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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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しあわせ迷子

(ヒルまも一家)
※15000HITお礼企画作品

+ + + + + + + + + +
久しぶりに休みと決めた日に、ヒル魔は一家を引きつれて公園へとやって来た。
広大なここは人払いをしなくても誰かとぶつかるようなことはない。
「わー! わー!」
なにが楽しいのか判らないが、妖介は地面を転がりまくり、アヤはヒル魔にアメフトボールを渡してキャッチボールをせがんでいる。
「うふふ、アヤってばヒル魔くんそっくりよね」
ヤーハー! と叫んでボールを投げる感じが似ている、とまもりはご満悦だ。
その腹にはもう一人の命が宿っていて、出産予定日は翌月だ。
「まだまだレーザーには遠いナァ」
「大きくなったら、投げるもん!」
「そりゃ楽しみだ」
ケケケ、と笑うヒル魔を眺めていて、まもりは気が付く。
妖介がいない。
どこにいったのだろうか、と思って眺めていたら、ヒル魔の背後に転がっていっている。
「わー!」
「ちょっ・・・ヒル魔くん、足下!」
「ア? ・・ァア?!」
転がる妖介を避けようと、ヒル魔が前に踏み出そうとしたら、丁度そこにボールを拾いに来たアヤがいて。
前にアヤ、後ろに妖介。
下手に足を踏み出せず、しかしバランスを崩したヒル魔はどうにか子供たちにぶつからないように身体を捻って転ぶ。
「・・・ツ」
「大丈夫?!」
慌てて駆けつけるまもりの前でヒル魔はむくりと身体を起こすと、ゆっくりと周囲を見渡した。
「ア? 糞マネ? なんだ、ここ」
「・・・?!」
その呼ばれ方は久しくなかった。
結婚してからは専ら姉崎で、時折糞嫁とか呼ばれて失敬な、とか怒った気がする。
いやいや、そうじゃなくて。
「・・・どうしたの?」
「何がだ、・・・?」
座り込んだヒル魔の回りに、アヤと妖介が近寄ってきた。二人とも自分のせいでヒル魔が転んだのだと判っているので、びくびくしながらその身体に取りすがる。
「お、とうさん」
「おとーさん、痛い?」
「・・・アァ?! 一体何の冗談・・・」
まもりはヒル魔の顔を見て、一瞬気が遠くなりかけた。嘘を言っている顔じゃない。
「ちょっとだけ質問してもいいかしら。ヒル魔くん、貴方は今何歳ですか」
「高校二年だ。テメェクリスマスボウル目指してんのに寝ぼけたこと言ってんじゃねぇぞ。・・・なんだその腹」
「この場合、寝ぼけてるのはあなたよ」
「ア?!」
「おとうさん?」
「おとーさん?」
子供がまとわりつくが、ヒル魔はどう対処していいか判らずさせるがままにしている。
いつもなら何らかのアクションがあるのにそれがない不安に、子供たちはわめこうとするが、まもりとヒル魔があまりに真剣に見つめ合っているので自然と口を閉ざした。
「今は高校も卒業して大学も卒業して貴方は私と結婚してどこかは知らないけど働いていて子供も二人生まれました。今は御覧の通り三人目を妊娠中です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「今の私の顔、十七歳じゃないでしょう。あなたも見たらいいわ、ほら」
手鏡を渡すと、ヒル魔の顔が引きつった。そりゃそうだ、自分との認識が何年もずれているのだから。
「・・・なんの冗談だ。テメェ誰だ。誰に頼まれてる」
「信じて貰えないでしょうけど、姉崎まもり本人です。ついでに言えばここは日本じゃなくてアメリカです」
「じゃあなんでそんなに落ち着いてんだよ!」
イライラと怒鳴る父親の姿に、子供たちはきゅっとしがみついた。ヒル魔は身体にまとわりつく暖かさに舌打ちする。
「だってヒル魔くんってどうにも人外っぽいから! そういうことがあってもおかしくないかな、って納得しちゃったわよ! 今頭打ってたし!」
「アァ!? ・・・って」
頭に手を当てると、コブが出来ている。なるほど、嘘じゃないらしいとヒル魔も納得した。
「ところでヒル魔くん、あなたは高校二年のいつぐらいのヒル魔くんなのかしら」
