旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
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それは、碧い瞳が印象的な美しい女性だった。長く伸ばした茶色い髪は腰まで届く程になっている。
「いらっしゃいませ」
扉を開いてやってきたその姿に、チャイナ風の服を着た店員は薄く笑みを浮かべて椅子を勧める。
「・・・ここ、は・・・」
「ここは観用少女を扱う店でございます」
「そう・・・」
どこかふわふわと夢見がちな視線で、彼女は店内を見回す。
焚かれる香、並べられた高級な調度品。
その中で彼女自身もまるで商品と同じであるかのように座っている。
「どうぞ」
差し出されたお茶を口にして、彼女はゆるりと表情を解いた。
そうして視線を向けると、そこには瞳を閉じた人形がいる。
「人形は、持ち主を選ぶんですって?」
「はい。波長が合うお方の元に行きたがるのです」
「ふうん」
女性は立ち上がり、少女をまじまじと見つめる。
そっと触れると、肌は人と同じようにあたたかい。
「残念。私はこの子と波長が合わないのね」
「さようでございますね」
まるで紗が掛かったような不思議な空気の店内を歩いても、誰一人目覚めない。
「・・・人形は、ずっとあのままなの?」
「時折成長する人形もございますが、手入れ次第でずっとそのままの姿ということもございます」
「そう」
再びすとんと同じ椅子に戻った彼女は、再度淹れ直されたお茶に口を付ける。
「私の弟がね、観用少女を持っていたの」
「おや」
「つい先日弟は死んでしまったのだけれど」
彼女の瞳は乾いていた。もう泣き尽くしてしまったのかも知れない。
「病弱な子でね。少女を大変愛していたわ。でも」
「でも?」
「その人形がね、見つからないの」
葬儀を終えて彼の部屋に足を踏み入れても、そこには何もなかった。
いつも少女が座っていたはずの椅子はもぬけの殻、誰かが浚ったのかもしれない。
何しろ彼女は無事弟の葬式を出す事で頭がいっぱいで、その間の事など覚えていられなかった。
「写真も何も残っていないし、私その少女の顔も覚えていないの。ここに来れば判るかと思って」
「さようでございますか」
店員はどこからともなく手帳を取り出した。ぺらりぺらりと捲って記録を見ているらしい。
「既に転売されたか、最近急に少女の面倒を見るのに必要な物を購入しに来たりとか、ありませんか?」
「そうでございますね・・・」
彼女はじっと自分の手を見る。緩く動かし、まるで確認するかのように。
「ねえ」
「何でございましょう?」
「少女が成長する速度ってどれくらい?」
「さあ・・・個体差もございますから一様にとはいきません。人間の時では測れないのですよ」
「・・・じゃあ、ものすごく早く成長する事もありえるのよね?」
「お客様?」
彼女は再び立ち上がる。青ざめた顔で。
「―――私、私が少女なんじゃないかって」
声が震える。恐怖に彩られた碧い瞳が揺らめく。
「弟とは髪の色も瞳の色も何もかもが違ったの。もう両親は亡いけれど、あの人達とも私の色合いは違ったわ」
だから、と彼女は縋るように店員を見上げる。
「ねえ教えて。弟が持っていた人形の瞳は何色? 髪の毛は? 私は、・・・人形なの?」
努めて冷静であろうとしていた彼女の表情が引きつる。
白磁の肌は血の気が引くと一層人形じみて見えた。
その頬に店員の長い指が触れる。
「お客様の弟様からのご購入は承っておりません」
「え?」
「ご両親、さらにその上まで遡っても記録はないのでございますよ」
「・・・そんな、だって、あの子は少女を・・・」
「どのように慈しんでいらっしゃいましたか?」
「どのように・・・?」
彼女は記憶を辿る。
長い茶色の髪の毛、碧い瞳、美しく着飾ったあれは少女。
その側で弟が笑っている。
『すごく綺麗だね。こうやってるとまるで』
そのために長く伸ばした髪の毛にキスをして。
『街で噂の、そう、観用少女みたいじゃない? ねえ』
抱きついてくる身体は細く頼りなくて、彼の望むままになんでも願いを叶えてあげたいと思っていた。
たった二人きりの姉弟だもの。
『まもり姉ちゃん』
―――私、セナが笑ってくれるなら、なんだって。
