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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ヒートアップ

(ヒルまもパロ)
※『恋猫奇譚』の続きです


+ + + + + + + + + +
まもりはシャワーをぼんやりと浴びていた。
脳裏に蘇るのは、先ほどまでのことだ。

リビングで再びのキスと、抱擁と。
けれど全てに流される前に、ヒル魔の腕が離れたのだ。
「飯、あるんだろ」
「・・・あ、うん」
言われてまもりは夕飯の準備をしていたことに気づいた。
おかずのほとんどは冷めてしまったので、手早く温めなおす。
ごく普通にいつもの食事風景になった。
「はいどうぞ、召し上がれ」
「イタダキマス」
食事をしながらもついヒル魔の口元に視線が行ってしまう。
機械的に嚥下しながら、まもりはついさっきまでの彼と今との落差を考えてしまう。
(さっきは、あんなに・・・)
逃げようにも追いかけてくる唇、がっちりとまもりを捕らえた力強い腕。
舌の触れ合う、生々しい感覚が今も残っているのに。
「おい」
「えっ、な、なに?!」
唐突に掛けられた声に、まもりはびくりと肩を震わせる。
「箸止まってるぞ」
「え、あ・・・お、お茶淹れるね!」
慌てふためいてまもりは立ち上がり、お湯を沸かしに行く。
キッチンに引っ込んでやかんを火に掛け、その場にしゃがみ込む。
顔が赤いのは自覚していた。
(なんでヒル魔さんは平気なの!?)
身体が震える。羞恥と、初めての感覚にとまどい、心臓が飛び出そうだ。
まともに顔を合わせていられなかった。

せっかく作った料理も味がよくわからなかったけれど、結局全てきれいになくなった。
ヒル魔は料理が不味かったら一口食べてその後手を付けないので、今日のはまずまずというところだろうか。
食器を洗いながら、まもりはやはり先ほどのキスを思い浮かべる。
味がどうこうという話をよく聞くが、そんなことに気を配る余裕はなかった。
熱くぬめる粘膜が触れ合う感覚は、生々しくそして卑猥だった。
彼の声が至近距離で低く耳朶を震わせ、ぬるりと舌が這ったあの感触。
思い出しただけでぞくりと肩が震える。
まもりは手を滑らせ、シンクに皿を落としてしまう。
「っ」
けれど幸い、敷いていた滑り止めのおかげか欠けもせずその場に留まった。
いけない。
いつになくぼうっとしている。
気を抜けば先ほどのキスの事ばかり思い返してしまい、けれど平然とコーヒーを飲んでいる背後のヒル魔の様子をちらりと伺って、まもりは首を振る。
(これじゃ、まるで私が淫乱みたいじゃない!)
恥ずかしくていたたまれない。
自分一人が翻弄されているようで。
まもりはやや乱暴な手つきで食器を洗い終え、手を拭きながらリビングへと顔を出す。
「ヒル魔さん、お風呂沸いてるよ」
「ア? テメェ先入れ」
「でも・・・」
「俺は仕事があるんだよ」
「え? 大丈夫なの?」
それにヒル魔はにやりと笑うとまもりの頭を撫でて立ち上がる。
なんてことのない、いつもされるような仕草だ。
「・・・オイ、どうした?」
訝しげに問われ、まもりははっと我に返る。
「な、なんでもない! じゃあお風呂お先にいただきます!」
「おー」
自室に行くヒル魔を見もせず、まもりは慌てて自らの着替えを抱えてバスルームへと駆け込んだ。


先ほどまでの、せいぜい二時間ほどの間に起きた事を思い返すとそれだけで落ち着かなくなる。
顔が熱いのはシャワーのせいばかりではない。
自分の身体をぎゅっと抱きしめる。
どこもかしこも火照っている。
特に、頭の中が。
まもりは全ての迷いを振り払うように頭を洗う。
このまま頭の中まできれいに洗ってしまえればいいのに、と自嘲しながら。

湯上がりの頭を乾かし、パジャマに着替える。
ベッドに向かおうとして、ぴたりと足が止まった。
(そういえば・・・なんでベッド、同じ部屋なんだろう)
まもりの私物を置く部屋は別にあるが、ベッドだけは同じ部屋なのだ。
今まで特に気にもしていなかったが、これは、・・・変じゃないだろうか。
改めてヒル魔に尋ねるのもやぶ蛇になりそうで躊躇われる。
尋ねて、そうして手を伸ばされたら。
先ほどキスだけであれほどに翻弄されたのに、それ以上の事になったら。
まもりは真っ赤な顔でその場に立ちつくす。
彼に意図を持って触れられたら、自分はどうなるのだろうか。
ヒル魔のあの長くしなやかな指で直接肌に触れられたら、どんな心地なのだろうか。
自分の思考の小道に入り込んだまもりは、背後で開いた扉に気づくのが遅れた。
「どけ、まもり」
「ひゃっん!!」
びくーっ、と驚き飛び上がったまもりに、ヒル魔は不審そうに眉を上げてその隣を過ぎる。
ふわりと漂ったミントの香りに、彼もシャワーを浴びてきたのだと知る。
ということは、結構な時間が経っているということで。
どれほどに自分がそのことばかり考えていたかを間接的に知らしめられ、まもりはぎゅっと唇を噛みしめた。
その間にもヒル魔は自分のベッドに潜り込み、ぼふりと枕に頭を預けている。
「オイ」
「なっ、は、ハイ?!」
「寝る時にそっちの明かり消せよ」
じゃあオヤスミ、とあっさり告げて背を向け、ヒル魔は瞬く間に眠りに落ちたようだ。
まもりはその様子をまじまじと見つめ、それから電気を消し、もそもそと自らのベッドに潜り込む。
ヒル魔はあまりに平然としていて、まもり一人がおたおたしているのがバカみたいで、寂しくなる。
こうなれば眠ってしまおう、と思うのに、身体がどこかふわふわして落ち着かない。
結局まもりは遅くまで寝付く事が出来なかった。

