旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
「月はそこにあるだけなのにね」
良くも悪くも影響を与えようと思っているわけではない。
ただ、そこにいるだけ。
それなのに忌まれるなんて。
嫌われるなんて。
まるで。
「私と―――」
その言葉を皆まで言う前に、大きな手のひらがまもりの口を覆った。
「むぐ!」
「ったく、水飲みに行くのにどんだけ掛かってる」
言葉ほどには不機嫌でもなく、ヒル魔がまもりの隣に座ったのだ。
先ほどまで眠っていたはずなのに、その気配からは眠りの残滓など欠片もない。
「ヒル魔さん。起こしてしまいましたか」
「糞嫁がいつまでも戻って来なけりゃ気づくだろ」
ぷは、とヒル魔の手のひらから顔を出したまもりが彼を見上げる。
「起こしちゃってごめんね」
「起こさなかった方に謝れ」
ごしゃごしゃとまもりの頭を撫で、ヒル魔は並べられていた中からぐい呑みを一つ持ち上げ、中身を庭に空けた。
「酒寄越せ」
「はい」
雪光はすっと姿を消し、程なく酒を手に戻る。
酒を注がれながらヒル魔は並べられていた硝子の器を指した。
「見ろ」
「え? っ、わ・・・!」
月明かりが重なり合う影。硝子の器という普段目にしないそれから零れた光は不意に色を変えた。
透けて色などない器から、こぼれ落ちる青、紫。
「ずっと見てると、時々こうやって色が変わるんだよ」
「へえ・・・!」
ぱあっと顔を輝かせたまもりからは、先ほどの憂鬱そうな空気はない。
「綺麗ね」
酒を飲みながらそんなまもりの髪をいじっていたヒル魔は、月を見上げる。
「『東』の月の方がテメェと似てんじゃねぇか?」
「え?」
まもりもつられて空を見上げる。
先ほどよりは傾いだ月は相変わらず目映い。
「『東』の伝承だと、月には兎が棲んでるんだとよ」
「兎!?」
「ほら、あそこの影が見えるでしょう? あれが兎で、臼と杵でお餅をついていると言われています」
雪光の解説にまもりは目をこらすが、そういう風には見えない。
曖昧に頷きつつ呟いた。
「お餅かあ・・・」
それにヒル魔は口角を上げる。
「あんなとこにいても食い意地が最優先な兎っつったらテメェ以外にいねぇだろ」
「ええ!?」
「テメェ今『どんなお餅なんだろう。食べてみたいなあ』って思っただろ」
「う」
ケケケ、と笑いながらヒル魔はぐい呑みを置き、まもりを抱き上げた。
「もう寝るぞ」
「うん」
空になったまもりの湯呑みを受け取り、雪光は仲睦まじく寝室へと向かう二人を見送った。
ほんのひとときの月見はお開きとなった。
夜明けまでにはまだ時間がある。
先ほどの話の絵本がどこかにしまい込まれていたはずだ、探してみよう―――そう考え、雪光は書庫へと戻る。
月は徐々に薄雲に覆われ、その影を朧にしていった。
***
突発リクエストで鶉様からいただいたお題『朧』『水蛭子』『花霞』から連想。
お待たせしました! 古事記から来たこのお題、熱で唸ってたら不意に降りてきました。
人生何が幸いするか判りませんね!(笑)楽しく書けました! ありがとうございました!!
良くも悪くも影響を与えようと思っているわけではない。
ただ、そこにいるだけ。
それなのに忌まれるなんて。
嫌われるなんて。
まるで。
「私と―――」
その言葉を皆まで言う前に、大きな手のひらがまもりの口を覆った。
「むぐ!」
「ったく、水飲みに行くのにどんだけ掛かってる」
言葉ほどには不機嫌でもなく、ヒル魔がまもりの隣に座ったのだ。
先ほどまで眠っていたはずなのに、その気配からは眠りの残滓など欠片もない。
「ヒル魔さん。起こしてしまいましたか」
「糞嫁がいつまでも戻って来なけりゃ気づくだろ」
ぷは、とヒル魔の手のひらから顔を出したまもりが彼を見上げる。
「起こしちゃってごめんね」
「起こさなかった方に謝れ」
ごしゃごしゃとまもりの頭を撫で、ヒル魔は並べられていた中からぐい呑みを一つ持ち上げ、中身を庭に空けた。
「酒寄越せ」
「はい」
雪光はすっと姿を消し、程なく酒を手に戻る。
酒を注がれながらヒル魔は並べられていた硝子の器を指した。
「見ろ」
「え? っ、わ・・・!」
月明かりが重なり合う影。硝子の器という普段目にしないそれから零れた光は不意に色を変えた。
透けて色などない器から、こぼれ落ちる青、紫。
「ずっと見てると、時々こうやって色が変わるんだよ」
「へえ・・・!」
ぱあっと顔を輝かせたまもりからは、先ほどの憂鬱そうな空気はない。
「綺麗ね」
酒を飲みながらそんなまもりの髪をいじっていたヒル魔は、月を見上げる。
「『東』の月の方がテメェと似てんじゃねぇか?」
「え?」
まもりもつられて空を見上げる。
先ほどよりは傾いだ月は相変わらず目映い。
「『東』の伝承だと、月には兎が棲んでるんだとよ」
「兎!?」
「ほら、あそこの影が見えるでしょう? あれが兎で、臼と杵でお餅をついていると言われています」
雪光の解説にまもりは目をこらすが、そういう風には見えない。
曖昧に頷きつつ呟いた。
「お餅かあ・・・」
それにヒル魔は口角を上げる。
「あんなとこにいても食い意地が最優先な兎っつったらテメェ以外にいねぇだろ」
「ええ!?」
「テメェ今『どんなお餅なんだろう。食べてみたいなあ』って思っただろ」
「う」
ケケケ、と笑いながらヒル魔はぐい呑みを置き、まもりを抱き上げた。
「もう寝るぞ」
「うん」
空になったまもりの湯呑みを受け取り、雪光は仲睦まじく寝室へと向かう二人を見送った。
ほんのひとときの月見はお開きとなった。
夜明けまでにはまだ時間がある。
先ほどの話の絵本がどこかにしまい込まれていたはずだ、探してみよう―――そう考え、雪光は書庫へと戻る。
月は徐々に薄雲に覆われ、その影を朧にしていった。
***
突発リクエストで鶉様からいただいたお題『朧』『水蛭子』『花霞』から連想。
お待たせしました! 古事記から来たこのお題、熱で唸ってたら不意に降りてきました。
人生何が幸いするか判りませんね!(笑)楽しく書けました! ありがとうございました!!
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HN:
鳥(とり)
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性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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