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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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カトブレパスの眸(下)



+ + + + + + + + + +
翌日の午前中、椿は学校を休んだ。
「大丈夫かな」
毎朝欠かさず部員達の面倒を見る椿マネージャーの唐突な休みに、部員達は頭を寄せる。
もう一人のマネージャー、山口は一つ上の先輩が引退してから朝練にはろくに出てこない。
「まさか、山口のイジメに耐えかねた、とか・・・」
「ぎゃー困る! 山口はどうでもいいけど、椿ちゃんいてくれないと練習にならないよ!」
ぼそぼそと喋る部員達の背後から妖介が足音もなくやってくる。
「・・・ってことは、皆さんは椿がイジメ対象だったって知ってたんですか」
「っ!!」
その場にいた部員達はぴしりと動きを止める。
「イジメは荷担しなくても、見てるだけの奴も同罪ですよ」
ひんやりとした声音に部員達は目を見開く。
普段は笑みを絶やさない妖介の淡々とした様子は、アヤのそれより数倍恐ろしい。
朝練はどこか微妙な空気を残したまま終わり、そうして。
午後。
昼休みも半ばを過ぎた廊下を歩く二人。
すれ違う生徒は皆目を丸くして立ち止まり、見送ってしまう。
「やっぱりこういうのは、よう好かん」
「まだ言うか」
戸惑ったような声を上げながら隣を歩く女生徒に、呆れたようにアヤが片眉を上げる。
「ハッタリかましてこそ、だ」
「それはあんさんらの得意分野やろ」
私は関係なし、と言うのも無視し、アヤが教室の扉を開いた。
昼休み、滅多にこの教室にいないアヤの登場に、クラスメイトは一瞬動きを止め、そうして。
背後にいる少女に、目を丸くする。
「誰?!」
「かわいい・・・!」
少しクラシカルなボブカットに、ぱっちりとした目が印象的な女生徒。
洋風美人のアヤとは系統の違う、和風美人。
あの子は誰!? と騒ぐクラスメイトに、彼女は躊躇いながら口を開く。
「あの・・・えろう遅うなってすまんです」
「っ?!」
その口調、声には誰もが聞き覚えがあって。
「椿!?」
「ウソッ!」
彼女は普段そんなに派手に騒ぐ方ではないし、身形に格段気を遣っている様子もなかったから、この変身は皆の度肝を抜いた。午前中にコンタクトを作りに行っていて学校に来るのが遅くなったのだ。
「な、な・・・!?」
「どうしたの!? 大変身じゃん!!」
おおお、と歓声が上がるのに椿は小さくなる。
だが、背後からやってきた妖介がぽんとその背中を叩く。
「小さくなる必要はないよ」
戸惑ったように見上げれば彼はにっと笑った。
あっという間にクラスメイトに取り囲まれる格好になった椿を横目に、妖介は購買で買ってきたパンを開ける。
「元々カワイイんだから、そこまで騒ぐ事じゃないよね」
その甘ったるい匂いにアヤは嫌そうに眉を寄せたが、やめさせることはない。
妖介の怒りはまだまだ収まっていないのが知れているから、余計なことは言わない。
ぱっと見ても妖介が怒っているのが判るのは多分家族くらいなものだろう。
妖介の怒りは滅多に出ない分、たとえアヤであっても迂闊に手出し出来ない状態になる。
「さァて」
腹ごしらえを済ませた妖介は脅迫手帳を取り出す。アヤも無言でパソコンを取り出した。
「始めますか」

