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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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とある男性の受難

(ヒルまも)

※5/9アップ『イヤーロブ』の続きです。
※まもりパパ視点

+ + + + + + + + + +

私は今の生活に満足していた。
仕事は緊張の連続だが、やりがいのある仕事だし、誇りを持って働けている。
妻は美しく、娘は可愛らしい。家に帰れば二人が出迎えてくれる、幸せな家庭だ。
不規則な勤務態勢のせいで、あまり娘には構えないのが残念だが。
娘は今年で二十歳になる。
妻がアメリカ人の血を引いているためか、彼女も青い目を持ち、明るい茶色の髪だ。
年々美しくなる彼女を娶る男は幸せだろうが、当面はその幸せを分け与えるつもりはない。
なにしろまだ二十歳だ。人生はまだこれからだろうし、今は遠く離れた大学に通う彼女は今もっとも充実した日々を過ごしているに違いない。
「なぁに、あなた。嬉しそうな顔しちゃって」
「ん? ああ、まもりからの手紙だと思うと嬉しくてね」
「んもう、私からの手紙はそんな顔して読んでないでしょうに」
妻に嫌味を言われようとも、娘のそれは嬉しいものだ。ましてや父親とは世間一般でかなり娘には虐げられる存在といえるのではないか。
その娘との付き合いが良好であることに喜びを見いだしてもなんら問題はないだろう。
娘の綺麗な文字が便せんの上でいきいきと躍っている。彼女が大学生活を満喫できているのなら、これ以上喜ばしいことはないではないか。
多少寂しい気がするが、それは我が儘というべきだろう。
「まもりは元気そうでよかったよ」
「そうね」
妻が紅茶を入れて私の隣へ座る。
「ところで、まもりが貴方に伝えたいことがあるから、家にいる日を教えてくれって言ってたわよ」
「ん? なんだろう」
「さあ。私は聞いてないわ」
妻はにっこりと笑ってお茶請けのお菓子に手を付けた。手作りのそれは私の好物でもある。
「とりあえず次の土曜日は家にいる予定だよ」
「そう? じゃあまもりにそう伝えちゃっていい?」
「ああ、頼むよ」
そこで会話が途切れ、私たち二人の間に沈黙が漂う。それは息苦しいものではなく、穏やかさに満ちている。
やがて空になったカップを持って、妻が立ち上がる。
「ああそうそう―――」
思い出したように妻が言った。
「そういえば、貴方に会わせたい人がいるって言ってたわ」
「っ?!」
がしゃん、とほぼ中身のなかったカップがソーサーに落ちる。
幸い割れたりしていなかったが、その衝撃は私の頭の中でまだ反響を続けている。
「なんだって?! まもりに彼氏が出来たのか?!」
「さあ、どうでしょうね?」
くすくすと笑う妻はきっと詳細を全て知っているに違いない。聞いてみても教えては貰えまい。
よもやまさか、いやでも、しかし、と意味のない言葉ばかりがぐるぐると頭の中を回る。
そんな私の様子に妻は肩をすくめると、さっさと台所に行ってしまった。
―――まもりは昔からお父さん子だった。だから、きっと彼に似た男を連れて来るに違いない。
もしまもりの彼氏が私の目に叶うようだったら、それは祝福するべきだと思える。
まあ、まだ結婚とかは先の話だろうから、そんなに構えることはないだろう。
私は必死になって自分を落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。
・・・運命の土曜日は、あと三日。



