旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
自然と足が向いた。
グラウンドにまだ声変わりの完了していない男子生徒の声が響いている。
「SET! HUT!」
「うぉおお!」
投げられるボールの軌道は甘く、簡単に敵チームに弾かれている。
「おまえら、壁甘ェぞ!! もっと腰落とせ!」
「はいっ!!」
アメフトの紅白戦を行っている部員達を、ヒル魔は部室の隣に立って眺めていた。
砂が混じった熱風が逆立った金髪を揺らす。
日差しは強烈で、日向に立っていると熔けてしまいそうなほど。
それでも部員達は秋からの大会に向けて必死に練習を繰り返している。
ガシャンガシャンと鳴り響く特訓用マシンの音。
マネージャーが吹く笛の音、コーチの怒声。
かつては自分もあの中にいたのだ、と思うと懐かしさだけが募る。
「あ、やっぱりここだった」
不意にかけられた声に振り返ると、そこには制服姿のまもりがいた。
ヒル魔は一度瞬いて、次いで半目になる。
「なんだ、そのナリ」
「いいじゃない。せっかくここに来たんだもの」
カワイイでしょ。そう笑ってまもりはスカートの裾をつまんでくるりと回る。
「そういうヒル魔くんだって、その格好」
「俺はいいんだよ」
「何よその理屈」
くすくすと笑うまもりに眸を僅かに細めた。
「本当は嬉しいんでしょ。素直に喜んでよ」
「誰が」
「意地っ張りでー、秘密主義でー、口が悪くてー、甘い物が嫌いでー、夢見がちでー、アメフト馬鹿でー」
まもりがわざとらしく語尾を伸ばし、すいすいと指を折りながら口にする評価を、ヒル魔はそれでも口を挟まず見守る。
「実はすっごく家族想いでー、子煩悩でー、孫馬鹿でー」
滑らかに動く指に、高校生らしからぬ装飾品が一つ。
金色の指輪。
幸せそうに頬を染めて、まもりは続けた。
「・・・何より妻馬鹿の蛭魔妖一、でしょ」
「ホホー。随分とうぬぼれの強い糞嫁だなァ」
「今更今更! 取り繕っても無駄よ」
あはは、とまもりは笑った。
「ことあるごとに私に話掛けてたじゃない」
「聞いてたのか」
「聞こえてたわよ、ちゃんと」
まもりは強い日差しの中、汗一つかかずにヒル魔の傍らに歩み寄る。
その足下に影はない。
惹かれるように日向に足を踏み出したヒル魔にも。
「伊達にヒル魔くんの奥さんやってなかったんだから。愛してるってなかなか言ってくれなかったけど」
「それくらい判るだろ」
「言葉は重要なのよ」
ぷう、とむくれたまもりの頬に、ヒル魔の手が触れる。
まもりは幸せそうに笑うと、それに自らの手を触れさせて頬をすり寄せる。
かすかに震えるヒル魔の手に気づかないふりで。
「やっぱり健康的な生活してるから、ヒル魔くんはなかなかこっちに来ないわよね、ってデビルバッツのみんなで噂してたのよ」
「なんだ、アイツらもテメェと同じとこにいやがるのか」
「当然でしょ」
ヒル魔くんが一番最後よ、とまもりは口角を上げる。
「キャプテンが来なきゃ締まらない、ってよく言ってるわ」
「一世紀近く経っても抜けねぇとは素晴らしい糞奴隷根性だなァ」
後で褒めてやろう、と悪魔の顔をするヒル魔にまもりは苦笑する。
「んもう! またそんな風に言って!」
もう少し素直になりなさいよ、とくるくる表情を変えるまもりにヒル魔は視線を向ける。
「愛してるぞ、まもり」
「・・・ッ!!」
びくっ、と驚いて見上げてくるまもりにヒル魔はふふんと鼻を鳴らす。
「なんだ、何か文句でも?」
「な、・・・文句、はない、けど」
「オヤどうした、まもり。テメェの言うとおり素直になっただけだぞ」