「王城勝利直後だ」
「ふーん、じゃあまだ私とは付き合ってない頃ね」
「ア?!」
「驚く事じゃないでしょう。今現実に子供までいるんだもの」
「・・・おとーさん」
「おとうさん」
「・・・双子か?」
「いいえ、年子。お姉ちゃんがアヤで弟が妖介」
抱っこしてみる? と言われ、ヒル魔は恐る恐る目の前にいたアヤを抱き上げた。
きゅ、としがみつく小さな温もりが抱いたこともないのに懐かしくて、ヒル魔は微妙な顔になった。
それを見てまもりが思わず吹き出す。
「本当に忘れてるのね。最初にアヤを抱き上げたときもそんな顔してたわ」
「・・・そうかよ」
「おとーさん、ぼくも」
「おら」
もう片方の腕で抱き上げると、妖介は嬉しそうに笑った。
「俺が糞マネと結婚して子供まで、なぁ・・・」
「事実は小説よりも奇なり、よ。知ってるでしょ」
「まあ、な」
やがて妖介は飽きたのかヒル魔の腕から飛び出してまたその辺を転がっている。
アヤはじっと腕の中でヒル魔を見ているだけだ。
「これからどうしよっかなぁ」
「ア? ナニガ」
「だってヒル魔くん記憶喪失みたいなものだから、代わりに働こうにも仕事のこと判らないし。私は仕事してないけど今から探せるかなあ・・・」
貯金は多少あるけど、親子五人ではすぐ底を突いてしまうくらいだ。ましてやまもりは出産直前である。
「実家に帰る、っていう手もあるけど、ウチのお父さんはヒル魔くんと喧嘩ばっかりするし」
「ホー?」
「かといってヒル魔くんのご両親には危なくて会えないしねぇ・・・」
「テメェどこまで知ってるんだ」
「ヒル魔くんの誕生日からご両親の顔と名前と性質までよ」
「そりゃ相当だ」
天を仰ぐヒル魔を見ていたアヤが、不意にぐん、と身体を起こした。
「?!」
再びバランスを崩したヒル魔が、後ろに支えとして伸ばしていた腕を、これまた再び転がってきた妖介が振り払う形になる。
結局ヒル魔は再び後頭部を痛打した。
「ッ!」
「ア、アヤ!?」
あからさまに狙ってやったとしか思えない動きに、まもりは戸惑うが。
「おとーさん、おかえりなさい」
痛みに呻くヒル魔の顔に、ぺたりと小さな手のひらが触れた。
「・・・ああ、タダイマ」
「・・・え? ヒル魔くん?」
「あー帰ってきた感じがするな、テメェのそのツラ見ると」
わしゃわしゃと髪の毛を乱して、ヒル魔がにやりと笑う。
その腕からアヤはするりと抜け出した。
「なあ、姉崎」
「・・・・ッ」
一時間にも満たないこの時間に、まもりの心中はかなり複雑に迷い込んだけれど。
たった一度名前を呼ばれただけで、すっと道が開ける。
途端に考えないようにしていた不安が堰を切ってあふれ出して、涙となって流れていった。
「それにしても―――・・・今になって見ると、あの当時のテメェは本当に無自覚だったな」
つくづく呆れた、と言われて、まもりはヒル魔が単なる記憶喪失ではなかったことに気づく。
「入れ替わってたの? あの当時と、今とで?」
「そうらしいな。あの頃に一日俺の様子がおかしい日があっただろ」
「そう・・・だっけ」
ぼんやりと呟くまもりの頬を、ヒル魔の指が辿る。溢れた雫をすくい取るように。
そういえば、あの頃ひとときだけ酷く優しいヒル魔がいたような気がする。
行動が不審で、珍しく名前を呼ばれて、優しい言葉を言って。
ああ、そうか。
全部繋がってるんだ。
 
おもむろに広げられた腕に招かれ、その温度にほっと息をつく。
アヤはその様子を見、共に二人を見上げる妖介の口に人差し指を当てて、しー、と言って笑った。

***
コメ様リクエスト『子持ちヒル魔と現代ヒル魔(ヒルまも恋人未満)の意識が入れ代わるパラレル(各々で見たいです)』の未来編のみです。過去編は5/23付【幸せの在処】に別設定で作成致しました。ウチの子持ちヒル魔さんといえばはヒルまも一家しかないのでその設定を使ったわけですが、子供が大きいと子供たちが出張りすぎるので小さい頃の話となりました。
それにしてもこの二人、取り乱さないなあ・・・なんでだろう。リクエストありがとうございましたー!!

コメ様のみお持ち帰り可。
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