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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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カトブレパスの眸(上)

(ヒルまも一家)
※アヤ・妖介が高校一年です
※オリキャラがかなり出張ってます


+ + + + + + + + + +
妖介は温厚だ。
見た目に体躯もよく、顔つきも怖く、髪も金髪。
そんな恐ろしそうな外見とは裏腹に、人なつっこいような笑みを浮かべ、誰にでも優しく、女子供には更に優しい。
一番優しいのは姉であるアヤに対してだけれど。
当初は何かあると謂われのない因縁を付けられるのではないか、とびくびくしていた周囲も、次第に彼に慣れた。
数学の自習時間。これで午前中は終わり。
既に問題を解き終わった妖介は他の教科の宿題を片づけていた。
そんな彼に声が掛かる。
「ねえ、妖介くん、これ教えて欲しいんだけど・・・」
「いいよ。どこ?」
おず、とクラスメイトの女の子が持ってきた数学の問題を前に、妖介は教科書を覗き込む。
「あー、ここはXに代入する数字が違ってるね」
「え? どうして?」
「ここの公式を使って、こう解いていくと・・・」
すらすらと教える妖介の周囲には、同じ問題で手を焼いていたクラスメイトが近寄る。
「なあ妖介、俺にも教えてー」
「俺もー。なんでこの世に数学なんてあるんだよ!」
「あ、あたしもいいかな?」
「私も!」
わいわいと集まってきた人数に、妖介は苦笑して立ち上がる。
「だったら黒板で説明するよ。じゃー問6が判らない人手ぇ挙げて~」
はーい、と挙げられる手を前に妖介はよろしい、と先生然として黒板の前に立つ。
「まずこの問題を解くには―――」
下手な教師が教えるよりずっと判りやすい説明に、クラスメイトは熱心に聞き入る。
その様子をパソコン越しに見ていたアヤはふと妖介に最初に声を掛けた少女の様子に気づく。
「・・・」
しゅん、と俯くその様を見て、それから黒板の前で嬉々として授業する妖介を見て。
(天然もある意味罪だな)
ヒル魔がかつてまもりに抱いた感想をそっくりそのまま抱いて、ぷうとガムを膨らませた。