「・・・なんか悪意が! ある!」
「悪意なんざねぇよ」
ケケケ、と笑いながらヒル魔はまもりの身体を抱きしめる。
その手にも、金色の指輪。
「本心だ」
やっと、触れられた。それだけは内心で呟いて、ヒル魔はまもりの手を取る。
「で、あっちにはどう行くんだ?」
「やだ、本当に迷子だったの? 単に寄り道してただけかと思ったのに」
す、と視線を向けるとまだアメフトの練習をする部員の姿。
その中の一人がヘルメットを取り、二人の方へ視線を向けた。
二人の曾孫だった。
「あの子もアメフトやり始めたのね」
その視線の強さに、強ばった顔に、ヒル魔はにやりと笑った。
「そうか、アイツも継いだのか」
「何を?」
見せつけるように笑って手を振って見せてから、ヒル魔はまもりの手を引いた。
「俺の『目』だ」
「? どういうこと」
「あっちに行ったら教えてやる」
何しろこれからの時間は沢山あるのだ。
「そっか。じゃ、そろそろ行く?」
「おー」
二人は歩き出す。曾孫の視線の前で踵を返し、本来行くべき場所へ。
深い闇が唐突に二人を囲った。それでもまもりの歩みに迷いはない。
しっかりと手を繋ぎ、まもりはヒル魔を見上げる。
「ヒル魔くんの秘密、全部教えてもらえるの?」
「おー。それこそテメェをどれだけ愛してるか魂の随まで染みこませてやろう」
「ええ!? やだ、ちょっと恥ずかしすぎるわよそれ!!」
「あれだけ散々身体に教えてやってたのにか?」
「言わないで! 何でもう・・・今更素直になりすぎるかな! んもう!」
真っ赤になって身悶えるまもりがこれ以上なく愛おしい。
しばらく歩くと、急に視界が開けた。
見渡す限りの広い広い草原。抜けるような青い空。
絶好のアメフト日和だ。
手を繋いでやって来た二人を、目敏く見つけた人影が駆け寄ってきた。
「あ! ヒル魔さんだ!!」
「お久しぶりっスー!!」
「ハァ、やっと死んだか」
「ハ、悪魔も死ぬんだな」
「ハァアアア、平穏なあの世生活もこれで終わりかァ」
「え? 随分退屈だったって言ってたでしょう、三人とも」
「フゴ」
「そうだね、退屈だったね~」
「それは平穏っていうんだ、栗田」
「アハーハー! 流石ムッシューヒル魔、百歳越えなんて素晴らしいじゃないか!」
口々に言いつのる面々も同じように高校の時の姿だった。
「テメェらがそんなに糞奴隷根性丸出しだとは思わなかったがな」
「ヒル魔くん、嬉しいならそう言いなさいよ」
固まったかつてのデビルバッツメンバーの元に、甲高い声と共に駆け寄ってきたもう一つの人影。
「やー!! 妖兄も来たんだね! 丁度これからあっちで王城とアメフトの試合やろって話してたんだよ!」
鈴音のはしゃいだ声に、まもりが満面の笑みを浮かべて手を引いた。
「ヒル魔くん、行こう」
まもりを見、ぐるりと見渡せば笑顔のデビルバッツメンバー。
「・・・よし」
口角を思い切り引き上げ、ヒル魔は声を上げる。
「行くぞ、テメェら!」
『Yerh-!!』
うっすらと笑みを浮かべた口元からため息のような呼気が漏れて、それきり。
きっと最愛の妻が迎えに来たのだろうと誰もが信じる安らかな顔で、彼は眠った。
永遠に。
***
龍生様リクエスト『迷子になったヒル魔さんをまもりさんが迎えに行く話』でした。
間違ってないよ! 間違ってないもんね!
鳥設定ではまもりちゃんの方が先に亡くなって、ヒル魔さんは後を追う形です。でも老衰。
このネタはヒルまも一家を書き始めた当初からあって、今回のリクエストと丁度重なったのでうまい具合に使わせていただきました! ある意味ハッピーエンドですから!
リクエストありがとうございましたー!