放課後。
念入りに自分の身繕いを済ませて、部室に向かう山口は上機嫌だった。
あの生意気な椿は朝練を休んだという。やっと身の程を知ったというところか。
自分というきれいどころを差し置いて妖介と親しげに喋っているのがどれほどバカな事かようやく判ったか、と鼻歌交じりで歩く。
誰もがちやほやするのが当たり前の自分。
山口は、妖介も自分の事が好きになるのだと疑いもしない。
アヤは確かに美女だが、彼女と妖介がどうこうできるはずもない。
姉弟なのだし、実際どうこうしてたら変態だし。
妖介は温厚だし、姉の面倒を良く見ているから、自分の我が儘三昧を喜んで聞きそうだ。
自分のチャームポイントの足をミニスカートで強調しつつ、部室の扉を開いた彼女を迎えたのは。
「や、マジ美人じゃん、椿!」
「俺は前から知ってたけどね! カワイイってさあ!」
「嘘つけ、テメェ!」
「美人で仕事も出来るマネージャー、最高!」
彼女の登場に目もくれず、昨日懲らしめてやったはずの女のことで盛り上がる部員達の姿で。
彼らは一度彼女の姿を見て、それから気まずそうに視線を逸らす。
「・・・じゃ、そろそろ練習行こうか」
「そうだな。コーチもそろそろ来てるだろ」
わいわいと消える部員達に完全に無視され、彼女はわなわなと怒りに震える。
「何っ、なんなのよ、なんなのよ一体・・・!!」
綺麗に塗られたネイルを自らの手のひらに食い込ませ、彼女は怒りに肩を震わせる。
椿が美人? そんなわけはない。
あんな化粧気のない、ダサイ変な訛りの女がカワイイ訳がない!
ギリギリと歯がみする山口の耳に銃声。
そして今し方山口を差し置いて椿の話題に盛り上がっていた部員達の悲鳴。
何か他にも派手な音が聞こえるが、その元は判らない。
あの悪魔コーチも妖介の父親だ。
山口は思い直して鏡を取り出し、メイクをチェックする。
大丈夫、崩れてない。
悪魔コーチだって、この私には文句が言えないんだから、大丈夫。
大きく深呼吸し、悠然とグラウンドに向かう。
誰だって山口の事を美人だと言う。
ちやほやと褒めそやす。
椿なんて目じゃない。
妖介の心を射止めるのは自分だ、と。
だが。
グラウンドに出て、彼女は愕然とする。
「はいー、あと5セットー」
「うええー!?」
「悲鳴上げる前にさっさこなしたってー」
忌まわしい事に聞き慣れたあの声は、椿のもの。
昨日彼女に似合うようむごたらしくしてやった髪の毛は、美しく整えられ。
顔に不格好に収まっていたメガネはない。
日の下に晒された顔は不細工とは遠く離れていた。
そんな、まさか。
「糞マネ! こっちでタイム計測!」
「はいー」
軽い足取りでコーチに近寄るその姿を食い入るように見つめてしまう。
次いでコーチに何か言われたのか、彼女はぱっと山口を見る。
そうして視線が合った彼女は、不敵に笑った。
まるで山口などには負けない、と言わんばかりの勝ち気なそれ。
見下すようなそれに、山口はカッとなって、彼女の元に歩み寄ろうとして。
「っ!!」
彼女の前に何か大きな物が投げ出される。
いや、これは物ではない。
人、だ。
見覚えのある、男。
山口を一番に贔屓していた二年生。彼女の言う事ならなんでも聞く、扱いやすい男。
アメフト部の中では中の下ほどの位置にいて、レギュラーに入るかどうかの選手。
その彼の次に、同じようにもう一人、山口の信者の選手が投げ出される。
「う・・・」
「うう・・・」
呻くその姿に、山口は立ちすくむ。
「マネージャー、どうしました?」
そこに近寄るのは、妖介。
メットを外し、こきこきと首を鳴らしている。
「あ・・・妖介くん。あの、この・・・」
倒れている男たちを指さす山口に、妖介はちらりと視線を投げる。
「手当しないんですか?」
「え?!」
「マネージャーの仕事ですよね?」
そう言われて、山口は戸惑う。
マネージャーらしき仕事は先輩がいた頃こそしていたが、ここ最近は救急箱の所在すら曖昧だ。
「た、助け・・・」
呻いて山口に手を伸ばす部員に、彼女は一歩引いてしまう。
「手当してあげないんですか。この人達はあなたのファンなんでしょう?」
どうにか立ち上がって逃げようとした部員の一人に、すかさず妖介の腕が伸びる。
「がっ!!」
「きゃっ!!」
再び地面に叩きつけられ、部員は気絶したようだった。
先ほどから響いていた音は彼が部員達を地面に叩きつけている音だったのだ。
とても普段の彼からは結びつかない所業に、彼女は青ざめる。
「な、なんで、こんなこと・・・」
「昨日のことなのにもう覚えていないんですか?」
「!!」
山口はさらに一歩下がる。
彼らは昨日、部室で椿の髪を切るときに押さえるのを手伝わせ、外で見張りをさせた部員だった。
「わ、私は知らない・・・」
妖介はふいににこりと笑みを浮かべた。
「随分と物覚えの悪い頭ですね」
彼は山口に直接手を出してはいない。
だが。
恐怖のあまり、彼女はがくがくと震える。
妖介の口調も、表情も、なにもかも平時と同じはずなのに。
その彼から叩きつけられるような恐ろしい気配に、ただただ竦むばかり。
「あなたには相応の対応をしないといけませんね」
笑みを含んだ唇とは裏腹の、見る物を全て凍てつかせる、悪魔の眸。
「これから毎日、いつ何時どこにいても欠片も気の休まるときはないと思え」
この時ばかりは傲慢な口調は、悪魔的な響きを以て彼女を絶望のど真ん中へとたたき落とす。
呆然とその場に座り込んだ山口の背後から、視線。
ばっと振り返っても、その場に人影はない。
けれど、確かに。
誰かが見つめているような。
今まで、この外見では他人から注目されるのが当然だと思っていたけれど。
その視線の意味が、ただの羨望だけではなく、濁った悪意を湛えた欲望だとしたら。
彼女を傷つけようと、犯そうと、虎視眈々と狙うケダモノの視線だとしたら。
そうして、そうつけ狙うように目の前の男がどこの誰とも知れない者に命じたとしたら。
今まで考えもしなかった恐怖が、彼女を襲う。
「キ・・・・キャァアアアアアアアアア!!!」
金切り声を上げて、山口は立ち上がり、一目散に逃げ出した。