土曜日の早朝から、目が冴えてしまった。
まさかまさかと思っていたが、まもりが彼氏を連れてくるなんて、月日が経つのは早いものだ。
さすがに三日もあれば気分も落ち着くと思っていたのだが、全く逆だ。
今もこのまま逃げ出そうかと思うくらいに。
いやいや、別にまもりが取って喰われるわけではなし、挨拶に来るくらいちゃんとした青年なら逃げるなど失礼・・・しかし・・・。
悶々と頭を悩ませつつも、いつの間にか時計は指定の時刻である十時を指し示そうとしている。
「・・・どんな男なんだ」
「さあねぇ」
「君は知ってるんだろう?」
「第三者の意見を耳にすると先入観が出来てしまうから口には出来ないわ」
「ぐ・・・っ」
苛立つ私を妻は楽しそうに眺めている。まったく、他人事だと思って。
君だって手塩に掛けて育てた娘が他のヤツに、とは思わないのか、と恨みがましく見てしまう。
「だって、まもりが誰と付き合おうが結婚しようが、私の娘だもの。そうでしょ?」
「ま、まぁ・・・そうだが」
「だからしっかり受け止めればいいのよ」
そう言いながら、妻の顔はどことなく憐憫を含んでいるような。
「・・・がんばってね」
なにが、と言おうとして。
玄関のチャイムが鳴った。妻がぱたぱたと玄関に向かう。
「おかえり、まもり」
「ただいま! お父さんは?」
「中にいるわよ」
「そう、よかった。ちょっとヒル魔くん、何してるの?」
・・・ヒル魔。
ちょっと待て、それは何だ。
私の脳裏にあるヒル魔という単語で引っかかるのは、泥門高校。
まもりがマネージャーで、彼がキャプテン。
そんな関係が恋愛として発展するのは珍しいことではない。
だが。
彼は、なんだか、とんでもない外見の、とんでもない行動をしていた、その・・・超問題児ではなかったか?
それがなんで娘と。
よりによってまもりと!?
いやいやいやいや、もしかしたら別人かも知れないし、という淡い希望を打ち砕くのは。
「こんにちは、お久しぶりです」
「まあまあ妖一くん、ご丁寧にありがとう」
「ヒ、ヒル魔くんが手みやげ片手に挨拶してる・・・!」
「一般常識デスヨ」
玄関先から聞こえてくるのは楽しそうな三人の会話。
まずい。
逃げたい。
「さあ上がって。リビングで主人も待ってるから」
「はい、お邪魔します」
せんでいい、というツッコミは心の中だけだ。
パタパタと娘の軽い足音、その後には男の・・・足音は聞こえない。
「お父さん、ただいま!」
「・・・お、おかえり・・・」
逃げるに逃げられず、私は呆然とソファに座ったまま娘を迎える。
その後ろから、逆立った金髪。
同姓同名の別人ではなく、見知った顔だ。
まもりの持っているアメフト部の写真でも異様な存在感を放っていた男。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あの、お父さん? お父さん!?」
がくがくと揺さぶられ、私は我に返る。
「もう! ちょっと、大丈夫?!」
「ええ、いや、その・・・」
大丈夫ではない。
だが、こんな格好をみすみす敵に見せるのもよろしくない。
私は深呼吸してにっこりと友好的な笑顔を浮かべ、ソファから立ち上がる。
そして右手を差し出した。
『ようこそ、我が家へ。君がまもりの言っていた私に会わせたい人、ということでいいのかな?』
嫌がらせで、滑らかに英語で喋ってみる。
金髪にするからにはこれくらいは平気だろう、という、俗に言う八つ当たりだ。
が。
『ええ、そうです。会って下さってありがとうございます』
彼もにっこりと笑ってそれはそれは綺麗な発音で、私の手を握って見せた。
・・・おのれ。
「まあどうぞ」
「どうも」
向かいの席を勧めると、彼はそこに腰掛けた。隣にまもりが座る。
よく見れば一応礼儀をわきまえてスーツを着てきたらしいが、それなら髪とピアスを先にどうにかするべきじゃないだろうか。
妻がコーヒーと紅茶を持ってくる。
コーヒー? 我が家ではほとんど出てこないそれを彼が受け取る。
私の隣に妻が座り、そこでまもりが口を開いた。
「あのね、お父さん。この人がこないだ言っていた会わせたい人だったんだけど」
「ああ・・・」
私が微妙な顔だったのだろう、まもりはちょっと困った顔をしたが、言葉を続ける。
「蛭魔妖一くん。泥門高校の同級生で、部活が一緒だったの。今は同じ大学に通ってるわ」
「・・・・ほう」
「それでね」
付き合いを認めて欲しいとかそういうことだろうか。
それなら即却下だ、と次に言われる言葉を想定していたら。
彼がにやりと笑った。
仮にも付き合っている彼女の父親の前でにやりはないだろう、にやり、は。
それに気を取られていたら、まもりの言葉に反応が遅れた。
「私たち、結婚します」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?!」
けっこん? 血痕? ・・・・・・・・・・・・・・結婚!!!???
「な、な、な・・・」
「あらとうとう決めたのね! おめでとう!」
絶句しているこちらとは裏腹に、妻は笑顔で祝福している。
ちょっと待て。
まもりはまだ二十歳で。
ということはこの目の前の男も二十歳で。
「早すぎる!」
「どうして?」
妻が間髪入れずに聞き返す。
「どうしてもこうしても、まだ二人は二十歳だろう?! そもそも結婚するって・・・もう既に報告じゃないか!」
混乱する私に、彼はにやにやと笑うばかり。
「あら、でも」
まもりは首を傾げる。
「もう一年ちょっと同棲してるんだけど」
知らなかったの? と言われて。