「・・・あの子が言ったのよ。私を観用少女みたいって」
「それをお客様は本気にしたのですね。本気にして、お客様は人形になった」
「私・・・」
まもりの瞳から涙が溢れた。
ぼろぼろと零れるそれは人形のそれとは違って、青く滴って床に落ちる。
間違いなく人間であるという証。
ふう、とため息をついた店員はさらりとまもりの髪に触れる。
「髪、切れ」
唐突な口調の変化に、まもりは顔を上げた。
そこには曖昧な笑みで客を迎えていたはずの店員が、にやりと質が悪い笑みを浮かべて立っている。
「テメェは人形じゃねぇ。永遠に弟に囚われる必要はねぇよ」
「だって・・・」
眠る人形達と二人の人間、それだけがいる店内は水底のように静かだ。
「人形なら責任持ってメンテナンスしてやるし、客ならそれなりの対応をする」
まもりの手を取り、その指先にキスを落とす。
「そのどれでもないが、俺はテメェが気に入った」
まるで悪魔の囁きのようなそれに、まもりは笑みを浮かべる。
「・・・女の客になら、誰にでもそういうの?」
「いや、ねぇな。初めてだ」
何しろ自分が人形じゃねぇかって初めて聞かれたぜ、そう言って抱き寄せる腕も寄せられる唇もあたたかくて。
まもりはそっと瞳を閉じる。
焚かれる香が強く鼻孔を擽った。
自分はやはり観用少女ではないかと、まもりは心密かに想う。
だって、私は誰かに必要とされないと今を生きられない。
***
ヒジリ様リクエスト『観用少女パロヒルまも』でした。お待たせしましたー! 多分薄々察していらっしゃると思いますが、鳥はこの漫画を知りませんでした(苦笑)でも以前から読んでみたいと思っていたので探して読んでみました。一巻しか見つかりませんでしたが、面白かったです! で、やっぱり怪しい店員はヒル魔さんで。最後まで丁寧にしたら誰だか判らないので最後は普通にしてもらいました。自分を観用少女だということを忘れてしまった話が載っていたので、じゃあまもりちゃんが自分が人形だと思いこむのはいかがでしょう? と。
名作を汚してしまってすみません・・・。楽しかったです!
リクエストありがとうございましたー!!
ヒジリ様のみお持ち帰り可。
「いらっしゃいませ」
扉を開いてやってきたその姿に、チャイナ風の服を着た店員は薄く笑みを浮かべて椅子を勧める。
「・・・ここ、は・・・」
「ここは観用少女を扱う店でございます」
「そう・・・」
どこかふわふわと夢見がちな視線で、彼女は店内を見回す。
焚かれる香、並べられた高級な調度品。
その中で彼女自身もまるで商品と同じであるかのように座っている。
「どうぞ」
差し出されたお茶を口にして、彼女はゆるりと表情を解いた。
そうして視線を向けると、そこには瞳を閉じた人形がいる。
「人形は、持ち主を選ぶんですって?」
「はい。波長が合うお方の元に行きたがるのです」
「ふうん」
女性は立ち上がり、少女をまじまじと見つめる。
そっと触れると、肌は人と同じようにあたたかい。
「残念。私はこの子と波長が合わないのね」
「さようでございますね」
まるで紗が掛かったような不思議な空気の店内を歩いても、誰一人目覚めない。
「・・・人形は、ずっとあのままなの?」
「時折成長する人形もございますが、手入れ次第でずっとそのままの姿ということもございます」
「そう」
再びすとんと同じ椅子に戻った彼女は、再度淹れ直されたお茶に口を付ける。
「私の弟がね、観用少女を持っていたの」
「おや」
「つい先日弟は死んでしまったのだけれど」
彼女の瞳は乾いていた。もう泣き尽くしてしまったのかも知れない。
「病弱な子でね。少女を大変愛していたわ。でも」
「でも?」
「その人形がね、見つからないの」
葬儀を終えて彼の部屋に足を踏み入れても、そこには何もなかった。
いつも少女が座っていたはずの椅子はもぬけの殻、誰かが浚ったのかもしれない。
何しろ彼女は無事弟の葬式を出す事で頭がいっぱいで、その間の事など覚えていられなかった。
「写真も何も残っていないし、私その少女の顔も覚えていないの。ここに来れば判るかと思って」
「さようでございますか」
店員はどこからともなく手帳を取り出した。ぺらりぺらりと捲って記録を見ているらしい。
「既に転売されたか、最近急に少女の面倒を見るのに必要な物を購入しに来たりとか、ありませんか?」
「そうでございますね・・・」
