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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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クローズドポジション(2)

+ + + + + + + + + +
まもりの手元にその知らせが来たとき、彼女は表情一つ変えず問答無用で欠席に○をつけようとした。
けれどそれはわざわざ軍の執務室までやって来た使者が慌てて止めた。
「なんです? 姉崎家の出席が求められるのなら、当主夫妻が出向けばいいだけのこと」
姉崎家は高位貴族として名を連ねる有名な家柄だ。
今回のような国を挙げての祭典の時は必ず当主夫妻が揃って出向くのが常である。
姉崎家の執事である熊袋が使者として寄越したのはその娘のリコ。
「それが、今回は王から直接お嬢様もご参加下さるようにと招待状が来ているのです」
ご覧下さい、と示された招待状の表書きははっきりまもりの名前が明記されていた。
「こういった祭典の時、お嬢様がご参加下さらないことを王室側があまり快く思われていない様子」
「単に次期当主に当たる者がいないからでしょうに」
まもりは呆れた、と言わんばかりに招待状を突いた。
「私が継がないことを姉崎家で明言しないからですね」
早く誰かを見定めて公言すればいいのに、とまもりは不満顔だ。
「え?! お嬢様はお継ぎにならないですか?!」
目を白黒させるリコに、まもりは深々と嘆息した。
「・・・貴女も長く姉崎家にいるのだからそれくらい把握していると思ったのだけれど」
「ええと・・・あの・・・」
戸惑うリコにまもりは肩をすくめる。
彼女は幼い頃から熊袋の執事ぶりを見ていたが、正式に仕えるようになったのはここ数年の話だから知らないのかもしれない。
「姉崎家は血統に縛られません。家の名を継がせるのなら、それに値する人物を定めればいいだけのことです」
「で、でもお嬢様がいらっしゃるのに」
「そうやって続いてきた家です。事実、私の父も母も姉崎家の始祖の血を引くわけではないのですよ」
「そう、だったんですか?」
「ええ。けれど、世間ではその考えが通用しないので私が呼ばれたんでしょうね」
もう私は軍籍ですし今後家も継ぎませんので欠席します―――と。
リコに説明を終えたまもりはそう書こうとして、先程止められ机に置かれたままの知らせに手を伸ばした。
けれど、それはいつの間にやら机から消えていた。
「・・・え?」
「あら?」
顔を見合わせた二人の横に、黒い人影が立つ。
「!!」
いきなり現れたヒル魔に、リコは喉を引きつらせ飛び上がった。
だが、ヒル魔はそんなリコに構わず招待状を読んでいる。
「なんでここにいるんです」
「いつも来てるだろうが」
ふうん、と招待状を見ているヒル魔に、まもりは手を伸ばす。
「返して下さい。返事しなければ」
「参加すんだろ」
「しませんよ」
そう応じたまもりにヒル魔はちらりと視線をやって。
それから、どこからか取り出したペンでさっとその招待状に何かを書き入れた。
「!! ちょ、ちょっと何やって・・・」
「おら」
「あ」
まもりの伸ばした手をあっさりと避け、ヒル魔がリコに手渡した招待状。
そこには『参加』への○印がくっきりと入っている。ご丁寧にまもりの印鑑も押されていた。
またやられた、とまもりは机の引き出しを見て眉を寄せる。
決裁印がまたもや定位置に見あたらない。
見計らったようにヒル魔の手から印鑑がスコンと投げ入れられた。
「ありがとうございます!」
招待状を受け取ったリコはぱっと表情を明るくして、身軽に出口へと駆け寄った。
「待ちなさい、リコ! 私は参加するとは言っていませんよ!」
「俺が責任持って連れて行ってやる、と伝えておけ」
「かしこまりました! ええと、ヒル魔大将ですね?! 大将とお嬢様がご一緒に参加されるということを我が主にご報告しておきます!」
「なっ!? リコ、待ちなさい!」
「それでは」
失礼しました! という言葉を完全に言い切る前にリコは疾風のように走り去った。
「随分足の速ェ女だな」
伝令隊にでも入れるか、などと呟くヒル魔に、まもりが声を荒げた。
「~~~~大将!? ちょっと、一体、何してるんですかー!!!」
完全に当人を置いてけぼりにしてリコと話をまとめてしまったヒル魔はにやにやと笑っている。
「いやあ、国の祭典は俺も参加したことねぇからなァ」
国を守るのが仕事の軍人はいかに位が高くとも公式の祭典に客分として参加することはない。
まず警備ありき、警護ありき。
華やかな舞台の裏側を守るのが仕事なのだから、さもありなん。
「まさか、参加してみたかっただけ、とか」
興味本位だったら一人で行ってくれたらいいのに、と震えるまもりに。
「祭典に潜り込むにもエスコートする女がいねぇと入れねぇし、何より仕事そっちのけで行くなら相応の家柄の女じゃねぇとなァ」
にたあ、とヒル魔は楽しげに笑う。
「その点テメェはうってつけだろ。姉崎家だし直属の上司だし、誰も文句言い様がねぇしなァ」
「私を巻き込まないでくださいよ!!」
「もう遅い。諦めろ」
ケケケ、と特徴的に笑うヒル魔には何を言っても無駄で。
まもりはがっくりと執務机に顔を伏せたのだった。


<続>
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