVケアは! ちゃんと! してますっ!!」
「ケケケどーだかナァ」
軽口を叩きながら縁側から直接リビングへ。
まもりの様子がおかしいのを見た護がクッションを持ってやってくる。
「お母さん、具合悪いの? これ使って!」
「ありがとう、護」
ソファに寝かせられ、頭に濡れタオルが置かれる。
しばらくすると、頭も大分冴えてきた。
「・・・もう大丈夫」
「もう少し寝ててよ」
「でも、お腹空いたでしょう?」
まもりが起きあがろうとすると、キッチンから包丁の音。
まさか。
「ヒル魔くん? ご飯作ってるの? 私作るわよ」
「ア?」
言いながら身体を起こすのと、ヒル魔がキッチンから顔を出すのがほぼ同時。
「いーからテメェは寝てろ。護、こっちで手伝え」
「はーい」
「・・・久しぶりだわ・・・」
意外だが、ヒル魔は料理が出来る。料理はまもりの仕事とでも思っているのか、滅多にやらないけれど。
ただ、一つ困った点がある。それを思い出してまもりはキッチンへ声をかける。
「あ! ちょっと、私のは辛くしないで!!」
「アーハイハイ」
「美味しいのにね」
まもりの声を聞いて顔を出した護の手には青唐辛子。そう、この二人とアヤは無類の辛い物好きなのだ。
以前キムチチゲを作ってくれたのだが、まもりと妖介の二人は早々にギブアップした苦い、というか辛い思い出がある。
「今日はオムライスだって~」
「お願いだから私の分にはその唐辛子、入れないでね!!」
「本当に味覚はオコサマデスネー」
「年と味覚は関係ありません! もう!」
やがてキッチンからいかにも辛い、という香りが漂ってきてまもりは不安になってくる。
さすがにオムライスが辛いっていうのはあり得ないと思っていたけれど、彼らが作るなら激辛なのだろう。
自分の分はちゃんと味付け前に分けて貰えただろうか。
「出来たよ!」
護が運んできたオムライスには彩りのように青唐辛子の輪切りが載っていて、とても手が出せない雰囲気だ。
それを自分とヒル魔の席に置くと、今度はチキンライスを持ってきた。
「お母さん、座って」
「はーい」
「お父さん、準備出来たよ」
「おー」
キッチンからヒル魔がフライパン片手にやってくる。
「? 何するの?」
まもりの目の前で、チキンライスの上に黄色いプレーンオムレツがのせられた。
「で、こうだな」
「わ!」
そのオムレツにすっと切れ目を入れ、左右に開くと半熟の卵がとろりとチキンライスを覆った。
「おいしそう! わー、嬉しい!」
まもりが歓声を上げるのをヒル魔はにやにやと笑って見ている。
「ねえ、もう食べていい?」
「ああドーゾ」
「じゃ」
「「いただきまーす」」
ヒル魔が作ったオムライスは辛くもなく普通に美味しかった。
まもりはスプーンを口に運びながら、二人が食べるオムライスを眺める。なんで中にも青唐辛子があんなに入ってるんだろう・・・。
辛いと判っていても、好奇心には勝てない。
「一口、食べてみていい?」
「ほれ」
向けられた皿の端から一口分掬って、まもりは恐る恐る口に入れて。
「・・・ッ!!!」
そのまま口を押さえて慌ててキッチンへと走っていく。
水! と叫ぶ声が聞こえてきた。
「アイツの食い意地は治らねぇな」
「お母さんも懲りないね」
親子二人で残りのオムライスを食べながら、ヒル魔は息子に話しかける。
「おい、あの花はなんだ」
「え? だって、普通の花じゃ面白くないじゃない」
スズラン、ジギタリス、エンゼルトランペット、トリカブト・・・全て毒草ばかり。
「何に使うんだか」
「大丈夫だよ、花は綺麗だから」
けろりと言って、護は最後に残っていた青唐辛子をひょいと口に放り込んだ。
楽しそうに歪む口元からは鋭利な牙が覗いている。
結局コイツも俺の血が勝った感があるな、とヒル魔は内心呟く。
やっぱり一人くらい姉崎寄りの娘を作るべきだろうな、とキッチンへ視線を向けた。
