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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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無糖ポジティブ(下)

+ + + + + + + + + +
「何?」
「素直になって欲しいんだろ」
「うん・・・そうだけど」
この腕は、そしてこの体勢の意味はなんだろう。
無傷の左手が、まもりの頬を撫でた。
その、今までにない柔らかなふれ方にまもりは僅かに身動ぐ。
指先に宿る熱にも。
骨折の経験はないが、骨折した友人がその夜発熱した話だとか、貧血を起こした話などを聞いたことがある。
ふ、とヒル魔が嘆息する。
疲れが滲んだようなそれに、まもりはベッドへ誘おうとしたがヒル魔は動かない。
中途半端に着せられた礼服を纏いながら、ヒル魔はまもりの肩に額を落とした。
「―――っ」
ひゅ、とまもりの喉が鳴った。
それを宥めるような指がまもりの手首を優しく拘束する。
じんわりと薄い闇と沈黙が部屋に満ちた。


どのくらい経ったのか。
ほんの僅かなような、永遠にも等しいような、不可思議な時間。
すい、とヒル魔が頭を上げて左手を離した。
シャツの裾をウエストに押し込みながら、立ち尽くすまもりに視線を向ける。
「上着」
「あ、・・・うん」
まもりは椅子に投げ出されていた上着を手に取る。
器用に片腕で身支度を進めていくヒル魔を見つめながら、まもりは先程までのふれ合いを思い返す。
上着を着せかけ、袖を通して最後にタイをつける。
「きつくない?」
あっさりと喉元を晒す彼は、締め付けを厭うようにシャツの襟に指先を差し込む。
「締め直す?」
「これでいい」
会話も行動も先程のふれ合いなど微塵も感じさせない淡々としたもの。
一体何だったのだろうか、と思いながらも、そろそろ時間だよ、と呼びに来た栗田に返事をして扉に向かった。
「大丈夫?」
首から提げた三角巾に腕を預けたヒル魔はにやりと口角をつり上げた。
ああ、いつもの彼だ。
安堵したような、どこか残念なような。
そんな複雑なまもりの心情を読み取ったかのように、ヒル魔は眸を細めた。
「ネガティブな言葉は発するだけでマイナスだ」
その言葉の意味を問いかけようとしたまもりをするりと追い越し、ヒル魔はまもりより先に扉へ向かう。
彼の背が廊下に消えるのを、扉が閉まるのをただ見つめながらまもりはヒル魔の言葉の意味を考える。
いつでも勝ち気な言葉しか口にしないヒル魔。
それは周囲や自らを鼓舞する意味もあるし、僅かな可能性が負の感情で打ち消されないようにという計らいもあるのだろう。
けれど脳裏で思い浮かべないようにするのは難しい。
頭で理解しても、心が納得しない事なんてザラだ。
人なら、誰でも。
あの大怪我がクリスマスボウルまでに治る保証も今のところない。
起こったことを、してしまった事を、いくら悔やんでも時が戻るはずもない。
そこにネガティブな言葉を重ねて更に落ち込んだところで悪い想像が巡るばかりでいいことなど一つもない。
まもりは右腕の手首に触れる。優しく拘束された指の感触がまだ残っている。
あれはヒル魔なりの甘えだったのだろうか。
ひどい怪我をしたのに弱い言葉を発せられない、倒れていられない彼なりの。
まもりは弾かれたように扉に向かった。
「っ、ヒル魔くん!」
先に出たヒル魔の後を追おうと彼を呼べば。
「何だ」
目の前の壁に背を預けて立つヒル魔の姿。
飄々とまもりを見下ろす顔を見て、手を伸ばす。
ネガティブな言葉はいらない。
けれど、ポジティブな言葉なら。
そうして、優しく触れる手なら。
「大丈夫。絶対腕は治るし、クリスマスボウルで泥門は優勝する」
頬に触れる。先程ヒル魔が触れたように、柔らかく。
ヒル魔が不安を感じる必要はない。同様にまもりも。
いくら内心、心配でたまらなくて苦しくても、それをねじ伏せる気持ちを言葉に込めて囁く。
「絶対、治る」
まもりの手を纏い付かせたまま、ヒル魔は口角を上げる。
「ったりめーだ」
正解だ、と言わんばかりに。


言葉を発する訳でもない。その腕で縋り付かれた訳でも、視線で乞われた訳でも。
それでもこの一時。
ヒル魔は最高に甘えた。甘えることを、自らに許した。
そうしてまもりもそれを受け入れた。

「行くぞ」
「ええ」
薄暗い廊下に後悔という影を置き去りにし、二人は背筋を伸ばして歩き出した。



***
海鳥様リクエスト『ヒル魔が腕を折った際に甘やかすまもりと甘えるヒル魔』でした。
もっとわかりやすく甘えさせるつもりだったのに、蓋を開けたらこんな感じに。フツーに教室で「はい、あーんw」「あーんw」的な奴書こうと思ってたのに。・・・いや、実は想像だけしたんですが気色悪くて辞めました。どれだけ意地っ張りなんだろう、ウチのヒルまもは。
個人的には楽しく書かせていただきましたwありがとうございました~!
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