翌朝。
ヒル魔に目の下のクマを散々にからかわれ、まもりは寝不足を自覚しながらも半ば意地で大学に行った。
必修のゼミをうけつつも上の空で、その後は早々に部屋に帰る気にもならず、ぶらりと街中を散策する。
楽しそうに談笑して寄り添う恋人達の姿が嫌でも目に付く。
ふと見えた、道ばたで見せつけるようにキスをする人影には過剰な程に反応してしまう。
恥ずかしい。
昨日の一件からずっと、まるで現実味のない時間ばかりが無為に過ぎていく。
まもりはせめて現実的にヒル魔のためになる事をしよう、と夕食の食材を求めて商店街へと足を向けた。


ヒル魔はまもりの頭を撫でたりするようなスキンシップはよくするが、キスやそれ以上はあの夜以降、ない。
そうして、一週間経っても二週間経っても、ヒル魔がまもりに手を出す事はなくて。
自分一人だけがまるで熱に浮かされたように時を過ごすのが、段々と情けなくなってきた。
たった一晩のキスに翻弄されて、自分ばかりが彼を求めそうになって、恥ずかしくてそんなこと言いたくもない。
でも、言ってしまいたい。早く、楽になりたい。
火に掛けた鍋の前で、まもりの視界が揺れる。
ぱたり、と床に滴るのは涙。
上手くはき出せない感情が溢れだしたかのようだった。
一度零れると涙は止まらない。
ぼろぼろ、ぼろぼろ。
音がしそうなくらい滴るそれに、まもりは小さくしゃくり上げる。
もう限界だった。
思わせぶりに戯れに触れられて、その後ずっと生殺し状態で放っておかれ、どうしたらいいかもう判らなくて。
変に高ぶった神経は日ごとにささくれてヒル魔の姿をしっかと見る事さえ拒むようになっていた。
まもりは鍋の火を消すと、自室に戻る。
さして多くもない荷物を纏め始める。
もうここにいたくなかった。
実家に帰ろう。
距離を置けばこんな風に変に高ぶったりしないだろうし、少し落ち着くだろう、そう考えて。
しくしくと泣きながら荷物を纏めるまもりは、ヒル魔が帰宅した事に気づかなかった。
そうしてまもりの出迎えがない事に不審を抱き、彼女の部屋をノックもなしに訪れたタイミングで小さく呟く。
「もう、嫌ぁ・・・」
そのまもりの背後から、舌打ち。
「っ?!」
振り返れば不機嫌そうなヒル魔がいて、じっとまもりを睨め付けていた。
「テメェ、何やってやがる」
それにまもりは涙の残る顔できっとヒル魔を睨んだ。
久しぶりに直視したヒル魔に心臓が跳ね上がったけれど、あえてそれは無視した。
「実家に、帰り、ます」
「アァ? テメェ俺が言った事忘れたのか」
ヒル魔が更に舌打ちする。
『テメェの居場所はここだ。もう通いは許さねぇ』
ヒル魔は確かにそう言った。
けれど、まもりの居場所は今この家にはない気がした。
「もう嫌、なの」
「ナニガ」
「・・・私、こんな」
そのまま、言葉を呑み込んで唇を咬む。
下手に口を開くと、どんなことを口走るか判らない。
みっともない事を口にして、軽蔑されたくない。
自分一人だけ熱に浮かされた状態が恥ずかしくて仕方なかった。
彼との十年の差。
経験は当然彼の方が格段に上に決まっていて、比べること自体が無理な話なのだけれど。
またぼろっと涙がこぼれる。
それを見たヒル魔はぐい、と彼女の腕を引いた。
「きゃ・・・」
そのまま胸に抱き込まれ、優しく頭を撫でられた。
たったそれだけの刺激に、まもりの背筋に悪寒に似た震えが走る。
「ぅ、ん!」
小さい悲鳴を上げてまもりは思わずヒル魔にしがみついてしまう。
細いように見えてがっしりとした身体から、洋服越しにでも伝わる温度。
縋りつく指がふるふると震えていた。
「オイ」
ぐい、と顔を上げさせられ、額にキスが落ちる。
「ふっ」
柔らかい感触にも、まもりは震える。
腰を抱く手も、後頭部に触れて髪を梳く指も優しい。
けれど、それだけではだめだ。
もうこれでは収まりがつかない。
まもりはじりじりと焦れるような心地でヒル魔の眸をひたりと至近距離から見つめる。
彼は笑っていた。
けれどいつもの笑みとは少し違うような、酷く色気のある顔で。
「追いついたな」
「・・・何、が?」
ヒル魔はその疑問に言葉ではなく、彼女が渇望していたキスでもって答える。
その時薄く瞳を開いていたまもりは、彼の眸の奥底から欲望の炎が渦巻く様を見た気がした。
けれどそれさえも焦らされ続けたまもりにとっては厭うより望む物で。
まもりはそっと瞳を閉じ、ゆるく唇を開いて彼を受け入れる。

怯える素振りは微塵もなく、むしろ恍惚として体温に酔いしれるまもりに、ヒル魔は満足そうに喉の奥で笑った。



***
「猫」絡みの話を考えていたらやっぱりこのシリーズも、という感じで作成しました。
焦らしに焦らして美味しく熟したところを頂く、このヒル魔さんSですね~(笑)書いていて楽しかったです!
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