グラウンドにまだ声変わりの完了していない男子生徒の声が響いている。
「SET! HUT!」
「うぉおお!」
投げられるボールの軌道は甘く、簡単に敵チームに弾かれている。
「おまえら、壁甘ェぞ!! もっと腰落とせ!」
「はいっ!!」
アメフトの紅白戦を行っている部員達を、ヒル魔は部室の隣に立って眺めていた。
砂が混じった熱風が逆立った金髪を揺らす。
日差しは強烈で、日向に立っていると熔けてしまいそうなほど。
それでも部員達は秋からの大会に向けて必死に練習を繰り返している。
ガシャンガシャンと鳴り響く特訓用マシンの音。
マネージャーが吹く笛の音、コーチの怒声。
かつては自分もあの中にいたのだ、と思うと懐かしさだけが募る。
「あ、やっぱりここだった」
不意にかけられた声に振り返ると、そこには制服姿のまもりがいた。
ヒル魔は一度瞬いて、次いで半目になる。
「なんだ、そのナリ」
「いいじゃない。せっかくここに来たんだもの」
カワイイでしょ。そう笑ってまもりはスカートの裾をつまんでくるりと回る。
「そういうヒル魔くんだって、その格好」
「俺はいいんだよ」
「何よその理屈」
くすくすと笑うまもりに眸を僅かに細めた。
「本当は嬉しいんでしょ。素直に喜んでよ」
「誰が」
「意地っ張りでー、秘密主義でー、口が悪くてー、甘い物が嫌いでー、夢見がちでー、アメフト馬鹿でー」
まもりがわざとらしく語尾を伸ばし、すいすいと指を折りながら口にする評価を、ヒル魔はそれでも口を挟まず見守る。
「実はすっごく家族想いでー、子煩悩でー、孫馬鹿でー」
滑らかに動く指に、高校生らしからぬ装飾品が一つ。
金色の指輪。
幸せそうに頬を染めて、まもりは続けた。
「・・・何より妻馬鹿の蛭魔妖一、でしょ」
「ホホー。随分とうぬぼれの強い糞嫁だなァ」
「今更今更! 取り繕っても無駄よ」
あはは、とまもりは笑った。
「ことあるごとに私に話掛けてたじゃない」
「聞いてたのか」
「聞こえてたわよ、ちゃんと」
まもりは強い日差しの中、汗一つかかずにヒル魔の傍らに歩み寄る。
その足下に影はない。
惹かれるように日向に足を踏み出したヒル魔にも。
「伊達にヒル魔くんの奥さんやってなかったんだから。愛してるってなかなか言ってくれなかったけど」
「それくらい判るだろ」
「言葉は重要なのよ」
ぷう、とむくれたまもりの頬に、ヒル魔の手が触れる。
まもりは幸せそうに笑うと、それに自らの手を触れさせて頬をすり寄せる。
かすかに震えるヒル魔の手に気づかないふりで。
「やっぱり健康的な生活してるから、ヒル魔くんはなかなかこっちに来ないわよね、ってデビルバッツのみんなで噂してたのよ」
「なんだ、アイツらもテメェと同じとこにいやがるのか」
「当然でしょ」
ヒル魔くんが一番最後よ、とまもりは口角を上げる。
「キャプテンが来なきゃ締まらない、ってよく言ってるわ」
「一世紀近く経っても抜けねぇとは素晴らしい糞奴隷根性だなァ」
後で褒めてやろう、と悪魔の顔をするヒル魔にまもりは苦笑する。
「んもう! またそんな風に言って!」
もう少し素直になりなさいよ、とくるくる表情を変えるまもりにヒル魔は視線を向ける。
「愛してるぞ、まもり」
「・・・ッ!!」
びくっ、と驚いて見上げてくるまもりにヒル魔はふふんと鼻を鳴らす。
「なんだ、何か文句でも?」
「な、・・・文句、はない、けど」
「オヤどうした、まもり。テメェの言うとおり素直になっただけだぞ」
「・・・なんか悪意が! ある!」
「悪意なんざねぇよ」
ケケケ、と笑いながらヒル魔はまもりの身体を抱きしめる。
その手にも、金色の指輪。
「本心だ」
やっと、触れられた。それだけは内心で呟いて、ヒル魔はまもりの手を取る。