彼女はじっと自分の手を見る。緩く動かし、まるで確認するかのように。
「ねえ」
「何でございましょう?」
「少女が成長する速度ってどれくらい?」
「さあ・・・個体差もございますから一様にとはいきません。人間の時では測れないのですよ」
「・・・じゃあ、ものすごく早く成長する事もありえるのよね?」
「お客様?」
彼女は再び立ち上がる。青ざめた顔で。
「―――私、私が少女なんじゃないかって」
声が震える。恐怖に彩られた碧い瞳が揺らめく。
「弟とは髪の色も瞳の色も何もかもが違ったの。もう両親は亡いけれど、あの人達とも私の色合いは違ったわ」
だから、と彼女は縋るように店員を見上げる。
「ねえ教えて。弟が持っていた人形の瞳は何色? 髪の毛は? 私は、・・・人形なの?」
努めて冷静であろうとしていた彼女の表情が引きつる。
白磁の肌は血の気が引くと一層人形じみて見えた。
その頬に店員の長い指が触れる。
「お客様の弟様からのご購入は承っておりません」
「え?」
「ご両親、さらにその上まで遡っても記録はないのでございますよ」
「・・・そんな、だって、あの子は少女を・・・」
「どのように慈しんでいらっしゃいましたか?」
「どのように・・・?」
彼女は記憶を辿る。
長い茶色の髪の毛、碧い瞳、美しく着飾ったあれは少女。
その側で弟が笑っている。
『すごく綺麗だね。こうやってるとまるで』
そのために長く伸ばした髪の毛にキスをして。
『街で噂の、そう、観用少女みたいじゃない? ねえ』
抱きついてくる身体は細く頼りなくて、彼の望むままになんでも願いを叶えてあげたいと思っていた。
たった二人きりの姉弟だもの。
『まもり姉ちゃん』
―――私、セナが笑ってくれるなら、なんだって。
「・・・あの子が言ったのよ。私を観用少女みたいって」
「それをお客様は本気にしたのですね。本気にして、お客様は人形になった」
「私・・・」
まもりの瞳から涙が溢れた。
ぼろぼろと零れるそれは人形のそれとは違って、青く滴って床に落ちる。
間違いなく人間であるという証。
ふう、とため息をついた店員はさらりとまもりの髪に触れる。
「髪、切れ」
唐突な口調の変化に、まもりは顔を上げた。
そこには曖昧な笑みで客を迎えていたはずの店員が、にやりと質が悪い笑みを浮かべて立っている。
「テメェは人形じゃねぇ。永遠に弟に囚われる必要はねぇよ」
「だって・・・」
眠る人形達と二人の人間、それだけがいる店内は水底のように静かだ。
「人形なら責任持ってメンテナンスしてやるし、客ならそれなりの対応をする」
まもりの手を取り、その指先にキスを落とす。
「そのどれでもないが、俺はテメェが気に入った」
まるで悪魔の囁きのようなそれに、まもりは笑みを浮かべる。
「・・・女の客になら、誰にでもそういうの?」
「いや、ねぇな。初めてだ」
何しろ自分が人形じゃねぇかって初めて聞かれたぜ、そう言って抱き寄せる腕も寄せられる唇もあたたかくて。
まもりはそっと瞳を閉じる。
焚かれる香が強く鼻孔を擽った。
自分はやはり観用少女ではないかと、まもりは心密かに想う。
だって、私は誰かに必要とされないと今を生きられない。
***
ヒジリ様リクエスト『観用少女パロヒルまも』でした。お待たせしましたー! 多分薄々察していらっしゃると思いますが、鳥はこの漫画を知りませんでした(苦笑)でも以前から読んでみたいと思っていたので探して読んでみました。一巻しか見つかりませんでしたが、面白かったです! で、やっぱり怪しい店員はヒル魔さんで。最後まで丁寧にしたら誰だか判らないので最後は普通にしてもらいました。自分を観用少女だということを忘れてしまった話が載っていたので、じゃあまもりちゃんが自分が人形だと思いこむのはいかがでしょう? と。
名作を汚してしまってすみません・・・。楽しかったです!
リクエストありがとうございましたー!!
ヒジリ様のみお持ち帰り可。
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HN:
鳥(とり)
HP:
性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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