***
自分のまいた種をサルベージ・・・。ウチのヒル魔さんは一応料理できますが基本やりません。激辛オムライスは実際にタイ料理のお店にあるらしいです。私は激辛とまではいかなくても辛い物好きなので、よく韓国料理を食べに行くのですが、青唐辛子をネギと間違えて囓った時は飛び上がりました。辛さもほどほどがいいです。
「お母さん、重い物があったらあとで兄ちゃんに上げて貰おうよ」
「そうね」
後ろで庭をいじっている護が声を掛けた。
長く日本を離れていて、帰国したその日にヒル魔が一家を連れて来たのがこの家だ。
最初は誰の家かと思ったのに、表札には『蛭魔』とあって、中はその日から生活が可能なようにありとあらゆるものが揃っていた。
ヒル魔がアメリカと日本を往復する際に拠点にしていたのかと思ったが、そこはまた別にあるらしい。
秘密主義というか、相変わらず生活費の出所は判明しないし、謎の多い男は今日も不在だ。
「今日もいい天気ね」
まもりは鼻歌交じりで新たに買ってきた苗を煉瓦で作った花壇に植えた。
アメリカにいたときには子育てもあったので鉢植えをいくつか育てていただけだった。
幸いこの家は東京近郊という土地柄にもかかわらず、結構な広さの庭がある。
家の中がすでに準備万端で引越準備に入れていた気合いが空振りしたので、まもりは庭の方に力を入れることに決めたのだ。
引っ越してきてそう日数が経っていないのでまだまだ殺風景な庭を、少しずつ緑に染めていく。
アヤと妖介の二人が中心になって事前に土を耕しておいてくれた区画には野菜の苗を植える。
「家庭菜園もいいわよね」
「僕ナス食べたい。トマトも」
「そうね、楽しみだわ」
しゃがみ込んでいて固まった腰を伸ばすべく、立ち上がる。護は庭の隅でなにやら植えているようだ。
「何植えてるの?」
「スズランとか植えたよ」
見れば小さな苗がいくつか並んでいる。子供らしい花が並ぶ様に、まもりは相好を崩した。
どうにもアヤは女の子ながら可愛らしい物が好きではないらしい。
今日だって姉弟二人でアメフトの練習に行ってしまった。
娘と二人で買い物をしたり旅行をしたり、というささやかな夢は当面叶いそうにないなあ、と内心呟く。
「護はこういうの、好き?」
「うん、楽しい」
子供の無邪気な顔に、まもりも共に笑う。
「さて、そろそろお腹が空いたでしょう。お昼ご飯にしましょうか」
「はーい。僕、手洗ってくる」
ぱたぱたと走っていく背を見送り、さあ自分も、と足を踏み出した瞬間。
「・・・あら?」
ぐらりと視界が揺れ、倒れそうになるのを、後ろから伸びてきた腕が支えた。
「相変わらず迂闊だな、姉崎」
「・・・ル魔、くん・・・」
「寝不足で立ちくらみか」
「誰のせいよ・・・」
「サアネ」
素っ気ない口調でひょいと抱えられる。
ヒル魔くんには抱き癖があるわよね、と言ったら誰かさんがお子様ナノデ、と切り替えされたのももう随分前。
「帽子くらい被れ」
「うん、ちょっとだからって・・・油断した」
「その油断が積み重なってシミシワソバカスとなって顔面に広がってユクノデス」
「UVケアは! ちゃんと! してますっ!!」
「ケケケどーだかナァ」
軽口を叩きながら縁側から直接リビングへ。
まもりの様子がおかしいのを見た護がクッションを持ってやってくる。
「お母さん、具合悪いの? これ使って!」
「ありがとう、護」
ソファに寝かせられ、頭に濡れタオルが置かれる。
しばらくすると、頭も大分冴えてきた。
「・・・もう大丈夫」
「もう少し寝ててよ」
「でも、お腹空いたでしょう?」
まもりが起きあがろうとすると、キッチンから包丁の音。
まさか。
「ヒル魔くん? ご飯作ってるの? 私作るわよ」
「ア?」
言いながら身体を起こすのと、ヒル魔がキッチンから顔を出すのがほぼ同時。
「いーからテメェは寝てろ。護、こっちで手伝え」
「はーい」