自習が終わり、ダッシュで購買に行こうとする面子の中から妖介に声が掛かる。
「おーい、妖介ぇ、昼飯どうすんだー?」
「あー、俺パン食いたい! 買ってきて!」
「何がいいー?」
「チョコデニッシュー!」
「わかったー!」
その声に廊下を歩いていた他のクラスの女子が思わず吹き出す。
「あー?」
だが、その不機嫌そうな視線に当てられ、思わず竦んで。
けれどすぐさま、妖介は笑顔になる。
「なんてね! 俺、甘い物大好物なんだよ~。バレンタインにはチョコよろしく!」
そのギャップに、一瞬驚いた女子生徒は次いで緊張を解いたように笑みを浮かべる。
「ヒル魔くんは甘い物好きなの?」
「うん。美味しいよね」
「駅の裏にちょっと入ったところのタイヤキ屋さん、知ってる? あそこすごく美味しいのよ」
「ホント!? やった、今度行くよ! ありがと!」
にこー、と笑う妖介に女子生徒も笑顔になって。
じゃあね、と手を振る姿もなんだか楽しそうだ。
その彼女とすれ違いながらアヤは弁当片手に屋上に行く。
昼食ともなればお菓子を取り出す生徒は多い。
甘い匂いの充満する教室になんていたくない、と言わんばかりにアヤは屋上に出向く。
そこには先客が一人。
「おー、どないしたん」
「昼」
「弟くんはおらんの?」
黒髪を後ろに低く一つで縛って黒縁メガネの、ちょっと不思議な訛りのある少女。
アメフト部のマネージャーであり、アヤのクラスメイトの椿透子(つばき とおこ)だ。
化粧気もなく校則通りの格好の彼女と、アヤのコンビは見ていてかなり違和感がある。
教室を半壊状態にしたアヤが戻ってきたとき、誰もが彼女を遠巻きにする中で椿は一言、甘い物が嫌いならそう普通に言えばいいやん、と突っ込んだ。
以来彼女はアヤと仲がいい。
「セットにするな」
「常に一緒でしょ、あんさんらは」
ぱき、とコンビニ弁当を前に割り箸を割る椿の隣で、アヤはまもりが作った弁当を取り出す。
「奴は下で糖分摂取だ」
「ああ、ナルホド」
アヤが甘い物を極端に嫌うので、妖介は学校で甘い物を口にできる時間が少ない。
好物を口に出来ないのは辛いので、昼時は基本的に別々なのだ。
「まー、弟くんの方がようさん友達おるし、一人にしたった方がええんかもね」
椿はアヤの唯一と言ってもいい女友達である。
「相変わらず料理上手な母さんやな」
椿がアヤの手元を覗き込む。
きちんとバランスも考えられているだろう弁当は、女の子用としてはかなり大きい。
けれどアメフト部に在籍するアヤにとっては普通の量だ。
妖介に至っては同じ大きさの弁当が更に二段重ねなのだけれど、それでも足りないらしくああやってパンを食後に食べるのだ。
彼曰く、パンはおやつらしい。
「それにしても・・・」
椿はアヤの姿を見てしげしげと呟く。
「あんさんはほんに美人やの」
急な一言にアヤは眉を寄せる。
何だ急に、という視線を受けて椿は苦笑する。
「んー・・・。結局のところ美人は得やな、と思うてな」
「得?」
何が得なのだろうか、と視線を向ける先で椿は食べ終えた弁当のゴミを纏める。
「独り言や、聞き流したって」
どこか含みがあるような顔で笑う椿に不信感が募るが、問いつめようにも昼休みはもうあと僅かだ。
そろそろ戻ろか、と椿が腰を上げるのに伴ってアヤも立ち上がった。


アヤは英語の授業中にもかかわらずパソコンを開いていた。
このあたり、本当に父親似なのだ。
けれど、少しだけ違う箇所がある。
「・・・次、蛭魔綾さん」
教師に指されたアヤはちろりと視線を向けるが、文句も言わず指定を受けたところの英文を読む。
見事に流暢な発音。教師は苦笑しながらよろしい、と言う。
授業は片耳程度しか聞かない上に態度は最悪のアヤだが、当てればちゃんと答えるので父よりは百倍マシだ。
自分の番を終え、脅迫データベースに接続し、椿の項目を開く。
程なく出てきた内容に、アヤはむっと眉を寄せた。

