旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
それから間を置かずして、まもりとヒル魔の元に、姉崎家から当日に相応しい衣装を作るようにと服飾や装飾品の職人が送り込まれるようになった。
まもりが嫌がるのも気にせず―――おそらくはまもりに構わないようにと言い含められているのだろう―――二人に誂える衣装デザインを取り決めて戻っていくのを何度か繰り返す。
最終的に衣装のデザインが決まった頃、まもりはこの内容に間違いはないかと確認する職人からの書類に興味なさげにサインした。
「代金は姉崎家が出すそうですから、大将は気になさらなくていいと家から知らせがありました」
「ホー」
それでも一応と共に目を通した明細にあった金額に、まもりは嫌そうな顔をする。
ヒル魔に言わせれば、それなりの細工と材質のモノを求めているのだからおかしい額でもなかったのだが。
「あんな風に使うお金があるなら、私にそっくり寄越してくれた方がマシです」
呟くまもりに、また本に換算してやがるな、とあたりをつけていたヒル魔の耳に。
「ウチの隊の備品補充に使いたかった。あの子たちの靴、もう少し頑丈なものに変えたいと思ってるのに」
あの子たち、と。
声音は相変わらず淡々としているのに、呟く言葉は随分と柔らかく甘い。
かつては本のことばかりだったその頭。
けれど、今はそれ以外も含まれるようになったらしい。
「・・・なんです、その顔」
「ア?」
「いつにも増してにやついてますけど。何か面白いことでもありました?」
不機嫌なまもりに、ヒル魔はベツニ、とだけ呟いた。
警備の準備に物々しさを感じるよりも、国内外に広がる華やかな気配に浮き足立つ者たちが増えていく。
日差しの強さは変わりがないように感じるのに、はらはらと舞い散る落ち葉の多さに、夜の訪れの早さに、冬を感じ始める。
そうやって祭典の日が近づくにつれ、まもりの機嫌がまた段々と悪くなっていく。
執務机で鬱々とするまもりに、ヒル魔は苛々と口を開いた。
「諦め悪ィ奴だなァ、テメェ」
「・・・諦め悪い、というか・・・」
どうしましょう、と。
小さく呟いたまもりに、ヒル魔は眉を寄せた。
「ナニガ」
「・・・あの・・・」
とてつもなく困ったように、まもりはヒル魔を見上げる。
その僅かに潤んだ瞳に、ヒル魔はひくりと喉を震わせた。
無自覚なその視線は、容易く見る者の心を揺さぶるとこの女は相変わらず考えつかないらしい。
「ダンスのこと、なんですけど」
「ア?」
まもりは、意を決したように続けた。
「私、ダンスを踊れないんです」
「・・・アァ!? テメェ仮にも貴族、っつーか踊れねぇって・・・」
ヒル魔は絶句し、まもりをじろじろと無遠慮に見てしまった。
まもりは真っ赤になり、俯いている。
「・・・軍人になることを決めてから、姉崎家は継がないしちゃんとした場にも出ることはないと思ってて」
「・・・それ以外にも出る機会あっただろーが」
今までで完全にどこの社交界にも出ないなんて、そんな事が許されるはずがない。
ところがまもりはふるふると首を振るのだ。
「跡継ぎじゃないから私のお披露目もなかったですし、姉崎家の行事には一切顔を出してませんし」
「公的じゃなくても私用でもいいだろ・・・ってテメェは友達いねぇんだったな」
女友達がいれば、いかに出不精であっても付き合いで顔を出すこともあっただろう。
が、まもりはまったく友人と呼べる女がいない希有な存在なのである。
友人が居ないことは誰もが知る事実なので、それについて怒ることもなくまもりはただ嘆息するだけ。
「そうなんですよ。だから一切踊れないままここまで来てしまいました」
それにヒル魔は眉を寄せた。貴族でも位が高くない女ならば着飾って壁際にいればいいだけだ。
それでも、見た目に美しいまもりは着飾ってただ壁の花、というのは無理な話だろう。
少しでも一人になれば途端に踊りを求められるのは目に見えている。
更に高位貴族ともなれば、家名目当ての連中も集まってくるから更に収拾が付かないだろう。
「仕方ねぇな」
それにまもりはぱっと顔を上げる。瞳に滲む期待は、祭典への欠席。
そのための何かしらの知恵が、と待つまもりの前で、ヒル魔は優しく微笑む。
その顔に、まもりの顔がぴしりと固まった。
「俺が今から教えてやろう」
<続>
まもりが嫌がるのも気にせず―――おそらくはまもりに構わないようにと言い含められているのだろう―――二人に誂える衣装デザインを取り決めて戻っていくのを何度か繰り返す。