「・・・久しぶりだわ・・・」
意外だが、ヒル魔は料理が出来る。料理はまもりの仕事とでも思っているのか、滅多にやらないけれど。
ただ、一つ困った点がある。それを思い出してまもりはキッチンへ声をかける。
「あ! ちょっと、私のは辛くしないで!!」
「アーハイハイ」
「美味しいのにね」
まもりの声を聞いて顔を出した護の手には青唐辛子。そう、この二人とアヤは無類の辛い物好きなのだ。
以前キムチチゲを作ってくれたのだが、まもりと妖介の二人は早々にギブアップした苦い、というか辛い思い出がある。
「今日はオムライスだって~」
「お願いだから私の分にはその唐辛子、入れないでね!!」
「本当に味覚はオコサマデスネー」
「年と味覚は関係ありません! もう!」
やがてキッチンからいかにも辛い、という香りが漂ってきてまもりは不安になってくる。
さすがにオムライスが辛いっていうのはあり得ないと思っていたけれど、彼らが作るなら激辛なのだろう。
自分の分はちゃんと味付け前に分けて貰えただろうか。
「出来たよ!」
護が運んできたオムライスには彩りのように青唐辛子の輪切りが載っていて、とても手が出せない雰囲気だ。
それを自分とヒル魔の席に置くと、今度はチキンライスを持ってきた。
「お母さん、座って」
「はーい」
「お父さん、準備出来たよ」
「おー」
キッチンからヒル魔がフライパン片手にやってくる。
「? 何するの?」
まもりの目の前で、チキンライスの上に黄色いプレーンオムレツがのせられた。
「で、こうだな」
「わ!」
そのオムレツにすっと切れ目を入れ、左右に開くと半熟の卵がとろりとチキンライスを覆った。
「おいしそう! わー、嬉しい!」
まもりが歓声を上げるのをヒル魔はにやにやと笑って見ている。
「ねえ、もう食べていい?」
「ああドーゾ」
「じゃ」
「「いただきまーす」」
ヒル魔が作ったオムライスは辛くもなく普通に美味しかった。
まもりはスプーンを口に運びながら、二人が食べるオムライスを眺める。なんで中にも青唐辛子があんなに入ってるんだろう・・・。
辛いと判っていても、好奇心には勝てない。
「一口、食べてみていい?」
「ほれ」
向けられた皿の端から一口分掬って、まもりは恐る恐る口に入れて。
「・・・ッ!!!」
そのまま口を押さえて慌ててキッチンへと走っていく。
水! と叫ぶ声が聞こえてきた。
「アイツの食い意地は治らねぇな」
「お母さんも懲りないね」
親子二人で残りのオムライスを食べながら、ヒル魔は息子に話しかける。
「おい、あの花はなんだ」
「え? だって、普通の花じゃ面白くないじゃない」
スズラン、ジギタリス、エンゼルトランペット、トリカブト・・・全て毒草ばかり。
「何に使うんだか」
「大丈夫だよ、花は綺麗だから」
けろりと言って、護は最後に残っていた青唐辛子をひょいと口に放り込んだ。
楽しそうに歪む口元からは鋭利な牙が覗いている。
結局コイツも俺の血が勝った感があるな、とヒル魔は内心呟く。
やっぱり一人くらい姉崎寄りの娘を作るべきだろうな、とキッチンへ視線を向けた。
***
自分のまいた種をサルベージ・・・。ウチのヒル魔さんは一応料理できますが基本やりません。激辛オムライスは実際にタイ料理のお店にあるらしいです。私は激辛とまではいかなくても辛い物好きなので、よく韓国料理を食べに行くのですが、青唐辛子をネギと間違えて囓った時は飛び上がりました。辛さもほどほどがいいです。
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HN:
鳥(とり)
HP:
性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
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