旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
海辺は寒い。
冬本番にはまだ早い、そう思いたい晩秋の夜。
着ているドレスの生地が薄いせいもあるだろうか。
ぶるり、と身体を震わせてまもりは甲板から海を見下ろす。
黒く夜空を反射するそれは、ひどく粘質な色に見えた。
「姉崎」
低い声に呼ばれ、視線を移す。
口角は自然と上がり、瞳は細くなる。
「似合うね」
居心地悪そうに着慣れぬ礼服に身を固めたムサシは、耳に小指を突っ込み、ちらりと己の背後を見やる。
「あいつ、なんだが」
それにまもりは更に笑みを深める。
「今行くわ」
一人では着替えもできないはずだ。
あれほど脂汗を流し、立っているのもやっとの激痛に堪え続けたのはほんの数時間前なのだから。
一応医務室に寄って手当をしたが、万全であるはずがない。
「悪いな」
「ムサシくんが謝ることじゃないわよ」
それに眉を寄せるムサシに背を向け、まもりは船室に続く階段に向かう。
カツカツと硬質な音を立てて歩く彼女の足取りはたゆまず、背筋はぴんと伸びている。
華やかに飾り立てられた服装よりも、その姿勢こそが人目を惹く。
その彼女の顔にはこびりついたような、昏い影。
常にはないその影に、彼女を知る人は何とも言えない苦しさを感じる。
「・・・悪いな」
聞こえないのを承知で、ムサシはもう一度謝った。
そんな顔をさせて、と。
着替え用の船室は宿泊設備を備えた個室らしい。
着替え終えたセナがすれ違い様にヒル魔の部屋は別だと指で示した。
まだ中だ、とも。
まもりは笑顔で頷いて、ドアをノックする。
返事がないことを気にせず、するりとその中に滑り込んだ。
中にはまだ上着を脱いだだけのヒル魔がベッドに座っていて、まもりの姿を認めるとにやりと口角を上げた。
「やっと来たか」
「呼んでもいないでしょうに」
肩をすくめ、まもりは彼に近寄る。
今日はまだギプスを嵌めていない。
診察した医師によれば、腫れが引いた翌朝にギプスで固定するのだという。
今回は、骨がずれるような骨折ではなかったが、やはり無茶なプレーをしたせいで腫れが酷いのだ。
「・・・どうしても着るの?」
くい、とヒル魔が差した先には細身の礼服。
普段の彼のサイズに合わせたのなら腫れている腕は通らないだろう。
「サイズなら変えてある」
器用に身体を捻って着ていたカットソーを脱ごうとするヒル魔を助け、まもりは呟く。
「用意周到ですこと」
痛いだろうに痛いとも漏らさず、興が冷めるからと着替えることを厭わず。
「どうしてこう、ヒル魔くんって負けず嫌いなのかしらね」
シャツの袖が引っかからないようにまくり上げ、そっと通す。
力なく投げ出された右腕を痛ましく見つめるまもりに、ヒル魔はふん、と鼻を鳴らした。
「負けるのが好きな奴がいるかよ」
「負けるっていうか・・・そうじゃなくて」
言い方が違うな、と考えながらまもりはシャツの襟を整える。
「もっと素直になってくれたらいいのに」
前屈みになり、ぷちぷちとシャツのボタンを留めながら嘆息する。
「素直に?」
「そうよ」
それにヒル魔はぴんと片眉を上げた。
そうしておもむろに下げたままだった左腕を上げる。
「えっ」
ボタンを留めるため視線を下げていたまもりを、ヒル魔は容易く抱き寄せた。
<続>
冬本番にはまだ早い、そう思いたい晩秋の夜。
着ているドレスの生地が薄いせいもあるだろうか。
ぶるり、と身体を震わせてまもりは甲板から海を見下ろす。
黒く夜空を反射するそれは、ひどく粘質な色に見えた。
「姉崎」
低い声に呼ばれ、視線を移す。
口角は自然と上がり、瞳は細くなる。
「似合うね」
居心地悪そうに着慣れぬ礼服に身を固めたムサシは、耳に小指を突っ込み、ちらりと己の背後を見やる。
「あいつ、なんだが」
それにまもりは更に笑みを深める。
「今行くわ」
一人では着替えもできないはずだ。
あれほど脂汗を流し、立っているのもやっとの激痛に堪え続けたのはほんの数時間前なのだから。
一応医務室に寄って手当をしたが、万全であるはずがない。
「悪いな」
「ムサシくんが謝ることじゃないわよ」
それに眉を寄せるムサシに背を向け、まもりは船室に続く階段に向かう。
カツカツと硬質な音を立てて歩く彼女の足取りはたゆまず、背筋はぴんと伸びている。
華やかに飾り立てられた服装よりも、その姿勢こそが人目を惹く。
その彼女の顔にはこびりついたような、昏い影。
常にはないその影に、彼女を知る人は何とも言えない苦しさを感じる。
「・・・悪いな」
聞こえないのを承知で、ムサシはもう一度謝った。
そんな顔をさせて、と。
着替え用の船室は宿泊設備を備えた個室らしい。
着替え終えたセナがすれ違い様にヒル魔の部屋は別だと指で示した。
まだ中だ、とも。
まもりは笑顔で頷いて、ドアをノックする。
返事がないことを気にせず、するりとその中に滑り込んだ。
中にはまだ上着を脱いだだけのヒル魔がベッドに座っていて、まもりの姿を認めるとにやりと口角を上げた。
「やっと来たか」
「呼んでもいないでしょうに」
肩をすくめ、まもりは彼に近寄る。
今日はまだギプスを嵌めていない。
診察した医師によれば、腫れが引いた翌朝にギプスで固定するのだという。
今回は、骨がずれるような骨折ではなかったが、やはり無茶なプレーをしたせいで腫れが酷いのだ。
「・・・どうしても着るの?」
くい、とヒル魔が差した先には細身の礼服。
普段の彼のサイズに合わせたのなら腫れている腕は通らないだろう。
「サイズなら変えてある」
器用に身体を捻って着ていたカットソーを脱ごうとするヒル魔を助け、まもりは呟く。
「用意周到ですこと」
痛いだろうに痛いとも漏らさず、興が冷めるからと着替えることを厭わず。
「どうしてこう、ヒル魔くんって負けず嫌いなのかしらね」
シャツの袖が引っかからないようにまくり上げ、そっと通す。
力なく投げ出された右腕を痛ましく見つめるまもりに、ヒル魔はふん、と鼻を鳴らした。
「負けるのが好きな奴がいるかよ」
「負けるっていうか・・・そうじゃなくて」
言い方が違うな、と考えながらまもりはシャツの襟を整える。
「もっと素直になってくれたらいいのに」
前屈みになり、ぷちぷちとシャツのボタンを留めながら嘆息する。
「素直に?」
「そうよ」
それにヒル魔はぴんと片眉を上げた。
そうしておもむろに下げたままだった左腕を上げる。
「えっ」
ボタンを留めるため視線を下げていたまもりを、ヒル魔は容易く抱き寄せた。
<続>
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HN:
鳥(とり)
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性別:
女性
趣味:
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自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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