「で、あっちにはどう行くんだ?」
「やだ、本当に迷子だったの? 単に寄り道してただけかと思ったのに」
す、と視線を向けるとまだアメフトの練習をする部員の姿。
その中の一人がヘルメットを取り、二人の方へ視線を向けた。
二人の曾孫だった。
「あの子もアメフトやり始めたのね」
その視線の強さに、強ばった顔に、ヒル魔はにやりと笑った。
「そうか、アイツも継いだのか」
「何を?」
見せつけるように笑って手を振って見せてから、ヒル魔はまもりの手を引いた。
「俺の『目』だ」
「? どういうこと」
「あっちに行ったら教えてやる」
何しろこれからの時間は沢山あるのだ。
「そっか。じゃ、そろそろ行く?」
「おー」
二人は歩き出す。曾孫の視線の前で踵を返し、本来行くべき場所へ。
深い闇が唐突に二人を囲った。それでもまもりの歩みに迷いはない。
しっかりと手を繋ぎ、まもりはヒル魔を見上げる。
「ヒル魔くんの秘密、全部教えてもらえるの?」
「おー。それこそテメェをどれだけ愛してるか魂の随まで染みこませてやろう」
「ええ!? やだ、ちょっと恥ずかしすぎるわよそれ!!」
「あれだけ散々身体に教えてやってたのにか?」
「言わないで! 何でもう・・・今更素直になりすぎるかな! んもう!」
真っ赤になって身悶えるまもりがこれ以上なく愛おしい。
しばらく歩くと、急に視界が開けた。
見渡す限りの広い広い草原。抜けるような青い空。
絶好のアメフト日和だ。
手を繋いでやって来た二人を、目敏く見つけた人影が駆け寄ってきた。
「あ! ヒル魔さんだ!!」
「お久しぶりっスー!!」
「ハァ、やっと死んだか」
「ハ、悪魔も死ぬんだな」
「ハァアアア、平穏なあの世生活もこれで終わりかァ」
「え? 随分退屈だったって言ってたでしょう、三人とも」
「フゴ」
「そうだね、退屈だったね~」
「それは平穏っていうんだ、栗田」
「アハーハー! 流石ムッシューヒル魔、百歳越えなんて素晴らしいじゃないか!」
口々に言いつのる面々も同じように高校の時の姿だった。
「テメェらがそんなに糞奴隷根性丸出しだとは思わなかったがな」
「ヒル魔くん、嬉しいならそう言いなさいよ」
固まったかつてのデビルバッツメンバーの元に、甲高い声と共に駆け寄ってきたもう一つの人影。
「やー!! 妖兄も来たんだね! 丁度これからあっちで王城とアメフトの試合やろって話してたんだよ!」
鈴音のはしゃいだ声に、まもりが満面の笑みを浮かべて手を引いた。
「ヒル魔くん、行こう」
まもりを見、ぐるりと見渡せば笑顔のデビルバッツメンバー。
「・・・よし」
口角を思い切り引き上げ、ヒル魔は声を上げる。
「行くぞ、テメェら!」
『Yerh-!!』
うっすらと笑みを浮かべた口元からため息のような呼気が漏れて、それきり。
きっと最愛の妻が迎えに来たのだろうと誰もが信じる安らかな顔で、彼は眠った。
永遠に。
***
龍生様リクエスト『迷子になったヒル魔さんをまもりさんが迎えに行く話』でした。
間違ってないよ! 間違ってないもんね!
鳥設定ではまもりちゃんの方が先に亡くなって、ヒル魔さんは後を追う形です。でも老衰。
このネタはヒルまも一家を書き始めた当初からあって、今回のリクエストと丁度重なったのでうまい具合に使わせていただきました! ある意味ハッピーエンドですから!
リクエストありがとうございましたー!
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自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
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