・・・・その後の記憶がない。


「ちょっとヒル魔くん、私の両親の許可取ってるって言ったじゃない!」
「まさか知ってたのが母親だけとは知らなかったナァ」
「いやいやいやいや! 絶対知ってたでしょ! お母さんに口止めまでして!!」
「口止めなんて人聞きの悪い。俺はちゃーんと言いマシタ」
「なんて?!」
「『結婚を前提に一緒に住むので許可を下さい』ってナァ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!??」
「オヤオヤ、糞元風紀委員ともあろう者が、結婚する気もない男と同棲しちゃうんデスカ?」
「そ、っ・・・・卑怯よ、そんな言い方!!」
「卑怯がモットー」
「それ黒木くん! やだ、懐かしい!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ声が二階から丸聞こえだ。私は頭に乗せた濡れタオルの下から、深々とため息をつく。
「・・・君はずっと黙ってたのか」
「うふふ、だって言ったら貴方まもりの所に行って連れ戻しそうだったし」
「まもりの為だったら当然だろう」
声が尖る。けれど妻の声は至極楽しそうなままだった。
「まもりの為だからよ。あんなに真摯にあの子を愛してくれる人、そうそういないわ」
「真摯・・・どこが!」
「あの子、貴方に似て変な風に意固地だから、弱みを見せないようにずっと気を張ってたわ」
そっと私の手に触れる妻の指先。ひんやりと冷たい柔らかく、若い頃からずっと変わらない温度。
「セナくんのこともあったし、女子中なんて行っちゃったから男の子にうまく甘えられなかったでしょう」
「そうだったか・・・?」
思い返すのは妻譲りの茶色い髪と青い瞳でこちらを見上げる幼い少女。今は美しく成長しているとはいえ、いつまでも彼女の印象は幼い少女なのだ。
「高校でもあんまり変わらなかったから、ちょっと心配してたの。あの子、このまま行ったら結婚どころか彼氏も出来そうにないわ、って」
「そりゃないだろう。あの子はかわいいんだぞ!」
「親の欲目を差し引いても外見的には充分ね。でもそういうことじゃないって貴方も判るでしょう?」
清く正しく美しく、まるで標語のような行き方をして背筋を伸ばして、自分の正義を貫くまもり。
その弱みを見せることをよしとせず、気を張って生きていた。
更に言えば男心を理解しない超が付く程の天然娘。
そんな彼女に惹かれても、内面まで踏み込む相手は限られる。
彼女自身のレベルが高ければ高い程、男の方が尻込みする。
「その点妖一くんはまもりより上を行くし。頭も口もね」
「あの外見は許し難いぞ」
「そんなのは些細な事よ。貴方だってちゃんと彼の目を見たでしょう」
「・・・・・」
にやりと歪んだ口元とは違う、真摯な光を宿した眸。
怜悧な外見とは裏腹の、情熱の持ち主なのだと部活の話をするまもりに再三聞いたことがあったが、それも充分納得できる眸だった。
「・・・だとしても、若すぎる」
「年齢は関係ねぇと思うんだが」
「?!」
唐突に会話に割り込んできたのはヒル魔だった。飛び起きて濡れタオルを取ると、そこには先ほどのように人を食ったようににやにやした顔。
妻はいつの間にか席を外していた。
「俺は無駄なことが嫌いなんでナァ。自分のものにすると決めたら譲らねぇ」
「君は・・・なんでまもりなんだ。どうしてあの子を選ぶ」
「あれほどのタマはそうそういねぇ。アンタの自慢の娘だろ」
「それは・・・そうだが・・・」
まもり。私のかわいい娘。
幼い頃は足下をちょろちょろしていたはずの少女は、いつの間にか成長していつの間にか一人の女性になっていた。
そうなることは遠くない未来だと判っていた。けれど。
こんなにも早いなんて。
「別に俺と結婚したからっつったって、アンタの娘じゃなくなるわけじゃねぇ」
「君みたいな男に娘をかっさらわれる立場にもなりたまえ!」
きっと睨みつけてもにやにやと笑う男の目は変わらず揺らがず、真摯なままだ。
「俺みたいな男? アンタの娘を世界一幸せにしてやろうっていう男に?」
ぽい、とそっけなく渡されたのは豪華な飾りの付いた封筒。
「その第一段階で、あいつの両親が顰めっ面じゃ困る」
それは結婚式の招待状だった。
いやいやいやいや、早い。両親の許可を取ってから結婚式の算段を立てるもんだろう。
「勘違いしてねぇか? 俺は結婚の許可を取りに来たんじゃねぇんだよ。それは一年前に済んでる」
私の心を読んだかのように彼は告げる。
その後に、こっちの都合で待たせたからな、と微笑んで見せた顔は思いの外穏やかなものだった。