悲鳴を上げて逃げ出した山口を一瞥し、ズタボロの部員二名を捨て置いて、妖介はグラウンドに戻る。
「気は済んだか」
ヒル魔の声に、妖介は薄く笑みを浮かべただけ。
「単なる、自己満足です」
判っている。
妖介が手を尽くして山口を追い出そうと、荷担した部員達を潰そうと、椿が受けた痛苦が軽減する訳じゃない。
だが、あまりに身勝手な行動をした山口を許す事は出来なかった。
「黒美嵯川の土手、二十往復して頭冷やしてこい」
「はい」
ユニフォームのままで早速走り出そうとする妖介の背後から、声が上がる。
「あの!」
「コーチ、俺たちも走ってきていいですか!?」
それは、朝に妖介に傍観者であった事を詰られた者たちで。
それに妖介は目を丸くする。
「なんだ、テメェら。青春ゴッコか」
「そっ、そんな言い方しないで下さいよ!」
ヒル魔の視線に居心地悪そうにしながらも、部員たちは苦笑して口々に言う。
「確かに、山口のことただ傍観してただけなのはまずかったなあって」
「反省したんだけど、今更口で謝っても椿ちゃんは聞いてくれないしさ」
「俺たちがしなきゃいけなかったこと、全部妖介一人に押しつけちゃったし」
「せめて一緒に走りたいっていうか・・・」
「自己満足かもしれないけど!」
わあわあと口々に騒ぐ部員達の背後から、ひょこりと椿も顔を出す。
「私も伴走します」
自転車を手に、彼女は笑みを浮かべる。
「お礼、っていうのも変やけど」
ゆるゆると妖介の顔も笑みに綻んだ。
「じゃあみんなで走るか!」
「さんせーい!!」
行くぞー! という部長の声掛けで皆が一斉に走り出した。

「どこの三文小説だ」
「まったくだ」
ぽつんと残ったのは、ヒル魔とアヤ。
「やっぱりアイツが怒るとろくなことにならねぇな」
天を仰ぐヒル魔に、アヤも嘆息して同意する。
「・・・仕方ない、走って来ます」
「おー」
アヤは先ほど妖介に投げつけられた男達をわざわざ踏みつけてから走っていった。
彼女は彼女なりに腹立たしかったのだ。
ただ、先に妖介が数年に一度の大爆発を引き起こしたから怒れなかっただけ。
残されたヒル魔は、横たわる部員達を処分すべく、ゆっくりと近寄っていった。


その後。
椿と妖介が付き合ってるのでは、という噂がまことしやかに囁かれた。
けれどそれについて妖介はきっぱりと否定する。
せっかくだから付き合っちゃえよ、という周囲の声に妖介は肩をすくめて笑うばかり。
「俺は人の恋路を邪魔して蹴られたくないよ」
それにアヤはぴんと片眉を上げる。
椿は確かに他に想い人がいる。
けれど、妖介がそれを知っているとは思わなかった。
自分に向けられる好意についてはまったく無関心なくせに、他人のそれには敏感らしい。
喜びも悲しみも、怒りも楽しみも、全部他人があってこその彼。
「損な性分だな」
「そう?」
いっそ哀れむようなアヤの声にも、妖介はただ笑ってみせただけだった。


そんな彼が想い人と出会うのは、まだかなり先のお話。


***
当初はアヤと妖介の高校生活を普通に書くつもりだったのですが、妖介を怒らせてみようと思い立ったのが運の尽き。オリキャラばかりが出張って申し訳ない。でもすんごく楽しかった・・・!
山口陽子さんと仰る方がいたらあんな扱いですみません。
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