部活を終えて、後かたづけをしていた妖介は、アヤの言葉を聞き返した。
「え?」
「何度も言わせるな」
不機嫌そうなアヤに、妖介は言われたことを鸚鵡返しにする。
「山口マネージャーとどういう関係だ、って言われても・・・」
戸惑ったように妖介は首を傾げる。
「マネージャーと部員、ってだけだけど」
「そうだな」
「なんでわざわざそんな確認するの?」
椿とて妖介の事が好きな訳じゃない。
ただ、アメフト部に在籍する女子は現在三人いる。アヤと、マネージャーが二人。
一人が椿、もう一人が先輩の山口陽子。
その山口が問題なのだ。
「糞マネが」
「その言葉遣いはダメ!」
女の子でそれは許しません、とすかさず言う妖介にアヤは眉間に皺を寄せる。
「・・・山口が、椿とお前の関係を疑っていてな」
「はっ?!」
それに妖介は目を丸くする。
「なんで?!」
「聞くな」
それでおおまかに察しろ、とアヤはげんなりした気分になる。
女子供には優しい妖介。
アメリカで育ったという要因の他に、まもり譲りの気質もあるだろう。
だから誰にでも優しいし気さくな彼に惚れる女の子はかなり多いのだ。
大体は姉のアヤに気後れしてなにもしないか、なにかアプローチしても妖介の母譲りの天然気質で気が付かれないのだけれど。
「それで椿に被害が出ている」
「だからなんで?!」
こんな時ばかり察しの悪い妖介にアヤは舌打ちする。
相手にしていられるか、と着替えに向かい、女子ロッカーの扉を開けて。
「・・・っ」
そこにうずくまっている椿を見つけ、一瞬動きを止める。
「椿」
声を掛けると、のろりと顔を上げる。
その髪の毛が切られている。
ざんばら、というのが的確な表現と言える程の哀れな惨状。
黒縁メガネは踏みつけられ、レンズが粉々に砕けている。
涙の残る頬に、一人泣いていたのだと容易に知れた。
「・・・糞ッ!」
「また!」
すかさず聞きとがめた妖介を、アヤは指先一つで呼び寄せる。
「何? 俺は女子ロッカーなんて入れない・・・」
「お前の不始末だ」
「だから何が、・・・っ!」
ぴた、と立ち止まり、息を呑む気配。
妖介も悲惨な椿の状況に絶句する。
「・・・すまんの」
「何が」
小さい呟きに、アヤがすかさず返す。
「マネージャーは選手のサポートに徹するべきやん。訳のわからんことで煩わせてもうて・・・」
のろ、と立ち上がる彼女の制服にも切られた髪がまとわりついている。
よく見れば、制服も切り裂かれたような跡。
怪我はないか、と問えば椿は黙って頷く。
襲われたが、犯される事はなかったらしい。
ほぼ最悪と呼べる状態ではあるが、アヤは内心安堵する。
「・・・ホー・・・」
妖介が低く呟く。
ようやく、なにがどうやってこうなったか、というのが繋がったらしい。
それでも多分、彼では根本的な原因まで到達は出来ないだろうが。
「山口は仕事以前のところに手を割く名人だからな」
見た目には人並み以上にかわいいと呼べる外見の持ち主である彼女。
だが、その分余計に気位も高くて。
自分の外見ばかりを気にして、ろくにスコアも付けられないような仕事ぶりでありながら先輩風を吹かすのだ。
アヤの嫌味たっぷりの声に、椿は微笑もうとして。
「わ!」
ぼふ、と妖介のジャージが彼女の上に被せられる。
「着てて。その格好じゃ帰れないでしょ」
「え、いや・・・」
そもそもの原因が彼と親しいから、という理由なのだと言うに言えず、椿はとまどい隣のアヤに助けを求める。
だが、アヤは肩をすくめるだけだ。
「妖介が普段誰にでも気さくなのは、どうでもいい連中に余計な感情を割く必要がないからだ」
「え」
「それを温厚と勘違いする奴がつけあがる。・・・見物だぞ、椿」
にやりと笑われ、椿は戸惑うが。
そのままでは帰れないだろうからと、ヒル魔家に強制連行される運びとなった。

「おかえりなさい! 透子ちゃん、いらっしゃい」
まもりは突然の来客を笑顔で迎えた。だが。
「・・・どうしたの!?」
泣きはらした顔、切られた髪。一目でトラブルに巻き込まれたとわかる姿にまもりは眉を寄せる。
「ちょっとごたごたして。ねえ、父さんいる? 護も」
「二人ともいるわよ」
早くあがりなさい、と三人を伴ってリビングへ。
「こんばんは、お邪魔します・・・」
そこにいたヒル魔と護は、椿の姿を見た後、妖介へと視線を向けた。
「久しぶりだナァ」
にたりと笑うヒル魔に椿は小首を傾げる。
「さ、とりあえずお風呂入ってらっしゃい」
まもりにタオルを渡され、椿はバスルームに追い立てられる。
まもりはぱたぱたと彼女の制服を繕うための裁縫箱と、彼女の着替えを出しに行く。
「本当に久しぶりだね」
護は苦笑する。
「そんなに兄ちゃんが怒ってるとこ見るのは」
それに妖介は無言で口角を上げた。


<続>
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