階下の会話を気にしながら、まもりは母と自室で紅茶を飲んでいた。
「お父さん、大丈夫かな」
「妖一くんなら平気でしょ」
母の言葉に、まもりは微笑む。
「結婚式か―――・・・ごめんね、先に連絡しなくて」
「いいのよ。先に聞いてたら変に浮ついちゃってきっとお父さんにばれちゃったわ」
「なんだか意外なのよ。ヒル魔くん、絶対こういうの嫌いだろうって思ってたから」
「そうなの?」
「結婚するって言われたときも、結婚式やるぞって言われたときもすごーくびっくりしたわ」
まもりがヒル魔くんらしくないわ、と呟いて紅茶に口を付けるのを、母はにこにこと笑って見ている。
「それにお父さんに挨拶したいっていうのも。そういうの気にするんだ、と思って」
「まもりの為よ」
「え?」
「もし私たちが祝福しないで二人だけで結婚して、私たちとわだかまりが残ったらまもりはイヤでしょう?」
「そうね。お母さんが祝福しないっていうのは考えなかったけど」
「結婚生活は楽しいことばかりじゃないわ。もう一年ちょっと同棲しているから判ってるでしょうけど、嫌なことも辛いことも沢山あるわ」
「・・・・うん」
「妖一くんはまもりの事を考えて、そうやって動いているのよ。だからお母さんは妖一くんのことが好きよ。信頼してるわ」
「なんだかお母さんの方がヒル魔くんのこと判ってる気がするわ」
「経験則よ」
ふふ、と笑って母はまもりの薬指に嵌るとろけるような金色をそっと撫でる。
「幸せになりなさいね」
「うん」

いつの間にか階下は静かになっている。
足音のしない男がまもりを迎えに上がってくるのはあと少し。


***
当たり前のように二人が結婚する話とか子供がいる話はあるけれど、両親に結婚の報告に行く話は見たことがないなぁ・・・と思って書いてみました。まもパパ視点は楽しかった! いつの世も娘と母は結託するものです。ちなみに、ヒル魔が二十歳まで待ったのは自分の両親の承諾書を得るのが面倒だったからなのでした。

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