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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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teething fever(上)

(ヒルまも一家)
※リクエスト作品。


+ + + + + + + + + +
学校の成績は非常に優秀。
人間関係もそつなくこなし、友人達からの信望も厚く、教師の覚えもいい。
部活動に習い事も欠かさずこなし、家の手伝いも手を抜かない。
『教師生活を長くやっておりますが、彼ほど出来た子を見たことがありません』
担任からのそんな手放しに褒め称えられた通知表を携えてやってきた息子を一瞥し、ヒル魔は嘆息した。
「ったく、本当に嫌味なくらいテメェは俺似だな」
ヒル魔の睨み付ける眸にも怯まず、護はにっこりと笑う。
それにヒル魔はますます嫌そうに舌打ちした。
蛭魔護、今年で十七歳。
順調に成長したものの、身長は父と同じ176センチ、体格もやせ形。
真っ黒な髪と瞳は至って真面目な印象を与え、ともすれば野暮ったい感じにも取れる。
そこで更に黒縁伊達眼鏡というオプションも加わって、誰が見ても地味、という印象。
おとなしく人畜無害で清廉潔白。
けれど、それはあくまで表の顔。
「いつ夜道で刺されても文句言えねぇぞ」
ヒル魔の脳裏に浮かぶのは彼が弄ぶ女達のデータ。一人二人の話ではない。
自分自身フェミニストだとは思ったことがないが、娘を持つ父親としては心穏やかではない。
「やだなあ、そんなヘマするわけないでしょ」
「実際どんっだけ絡まれてンな口叩く」
表に出ていないだけで、結構な回数の喧嘩をふっかけられているのだ。
ヒル魔が単純に知っているだけでも両手足の指の数では足りない。
「どこの誰が僕に絡んだり喧嘩売ってきたりしても、どっちが悪人かは明白じゃない」
「見た目だけはな」
「素行もね」
素行も外見も至って真面目な護。
それもひっくるめてのソトヅラだ、と護はにやりと口角を上げる。
一部しか目にすることのない、悪魔じみた顔。
全く反省をしない護に歯がみして、ヒル魔は口を開いた。
「いーか護、テメェが成人して就職するまでは監督責任は俺にある」
「うわ、責任感なんて持ってたの」
目を丸くして混ぜっ返す護に載せられることなく、ヒル魔は続ける。
「これ以上悪さ続けるようだったら」
「またメイに何かしようとでも?」
ふん、と鼻を鳴らしてみせる息子に、ヒル魔は淡々と言い放った。
「姉崎にテメェの悪行を全てバラしてやろう」
「・・・」
痛いところを突かれた護はぴたりと口を閉ざした。
これで止まるのはどうなのだろう、と思いつつもヒル魔は笑み混じりで固まったその顔をまじまじと見つめる。
「見た目も俺に似ればまだよかったのにな」
どこか哀れむような口調で、ヒル魔は通知表を返した。
いつの間にか確認の欄には判子が押されている。
それをちらりと見た護にヒル魔はひらひらと手を振った。
「姉崎にも見せてこい。そろそろ帰ってくんだろ」
「うん」
扉を開けて一歩踏み出そうとしたところで、ぴたりと護は動きを止めた。
「あかり?」
「まもにぃ」
最近お気に入りのウサギのぬいぐるみを抱えてあかりが廊下にしゃがみ込んでいた。
正直どこが可愛いのか判りかねるウサギのキャラクターはまもりも気に入っているようだ。
それを見る度、あかりの内面は間違いなく母親似であろうと推測して護は内心安堵する。
「お話終わった?」
「うん。こんなところにいたら寒かったでしょう」
おいで、と腕を伸ばす。
ところが。
「? どうしたの」
いつもならためらいなく飛び込んでくる暖かさなのに、あかりはじっと護を見上げるだけだ。
透き通るような、青。
誰も穢してはならない、美しいいろ。
母親のそれよりも年若いせいかより透明度が高いような気がするそれに晒されて、護は僅かに身じろぎした。
自分の裏側を覗き込もうとしているような、まっすぐな視線。
「まもにぃ、は」
ぱちり、と長い睫に縁取られた青い瞳が瞬いた。

「さみしいの?」

その時、確かに。
世界が止まる音を聞いたような気がした。




実家から帰宅するなりヒル魔に泣き喚くあかりを押しつけられたまもりは、そのまま娘をなだめすかすのに夢中で、無言で階段を上がっていく彼の背中を見ただけ。
その理由を聞かされたのはあかりが泣き疲れてこくりと船をこぎ出してから。
「熱?!」
「おー。あの糞息子、いきなり廊下でぶっ倒れた」
ようやく落ち着いて眠りつつあるあかりの背をゆっくり撫でながら、事の次第を聞いて納得する。
「大丈夫? 薬とか」
まもりは階上の護に意識を向けた。
「ありゃただの知恵熱だ」
「知恵熱って。あれってもっと小さい子がやるやつじゃない」
「あいつなりの知恵熱なんだよ」
ほっとけ、という素っ気ない一言にそれでもまもりが落ち着くはずもない。
食事はもう済ませた後だし、単に熱だけなら寝ているだけでいいだろうとは判る。
「・・・やっぱり様子見てくるから、ヒル魔くんはあかり抱いててくれる?」
眉を寄せつつも、ヒル魔はあかりを受け取った。
「その前にコーヒー淹れろ」
「はいはい」
あかりの重さに痺れた腕を振りながら、まもりはキッチンへと向かった。

<続>
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