最終的に衣装のデザインが決まった頃、まもりはこの内容に間違いはないかと確認する職人からの書類に興味なさげにサインした。
「代金は姉崎家が出すそうですから、大将は気になさらなくていいと家から知らせがありました」
「ホー」
それでも一応と共に目を通した明細にあった金額に、まもりは嫌そうな顔をする。
ヒル魔に言わせれば、それなりの細工と材質のモノを求めているのだからおかしい額でもなかったのだが。
「あんな風に使うお金があるなら、私にそっくり寄越してくれた方がマシです」
呟くまもりに、また本に換算してやがるな、とあたりをつけていたヒル魔の耳に。
「ウチの隊の備品補充に使いたかった。あの子たちの靴、もう少し頑丈なものに変えたいと思ってるのに」
あの子たち、と。
声音は相変わらず淡々としているのに、呟く言葉は随分と柔らかく甘い。
かつては本のことばかりだったその頭。
けれど、今はそれ以外も含まれるようになったらしい。
「・・・なんです、その顔」
「ア?」
「いつにも増してにやついてますけど。何か面白いことでもありました?」
不機嫌なまもりに、ヒル魔はベツニ、とだけ呟いた。
警備の準備に物々しさを感じるよりも、国内外に広がる華やかな気配に浮き足立つ者たちが増えていく。
日差しの強さは変わりがないように感じるのに、はらはらと舞い散る落ち葉の多さに、夜の訪れの早さに、冬を感じ始める。
そうやって祭典の日が近づくにつれ、まもりの機嫌がまた段々と悪くなっていく。
執務机で鬱々とするまもりに、ヒル魔は苛々と口を開いた。
「諦め悪ィ奴だなァ、テメェ」
「・・・諦め悪い、というか・・・」
どうしましょう、と。
小さく呟いたまもりに、ヒル魔は眉を寄せた。
「ナニガ」
「・・・あの・・・」
とてつもなく困ったように、まもりはヒル魔を見上げる。
その僅かに潤んだ瞳に、ヒル魔はひくりと喉を震わせた。
無自覚なその視線は、容易く見る者の心を揺さぶるとこの女は相変わらず考えつかないらしい。
「ダンスのこと、なんですけど」
「ア?」
まもりは、意を決したように続けた。
「私、ダンスを踊れないんです」
「・・・アァ!? テメェ仮にも貴族、っつーか踊れねぇって・・・」
ヒル魔は絶句し、まもりをじろじろと無遠慮に見てしまった。
まもりは真っ赤になり、俯いている。
「・・・軍人になることを決めてから、姉崎家は継がないしちゃんとした場にも出ることはないと思ってて」
「・・・それ以外にも出る機会あっただろーが」
今までで完全にどこの社交界にも出ないなんて、そんな事が許されるはずがない。
ところがまもりはふるふると首を振るのだ。
「跡継ぎじゃないから私のお披露目もなかったですし、姉崎家の行事には一切顔を出してませんし」
「公的じゃなくても私用でもいいだろ・・・ってテメェは友達いねぇんだったな」
女友達がいれば、いかに出不精であっても付き合いで顔を出すこともあっただろう。
が、まもりはまったく友人と呼べる女がいない希有な存在なのである。
友人が居ないことは誰もが知る事実なので、それについて怒ることもなくまもりはただ嘆息するだけ。
「そうなんですよ。だから一切踊れないままここまで来てしまいました」
それにヒル魔は眉を寄せた。貴族でも位が高くない女ならば着飾って壁際にいればいいだけだ。
それでも、見た目に美しいまもりは着飾ってただ壁の花、というのは無理な話だろう。
少しでも一人になれば途端に踊りを求められるのは目に見えている。
更に高位貴族ともなれば、家名目当ての連中も集まってくるから更に収拾が付かないだろう。
「仕方ねぇな」
それにまもりはぱっと顔を上げる。瞳に滲む期待は、祭典への欠席。
そのための何かしらの知恵が、と待つまもりの前で、ヒル魔は優しく微笑む。
その顔に、まもりの顔がぴしりと固まった。
「俺が今から教えてやろう」
<続>
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プロフィール
HN:
鳥(とり)
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性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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