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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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teething fever(下)

+ + + + + + + + + +
両親は仲がいい。
いつでも二人でいて、いつまでも二人でいるんだろう。
兄と姉も仲がいい。
年が近いせいもあるし、小さい頃から遊び相手として申し分ない関係だった。
皆とは家族だし兄弟だし、一緒にいることに問題があるわけじゃない。
家族仲もいいし、兄弟仲だっていい。
むしろ平和で喜ぶべき、人も羨むような環境に僕はいるのだろう。

けれど、今。
僕はこんなにも、さみしい。

父にとっての母、母にとっての父。
姉にとっての兄、兄にとっての姉。
対等な相手がいる他の二組とは違い、僕は常に一人だった。
あかりはまだ幼く、対等な関係にはなれていない。

僕の『対等』。
それが欲しくてたまらなくて、僕は手を伸ばす。
それが力だったり女だったり金だったりするわけだけれど。
でもそれは、僕の欲しいモノにはなっていない。

一番近いのは母さんかもしれないけれど。
でも、それは無理な話だって僕だって判ってる。
だって僕が見る『母さん』は父さんあっての母さんだから。
でも、だけれど。
それだって結局は言い訳に過ぎない。

そうして、真っ正面から、僕は。
言い訳を続ける弱い心を、あかりに看破されたのだ。





ひやり、と額に触れる冷たい肌。
それに意識を引き上げられ、瞼を上げる。
目の前でまもりが心配そうに覗き込んでいた。
「大丈夫?」
囁くような優しい声と、触れる手。
それが心地よくて、護はほうと息をついた。
「うなされてたわ」
「・・・あかり、は?」
「さっき寝たわ。びっくりしたみたいよ」
「驚かせちゃったな。明日謝らないと」
そう言いながらも一番驚いたのは自分自身なのだけれど、と内心で一人呟いて護は身体を起こした。
「起きて大丈夫?」
「とりあえず着替えるだけ。またすぐ寝るよ」
まもりが用意していたパジャマに着替えるとすぐベッドに潜り込む。
その様子を見ていたまもりは、ベッドに横たわった護の手をそっと握った。
「母さん?」
「何があったかは聞いてないけど」
心配そうに見つめる青い瞳。あかりほど透明度は高くないが、逆に深みを持った青。
「お母さんは、何があっても護のお母さんだから」
ふわりとまもりは笑みを浮かべる。
楽しいのではなく、見る者を癒すための笑み。
「だから、安心してね」
きゅう、と握るまもりの手は、護より随分小さい。
かつては自分よりもっと大きかったはずなのに。
「さ、おやすみなさい」
手を握っていない方の手で優しく頭を撫でられて目を閉じる。
唐突に突きつけられたさみしさの虚ろを覆うような、優しいぬくもりを感じながら。



あかりを寝かしつけた後、書斎で仕事をしていたヒル魔はふと気づいて頭を上げる。
そういえばまもりが戻ってこないことに気づいたのだ。
もしやまだ護の元か、と廊下に顔をだしたところで、ヒル魔の眉が盛大に寄った。
「・・・何やってやがる」
「あ、ただいま」
そこには、まもりをお姫様抱っこで抱えた妖介。
眠るまもりを気遣ってか、ひそ、と落とした声で囁いた。
「母さんから護が倒れたってメール貰ったからさ、一応様子見に行ったんだよ」
妖介は医大生。一般人よりは知識があるだろう、という母の見込みからなのだけれど。
「それとその体勢にどうつながる」
「そしたら護の手握って母さん不自然な格好で寝てたから連れてきた。そのままじゃ後で大変でしょ」
母さんの腰とか足とか背中とか父さんの嫉妬とか嫉妬ついでの行動とかそれにかまけて手抜きになる明日の俺たちの朝食とか、とつらつら並べながら妖介はヒル魔の元に歩み寄る。
まもりを受け取ろうとした手を視線だけで阻まれ、ヒル魔はぴんと片眉を上げた。
「ベッドにそのまま運ぶよ。父さんに渡すと起きちゃうかもしれないし」
「・・・チッ」
ベッドまでまもりを無事運び終えると、妖介はヒル魔の顔を見て苦笑する。
「もー。俺も護もマザコンなのは今更でしょ」
「堂々と公言できることか、それは」
「男は誰だってそうでしょ。それに母さん相手ならマザコンですって言っても納得されるだけだしね」
良妻賢母、ご近所の誰もが一目置くカリスマ主婦、それが蛭魔まもりその人だ。
「何? 何か不安になることでもあったの?」
ふふふ、と笑う妖介の笑みは柔らかく、まもりによく似た明るいものだ。
護の中に巣食う、底のない虚ろなさみしさは微塵もありはしない。
「テメェこそ中身は俺に似りゃ面白かったのになァ」
「それこそ面白くないじゃない。似てないからこその俺たち姉弟でしょ」
じゃあもう寝るね、と軽く手を挙げて足音なく自室に戻る息子の背を見送ってヒル魔も自室に戻り、ベッドに腰掛ける。
ベッドサイドの灯りをつけると、とろりとした橙の光に浮かび上がるのは微笑んだような寝顔のまもり。
幸せそうに眠るまもりの頭を撫でると、ふにゃりとその口元がほころんだ。
「ったく」
まったくどいつもこいつもこの女に弱すぎだ、という呟きは誰にも聞きとがめられず、ただ夜へ静かに溶けていった。


***
雫様リクエスト『ヒルまも一家、ヒル魔家の男兄弟マザコン疑惑と嫉妬するヒル魔』でした。
疑惑どころか確定です。しかも自覚してて質悪い(笑)どこかさみしい心地というのは兄弟が多い場合誰かしら抱く感想かと思われます。ちょっと上手に表現できませんでしたが。あかりのぬいぐるみは我が家でも職場でも流行のウ/サ/ビ/ッ/チがモチーフだったりします。
リクエストありがとうございましたー!

teething fever(歯牙熱):歯が生えかけるときに出る熱のこと。=知恵熱(by wikipedia)
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